どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ154

2008-04-09 23:57:07 | 剥離人
 緑のビンに黄色いラベル、そして『JINR○』の赤のロゴ、この色彩の組合せが、ハルの遺伝子に眠る『太古の踊り』を蘇らせるらしい。

 『黒い家』の店内では、今まさにハルの『舞』が始まっていた。
「ひょっほー、ひょっほほー、ひゃほーぅ!ひょっひょひょーい!」
 ハルは奇声を発しながら、両手にJINR○のビンを持ち、大きな体を揺すって店内で踊り始めた。その動きはなんともスローモーで、まるで原始人が踊る何かの儀式の様だった。
「木田君、ついに出ちゃったよ、『JINR○の舞』が…」
 小磯は笑いながら困惑の表情を浮かべていた。
「この踊りが、両手にJINR○のビンを持った踊りが、『JINR○の舞』なんですか?」
「そう、これが滅多に見られない、ハルの『JINR○の舞』だよ。がはははは、もうこれが出ちゃうとハルは止まらないからね」
「止まらないって、どうなるんですか?」
「がっはははは、まあ百パーセント潰れるまで呑むね、あいつは」
「マジですか?」
「だってJINR○の舞が出て、あいつが潰れなかった事は一度も無いもんなぁ」
 
 私と小磯の心配を他所に、舞い終わったハルは、JINR○のキャップを大切そうに開けると、アイスペールを自分の前に引き寄せた。
「ちゃあ、小磯さんも木田さんも、全然飲んでないじゃん!ほーら、じゃあハルちゃんが二人の為に、特別美味しいのを作ってあげるからね!」
 ハルはそう言うと、またアイスペールにJINR○を注ぎ込み始めた。
「美味しいのって、たんなるJINR○のストレートじゃないですか…」
「う、うん、俺にもそう見えるね」
 小磯にどうにかしてもらおうかと思ったが、小磯もこうなったハルには、何も言えないらしい。
「ほーら、これじゃあ可哀想だから、ハルちゃんがきちんとお水で割ってあげるからね、はい、チョンチョンっと」
 ハルは私の言葉が聞こえていたのか、アイスペールの中にマドラーで水を二滴垂らしてくれた。
「・・・」
「・・・」
 だが、ここでレーナが思わぬ言葉を口走った。
「マタ作タノ?コンナノ誰ガ飲ムノ?」
 私はこのチャンスを見逃さなかった。
「そーだ!せっかくだからみんなでジャンケンをして、負けた人が飲むってのはどう?」
 すかさず小磯も乗ってくる。
「がははは、それは名案だね」
「えー、私もやるのぉ?」
 頼みもしないのに、ナミが話しに乗って来た。状況を判断できないのか、ノリノリなのか、良く分からない。
「レーナちゃんもだよ!」
「ワタシモ?」
 こうなったら全員を巻き込むしかない。
「おぉーし!」
 ハルが早くも右手を握っている。このゲームの馬鹿さ加減が気に入った様だ。
「行くよ、行くよ!」
「よし、行くぞ!」
「じゃんけぇえええええええーん…」
「エー本当にやるの?」
「ワタシモ?ワタシモ?」
「ハイ!出さないと自動的にこれを一気ね!」
「ヨーシ、出せよぉ!」
「ぽぉん!」
 気合が入りまくった四人の右手は、力強く『グー』を出し、なぜか小磯一人だけが『チョキ』を出してしまった。
「グはぁー、いきなり俺かよ、しかも一発で!」
 頭を抱える小磯に、ハルが嬉しそうにアイスペールを手渡した。
「ハル、これ、重いんだけど…」
「呑み応えがあるよぉ」
「畜生、こんなの俺がやっつけてやる!」
 小磯は大声で叫ぶと、アイスペールの中身を一気に飲み干した。
「がはははは、どーだぁ!」
 小磯は顔を引きつらせながら、アイスペールを右手で突き上げ、ガッツポーズを取った。
「ひゃほーう、いいねぇ小磯さん」
 ハルはニコニコとして楽しそうだ。
「ハル、JINR○貸せ、絶対に木田君にも飲ませてやる!」
 今度は小磯がアイスペールにJINR○を注ぎ込み始めた。
「ドプン、ドプン、ドプン、どぽンっ」
 他の客が入ってこない店内は、なぜか二人の女の子を巻き込んで、一気に空気が加熱して行く。
「よーっし、じゃ、行くぞぉー、じゃぁんけぇええん、ぽぉおおん!」

 すでに、なぜアイスペールで一気飲みをしなくてはならないのか、誰にも分からなくなっていた。