ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

テレワーク急減のニュースを読んで

2023年08月08日 11時00分00秒 | 社会・経済

 2020年にCOVID-19が拡大して、にわかにテレワークが増えました。勿論、業種や企業の規模によりけりで、100%はありえません。最高で何%くらいの普及率になったのかわかりませんが、少なくとも日本では思っていたほどテレワークは普及しなかったということでしょう。地方移住もそれほど進まなかったくらいですから。

 大学を除いた学校では、オンライン授業から教室での講義への復帰は早かったようですし、大学でも、ほぼオンライン授業で埋め尽くされていたのは2020年度だけでした。結局、オンライン講義は応急処置、とまでは言えなくとも一時的措置、あるいは併用というかたちでの補助的手段に留まったとも言えるでしょう。

 さて、今日(2023年8月8日)付の朝日新聞朝刊1面14版△に「大企業 テレワーク22% 7月1100人調査 半年前から11ポイント急減」という記事が、3面14版には「テレワーク×出社 両立は 人材確保へ 理想の職場探る企業」という記事が掲載されています。読んでいて、あれこれ考えるところがあります。

 1面記事の見出しにある調査は日本生産性本部が7月10日および11日にインターネットで行ったもので、対象は「国内で企業などに雇用されている20歳以上の1100人」で、13回目であるとのことです。最初の調査は2020年5月に行われており、その後は7月、10月、1月および4月に行われてきました(但し、2023年は1月および7月に行われており、4月には行われていません)。

 まず、「やはり」と思ったのは、テレワークの実施率が最も高かったのが2020年5月の31.5%であり、その後は、低くなったり高くなったりという波はあるものの、長期的に低下傾向にあるということです。1面記事には、従業員数別の率を示した折れ線グラフが載せられており、平均で30%程度、内訳は1001人以上の企業であれば50%程、101人以上1000人以下の企業であれば30%台、100人未満の企業であれば20%台であることが示されています。しかし、2020年7月の調査では1001人以上の企業でも30%台に落ちており、それから40%程度になったこともあったものの、30%台を維持していました。

 詳しい経緯は1面記事の折れ線グラフを参照していただくとして、2023年7月の調査に話を進めましょう。実施率は平均で15.5%で、これは2023年1月の16.8%から1.3ポイントの低下です。従業員数別に見ると、1001人以上の企業で22.7%、101人以上1000人以下の企業で15.5%、100人未満の企業で12.8%でした。折れ線グラフを見るとわかるのですが、2023年1月において1001人以上の企業における実施率は34%でしたので、かなりの低下となります。

 その理由の一つとして考えられるが、今年5月、政府がCOVID-19の「感染症法上の位置づけを『5類』に移行したこと」です。これによって「コロナへの一時的な対応としてテレワークを採り入れていた企業で出社を求める動きが活発になっている」ようなのです。勿論、それ以外の理由もあれこれと考えられるでしょうし、企業によって異なるでしょう。

 また、「週5日のすべてをテレワークする人の割合も14.1%と半年前の調査からほぼ半減し、テレワークを活用する人の中でも出勤日数は増える傾向にある」とのことです。2023年度に入ってから、田園都市線、大井町線、東横線、目黒線、半蔵門線、副都心線、三田線などに乗っている限りで、乗客は2019年度と同じ程度にまで戻ったのではないかと思われる程ですから、出勤日数が増えるのは当然でしょう。但し、「テレワークで働く人の満足度は高く、自宅での勤務に『満足している』『どちらかと言えば満足している』と答えた人は9割近くにのぼった。今後もテレワークを行いたいかを尋ねたところ、『そう思う』『どちらかと言えばそう思う』と答えた人も86.4%を占めた」とも書かれており、やはりテレワークという選択肢を消滅させる必要はないと考えられます。要は業種、仕事内容によるのです。

 勿論、テレワークの課題はあります。私自身の経験からしても、いくつもの問題があると言えるでしょう。

 先の日本生産性本部の調査では「テレワークを活用する一般社員とそうした部下を持つ管理職各1千人を対象にした意識調査」も行われており、3面記事には「テレワークで解決すべき課題 日本生産性本部調べ」というグラフも掲載されています。これを見ると、管理職と一般社員との間にある感覚の違いもわかります。

 ①孤独感や疎外感の解消策:管理職46.8%、一般社員29.0%

 ②上司・先輩からの十分な指導や助言:管理職45.3%、一般社員28.9%

 ③働き過ぎを回避する制度や仕組み:管理職43.8%、一般社員28.3%

 ④仕事のオン・オフを切り分けしやすい制度や仕組み:管理職41.1%、一般社員31.7%

 ⑤机、椅子、照明など物理的環境の整備:管理職38.2%、一般社員31.4%

 ⑥仕事ぶりについての評価の適切さ:管理職43.4%、一般社員30.7%

 上記以外にも課題があるのではないかと思われるのですが、やはり主だったところということでしょう。

 3面記事には「テレワークを継続する企業では、社員が出社した際にリアルな会話を促すことで、こうした悩みを軽減しようという動きがある」として、リクルート、三井物産、野村不動産の例が紹介されています。興味深いとは思うのですが、人間なんて、所詮、群れなければ生活できない、弱い動物なのだなと感じざるをえません。

 また、富士ソフトが提供するサーヴィスが紹介されています。それは「ネット上に仮想のオフィスを作るサービス」で、「他の社員が何をしているかが一目で分かり、会議中でない人には気軽に話しかけてもらうなど雑談を生む仕掛けだ」とのことです。具体的にどのようなものであるかは、実際に見た訳ではないのでわかりませんが、このようなサーヴィスが登場したのは、テレワークの継続が「人材確保に有効だと見るからでもある」からです。「日本生産性本部の調査では、勤め先でテレワークが廃止されたり、制限されたりしたときに『退職や転職を検討する』との回答が一般社員で16.4%、管理職で9.6%あった」とのことで、割合は低いものの、無視しえない意見です。これからもパンデミックなどの緊急事態が何度でも生じうることからすれば、勤務体系も多様化せざるをえませんし、選択肢は残しておくのが最善ということでしょう。

 COVID-19の状況などにもよりますが、今後もしばらくはテレワークの実施率が低下することでしょう。しかし、0にはならないと思われますし、0にすることは無意味です。勿論、業種、仕事内容によることは、最初に記した通りです。


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