9月9日に法務省から司法試験の合格者が発表されました。10日、つまり昨日の朝刊で報じられていたので、御覧になった方も多いのではないでしょうか。私も、仕事柄、気になっておりましたので、朝日新聞2014年9月10日付朝刊37面14版の「司法試験 合格最低22.5% 10%未満 74校中29校」、日本経済新聞2014年9月10日付朝刊42面12版の「司法試験合格 239人減 合格率が最低 予備試験組は好調」を参照しつつ、ここに記していきます。
まず気になったのは予備試験です。法科大学院を修了する必要がない、もっと記せば入学する必要がないということで、人気が高く、受験者数が増えたとも報じられました。このブログでも「司法試験予備試験の受験者が1万人を超えた」(2014年5月19日23時47分51秒付)で取り上げております。その予備試験合格者の本試験(司法試験)合格者数は163人で、受験者数が244人であるため、合格率は66.8%となっています。日本経済新聞の記事の見出しだけをみれば「予備試験組は好調」で、合格者数も合格率も高まっているかのように読めるかもしれませんが、合格者数が増えているだけであって、受験者数も増えた分、合格率は昨年よりも低くなっている点には注意を要します。
2013年 予備試験合格者受験者数:167 司法試験合格者数:120 合格率(%):71.86
2014年 予備試験合格者受験者数:244 司法試験合格者数:163 合格率(%):66.80
もっとも、朝日新聞記事に掲載されている合格率順位(全校掲載)をみると、今年、法科大学院では最も合格率が高かった京都大学(合格者数では5位)でも53.06%、合格率2位(合格者数3位)の東京大学で51.97%、法科大学院修了者全体の合格率は21.19%ですから、予備試験組のほうが「好調」であることに変わりはありません。
但し、別に注意を要する点があります。法科大学院修了者であれ予備試験合格者であれ、司法試験を受験するという点では同じ土台に立つこととなりますが、予備試験はあくまでも例外としての制度であり、予備試験そのものの合格率は低いのです。この点がしっかり報じられていないことは非常に気になります。「司法試験予備試験の受験者が1万人を超えた」で記したように、今年の予備試験受験者数は10347人です。合格者数がわからないのですが、仮に今年司法試験を受験した244人が予備試験合格者数であったとすると、予備試験の合格率は約2.36%です。これはかなり、いや、旧司法試験並みの超難関と言えるでしょう。今年の司法試験合格者数を基準にすれば、予備試験経由での合格率は約1.58%なのです。従って、予備試験合格者の司法試験合格率がどの法科大学院よりも高いことは、当たり前の話であるとしか言いようがありません(逆に予備試験合格者の司法試験合格率が低ければ、何のための予備試験なのかがわからなくなります)。
また、予備試験合格者の司法試験合格者のうち、96人は22~24歳だとのことです(朝日新聞記事によります)。年齢からして学部の4年生か大学院修士課程の学生、学部卒業後2年以内ということになりますが、これは想定の範囲内でしょう。両新聞の記事には書かれていませんが、おそらく、大学入試の難易度で高い偏差値の法学部に在籍している成績優秀な学生ならば、法科大学院を目指すよりも予備試験合格を目指すでしょう(既にその傾向がうかがわれるという話を聞いたことがあります)。理由を書くのは野暮なので、御想像にお任せいたしましょう。
さて、法科大学院に目を転じましょう。日経の記事は合格者数別の順位で、上位20位までしかあげられていません。合格率と合わせると、合格者数と合格率とが必ずしも対応関係を示していないというのは、これまでにも見られた傾向です。合格者数第1位の早稲田大学の合格率は35.17%で、合格率順位では6位となります(昨年は8位)。合格者数第2位の中央大学の合格率順位は7位ですし、合格者数第7位である明治大学の合格率順位は21位です。合格者数の上位20校のうち、合格率が20%を下回っているところが6つあります。合格率順位ならば17位以下ということになります。
また、今年は合格率が10%未満である法科大学院が29あります。46位以下の大学です(ちなみに、45位の静岡大学の合格率はちょうど10%です)。昨年は50位以下の大学でしたので、4つ増えていることとなります。また、合格者数0の法科大学院が4つあります(島根大学と姫路獨協大学は既に撤退を表明しています)。
私が勤務する大東文化大学は、合格率順位が56位(昨年は71位)、合格者数が4人(昨年は1人)、合格率が6.06%(昨年は1.64%)でした。私が学部または大学院の非常勤講師として講義を担当したことがある大学の法科大学院と比較すると、1校(K)には負け、3校(F、T、S)には勝っていますが、いずれも合格者数は4人以下ですから、順位云々を言ってもドングリの背比べにもならないような話です。
低迷する法科大学院をめぐって、司法試験を含め、様々な改革案が出されているようです。その中には予備試験の合格者数を減らすというような案もあるようですが、これは、しっかりと筋道を立てないとおかしな話です。元々が例外的ですし、先に記したように、予備試験そのものの合格率は極めて低くなっています。つまり、厳しいように設定されている訳です。予備試験は悪者でも何でもありません。現在の司法試験制度を維持するという前提に立つのであれば、予備試験は現状維持でよいと考えられます。
むしろ、法科大学院の統廃合が筋ということになるでしょう。今からすれば見通しが甘すぎる話ですが、当初、法科大学院は20か30程度と想定されたそうで、実際に起こったように74もの法科大学院が誕生するとは思われていなかったのです。どういうつもりで構想が立てられたのか知らないのですが、規制緩和の波に乗るかのように参入は易しく、競争を促すだけ促し、だめなら撤退すればよいということなのでしょうか。そうであるとすれば、最初にケチをしたばかりに後になって多大なコストが必要とされるという結果になっています。大学だけの問題ではないからです。
そうは言っても、やはり、募集停止→撤退の筋道は消えません。今年の6月までに20ほどの法科大学院が募集停止を表明しています。そして、これから来年の春にかけて、さらに増えることと予想されます。合格者数順位で判断するのは条件に欠ける部分があるので(受験者数の問題があります)、合格率で判断することになるでしょう(受験者数が多くなくとも合格率が高ければ、法科大学院での教育効果は高いと言えるからです)。
今年の合格率順位をみると、20位で17.43%、30位で12.77%です。そうすると、さしあたっては10%未満の状態が続いているところ、または昨年と比較して急激に率が落ちているところは、募集停止を検討することになるでしょう(あとは大学の財政の問題です)。
あるいは、15%、20%という目安が出されるかもしれません。15%ならば今年の合格率順位で21位以上、20%ならば16位以上ということになります。
いずれにせよ、法科大学院への志願者よりも予備試験への志願者が多くなってきているという現状からして、現行の司法試験制度は破綻を来していると言えます。法曹の需要がそれほど増えた訳でも何でもないことからすれば、旧司法試験に戻すか、それを基本とした新しい制度に改めるか、という選択肢が望ましいのかもしれません。