どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ147(キャンプ編スタート!)

2008-04-02 23:53:12 | 剥離人
 小磯にキャンプに誘われた。

 正確には、小磯とその彼女の有紀子から誘われたのだ。
「俺の女が『木田さんも一緒にどう?』って言ってるんだよ」
 小磯の言う『女』とは、バツ一の彼女であり、小磯が携帯電話の出会い系サイトで知り会った女性だった。小磯は、最近は毎週のように彼女が住んでいるN県まで、モンキー(原付みたいな排気量のバイク)で通っていた。
「一緒にって、小磯さんと彼女と、子供が一緒でしょ?」
「がははは、ちゃんと考えてあるって」
「何を考えてあるんですか」
「そりゃあ、ちゃんと木田君のために人妻を用意する予定なんだから」
「本当ですか?」
「がははは、本当に決まってるでしょう!俺が今まで嘘を付いたことがあった?」
「たぶん結構あると思います」
「がははは、俺も自信は無いなぁ」
「その人妻って、どんな女なんですか?」
「そりゃ、バリバリに不倫願望がある女だよ」
「歳は?」
「俺の女よりも二、三歳若いかな」
「美人?」
「まあ、そこそこ綺麗だよ」
「じゃあ、行って見ようかな」
 こうして私はそれなりの『スケベ心』と、小磯の彼女に会えるという『怖い物見たさ』で、キャンプに参加することになった。

 当日、私は車で小磯をピックアップすると、一路N県のキャンプ場を目指して出発した。そのキャンプ場は、小磯の彼女と人妻の住む町の近くで、現地で合流することになっていた。
 私の某社最高級カーナビが、キャンプ場と川を挟んだ対岸の土地(どうやら『地名』は一緒だったらしい)に我々を誤案内してくれたので、私と小磯は、キャンプ場に一時間遅れでたどり着いた。

 小磯の彼女は有紀子といい、実に『濃い』感じの女性で、
「彼に出会って、私は初めて女の喜びを感じたの」
 とか、
「彼のおかげで人生観が変わったわ」
 とか、有紀子はジュージューと音を立てるバーベキュー以上に濃厚な話を、私にたっぷりと聞かせてくれた。
「もう、お腹一杯です(精神的に)」
 と私は言わざる得なかった。有紀子の友人である宏美も濃厚だった。
「えー、そうなの?私も味わって見たいなぁ」
「がはははは、宏美ちゃんならいつでもどーぞ!」
「ちょっと!許さないからね!」
 この三人の会話は、『レーズンバター』に『マヨネーズ』をトッピングした様な濃厚さで、私は胸焼けがしそうだった。

 さらに私を憂鬱にさせたのが、二人が連れて来た子供たちだった。
 小磯の話では、私に紹介されるのは『不倫願望バリバリの人妻』だったはずだが、なぜか宏美は娘を連れて来ていた。
「お兄ちゃん、遊ぼうよ、タカシ君も一緒にね!」
 私は宏美の娘と、有紀子の息子の子守をさせられる羽目になり、しかも二人が、大人顔負けの『男女の駆け引き』を繰り出し始めた。
「えー、じゃあタカシ君とはもう遊ばなーい!」
「ちょっと待ってよ、ちょっと待ってよ、僕が好きなのは夕美ちゃんだけなの!」
「だって、綾香にもやさしいじゃん」
「綾香はぁ、綾香は友達なのぉ!」
「じゃあ私は?」
「彼女!」
「えー、私まだタカシ君と付き合うって、一度も言ってないよ!?」
「えー、どうちて、どうしてぇ…」
 二人の子供は濃厚な会話を、大自然の中で繰り広げる。
「はぁあああああーーー」
 私は非常に大きなため息を吐き、バーベキューコンロを囲むさらに濃厚な三人を、横目でチラチラと見た。

 夜八時になると、宏美が明るく私に言い放った。
「じゃ、これで帰るね!」
「は?」
「だってぇ、そろそろ旦那も帰って来るしね」
「・・・」
「お兄ちゃんバイバーイ!」
 宏美は娘を連れて車で帰って行った。
「がははは、残念だったね木田君」
「・・・」
「あ、そうそう、宏美ちゃんが、『無理やりキスされた』って怒ってたよ」
「無理やり?それじゃあまるで僕がレイプ犯みたいじゃないですか…」
 小磯の、
「不倫願望バリバリの人妻を紹介する」
 という言葉を信じた私は、とりあえず宏美と二人きりの時に、キスまでは持ち込んでおいたのだった。
「かなり強引だったって怒ってたよ」
「小磯さん、どこが不倫願望バリバリなんですか!しかも子連れだし…」
「がはははは、まあ今夜は木田君のやり方がまずかったってことで」
「…今夜は疲れたんで、先に寝てもイイですか?」
「おう、俺はまだ有紀子と呑むから、先に寝てもいいよ」
 小磯はビール片手に上機嫌だ。
「僕も寝るぅ」
 有紀子の息子も眠いらしい。私は大型キャンピングカーに入り、最後部のベッドに向かった。前の方からは、有紀子が息子を寝かし付ける声がする。
 このキャンピングカーへの宿泊は由紀子の強い希望だったらしく、有紀子はとても嬉しそうだ。
「はぁ、もう何でもいいや、明日になれば家に帰れる…」

 私は深い眠りに就いたはずだった。