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ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

「鉄道は災害に弱い」

2012年08月14日 03時05分17秒 | 社会・経済

 今年の2月8日付で「バス高速輸送システム(BRT)で震災復興(地域復活)はどこまで可能か?」という記事を掲載しました。私は、そこで次のように書いています。

 「たしかに、東日本大震災では、地震に対する鉄道の弱さを改めて知らしめることとなりました。首都圏でも、一般の路線バスは夕方までに運行を再開していましたが、地下鉄は、一番早く運行を再開したところでも夜の8時半頃、私鉄が運行を再開したのは9時台から11時台にかけてです。しかし、JR東日本、東武など、早々運行中止を決めたところも少なくありません。JRは3月12日の午前中まで運休していました。当然、バスの出番となります。

 勿論、バスには渋滞という問題があります。私も、震災当日、国際興業バスと都営バスに乗って渋滞に巻き込まれました。しかし、全く動かないよりはマシです。

 東北地方でも事情は同じでしょう。しかも鉄道の利用率があまりよくないのです。山田線は盛岡~釜石の路線ですが、とくに盛岡~宮古の状況がよくありません。この区間を通しで運行するのは一日4往復しかなく、平時からバスに負けていました。大船渡線の状況はわかりませんが、おそらく営業係数は悪いでしょう。」

 不思議なことに、私が見ている限りのことではありますが、昨日まで「鉄道は地震に弱い」という趣旨の発言を見たことがなかったのでした。何故なのかはわかりませんが、このところ流行している鉄道復権論、ローカル線の廃止が地域の衰退に拍車をかけるという議論などのためなのでしょう。私も、こうした議論に正面から反対するという訳ではありません。

 しかし、赤字ローカル線活性化論などを読んでいると、根底から賛成できるとは思えないものもあります。鉄道が定点間の大量輸送に適しているという事実を前提とすると、これからの少子高齢化、さらに人口減少という時代に、鉄道を存続させるという議論は根本的な矛盾を抱えています。ローカル線活性化論は、バリアフリー、交通弱者などの問題をあげて、ローカル線の存続などを訴えています。これはこれで理解できます。私自身、7年間も大分県に住んでいましたから、自動車社会の弊害は身にしみてわかっています。それでも、人口が減少しているのに大量交通機関が必要であるという議論には、前提に矛盾があるとしか思えません。

 昨日、告別式に出席し、その帰途に渋谷のブックファーストで福井義高『鉄道は生き残れるか  「鉄道復権」の幻想』(中央経済社)を購入しました。奥付を見ると今年の8月20日が発行日となっていますので、まだ発売されて間もない本ということになります。

 福井教授の立場は明確で、貨物輸送に関しては鉄道の役割は完全に終わっている(存在意義そのものが失われている)、旅客輸送に関しては鉄道の市場が狭くなる一方である、というものです。或る意味で多くの人々に冷や水を浴びせるような内容ですが、冷徹に考えるならば核心を突いているとしか言えないでしょう。少なくとも、感傷的な赤字ローカル線反対論はせいぜい、よいところでただの話の先送りというものであることが、この本でよく示されています。

 これまた最近日本で流行しているLRTについては全く触れられていませんが、おそらく、触れる必要がないからでしょう。LRTも鉄道であることに変わりはないからです。

 私がこの本でとくに注目したのが、ローカル線をBRTに変換すべきであるとする内容です。170頁以下をお読みください。BRTはバス高速輸送システムのことです。東日本大震災の影響で不通となった山田線の宮古~釜石と大船渡線の気仙沼~盛について、JR東日本がBRT化を打ち出していますが、福井教授はBRT化を被災地に限定すべきでないという立場です。被災地に話を限れば、教授は三陸鉄道の復旧にも疑問を提起されています。しかも、採算度外視という点以外の問題を記しています。少し長くなりますが、173頁から引用させていただきます。なお、太字は、引用者の私が強調する部分です。

 「まず、震災で大きな被害を受けた三陸沿岸部の再生に役立つとは思えません。今まで同様、この地域は今後も圧倒的な車社会であり、運行再開しても利用者は減り続けるでしょう。そもそも、復旧を強く求めた知事や市長をはじめ自治体職員自身、震災前、鉄道を利用していたでしょうか。

 鉄道復旧は復興のシンボルになるという意見にも賛成できません。鉄道はいつから高価な観賞用モニュメントになったのでしょうか。学校や住宅など、復興のための予算にはもっと有効な使い道がいくらでもあります。人的物的資源に限りがあることを考えれば、地元自治体も、利用されない鉄道を復旧する提案など断って、それにかかる額と同額の復興予算を要求すべきでしょう。

  さらに、今回の震災で明らかになったのは、鉄道は災害に弱いということです。道路や空港なら、乗り心地はともかく、多少デコボコでも使うのに支障はありません。実際、今回の震災後もすぐ使えるようになりました。それに対し、線路は切断されればもちろんのこと、少しでも曲がっていれば使うことはできません。鉄道復旧には時間も費用も桁違いにかかるのです。

 かりに交通関連分野におカネをかけるのであれば、住民にとっての便利さや災害への耐性を考えると、まず道路に投資すべきです。そもそも、以前から、独自に頑張ってきた地方私鉄より、元国鉄の三セク路線は補助金等で優遇され過ぎではないでしょうか。」

 東北地方には豪雪地帯が多く、自動車は雪に弱いという問題点を忘れてはなりませんが、昨年の経験からすれば、鉄道よりバスなどのほうが災害に強いということは言えるのではないでしょうか。

 災害とは違いますが、首都圏でも、昨年の9月21日、台風15号が上陸して関東地方を暴風域に巻き込んだ時のことが思い出されます。鉄道は15時過ぎから17時過ぎにかけて、次々と運転を見合わせてしまいました。私は田園都市線駒沢大学駅で足止めを食いました。ずぶぬれになることを覚悟で地上に出てみたら、東急バスは動いていました。さすがに本数が少なくなるか、徐行でダイヤが乱れるか、というところでしょうが、動いていたのです。高津営業所行きのバスに乗ろうとしたらあまりに混んでいて乗れなかったのは残念でした。すぐに3月11日の夜、池袋駅や渋谷駅などでのことを思い出しました。その時もバスは動いていたのです。高速バスなどは運転を中止していたようですが、それは高速道路を通るからです(3月11日、地震直後から首都高速が全線で通行止めとなりました)。

 勿論、バスにも様々な問題はあります。その一つが定時性でしょう。私も普段は鉄道を使って通勤をします。それは、ひとえに普段の定時性(および営業区間)です。しかし、定時性については記すならば、最近の首都圏の鉄道各線の状況を見るとわかりますが、鉄道がバスに対して持つ優位性の一つとされた定時性は徐々に失われつつあります。普段でもこうであれば、異常時にはまして、ということにならないでしょうか。

 福井教授も指摘されていますが、現在、鉄道事業が何とか採算に乗っているのは首都圏など一部の地域のみです。かつて私鉄王国と言われた京阪神地区では、国鉄分割民営化の結果として誕生したJR西日本が大幅にシェアを伸ばし、阪急や阪神などの大手私鉄は利用客を大幅に減らしています。中京地区の名鉄も同様の状況に追い込まれています(大手私鉄で最も輸送密度が低いのが名鉄です。逆に最も高いのが東急で、福井教授は東急の輸送密度は日本一どころか世界一高いのではないかとも書かれています)。

 あれこれと記してまいりましたが、まだ福井教授の論説の全てを紹介してはおりません。御一読いただくのが最善でしょう。私も、全てに納得したという訳ではないのです。ただ、今後の交通問題を考える際には必読と言えます。


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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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はじめまして。junkiedqnと申します。 (junkiedqn)
2012-08-24 19:01:56
本書はまだ読んでいませんが、web上で公開されている内容を見る限り、主旨には全面賛成します。

urlは、下品丸出しブログです。よろしければ、ご覧ください。
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初めまして。 (Masaya)
2012-12-01 21:59:01
調べ物をしていて、ここに辿り着きまして。

さて、福井義高さんの『鉄道は生き残れるか』。
ちと、“ミスリード”があると感じますね。

“鉄道は、災害に弱い”と言う件。
それは、事故を起こした時の影響が余りに大きい為で、だったら、福井さんは、道路上での大事故なら、何とも思わないのか――と、感じて成りません。

東急田園都市線での出来事を挙げられていますが、それとて、実は、“おっかなびっくりなまでにデリケートに反応している為”だと思うのです。
つまり、“風の影響”ですら、それだけ大事故を起こした事から、その様な対応に成っていると思うのです。
営団地下鉄東西線での事故や、餘部鉄橋からの転落事故――数例ですが、それが、「災害に弱い」と言うイメージ作りに繋がっているとは感じるのです。

つまり、「災害対策」を綿密に練り上げるべきで、影響を受けにくくする体制作りが求められると思いますが、それには触れず、
「災害に弱いのは鉄道の欠点、だから、地方では道路整備を」
――と唱える所に、“作為”を感じます。

長くなるけれど、これからの時代は、“乗り継ぎ&載せ替えの手間”を如何にして小さくしていけるか――が問われると思うのです。
ですが、福井さんの意見にはそれが伺えないのが、気掛かりです。

そもそも、日本にて車社会化が進んだ背景として、地方程公共交通が不便であったり、“スト権スト”などの行為によって利用者離れが起きた事で、その後遺症を引き摺っている為であると感じます。

その“改善”が大切と思うのに、福井さんの意見には、それが伺えないのです。
“ステレオタイプな素人意見”に、“データ付け”をして語っているだけだと思うのです。

無論、何でも鉄道が担える訳では有りません。
でも、“採算性”と言っても、それが“帳簿に示された結果”だけで語っているならば、その“改善策”は、ステレオタイプに「廃止せよ」と言う言葉しか出て来なくなる。

福井さんみたく、「コストが安いから」と言う理由のみでバスへの転換を勧めるならば、寧ろバスの欠点を増幅する結果に終わると感じます。
つまり、「福井さんは、バスの素人」では無いのか?――と、感じるのです。

福井さんにせよ、
「駅前に駐車場が有れば、便利に乗り継げるのに」
「もう少し、乗り易い時間だったら」
――と言う利用者本位の営業政策を立案出来ないところを見て取るし、そこに、限界を感じるのが、気掛かりです。

福岡県の、甘木鉄道での取り組みは、ご存じでしょうか?

1986年に、国鉄甘木線を第3セクター化して誕生した路線ですが、国鉄時代は一日7往復しか無かったのを32往復(約40分間隔)に増やし、西鉄大牟田線との接続駅である小郡駅を移転して接続の改善を図ったり――その結果利用が定着して、“3セクの優等生”と呼ばれるまでに至っています。

無論、何処でもやれる話では無いとは言え、この様な“可能性”は、まだ残っていると思うのです。

でも、福井さんの意見には、“乗り易くする工夫”のアイデアについて、何も出されないのが、気掛かりなのです。

“乗ってもらう為の工夫”を実施した上でダメだというなら、解ります。
しかし、彼は、
「地方だから乗客が少ない、だから、バスへの転換を」
――と、ステレオタイプに言い切るだけでは無いのですか?
そこが、しっくり来ないのです。

長くなりましたが、“地域に必要なインフラ”と言うなら、“乗ってもらう事”や“乗り易くする工夫”を真剣に考えるべきと思います。

それでは、またです。
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コメントを承認して戴き、有難うございます。 (Masaya)
2012-12-03 15:30:13
読んで戴いたもの――と思いますが、ですが、貴方の文章を読んでいても、しっくり来ないと感じています。

> 勿論、バスにも様々な問題はあります。その一つが定時性でしょう。
> 私も普段は鉄道を使って通勤をします。
>それは、ひとえに普段の定時性(および営業区間)です。
> しかし、定時性については記すならば、最近の首都圏の鉄道各線の状況を見るとわかりますが、
> 鉄道がバスに対して持つ優位性の一つとされた定時性は徐々に失われつつあります。
> 普段でもこうであれば、異常時にはまして、ということにならないでしょうか。

――最近の「傾向」を見て率直に感じてるだけなんでしょうが、欠落している点を感じます。
それは、
「“何故、後れが頻繁に生じる様になってるのか”を問いかけもせずに、“鉄道は、定時制を喪いつつある”と、勝手に決めつけているだけでは?」
――と言う点です。

列車ダイヤ設定に不備があったり、主要駅程混雑が激しいのに乗降時間が充分に取られていないので後れが生じがちだったり――“原因&要因”は沢山あるし、それを、一つずつ潰していく事が大切になる筈です。
でも、貴方のその物言いでは、そこを「考える気」が、見えてこないのです。
だからこそ、“中途半端な問いかけに終わってしまう”が故の、“鉄道の衰退”なんだろうに……と、感じるのです。

悪口じみた言い方で、すみません。
ですが、「鉄道を、真剣に考える」と仰るのなら、もう少し、注意して欲しい――と、感じますね。

それでは、またです。
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