ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第3部:地方税財政制度  第11回:国対地方の関係の側面からみた地方財政権(地方財政権その3)

2022年12月22日 11時10分20秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 地方財政権は、憲法第92条および第94条に根拠づけられるとともに、これらの規定によって保障されるべきものである。このことは、地方財政権も国法体系の一構成要素であることをも意味する。そのため、地方財政権には、国との関係という側面からみた場合に、国、とくに国家財政からの一定の自律あるいは自立を求めるという性質を有すると同時に、国、とくに国家財政に対して一定の財源を保障するように請求しうるという権能をも有することとなる。

 そこで、地方財政権を、自律権と財源保障とに分け、それぞれについて概説を加えておく。

 (1)自律権としての性格

 地方公共団体は、国法体系に位置づけられ、統治機構としての性格を有しつつも、独立の法人格を与えられた存在である。すなわち、地方公共団体は国の統治機構の一部をなすのではなく、国から独立した自律的(または自立的)な存在なのである。

 地方財政権についても、基本的に同様のことが妥当する。地方財政権も国法体系に位置づけられる以上、国と全く無関係ではありえない。国家財政と密接な関係を有することを否定する訳にもいかない。しかし、一定の自律性が認められなければ、地方公共団体の自律性そのものが失われかねない。

 この、自律権としての性格に着目した場合、地方財政権は自主財政権とも言われる。日本の場合、憲法の規定にもかかわらず、大日本帝国憲法時代から引き継がれた機関委任事務が長らく存在し、強化されたこともあって、地方分権推進計画も指摘したように「国と地方の歳出純計に占める地方の歳出の割合は約3分の2であるのに対し、租税総額に占める地方税の割合は約3分の1となっており、歳出規模と地方税収入との乖離が存在している」という状態が根本に存在していた。そして、地方財政は、独自の租税収入よりも大きい部分を、地方交付税や国庫支出金などに頼っている状態である。地方分権的な色彩が皆無であった訳ではないが、中央集権的な性格のほうが濃厚であり、いわゆる三割自治の状態が、現在まで続いてきた。

 地方財政法第2条は、第1項において「地方公共団体は、その財政の健全な運営に努め、いやしくも国の政策に反し、又は国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行つてはならない」とし、第2項において「国は、地方財政の自主的な且つ健全な運営を助長することに努め、いやしくもその自律性をそこない、又は地方公共団体に負担を転嫁するような施策を行つてはならない」とする。この規定は、地方財政権に自律性を保障しようとする一方で、地方財政権が国家財政などに拘束されうることを認めている。

 地方財政権の自律性が問題となりうる局面は多岐にわたるのであるが、主なものとしては、地方税立法権および地方税行政権(両者を合わせて課税権としてよい)、予算編成権であろう。

 地方税立法権および地方税行政権については、後に扱う。

 予算編成権については、法定受託事務の存在、および、地方交付税法第7条に基づいて内閣が作成する地方財政計画が、制約として存在する。同条によると「内閣は、毎年度左に掲げる事項を記載した翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類を作成し、これを国会に提出するとともに、一般に公表しなければならない」として、第1号および第2号に規定される事項をまとめなければならないこととなっている。これが地方交付税の交付額の算定につながるだけに、各地方公共団体の予算作成にとって制約になるばかりでなく、国の予算の成立時期によっては障害にもなりうる。

 (2)財源保障請求権としての性格

 地方公共団体の財政権の自律性を保障することは重要である。しかし、地方公共団体の財政権には格差がある。現実には、地方公共団体の財政需要を自らの財源調達のみによってカヴァーしえないという所が多い。また、本来は国または都道府県の事務であるべきものが法定受託事務として都道府県または市町村の事務とされるものも多い。以上の点からすれば、地方公共団体の財政需要を充足するためにも、それなりの財源を保障せざるをえない。

 ①義務教育費国庫負担法など

 義務教育は、憲法第26条に定められるものであり、本来的には国の責務であると考えられる。少なくとも、教育水準の確保など、一定の責務が国に課せられる。他方、学校教育法第2条第1項は、地方公共団体が学校の設置者となりうることを規定し、同第5条は「学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する」と定め、設置者負担原則を明示する。

 これらを受けて、義務教育費国庫負担法第1条は「この法律は、義務教育について、義務教育無償の原則に則り、国民のすべてに対しその妥当な規模と内容とを保障するため、国が必要な経費を負担することにより、教育の機会均等とその水準の維持向上とを図ることを目的とすると定め、さらに、第2条は「教職員の給与及び報酬等に要する経費の国庫負担」として、次のように定める。

 「国は、毎年度、各都道府県ごとに、公立の小学校、中学校、中等教育学校の前期課程並びに特別支援学校の小学部及び中学部(学校給食法(昭和29年法律第160号)第6条に規定する施設を含むものとし、以下「義務教育諸学校」という。)に要する経費のうち、次に掲げるものについて、その実支出額の3分の1を負担する。ただし、特別の事情があるときは、各都道府県ごとの国庫負担額の最高限度を政令で定めることができる。

 一 市(特別区を含む。)町村立の義務教育諸学校に係る市町村立学校職員給与負担法(昭和23年法律第135号)第1条に掲げる職員の給料その他の給与(退職手当、退職年金及び退職一時金並びに旅費を除く。)及び報酬等に要する経費(以下「教職員の給与及び報酬等に要する経費」という。)

 二 都道府県立の中学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第71条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すものに限る。)、中等教育学校及び特別支援学校に係る教職員の給与及び報酬等に要する経費」

 ここで、関係する諸法律の規定も示しておくこととする。

 市町村立学校職員給与負担法の第1条は、次のように定めている。

 「市(特別区を含む。)町村立の小学校、中学校、中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の校長(中等教育学校の前期課程にあつては、当該課程の属する中等教育学校の校長とする。)、副校長、教頭、主幹教諭、指導教諭、教諭、養護教諭、栄養教諭、助教諭、養護助教諭、寄宿舎指導員、講師(常勤の者及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める者に限る。)、学校栄養職員(学校給食法(昭和29年法律第160号)第7条に規定する職員のうち栄養の指導及び管理をつかさどる主幹教諭並びに栄養教諭以外の者をいい、同法第6条に規定する施設の当該職員を含む。以下同じ。)及び事務職員のうち次に掲げる職員であるものの給料、扶養手当、地域手当、住居手当、初任給調整手当、通勤手当、単身赴任手当、特殊勤務手当、特地勤務手当(これに準ずる手当を含む。)、へき地手当(これに準ずる手当を含む。)、時間外勤務手当(学校栄養職員及び事務職員に係るものとする。)、宿日直手当、管理職員特別勤務手当、管理職手当、期末手当、勤勉手当、義務教育等教員特別手当、寒冷地手当、特定任期付職員業績手当、退職手当、退職年金及び退職一時金並びに旅費(都道府県が定める支給に関する基準に適合するものに限る。)(以下「給料その他の給与」という。)並びに定時制通信教育手当(中等教育学校の校長に係るものとする。)並びに講師(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年法律第116号。以下「義務教育諸学校標準法」という。)第17条第2項に規定する非常勤の講師に限る。)の報酬及び職務を行うために要する費用の弁償(次条において「報酬等」という。)は、都道府県の負担とする。

 一 義務教育諸学校標準法第6条の規定に基づき都道府県が定める小中学校等教職員定数及び義務教育諸学校標準法第10条の規定に基づき都道府県が定める特別支援学校教職員定数に基づき配置される職員(義務教育諸学校標準法第18条各号に掲げる者を含む。)

 二 公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(昭和36年法律第188号。以下「高等学校標準法」という。)第15条の規定に基づき都道府県が定める特別支援学校高等部教職員定数に基づき配置される職員(特別支援学校の高等部に係る高等学校標準法第24条各号に掲げる者を含む。)

 三 特別支援学校の幼稚部に置くべき職員の数として都道府県が定める数に基づき配置される職員」

 同第2条は、次のような規定である。

 「市(地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市を除く。)町村立の高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)で学校教育法(昭和22年法律第26号)第4条第1項に規定する定時制の課程(以下この条において「定時制の課程」という。)を置くものの校長(定時制の課程のほかに同項に規定する全日制の課程を置く高等学校の校長及び中等教育学校の校長を除く。)、定時制の課程に関する校務をつかさどる副校長、定時制の課程に関する校務を整理する教頭、主幹教諭(定時制の課程に関する校務の一部を整理する者又は定時制の課程の授業を担任する者に限る。)並びに定時制の課程の授業を担任する指導教諭、教諭、助教諭及び講師(常勤の者及び地方公務員法第28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める者に限る。)のうち高等学校標準法第7条の規定に基づき都道府県が定める高等学校等教職員定数に基づき配置される職員(高等学校標準法第24条各号に掲げる者を含む。)であるものの給料その他の給与、定時制通信教育手当及び産業教育手当並びに講師(高等学校標準法第23条第2項に規定する非常勤の講師に限る。)の報酬等は、都道府県の負担とする。」

 同第3条は、次のような規定である。

 「前2条に規定する職員の給料その他の給与については、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第42条の規定の適用を受けるものを除く外、都道府県の条例でこれを定める。」

 なお、義務教育諸学校国庫負担法は廃止された。

 ②地方財政調整制度

 財政調整という用語は、元々、ドイツ租税法学の父とも評価されるアルベルト・ヘンゼル(Albert Hensel)が、おそらくはスイスの憲法制度を基にしつつ打ち立てた概念であるが、その概念の重要性にも関わらず、ドイツにおいては確定的定義が未だ存在しないという状況にある。一方、日本は単一国家であるという事情があるので、とくに地方財政調整と表現されることが多いが、やはり、地方財政調整について明確な定義が下されていない場合が多い。それ故に、何を財政調整(法理)論の対象にするかについて必ずしも明らかでなく、しかも論者により射程距離に微妙な差異が存在する、という状況にある。ここでは、財政調整とはいかなる概念であるかについての詳説を避けるが、一般的には地方交付税制度が該当するという共通理解がみられる。

 文献紹介の意味も含めて、拙稿「地方税立法権」日本財政法学会編『財政法講座3 地方財政の変貌と法』(2005年、勁草書房)前掲書32頁注(10)を参照。また、同「ヘンゼルの地方財政調整法制度論」日本租税理論学会編『相続税制の再検討(租税理論研究叢書13)』(2003年、法律文化社)167頁、同「ドイツの地方税財源確保法制度」日本財政法学会編『地方税財源確保の法制度(財政法叢書20)』(2003年、龍星出版)75頁も参照。

 地方財政調整制度と考えられるものは、他に国庫支出金(地方財政法第10条以下および同第17条に規定される国庫負担金と同第16条に規定される国庫補助金からなる )などがあるが、国庫支出金についても、国庫支出金を財政調整制度に含める説※、国庫補助金を財政調整制度に含めない説※※、国庫支出金について明言を避けているが故に、国庫支出金を財政調整制度に含めるか否かが明らかでない説※※※が並存している。

 ※やや古い文献であるが、金子宏「総説」雄川一郎=塩野宏=園部逸夫編『現代行政法大系第10巻財政』(1984年、有斐閣)6頁、山崎正『地方分権と予算・決算』(1996年、勁草書房)93頁。また、橋本徹「イギリスの財政調整制度―レイフィールド委員会報告を中心に」藤田武夫=和田八束=岸昌三編『地方財政の理論と政策』(1978年、昭和堂)も、同じ前提をとるものと思われる。なお、佐藤進「国と地方公共団体の財政上の関係」雄川一郎=塩野宏=園部逸夫編『現代行政法大系第10巻財政』305頁は、「地方財政調整制度―交付税交付金を中心に―」という表題の下に地方交付税制度について論述するが、地方交付税制度以外の何が財政調整制度であるかについては明言していない。

 ※※遠藤湘吉「政府間の財政調整」武田隆夫=遠藤湘吉=大内力編『資本論と帝国主義論下―帝国主義論の形成と展開』(1971年、東京大学出版会)356頁。但し、この論文においては、国庫負担金を財政調整制度に含めるか否かについて明言されていない。

 ※※※例:俵静夫『地方自治法』(1969年、有斐閣)364頁、大島通義=宮本憲一=林健久編『政府間財政関係論』(1989年、有斐閣)所収の各論文、高林喜久夫「曲がり角に立つ地方財政調整」本間正明他『地方の時代の財政(シリーズ現代財政3)』(1991年、有斐閣)59頁、佐藤進=林健久編『地方財政読本』〔第四版〕(1994年、東洋経済新報社)177頁[持田伸樹担当]。

 ③地方譲与税制度

 地方譲与税は、財政調整の一種と考えるべき制度であり、地方公共団体の財源を保障するために、国税の全部または一部を地方公共団体に譲与するというものである。課税技術の関係で国税として賦課徴収されるものが望ましい、という理由により、地方譲与税が存在する。現在は、地方揮発油税、石油ガス譲与税、自動車重量譲与税、特別とん譲与税、航空機燃料譲与税がある。また、2004(平成16)年度から2006(平成18)年度までは、三位一体改革による税源移譲(平成18年度税制改正による、所得税から個人住民税への税源移譲を指す)に向けての暫定措置として、所得譲与税法による所得譲与税が施行されていた。

 地方揮発油税は、地方揮発油税法により、都道府県、市町村および特別区に対して財源を譲与するため、地方道路譲与税に代えて2009年4月1日から施行されるものである。

 地方道路譲与税は、地方道路譲与税法により、目的税としての地方道路税法によって徴収される地方道路税の収入額全額を譲与税とするものであった。譲与税の58%は都道府県および道路法第7条第3項に規定される指定市(地方自治法第252条の19第1項の市、すなわち政令指定都市を指す)に按分され(同第2条)、42%は市町村に按分されていた(同第3条)。

 石油ガス譲与税は、石油ガス譲与税法により、本来は普通税であるが道路特定財源とされている石油ガス税の収入額の2分の1を譲与税とするものであり、都道府県および道路法第7条第3項に規定される指定市に按分される(同第1条)。

 自動車重量譲与税は、自動車重量譲与税法により、本来は普通税であるが道路特定財源とされている自動車重量税の収入額の3分の1を譲与税とするものであり、市町村に按分される(同第1条)。

 特別とん譲与税は、特別とん譲与税法により、特別とん税の収入額全額を譲与税とするものである。これは、開港が所在する市町村に按分されるものであり、外航船舶に対して固定資産税の軽減措置がとられているために、その減収分を補うための財源とされる。特別とん税は目的税であるが、特別とん譲与税は開港所在市町村の一般財源とされる。

 開港とは、関税法第2条第1項第11号により「貨物の輸出及び輸入並びに外国貿易船の入港及び出港その他の事情を勘案して政令で定める港」と定義されるものである。この定義が、とん税法第2条第1項においてそのまま援用され、さらに特別とん税法第2条に援用されている。

  航空機燃料譲与税は、航空機燃料譲与税法により、普通税である航空機燃料税の収入額の13分の2を譲与税とするものであり、空港関係市町村および空港関係都道府県に按分される。空港関係市町村は、空港が所在する市町村または特別区「及びこれに隣接する市町村並びにその区域外に空港を設置している市町村で、総務大臣が指定するもの」であり、空港関係都道府県は「当該市町村を包括する都道府県」である(同第1条第2項)。航空機燃料譲与税は「航空機の騒音により生ずる障害の防止、空港及びその周辺の整備その他の政令で定める空港対策に関する費用」に充てられなければならない(同第7条)。

 ④交付金

 交付金は、国から地方公共団体などに対して、一定の行政上の必要性から交付される現金的給付である。性質は様々であるが、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律の適用対象とならないのが一般的である。補助金よりも使途が緩和されているなどの特徴がある。

 交付金には様々な種類がある。たとえば、地域再生法第19条は、地域再生計画の認定を受けた地方公共団体に対して地域再生基盤強化交付金を交付することができると定めており、これを「道整備交付金」、「汚水処理施設整備交付金」、「港整備交付金」からなるものとしている。また、道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律第19条は、特定広域団体である道に対して「特定砂防工事交付金」、「特定保安施設事業交付金」、「特定道路事業交付金」、「特定河川改良工事交付金」を交付することができると定めている。

 また、発電用施設周辺地域整備法第7条による交付金※、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律第9条による特定防衛施設周辺整備調整交付金、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律第5条による、学校および病院などへの助成などは、補助金とは別に地方公共団体に資金を供給するものである。一方、国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律による交付金は、在日米軍基地および自衛隊基地の所在市町村に対する交付金である。この他、道路交通法附則第16条に定められる交通安全対策特別交付金などがある。

 ※原子力発電所、水力発電所、地熱発電所、火力発電所、原子力発電に使用される核燃料物質の再処理施設など原子力発電と密接な関連を有する施設の誘致のためのものである。

 ⑤公営競技

 競馬、競艇、競輪、オートレースであり、それぞれ、競馬法、モーターボート競走法、自転車競技法、小型自動車競走法の定めによる。これらは、元々、地方公共団体の財源を保障するために認められているものであるが、近年は赤字のために廃止あるいは見直しを受ける例が多くなっている。

 ⑥宝くじ

 正式には当せん金付証票といい、地方財政法第32条および当せん金付証票法に基づいて行われる事業である。本来は第二次世界大戦後の混乱期に、地方財政の窮乏に対する当分の間の救済策として認められたものであるが、現在も事業は続けられているばかりか、ますます盛大になっている。「当分の間」という限定を外し、恒久的財源として位置づける必要があるものと思われる。

 参考:スポーツ振興投票券

 一般にサッカーくじなどと言われるもので、スポーツ振興投票の実施等に関する法律によって事業が行われる。この事業自体は地方公共団体でなく、独立行政法人日本スポーツ振興センターのみが行いうることとなっているが、同第21条第1項により、収益を「文部科学省令で定めるところにより、地方公共団体又はスポーツ団体(スポーツの振興のための事業を行うことを主たる目的とする団体をいう。以下この条及び第30条第3項において同じ。)が行う次の各号に掲げる事業に要する資金の支給に充てることができる」とされているので、地方公共団体が行うスポーツ施設の整備などに充てられることとなるであろう。但し、この法律がどこまで地方公共団体の財源保障請求権に応えるものであるかについては、不明確な点もある。

 (3)財政権力としての地方財政権

 直接的には国対地方の関係の側面に関わる訳ではないが、全く無関係とも言えないので、ここで住民などに対する関係を扱っておく。

 地方財政権は、財政権力としての性質を有する。この財政権力の中心は、何と言っても課税権である。その課税権を仔細に見るならば、立法権、賦課権、徴収権、収入権などと分けることが可能である。実際に地方公共団体がいかなる内容の課税権を有するかについては、国、時代などによって異なりうるし、現在の日本の地方税制度においても、税目によって異なっている。たとえば、地方消費税の場合、本来的には少なくとも賦課権、徴収権および収入権が認められることとなっているが、附則第9条の4以下により、収入権のみが認められる。しかし、これでは地方譲与税とあまり変わりがないし、国との関係はともあれ、住民などとの関係は非常に稀薄なものとなる。少なくとも賦課権および徴収権を有しなければ、真の課税権とは言えないであろう。

 既に述べたように、地方公共団体の課税権は、法律上、地方自治法第223条に根拠づけられる。その上で地方税法に根拠づけられるのである。もっとも、これについては地方税条例主義という重要な概念があるので、「15 地方税制度」において述べることとする。

 また、地方自治法第228条は、分担金、使用料、加入金および手数料について条例主義を規定する。すなわち、これらの収入を得るためにはあらかじめ条例を制定しておかなければならないということである。これら以外の収入について、個別の法律が存在する場合に認められることは当然であるが、法律に定めがなく、かつ、禁止規定もない場合に、地方公共団体が条例によって独自の収入を設定し、それについて地方財政権を行使しうるかという問題もあるが、この講義においては、一応、可能であると考えておくこととする。

  そして徴収権である。財政権力の一部としての徴収権であるから、基本的に強制徴収が可能であると考えなければならない。地方税については地方税法が詳細に定めるところであるが、その他のものについては地方自治法第231条の3第3項の規定があり、「分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第1項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる」とされる。ここでいう「法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入」は、同附則第6条により限定的に列挙されることには注意が必要である。

 徴収権は、国の場合と同様、消滅時効にかかる。地方税法第18条第1項は、地方税の徴収権が法定納期限の翌日から起算して5年間行使されないことによって、時効により消滅すると定める。しかも、この時効については援用を必要とせず、利益を放棄することもできない(同第2項)。また、時効の中断および停止については第18条の2が定める。さらに、還付金については第18条の3が規定しており、「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権」は、請求をすることができる日から5年を経過したときには消滅時効にかかることとなっており(同第1項)、やはり援用を必要とせず、利益を放棄することもできない(同第2項により、第18条第2項を準用)。

 地方税法などの法律に定めがない金銭債権については、地方自治法第236条第1項により、権利を5年間行使しないことによって消滅時効にかかる(住民の側が普通地方公共団体に対して有する、金銭の給付を目的とする権利についても同様である)。この種の金銭債権についても、特別の規定がない限り、時効の援用を必要とせず、利益を放棄することもできない(同第2項。住民の側が普通地方公共団体に対して有する、金銭の給付を目的とする権利についても同様である)。

 

 ▲第6版における履歴:第10回として2022年12月22日掲載。

            2022年12月23日、第11回に繰り下げ。

 ▲第5版における履歴:未掲載。


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