ST市の隣に、T市という街がある。驚いたことに、美人ママの店はそこにあると言うのだ。
「小磯さん、T市って…、小一時間かかりますよ!?」
「がははは、まあまあ、きっと楽しいお店だから!な、ママ!」
「ええ、今日はしっかりと楽しんでもらいますからね!」
私は小磯と一緒に乗り込んだママの車の中で、軽く後悔していた。何もT市までわざわざ行かなくても、ST市にもそれなりにスナックなどが集まっている一角がある。
それに小一時間の距離を車で向かえば、帰りも小一時間走らなければ、宿には戻れない。大体、出会い系サイトで出会う呑屋のママなんて、ろくなもんじゃない。六人でT市まで出かけて行って、そこでしこたま呑み代を払って帰ってくること自体が、間抜けな話だ。私はちらりと後続の佐野が運転する車を見て、密かにため息をついた。
車で走ること四十五分、我々はT市の店に到着した。
「ちゃあ、なんだかなぁ…」
予想はしていたが、やはりハルが不機嫌になっている。
「無理もねえべ、普通、一時間もかけてスナックやクラブには行かないからな」
佐野も苦笑いをしている。荒木に至っては、すでに目が閉じかけている。
「どんな女の子が出てくるのか、楽しみですね!」
「がははは、きっとY県美人が出てくるぞ!」
何も考えていないノリオと、下心全開の小磯、二人だけのテンションが高い。
「こんばんは!」
「お隣に失礼しまーす!」
「こちらいいですか?」
いかにもなドレスを着用した、三人のホステスが席に着き、ママが小磯の隣に座った。
三人の若い娘は、マリと咲恵、そしてエリと名乗った。
「ちゃあ、なんだなんだ?このガリガリな女は!」
不機嫌なハルの隣には、一番線が細いエリが座っていた。黄色いドレスの袖から出た二の腕には、一切脂肪が付いていない。
「いやぁ、もっとムチムチした人が良がった?」
「ったりめぇだろ、こーんなちっちゃなお尻じゃ、全然面白くねぇんだよ」
「ごめんねぇ、じゃあ咲恵と変わっがら」
「あー?それよりも早く酒を作れよ」
「私でいいの?大丈夫?」
エリはハルの態度に腹を立てるどころか、健気な態度を見せた。ハルはそういう女が嫌いでは無い。
「はい、大丈夫だから、まずは水割りを作ってあげて。ハルさん、最初はやや濃い目の水割りでいいんだよね」
「うん、お願いします」
私の助け舟に、エリはややホッとした感じで、水割りを作り始めた。この状況でボトルを入れるほど長居をするとは思えなかったので、私はハウスボトルで済ますつもりだった。
「がははは!乾杯!」
小磯が独りで盛り上がり、何も考えていないノリオが乗って行く。
「はぁ…」
やはりハルは一度落ちてしまったテンションを上げることが出来ず、不機嫌なままだった。これから帰るにしても、一時間近く車に乗らなければならないのが、ハルの不機嫌さの最大要因だと、私は思った。
小磯とノリオの馬鹿笑いが続く中、突然、ハルがウイスキーのハウスボトルを手に取り、不気味な笑みを浮かべて大声で叫んだ。
「よっし、ハルちゃんが手品を見せるからね!」
「?」
ハルの突拍子も無い行動に、一瞬全員が静かになった。さっきまで不機嫌だった男が、何とも言えない笑顔でニヤついている。
「このウイスキーのボトル、ハルちゃんがこうやって振ると、少しずつ中身が変わっていくからね」
全員があんぐりとした感じでハルを見ている。
「ハルさん、変化って、どう変化するの?」
私の質問に、ハルは自信ありげに言い放った。
「これはね、美味しくなるんだよ」
「美味しく?」
「そう、美味しくなるの。振り続けると、すこーしずつ今の色から濁って行くからね、よく見ててね」
ハルはそういうと、両手でしっかりとウイスキーのボトルを握り、
「シャばぁ、シャばっ、シャばっ、シャバシャバシャバシャバ、シャバシャバシャバシャバ!ジョぼっ、ジョぼっ!」
と振り始めた。
「ええー、本当に変わるの?」
マリが疑り深い目で、ハルの顔を覗き込む。
「黙って見てろよ」
ハルは赤いドレスから胸の谷間を見せているマリを睨むと、尚もウイスキーのボトルを振り続ける。
「あれぇ?」
最初に異変に気付いたのは、ハルの側に座っていたエリだった。
「なんか濁ってきてるわぁ!」
ハルはニヤリとすると、さらに物凄いスピードでボトルを振る。
「ジャかジャかジャかジャか、シャカシャカシャカシャカ」
「あれぇ?」
咲恵も変な声を出した。
「どーよ!」
ハルが手を止めて、ボトルをドーンと皆にかざした。
「あー、本当に濁ってるぅ!」
マリも驚きの声を上げる。
「えー、どうしたの?」
さすがにママでさえ、自分の目を疑っている。
私は、小磯が手で顔を覆い、苦笑いをしているのが気になっていた。
「小磯さん、T市って…、小一時間かかりますよ!?」
「がははは、まあまあ、きっと楽しいお店だから!な、ママ!」
「ええ、今日はしっかりと楽しんでもらいますからね!」
私は小磯と一緒に乗り込んだママの車の中で、軽く後悔していた。何もT市までわざわざ行かなくても、ST市にもそれなりにスナックなどが集まっている一角がある。
それに小一時間の距離を車で向かえば、帰りも小一時間走らなければ、宿には戻れない。大体、出会い系サイトで出会う呑屋のママなんて、ろくなもんじゃない。六人でT市まで出かけて行って、そこでしこたま呑み代を払って帰ってくること自体が、間抜けな話だ。私はちらりと後続の佐野が運転する車を見て、密かにため息をついた。
車で走ること四十五分、我々はT市の店に到着した。
「ちゃあ、なんだかなぁ…」
予想はしていたが、やはりハルが不機嫌になっている。
「無理もねえべ、普通、一時間もかけてスナックやクラブには行かないからな」
佐野も苦笑いをしている。荒木に至っては、すでに目が閉じかけている。
「どんな女の子が出てくるのか、楽しみですね!」
「がははは、きっとY県美人が出てくるぞ!」
何も考えていないノリオと、下心全開の小磯、二人だけのテンションが高い。
「こんばんは!」
「お隣に失礼しまーす!」
「こちらいいですか?」
いかにもなドレスを着用した、三人のホステスが席に着き、ママが小磯の隣に座った。
三人の若い娘は、マリと咲恵、そしてエリと名乗った。
「ちゃあ、なんだなんだ?このガリガリな女は!」
不機嫌なハルの隣には、一番線が細いエリが座っていた。黄色いドレスの袖から出た二の腕には、一切脂肪が付いていない。
「いやぁ、もっとムチムチした人が良がった?」
「ったりめぇだろ、こーんなちっちゃなお尻じゃ、全然面白くねぇんだよ」
「ごめんねぇ、じゃあ咲恵と変わっがら」
「あー?それよりも早く酒を作れよ」
「私でいいの?大丈夫?」
エリはハルの態度に腹を立てるどころか、健気な態度を見せた。ハルはそういう女が嫌いでは無い。
「はい、大丈夫だから、まずは水割りを作ってあげて。ハルさん、最初はやや濃い目の水割りでいいんだよね」
「うん、お願いします」
私の助け舟に、エリはややホッとした感じで、水割りを作り始めた。この状況でボトルを入れるほど長居をするとは思えなかったので、私はハウスボトルで済ますつもりだった。
「がははは!乾杯!」
小磯が独りで盛り上がり、何も考えていないノリオが乗って行く。
「はぁ…」
やはりハルは一度落ちてしまったテンションを上げることが出来ず、不機嫌なままだった。これから帰るにしても、一時間近く車に乗らなければならないのが、ハルの不機嫌さの最大要因だと、私は思った。
小磯とノリオの馬鹿笑いが続く中、突然、ハルがウイスキーのハウスボトルを手に取り、不気味な笑みを浮かべて大声で叫んだ。
「よっし、ハルちゃんが手品を見せるからね!」
「?」
ハルの突拍子も無い行動に、一瞬全員が静かになった。さっきまで不機嫌だった男が、何とも言えない笑顔でニヤついている。
「このウイスキーのボトル、ハルちゃんがこうやって振ると、少しずつ中身が変わっていくからね」
全員があんぐりとした感じでハルを見ている。
「ハルさん、変化って、どう変化するの?」
私の質問に、ハルは自信ありげに言い放った。
「これはね、美味しくなるんだよ」
「美味しく?」
「そう、美味しくなるの。振り続けると、すこーしずつ今の色から濁って行くからね、よく見ててね」
ハルはそういうと、両手でしっかりとウイスキーのボトルを握り、
「シャばぁ、シャばっ、シャばっ、シャバシャバシャバシャバ、シャバシャバシャバシャバ!ジョぼっ、ジョぼっ!」
と振り始めた。
「ええー、本当に変わるの?」
マリが疑り深い目で、ハルの顔を覗き込む。
「黙って見てろよ」
ハルは赤いドレスから胸の谷間を見せているマリを睨むと、尚もウイスキーのボトルを振り続ける。
「あれぇ?」
最初に異変に気付いたのは、ハルの側に座っていたエリだった。
「なんか濁ってきてるわぁ!」
ハルはニヤリとすると、さらに物凄いスピードでボトルを振る。
「ジャかジャかジャかジャか、シャカシャカシャカシャカ」
「あれぇ?」
咲恵も変な声を出した。
「どーよ!」
ハルが手を止めて、ボトルをドーンと皆にかざした。
「あー、本当に濁ってるぅ!」
マリも驚きの声を上げる。
「えー、どうしたの?」
さすがにママでさえ、自分の目を疑っている。
私は、小磯が手で顔を覆い、苦笑いをしているのが気になっていた。