どんぴ帳

チョモランマな内容

続・くみたてんちゅ(その7)

2010-04-08 06:14:56 | 組立人

 夕食の火鍋を食べ終えた我々は、店の外に出た。

 私自身はそのままホテルに帰りたい気分だったが、全員の足がセブンイレブンの脇に向かっている。
「だよね…」
 佐野と私が前回通っていたスナック『Happy』、もちろんこのまま六人でご入店だ。

「イラサイませー!」
 見たことの無い女の子が店の入口から飛び出して来る。
「ママは?」
 佐野が問いかける。
「スミマセン、もうすぐ来ますので…」
「ママはまだ金さんがやってるの?」
「はい、ソウです」
「うん、なら大丈夫だな」
 どうやらまだこの店は、勝手知ったる行きつけの店らしい。
「こちらのお部屋でイイですか?」
「ああ、いいよ」
 何度も案内された大きなカラオケ部屋に通されると、三人のボディコン系ワンピを着た女の子たちが入って来た。
「ん?」
 その内の一人は私が気に入っていた新垣結衣に似たホステスだ。
「佐野さん、この子ですよね、僕が気に入ってたのって」
 新垣結衣が無反応なので、佐野に同意を求める。
「おお、キーちゃんのお気に入りなんじゃないの?」
 彼女はキョトンとした顔をしている。
「まあ一年経っていないとは言え、仕方ないか…」
 どうやら彼女は私と佐野を見ても何も思い出さないらしい。
「佐野さんのお気に入りは?」
 佐野のお気に入りは原田知世に似た清純そうな娘だ。
「小△はやめちゃったの?」
 前にも見たことのある別の女の子が、ウンウンと頷く。
「キーちゃん、なんかやめちゃったらしいよ」
「そうですか、まあ僕も忘れ去られてるみたいなんで同じですけどね」
 私はとりあえずメモ紙に新垣結衣の名前である『小○』と書くと、彼女の前に突き出してみた。
「…?どうしてアナタ知ってるの、私の名前?」
 どうやら多少は日本語が出来るようになったらしいが、ホステスとしては失格な気がする…。
「六月に来たでしょ」
「・・・」
 必死で新垣結衣は脳内の記憶を探っているらしい。
「!!」
 彼女の目がクリッと開かれる。さすがにその表情は文句なしにカワイイ。
「ちょ、チョト待っててね!」
 そう言うと部屋から出て行き、すぐに戻って来る。
「これ、アナタの名前ね!」
 見るとメモ紙に『木田☆☆』と書いてある。どうやら自分の手帳か何かを見て来たらしい。
「ま、一文字間違ってるけど、ほぼ正解だね」
「ちゃんと憶えてたよ!」
「・・・」
 前に会ったときにはまだ普通の女の子の様な雰囲気がしていたのだが、9ヶ月ぶりに会った彼女は全身にホステスのオーラを身に纏っている様な気がした。
「忘れてたじゃん」
「ちゃんと憶えてたよ」
「ま、イイけどね」
 とりあえずは彼女と楽しく会話を交わすのだが、どこかに醒めた自分を感じていた。
「こういう店で馬鹿になれないってことは、もしかして俺、精神的にやられてるのか?」
 どこかで感じていた不安が、ゆっくりと自分の中で膨らみ始める。自分のことを憶えているかどうかとか、そういう問題ではない。
「お、木田さん結構やりますねぇ、ラブラブじゃないですか!」
 わざわざB社の若手、佐藤が隣に来てニヤニヤしている。
「まあね、カワイイでしょ、この子」
 私は新垣結衣の頭を撫でる。
「イイっすねぇ」
「別に俺の女って訳じゃないんだけどね」
 二人で声を出して笑う。
 相変わらず部屋のテレビモニターからは、怪しい中国人歌手が歌い上げる『ソーラン節』が流れている。
「ハァアアイ、ハァアアアアアイ!」

 私は左手で新垣結衣の髪の毛を触りながら、どこか焦点が定まらない目で、そのモニターをずっと眺めていた。
 



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