どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ183

2008-05-13 04:30:54 | 剥離人
 出張と言えば打ち上げ、とにかく打ち上げをしないことには、現場は終わらないのだ。

 この日、荷積み以外の全ての作業を終えた我々は、宿で『第一次打ち上げの会』を行った。
「今日で最後だからね、おじさん、今夜はおかずを奮発しだがらね!」
 宿の親父は、いつもよりも大目の揚げ物や刺身を並べ、にこやかに歓迎してくれた。もちろん我々が消費する瓶ビールを当て込んでの先行投資である。
「じゃ、とりあえず今回の現場、無事に終了しました!本当にお疲れ様でした!乾杯!」
 みんなでワイワイとビールを酌み交わし、誰かがガンを撃って吹き飛びそうになった話や、薄暗い足場の中でホースに引っ掛かって転んだ話、水ホースで戦争の様になった話などで盛り上がった。

「で、木田さん、このあとはどーすんの?」
 すっかりご機嫌なハルが、外に繰り出したくてウズウズとしている。
「えーとねぇ…」
 私は小磯の方を見た。小磯に昨夜、
「二次会の店は俺に任せておけ!」
 と言われていたからだ。
「ハル、俺に任せとけ!」
 小磯がまた自信ありげに言った。
「任せとけって小磯さん、こんな町に行きつけの店なんかないでしょ?」
「がはははは、行きつけは無いけど、美人ママのいる店なら知ってるぞ」
「はぁ?意味が分かんないよ。どうしてこんな町のママと仲がイイの?」
「ああ、それは出会い系サイト、携帯のね
 私が小磯の代わりに答えた。
「がははは、まあ、そういうことだ」
 小磯には、出会い系サイトで見つけたN県の子持ちバツ一女が居るはずだったが、出張先でもこまめに彼女探しをやっていたのだ。
「なーによそれ、小磯さん、仕事もしないでそんなことばっかりやってたんでしょ」
「がははは、休憩時間や、宿に帰ってからやってたんだよ」
「なるほど、磯ちゃんが休憩時間に一生懸命やってたのは、それだったんだ」
 佐野が納得して頷く。
「ハルさん、小磯さんはね、ガンを撃ってる間もやってたんだよ。『どうせハルが頑張るからいいや』って」
 私は適当なことを言った。
「ほーら、やっぱりだよ。どうりで俺が剥がした面積の方が大きいと思ったよ」
「がはははは、本当にこの人達は…、ガンを撃ちながらメールなんか出来るわけ無いでしょ!」
 小磯は爆笑すると、グラスのビールを一気に空けた。
「さ、そろそろ迎えが来る頃だから」
「迎え?一体どこに行くんですか?」
 みんなが小磯を見る。
「ママの車に付いてくよ、それとウチからも一台ね」
「帰りはどうすんのよ?」
「帰りもママが送ってくれるから」
「ホントによ?もう一台は誰が運転すんのよ?」
 ノリオと荒木、そして小磯の視線が佐野に集まる。
「ハイハイ、俺が運転手をやるのね」
 佐野は苦笑いをしながら、私に車のキーを催促した。
「すんませんね」
「いや、いつものことだからな」
 佐野はニカッと笑った。このメンバーの中で唯一、佐野はアルコールを一滴も口にしないからだ。
「お兄さん達、だれか綺麗な女の人が迎えに来たよ」
 宿の親父がニヤニヤしながら広間に入って来た。
「よし、みんな行くぞ!」

 小磯の号令で、みんなはほろ酔い状態で立ち上がり、宿の玄関に向かった。