どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ163

2008-04-18 01:07:40 | 剥離人
「そーれ、そーれぇ、遅いぞノリぃ!」
 現場にハルの声が響く。

 初対面のはずだが、あっという間にノリオはハルの子分になってしまった。
「ちょ、ちょっと待って下さいよぉ」
 ノリオが息を切らせながら階段を上る。ハルは両肩に太い超高圧ホースを担いでガシガシと階段を上がって行く。その重量は一本約35キロ、二本で70キロはある。
「ノリぃ、だらしねぇぞ、しっかりしろ!」
 佐野が笑いながら、下からノリオを煽る。
「だって佐野さん、あのホース、一斗缶よりも重いんですよ」
 下に降りてきたノリオが、佐野に弁明する。ノリオはずっと佐野が現場監督として仕込んで来た職人なので、完全に頭が上がらないらしい。
「まあ、あのホースは中身が八層のワイヤーメッシュだから、重くて当たり前なんだけどね」
 私は少しだけノリオを慰めた。まだこの後のガン撃ちの方が、遥かにキツイ作業だからだ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
 そこへ荒木が降りて来た。ノリオよりもかなり消耗している。
「荒木ちゃん、無理しなくてもイイから」
 佐野が声を掛ける。荒木は身長が低い上に体重も軽いので、佐野は彼の体力を心配していた。
「…大丈夫です」
 荒木はボソッと言うと、またノリオと同じホースを持って階段を上がる。
「荒木ちゃんも負けず嫌いだからなぁ。でも塗装をやらせると凄いよ、彼は。誰よりも綺麗に塗るし、特に焼付け塗装の腕は中々の物だよ」
 佐野は職人としての荒木を、かなり評価している様だった。

 午後三時、全てのセットアップが完了し、我々は機器の試運転に入った。
「どーすんの?とりあえず俺とハルで一時間だけ撃とうか?」
「ええ、お願いします」
 二人に一時間も撃ってもらえば、ガラスフレークライニングの硬さや、剥離スピード、発生するミストの抜け具合、作業完了日の推測が可能になる。
「はいよ、20,000!」
 全員から『○』のサインが出る。
「はい、40,000!」
 2,800Kgf/cm2の圧力を掛けても、ポンプ、ホース共に問題は発生しない。
「どう?ハスキーちゃんのご機嫌は!」
 佐野が耳栓越しに聴いてくる。
「ばっちりご機嫌に40,000psiですよ!」
 私は四段式回転灯の青色スイッチをオンにする。すぐにこちらの回転灯も青色が点灯する。

「キュイィイイイイン!」
 甲高い音が響き、一瞬、圧力計の針が1,000psiほど振れるが、瞬時にハスキーのECV(超高圧水の流量と圧力を調整する装置)が油圧で作動し、圧力計が40,000psiに戻る。一人目がトリガーを引いた。
「キュイィイイイイン!」
 再びECVが作動し、圧力計は39,500psiを示す。二人目がトリガーを引いた。

 超高圧ポンプ『ハスキー』の調子は、絶好調だった。