ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

金剛自動車のバス路線の存続に向けて

2023年10月11日 10時40分00秒 | 社会・経済

 金剛自動車が2023年12月20日に全バス路線の廃止を表明したのは9月11日のことでした。今日でちょうど1か月が経過したことになります。

 その理由の一つが乗務員不足でした。世に2024年問題と言われていますが、それを先取りしたような話であり、むしろ2023年問題と表現すべきであるかもしれません。日本各地で、路線バスや鉄道の乗務員不足が原因となる減便が相次いで報じられていますが、金剛自動車は或る意味において究極的な形を選んだということになります。

 また、路線バスの乗務員不足は、JR西日本、JR北海道などの赤字ローカル線の存廃問題に大きな影響を与えることとなるかもしれません。鉄道路線を廃止してバス路線に転換したところで通勤通学輸送には対応できないでしょうし、むしろバス路線のほうが先に廃止される可能性もあることから、消極的な選択として鉄道路線の維持という(様々な問題を先送りする)結果につながるでしょう。これについては北陸鉄道石川線の存続を例として見ることができます。

 また、この何年か、MaaS(Mobility as a Service)が何かと話題になっています。MaaSは、国土交通省の「日本版MaaSの推進」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/)によれば「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです」と説明されており、AIオンデマンドバス、カーシェア、シェアサイクルなども活用しながら「都市・地方が抱える交通サービスの諸課題を解決することを目指」すこととされています。端的にみて、通勤通学輸送、とくにローカル線にとっては通学輸送という大量輸送には向きませんし、自家用車、乗用車の活用が前提となっていると考えられます。また、既存のコミュニティバスの多くは(少なくとも首都圏の状況を見ると)利便性が高いと評価することができないように思われます。路線バスの乗務員不足は、路線バス事業への参入に設けられていた規制の緩和の結果でもありますが、MaaSの普及には別の規制緩和が必要となります。場合によっては、現在の地域公共交通体系を根本から見直し、再構築をしなければならないでしょう。

 金剛自動車の話に戻ります。先週のことですが、10月5日、大阪府の河南町で、金剛自動車のバス路線の代替手段などについての協議会が行われました。毎日新聞社が10月5日19時56分付で「金剛自動車の路線バス廃止、利用者多い5路線の維持目指す」(https://mainichi.jp/articles/20231005/k00/00m/040/303000c)、朝日新聞社が10月6日7時45分付で「バス全路線廃止で市町村など協議会 5路線優先し支援バス会社と協議」(https://www.asahi.com/articles/ASRB56VX7RB5OXIE01D.html)として報じています。

 協議会に参加したのは富田林市、太子町、河南町および千早赤阪村です。ここで、金剛バスの運行エリアを次のように分けました。

 太子町エリア:2022年度の利用者数は19万人。

 河南町北部エリア:2022年度の利用者数は25万人。

 河南町南部エリア:2022年度の利用者数は24万人。

 千早赤阪村エリア:2022年度の利用者数は16万人。

 富田林市東南部エリア:2022年度の利用者数は26万人。

 以上のように分けたのは、地形、利用者数の観点によるものです。その上で、各エリアで利用者が多い路線を優先的に運行を維持する路線と位置づけました。それらは次の通りです(カッコ内は、金剛自動車の公式サイトに掲載されている路線図を基に記したものです)。

 喜志循環線(近鉄長野線喜志駅から太子四つ辻、磯長小学校前、推古天皇陵前を経由して喜志駅に戻る路線。)

 阪南線(喜志駅から太子四つ辻、阪南一須賀を経由して近つ飛鳥博物館前までの路線。)

 さくら坂循環線(近鉄長野線富田林駅から河南町役場前、さくら坂一丁目を経由して富田林駅に戻る路線。)

 千早線(富田林駅から森屋西口、千早赤坂役場前を経由して千早ロープウェイ前までの路線/富田林駅から森屋西口、松本橋を経由して楠公誕生地前までの路線/富田林駅から森屋西口、松本橋、水分を経由して水越峠までの路線。この3つのうちのいずれかが残るのかなど、詳細はわかりません。)

 東條線(富田林駅から板持、東条小学校、蒲、甘南備を経由して吉年またはサバーファームまでの路線。途中の蒲から福祉センターまでは蒲中央を経由する便もあります。)

 以上については近鉄バスおよび南海バスと協議を進めていくとのことです。

 残りの路線については、路線バスにこだわることなく、自家用有償旅客運送、乗合タクシーなどの手段も含めて検討するようです。ここで、自家用有償旅客運送とは、市町村、NPO法人、医療法人、社会福祉法人などが主体となって自家用車を使用して有償(但し、ガソリン代、人件費、事務所経費などの実費の範囲内であることが基本です)の旅客輸送を行うというものです。実際の運行はバス会社やタクシー会社に委託することも可能です。当然、ナンバーは営業車の緑ではなく自家用車の白となりますが、一定の要件を満たすことによって白タクとならず、有償の旅客輸送を行うことができるのです(道路運送法第78条第2号、同第79条以下を参照)。詳しいことは、国土交通省自動車局旅客課がまとめた「自家用有償旅客運送ハンドブック」を御覧ください。

 富田林市、太子町、河南町および千早赤阪村の協議会は、今月中にあと2回開かれるようです。そこで代替交通案をまとめるとのことですが、金剛自動車のバス路線の全てが何らかの形で存続するかどうかはわかりません。金剛自動車のバス路線図を見る限りでは上記5路線以外にも一定の需要を見込める路線がありそうなものですが、地域の事情を知らない者は経緯を見据えていくしかないのでしょう。

 私自身も、鉄道路線ほどではないですが路線バスを利用することが少なくありません。そのためもあって、路線バス網の縮小には大きな関心を寄せざるをえません。

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 このように書いていて思いだしたことがあります。「再び、大分市大字河原内」という記事に書いたことですので、御覧いただければ幸いです。バスの乗務員不足の話ではないのですが、当時のバス会社の状況をうかがうことができるかもしれません。


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