ハルは若干不機嫌だったが、私と小磯はこの宿を楽しんでいた。
「ハルさん、新品の卓上醤油と、新品のソースですよ」
私は宿の奥さんからその二品を受け取ると、真っ先にハルに手渡した。
「ちゃあ、今度のは大丈夫なのぉ?」
ハルは新品の醤油にも係わらず、慎重に醤油を注している。
「いやぁ、木田君、なかなか楽しませてくれるね、この宿は」
「はははは、まだまだこんな物じゃないですよ」
「がはははは!もう十分だよ」
私の言葉は冗談のつもりだった。
深夜二時過ぎ、またしても窓の外でけたたましいブザー音が鳴り出す。
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
私は強制的に、浅い眠りから引きずり戻された。
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
もう一箇所でも同じ音が鳴り出す。
ハルの布団がゴソゴソと動く。
「ハルさん、起きてるの?」
私はブザーに負けない様、普通の声で聞いてみた。
「眠れないよぉ…」
ついでに小磯に声を掛ける。
「小磯さん!小磯さん!」
「・・・」
「小磯さぁん!」
「がははは!起きてるよ、起きてるぅ!眠れるわけ無いでしょ!大体、なんでこの辺の踏み切りは、あんなブザーの音なの?」
「いや、僕も初めて聴きましたよ、ブザー音の踏み切りなんて」
その時、鉄のレールを振動させながら突き進んで来た列車が、窓の外の暗闇に飛び込んで来た。
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
この列車、ヘッドライトを装備している先頭車両以外は、何の照明も点いていない。
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
窓の外の薄暗闇の中を、四角い形状の物体とタンク形状の物体が、網戸を透かして右から左へ流れて行く。
「また貨物?」
小磯が暗闇の中で叫ぶ。線路が窓から数メートルの位置なので、大声を出さないと声が聞こえない。
「この貨物、めちゃめちゃ長いですよ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
冗談かと思うくらい、貨物列車の連結台数が多い。
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
列車の通過音に混じり、踏み切りのブザー音が聞こえて来る。
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
「あー、もう木田さん、ハルちゃんは眠れなくておかしくなっちゃうよー!」
ハルが叫んでいる。
「がはははは、うるせえぞハル!」
「うはははは、でもこれで何回目の貨物列車ですかね?」
「二回目?三回目?」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
ハルの就寝時間に付き合って夜の十時に寝たのだが、まさか二時間おきに、この長大編成の貨物列車に起こされるとは思いもしなかった。
「あーっ!あーっ!あーっ!眠れねぇー!」
「がはははは!」
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
「木田さん、線路に飛び込んで来て!」
「あはははは!」
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
この夜、我々はほとんど満足に眠ることは出来なかった。
「ハルさん、新品の卓上醤油と、新品のソースですよ」
私は宿の奥さんからその二品を受け取ると、真っ先にハルに手渡した。
「ちゃあ、今度のは大丈夫なのぉ?」
ハルは新品の醤油にも係わらず、慎重に醤油を注している。
「いやぁ、木田君、なかなか楽しませてくれるね、この宿は」
「はははは、まだまだこんな物じゃないですよ」
「がはははは!もう十分だよ」
私の言葉は冗談のつもりだった。
深夜二時過ぎ、またしても窓の外でけたたましいブザー音が鳴り出す。
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
私は強制的に、浅い眠りから引きずり戻された。
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
もう一箇所でも同じ音が鳴り出す。
ハルの布団がゴソゴソと動く。
「ハルさん、起きてるの?」
私はブザーに負けない様、普通の声で聞いてみた。
「眠れないよぉ…」
ついでに小磯に声を掛ける。
「小磯さん!小磯さん!」
「・・・」
「小磯さぁん!」
「がははは!起きてるよ、起きてるぅ!眠れるわけ無いでしょ!大体、なんでこの辺の踏み切りは、あんなブザーの音なの?」
「いや、僕も初めて聴きましたよ、ブザー音の踏み切りなんて」
その時、鉄のレールを振動させながら突き進んで来た列車が、窓の外の暗闇に飛び込んで来た。
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
この列車、ヘッドライトを装備している先頭車両以外は、何の照明も点いていない。
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
窓の外の薄暗闇の中を、四角い形状の物体とタンク形状の物体が、網戸を透かして右から左へ流れて行く。
「また貨物?」
小磯が暗闇の中で叫ぶ。線路が窓から数メートルの位置なので、大声を出さないと声が聞こえない。
「この貨物、めちゃめちゃ長いですよ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
冗談かと思うくらい、貨物列車の連結台数が多い。
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
列車の通過音に混じり、踏み切りのブザー音が聞こえて来る。
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
「あー、もう木田さん、ハルちゃんは眠れなくておかしくなっちゃうよー!」
ハルが叫んでいる。
「がはははは、うるせえぞハル!」
「うはははは、でもこれで何回目の貨物列車ですかね?」
「二回目?三回目?」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
ハルの就寝時間に付き合って夜の十時に寝たのだが、まさか二時間おきに、この長大編成の貨物列車に起こされるとは思いもしなかった。
「あーっ!あーっ!あーっ!眠れねぇー!」
「がはははは!」
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
「木田さん、線路に飛び込んで来て!」
「あはははは!」
「プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ、プーっ!」
「ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン、ガたンガドン…」
この夜、我々はほとんど満足に眠ることは出来なかった。