明日へのヒント by シキシマ博士

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「夕凪の街 桜の国」 今、自分が生きているということ

2007年08月20日 08時38分32秒 | 明日のための映画
久しぶりに映画のレビューです。
自分も実行委員を務めた「第23回あきる野映画祭」が終わり、やっと少しゆとりができ、最初に観る映画はやはり手堅いものを選んでしまいます。
佐々部清監督作品「夕凪の街 桜の国」です。
と言っても、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞などを受賞したという、こうの史代さんの原作も読んでいないし、まったく予備知識なしで観に行ったのですが。

「夕凪の街」
原爆投下から13年後、昭和33年の広島。
そこに暮らす平野皆実(麻生久美子)はある日、会社の同僚・打越(吉沢悠)から愛を告白されるが、それを受け入れることが出来ない。
彼女には、家族の命を奪い、自らも被爆した体験が、今も心の傷として残っていた。
うちは、この世におってもええんじゃろか…?
「桜の国」
平成19年の東京。
皆実の弟・旭(境正章)の娘・七波(田中麗奈)は、最近の父親の挙動が不審なことを心配していた。
ある夜、七波は、一人こっそりと出かけていく旭のあとをがつけてみる。
旭の向かった先は、広島だった。
七波はそこで、自分のルーツと向き合うことになる…。
(監督:佐々部清 118分)


62年前に広島に投下された原爆は、瞬時に多くの生命を奪っただけではなく、生き残った人々の心にも、その後の長い歳月、後遺症という暗い影を落としました。
そして今、我々の暮らすこの時代は、紛れもなくその延長線上にあるのです。
この映画はそれを激しく主張するのではなく、とても穏やかに描き出します。
二部構成で語られる物語は、いかなる苦境・逆境にも屈せず、未来へ向かって綿々と受け継がれる命の輝きと尊さを、深く印象付けます。
それは、戦争を知らない我々世代も確かにあの時代と繋がっている、無関係ではないということを実感させるものです。
でも、本音を言うと、少し物足りない映画でした。
最近の佐々部監督作品は、確信犯的に激しい主張をしない作り方をしているように見えるのですが、それが如何なる場合でも最善の描き方になるのかどうか?
例えば、佐々部監督の以前の作品「半落ち」の、吉岡秀隆くんのような主張のしかたのほうが伝わることがあるんじゃないのか?
この映画を観ながら、そんなことを考えてしまいました。
「夕凪の街」については、悲劇を激しく描かなくても、皆実の日常を生き生きと丁寧に描くだけで、観客はそのあとに来る圧倒的な落差を想像すろことができるから充分だとは思います。
麻生久美子さんの儚げな表情も良く、「夕凪の街」は良かったと思います。
けれど、「桜の国」の七波はただの傍観者でしかなく(しかも、旭の回想シーンまで傍観している)、あまり伝わって来るものがありませんでした。
確かに、幼い頃の母や祖母の死という経験などには説得力がありました。
だからこそ、それを踏まえた今の七波が自ら、なにか行動を起こして欲しかった気がするのです。
傍観者に徹するというのは、原爆投下の時に生まれていなかった佐々部監督の節操ということなのかもしれません。
が、映画全体の印象が淡白になってしまったと思います。
お金を払って劇場で観るのならまだしも、例えばのちにTVで放送した時にたまたま見たとしても、あまり印象に残らない作品なのではないでしょうか。

ただ、
映画としては不満が残りますが、テーマがテーマなだけに、それを真摯に突き詰めていく気があるのなら、映画の不足な部分は自分の考えや行動で埋めていくことはできると思うし、そういう姿勢を取ることこそが、このテーマと向かい合う上で大事なことなのでしょう。
すべてが満たされた映画に満足して、それで終わり! にしてはいけないテーマだと思いますから。



佐々部清監督の傑作と言えば、やはりこれらでしょう!

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2 コメント

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七波 (kimion20002000)
2008-04-03 03:09:46
TBありがとう。
「桜の国」の章は、ちょっとコミカル仕立てが目立ちすぎたかも知れません。
原作はマンガですから、マンガ特有の文法で、コミカルということが、もっと異なる意味を持ちます。
実写では、どうしても、直接的過ぎるところも出てくるんですね。
返信する
>kimion20002000さん (シキシマ博士)
2008-08-23 23:30:32
コメントを頂いたのに返答をしないまま、長いブログ休止期間に入ってしまいすみませんでした。
遅ればせながら、コメント&TBありがとうございます。

確かに、マンガなら、読者は自分のペースでじっくり読んだり、途中で前のページに戻って読み返すことも出来るけれど、映画はそれが出来ないですからね。
このようなテーマを扱って、立ち止まらずに見せて、印象に残すのって難しいことですね。
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