どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ164

2008-04-19 23:46:18 | 剥離人
 ST火力発電所に来る三週間前だった。

「キーちゃん、今回の職人は俺がSY塗装に居た頃に、常用で使っていた奴らだから、大丈夫だからね」
 佐野はそう言って、私に三木塗装の職人を紹介してくれた。

 それが今、現場に入っている、ノリオと荒木だった。
「まあさすがにウォータージェットの経験は無いけど、サンドブラストはバリバリやってるからね、使える奴らだと思うよ」
 佐野はそう言いながら、コンテナの前で、ノリオにエアラインマスク用コンバーター部ベルトのつけ方をレクチャーしていた。今日からはノリオと荒木にもガンを撃ってもらう。
「サンドの経験があるだけでも大助かりですよ。やっぱり視界の悪い中で、塗装を剥がすなんて、いきなりは難しいですからね」
 私はB軍基地の工事で、KT社の職人たちが苦労していたことを思い出した。
「しかし、四人撃ちなんて贅沢な人員だね、S社は三人撃ちなんでしょ?」
「ええ、三人ローテーションで、二時間撃ち、一時間休憩です」
「今回は?」
「二時間撃ち、二時間休憩です」
「キーちゃん、それはこの馬鹿ノリを遊ばせすぎなんじゃないの?」
 佐野からしても、それは常識外の様だ。
「ええ、その代わり昼飯は交代で取ってもらいますから」
「昼飯を?エンジンを止めない気なの?」
「へへへ、仕事が終わるまではハスキーのエンジンは回しっ放しですよ。ついでに今日から一時間の残業を入れます」
「つまり朝の八時にエンジンを掛けて、夕方六時までの十時間、フル回転で仕事をさせるってこと?」
 佐野も直ぐに分かった様だ。
「ええ、何と言ってもこういう仕事は『トリガータイム(トリガーを引いている実質の時間)』が命ですからね。特に昼飯時なんて、十五分前にはエンジンをアイドリングにして、午後は一時からエンジンを掛けるなんて、もったいなくて仕方ないですよ」
「なるほど、二時間休憩なら、残業を入れてもさほどきつくは無い訳だ」
「ええ、それに準備、段取換え、撤収と、人数が多いほど効率は良いですからね」
「二時間休憩なら、職人の疲労度も軽くなる訳だ」
「事故の危険性も減少しますしね。実質一日あたりのトリガータイムが二時間増えると、四日作業をすれば…」
「うん、五日分と。つまり宿泊代や日当も一日分少なくなる訳だ」
「これが今回の僕の作戦です」
「うん、中々良く考えてるね」
 私は佐野に褒められて、少し得意げになった。
「で、肝心なのはノリ君の働き具合なんですけど…」
 私はそう言いながら、佐野と二人でノリオを見た。
「何を言ってるんですか、僕はメチャメチャ働きますよ、もうジェットなんて楽勝ですよ」
 ノリオは自信満々のカピバラ顔で、私と佐野を見た。
「ほー、じゃあしっかりと頼むぞ『ノリ子』!」
 ハルがノリオの前に立ちはだかった。
「ハイ、頑張ります!でもその『ノリ子』は止めて下さいよ、大体どうして僕が『ノリ子』なんですか?」
 ハルはいきなりノリオの股間を指で突っついた。
「うひゃぁ、や、止めて下さい!」
「うるせえ、お前は『ノリ子』なんだよ!」
 今度はノリオの股間を、これからホースに繋ぐガンで、グリグリと攻撃する。
「うひゃっ、うひゃひゃひゃ、お願いします、止めて下さい、ノリ子でイイですぅ!」
 ノリオはあっさりとハルの攻撃に陥落した。

 現場と、職人の力関係は、なるべく早く決着させるのが一番だ。