スナック『黒い家』の内装は、特に黒くはなかった。
「なんだ小磯さん、中は普通のスナックじゃん」
ハルがドカッとカウンター席に座る。
「小磯さん、てっきり妖怪が出てくるのかと思いましたよ」
私は小磯の隣に腰掛ける。
「君たちはねぇ、一体俺がどんな店で呑んでいると思ってるの?」
小磯は軽く憤慨すると、店の女の子に自分のボトルを出す様に言った。
「今日はママは?」
「ママは遅くなるって」
ナミという女の子は、小磯の前にボトルと水割りセットを並べ、グラスに氷を入れ始めた。
「小磯さん、ボトルって何よ、これっぽっち?」
ハルがヌッと右手を伸ばすと、小磯の前の『JINR○(最後の文字は虫食いです・笑)』のボトルをつかみ上げた。
「がはははは、これっぽっちとか言うな!」
「これじゃあ一瞬で無くなっちゃうよぉ」
ハルは、ナミが氷を入れたグラス三つに、原液をドボンドボンと注ぎ込んだ。
「ああー、ハルっ!」
小磯が残しておいたJINR○のボトルは、あっという間に空になってしまった。
「ほーら、呑むよ呑むよぉ、カっんパぁあああい!」
一方的にハルがグラスをゴンゴンとぶつけてきた。
「んグッ、んグッ!おぁー!」
ハルはロックのJINR○を一気に喉に流し込むと、頭をブルブルと左右に振った。
「がははは、おぁーじゃねえだろ!」
小磯が呆れてハルを見ている。
「大丈夫ヨォ、今週ウチノ店ワ、新シイオ客サン、ボトル半額ダカラ」
いきなりカウンターの中に、ちょっと体系が崩れかけた東南アジア系の女性が現れた。
「おお?キミはフィリピンの人?」
「ソダヨ、デモ日本ニスンデ、モウ十年ニナルカラネ」
「十年?」
「旦那さんは日本人だから」
ナミが補足する。
「フィリピン人で人妻なんだ」
「ソダヨー、ワタシハ『レーナ』ダカラネ、ヨロシク」
「レーナちゃんね、よろしく」
「がはははは!」
私の横で小磯が笑いながらボトルのキャップを毟り取っている。
「木田君、新規の客なら何本飲んでも半額だってよ」
「小磯さん、普通の人は一晩で何本もボトルを空けませんからね」
「ナミ、イイんだよな!」
「うん、大丈夫。だってこちらの二人は新規でしょ」
「どーれ、それならこーんなグラスなんか要らないでしょう!」
ハルがいきなりアイスペールをガシッとつかみ上げた。
「そーれ、そーれぇ!」
いきなり新しいJINR○をその中に注ぎ込む。
「うひゃひゃひゃひゃ!」
ハルは心の底から嬉しそうに笑い、アイスペールの中にJINR○を満たすと、両手でそれを持ち上げた。
「おおー、重いねぇ、じゃ、ハルちゃん行っきまァーす!ングゥ、んグ、んグ、んグ、んグ、んグ、んグ、んグんグんグんグんグゥ…」
完全にアイスペールの角度が上を向いた。
「カロン!カロン!」
ハルの口の脇から氷が数個、こぼれ落ちる。
「ガこんっ!」
ハルがアイスペールをカウンターに勢い良く置いた。
「ひょッハぁあああああああ!」
ハルがまた、頭を左右に振る。
「すっごーい!」
「アナタ、スゴイネ!」
ナミとレーナが感嘆の声を上げる。
「あー、あー、あー、あぁ…」
小磯が口を歪め、私の耳元で小声で囁いた。
「木田君、もうこうなるとハルは止まんないからね」
「止まらないって、どうなっちゃうんですか?」
「『舞い』が出たら最後だな」
「ま、『舞い』?舞いってなんですか?」
「『舞い』だよ」
「・・・?、意味が分かりませんよ」
「いや、見てろ、今日はきっと出るぞ」
「・・・」
私と小磯が目に入らないのか、ハルはJINR○を再びつかむと、またしてもアイスペールに直接流し込んだ。
「あっ、もう無くなっちゃうよぉ、お姉さん、どうせ飲むんだからもう一本出してよ!」
ナミは慌ててもう一本、JINR○のボトルを取り出し、ハルの前に置いた。
「ひょはー!小磯さん、JINR○が二本に増えちゃったよぉー!」
「増えたんじゃなくて、お前が自分で頼んだの!」
「ひゃははははは!」
ハルはキラキラとした目で、二本のJINR○のボトルを見つめている。
どうやらハルは、JINR○が好きで好きでたまらない様だった。
「なんだ小磯さん、中は普通のスナックじゃん」
ハルがドカッとカウンター席に座る。
「小磯さん、てっきり妖怪が出てくるのかと思いましたよ」
私は小磯の隣に腰掛ける。
「君たちはねぇ、一体俺がどんな店で呑んでいると思ってるの?」
小磯は軽く憤慨すると、店の女の子に自分のボトルを出す様に言った。
「今日はママは?」
「ママは遅くなるって」
ナミという女の子は、小磯の前にボトルと水割りセットを並べ、グラスに氷を入れ始めた。
「小磯さん、ボトルって何よ、これっぽっち?」
ハルがヌッと右手を伸ばすと、小磯の前の『JINR○(最後の文字は虫食いです・笑)』のボトルをつかみ上げた。
「がはははは、これっぽっちとか言うな!」
「これじゃあ一瞬で無くなっちゃうよぉ」
ハルは、ナミが氷を入れたグラス三つに、原液をドボンドボンと注ぎ込んだ。
「ああー、ハルっ!」
小磯が残しておいたJINR○のボトルは、あっという間に空になってしまった。
「ほーら、呑むよ呑むよぉ、カっんパぁあああい!」
一方的にハルがグラスをゴンゴンとぶつけてきた。
「んグッ、んグッ!おぁー!」
ハルはロックのJINR○を一気に喉に流し込むと、頭をブルブルと左右に振った。
「がははは、おぁーじゃねえだろ!」
小磯が呆れてハルを見ている。
「大丈夫ヨォ、今週ウチノ店ワ、新シイオ客サン、ボトル半額ダカラ」
いきなりカウンターの中に、ちょっと体系が崩れかけた東南アジア系の女性が現れた。
「おお?キミはフィリピンの人?」
「ソダヨ、デモ日本ニスンデ、モウ十年ニナルカラネ」
「十年?」
「旦那さんは日本人だから」
ナミが補足する。
「フィリピン人で人妻なんだ」
「ソダヨー、ワタシハ『レーナ』ダカラネ、ヨロシク」
「レーナちゃんね、よろしく」
「がはははは!」
私の横で小磯が笑いながらボトルのキャップを毟り取っている。
「木田君、新規の客なら何本飲んでも半額だってよ」
「小磯さん、普通の人は一晩で何本もボトルを空けませんからね」
「ナミ、イイんだよな!」
「うん、大丈夫。だってこちらの二人は新規でしょ」
「どーれ、それならこーんなグラスなんか要らないでしょう!」
ハルがいきなりアイスペールをガシッとつかみ上げた。
「そーれ、そーれぇ!」
いきなり新しいJINR○をその中に注ぎ込む。
「うひゃひゃひゃひゃ!」
ハルは心の底から嬉しそうに笑い、アイスペールの中にJINR○を満たすと、両手でそれを持ち上げた。
「おおー、重いねぇ、じゃ、ハルちゃん行っきまァーす!ングゥ、んグ、んグ、んグ、んグ、んグ、んグ、んグんグんグんグんグゥ…」
完全にアイスペールの角度が上を向いた。
「カロン!カロン!」
ハルの口の脇から氷が数個、こぼれ落ちる。
「ガこんっ!」
ハルがアイスペールをカウンターに勢い良く置いた。
「ひょッハぁあああああああ!」
ハルがまた、頭を左右に振る。
「すっごーい!」
「アナタ、スゴイネ!」
ナミとレーナが感嘆の声を上げる。
「あー、あー、あー、あぁ…」
小磯が口を歪め、私の耳元で小声で囁いた。
「木田君、もうこうなるとハルは止まんないからね」
「止まらないって、どうなっちゃうんですか?」
「『舞い』が出たら最後だな」
「ま、『舞い』?舞いってなんですか?」
「『舞い』だよ」
「・・・?、意味が分かりませんよ」
「いや、見てろ、今日はきっと出るぞ」
「・・・」
私と小磯が目に入らないのか、ハルはJINR○を再びつかむと、またしてもアイスペールに直接流し込んだ。
「あっ、もう無くなっちゃうよぉ、お姉さん、どうせ飲むんだからもう一本出してよ!」
ナミは慌ててもう一本、JINR○のボトルを取り出し、ハルの前に置いた。
「ひょはー!小磯さん、JINR○が二本に増えちゃったよぉー!」
「増えたんじゃなくて、お前が自分で頼んだの!」
「ひゃははははは!」
ハルはキラキラとした目で、二本のJINR○のボトルを見つめている。
どうやらハルは、JINR○が好きで好きでたまらない様だった。