ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第27回    情報公開法制度

2021年02月13日 00時25分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 以下、法律については次のように略記する。

 行政機関の保有する情報の公開に関する法律⇒行政機関情報公開法

 独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律⇒独立行政法人情報公開法

 

 1.情報公開制度総論

 〔1〕情報公開の意義

 情報公開は、行政による情報管理の一態様であり、次の二つの意味を併せ持つ。

 (1)行政機関が管理する情報を、私人の請求により開示すること。一般的に情報公開という場合は、この意味である。

 (2)行政機関が管理する情報を、行政機関の側で積極的に提供すること。これは、情報提供とも言われている。広報もその一種であろう。

 情報公開の出発点は、国民主権・民主主義の理念である(行政機関情報公開法第1条を参照)。この理念において、行政機関が収集し、管理する情報は、本来、国民の共有財産である。民主主義においては公開政治が原則であるから「国民主権から出発すれば、情報公開は当然である」〈山崎正『住民自治と行政改革』(2000年、勁草書房)56頁注(4)。拙稿「大分県における情報公開(1)―大分地方裁判所平成12年4月3日判決の評釈を中心に―」大分大学教育学部研究紀要第22巻第2号427頁も参照〉。また、行政運営の公開性、および国民に対する政府の説明責任も、国民主権・民主主権の理念から説明しうるものである。

 〔2〕行政手続との関係、行政手続との違い

 情報公開は、行政手続の整備と並び、適正な行政運営(国家運営)を担保するために欠かせないものである。恣意的な行政運営(国家運営)は、近現代史の教訓が示すように、行政ないし国家の堕落、さらには滅亡、破滅をもたらす。社会が複雑化し、行政に認められる裁量権が拡大する中において、情報公開と行政手続の整備は、いずれも必要不可欠なものであると考えてよいであろう。

 但し、情報公開と行政手続は、考え方などに違いがある。

 行政手続(法)の整備は、「第23回 行政手続法〜事前手続に対する統制から その1:行政手続法の基礎」において述べたところから明らかであると思われるが、元々、私人の権利や利益を国家権力から保護するという考え方に由来する。これは自由主義的な発想に基づいているのである。

 それに対し、情報公開は、国民主権の原理に由来する。これは、行政への適切な参加、あるいは行政に対する監視という考え方である。

 さらに言うならば、行政手続には事件性の観念が必要であるのに対し、情報公開に事件性の観念は不要である。従って、情報公開の場合、自己の権利や利益などと関係のない情報(文書)であっても請求の対象となる(横浜地判昭和59年7月25日行裁例集35巻12号2292頁および東京高判昭和59年12月20日行裁例集35巻12号2288頁を参照)。言い換えれば、情報公開の場合、開示請求権が広く国民・住民などに認められている。

 また、歴史的な面での違いもある。行政手続法制の整備は国が先行したが、情報公開法制の整備は地方が先行した。情報公開条例の第1号は、1982年に制定された山形県金山町の条例である。都道府県における情報公開条例の第1号は、やはり1982年に制定された神奈川県の条例である。ちなみに、国の情報公開法は1999年に制定され、2001年に施行された。

 〔3〕情報公開制度の憲法上の根拠

 情報公開制度も、それが国や地方公共団体の制度である以上、憲法の理念に即したものでなければならない。それでは、情報公開法制度の憲法上の根拠は何処に求められるのであろうか。これについては、いくつかの説が存在する。

 (1)憲法第21条説

 国民の「知る権利」(表現の自由から導かれる)に求め、情報公開請求権が「知る権利」を具体化したものとする説である。

 憲法学においては、「知る権利」の根拠を憲法第21条以外の条文に求める説も存在するが、ここでは通説に従っておく。

 (2)国民主権説

 特定の条文に求めるのではなく、国民主権原理から行政側のアカウンタビリティ(説明責任と仮に訳しておく)があるものと考える説である。

 なお、「知る権利」は、憲法学説において一般化しているようであるが、意味や内容が広汎にわたり、とくに、情報開示請求権としての意味については、最高裁判決が出ていないこともあって、行政機関情報公開法には示されていない(若干の条例で示されているが)。

  

 2.行政機関情報公開法の構造

 〔1〕行政機関情報公開法の目的

 昨今の実定法規と同様に、行政機関情報公開法第1条は法律の目的を示すものとなっている。この規定は、次のことを示している。

 (1)前述のように、国民主権の理念を明示する。

 (2)政府(対象は行政機関に限定される)が保有する情報に対する国民の開示請求権を認める。

 通説は、この法律によって初めて具体的な情報開示請求権が認められると理解する。 もっとも、このような見解を採るとするならば、情報開示請求権の人権としての意味は薄まることも否定できない。

 (3)「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」

 (4)「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」

 これは、国民参加、そして国民による行政への監視と同義である。なお、「知る権利」が明示されていないことについては根強い批判が存在するが、表面的な事柄ではないかとする見解もある。

 〔2〕対象となる機関(同第2条第1項)

 国の行政機関である。従って、会計検査院は対象となる機関であり〈但し、不服審査の機関は、行政機関情報公開法第18条および会計検査院法第19条の2により、会計検査院の中に置かれる会計検査院情報公開・個人情報保護審査会である〉、外交、防衛、警察関係の行政機関も対象とされる。

 他方、国会や裁判所は行政機関でないことから除外される。また、地方公共団体も除外される。但し、国会や裁判所が作成した文書、地方公共団体が作成した文書であっても、その文書または写しが国の行政機関にあれば、開示の対象となる。

 なお、独立行政法人、特殊法人、認可法人などは、独立行政法人等情報公開法の対象である〈特殊法人については、様々な定義が存在するが、ここでは、法律によって直接設立される法人(公社)、または特別の法律によって特別の設立行為をもって設立される法人(公団、事業団など)、と定義しておく。また、認可法人は、特別な法律によるが、私人の自主的な行為によって設立されるものをいう〉。同法別表第一および第二を参照されたい。

 〔3〕対象となる文書=「行政文書」

 行政機関情報公開法第3条は「行政文書」の開示を規定している。ここにいう「行政文書」は、同第2条第2項において 「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政組織の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」と定義されている(但し、第1号および第2号に規定されているものを除く)。

 この定義から、「行政文書」には、文書は当然として、写真、フィルム、磁気テープ、パソコンで作成した文書データなども含まれることとなる。

 そして、先行した地方公共団体の情報公開条例では「公文書」として決裁供覧という手続を経た文書のみが公開の対象とされていたが、行政機関情報公開法ではこのような手続を経ていない文書でも開示の対象となる。従って、職員個人の私的なメモは開示の対象にならないが、組織的に使われているメモ(薬害エイズ事件で問題とされたノートなど)は、保管されているだけであっても開示の対象となる。

 〔4〕開示に関する諸事項

 (1)開示請求者

 行政機関情報公開法第3条は、「何人も」情報開示請求権を有する旨を規定する。ここにいう「何人も」は文字通りのものであって、日本国民に限定されていないし、居住も要件になっていない。

 情報開示請求権は、個人の権利であり、裁判上の救済を受ける。従って、開示請求に対して不開示決定がなされた場合、対象となる文書の内容を問わず、裁判や不服審査で争いうる。このことから、行政機関の長による開示決定・部分開示決定・不開示決定は、行政行為(処分)であり、行政手続法第2章にいう「申請に対する処分」に該当するとくに同第8条が重要であり、不開示決定および部分開示決定(=一部不開示決定)については、不開示としたことについて行政機関の長が理由を示さなければならない。

 また、開示請求は、行政手続法第2条第3号にいう「申請」に該当する。

 行政機関は、開示情報・不開示情報について審査基準を設定し、公表しなければならない(同第5条)。また、不開示決定および部分開示決定(=一部不開示決定)については、不開示としたことについて行政機関の長が理由を示さなければならない(同第8条)。

 一方、義務についての一般的な規定はないが、手続として同第4条に規定がある(行政手続法よりも申請人の保護に厚い)。情報開示請求権者は、開示請求書という書面によって請求をするのであるが、その際、氏名、住所などの記載、行政文書の名称など、開示を請求しようとする行政文書を特定しうる事項の記載が求められる。法律上はこれらの記載のみで十分であり、その範囲を超える記載を行政機関から求められたとしても拒否できると理解すべきである。逆に言えば、行政機関は、行政機関情報公開法第4条に定められていない事項を要件として記載することを情報開示請求権者に強要することは、情報開示請求権者に萎縮効果などを生じさせかねず、情報公開法の趣旨からして許されないと理解すべきである。

 ただ、実際には同第4条の範囲を超える記載などを求める省庁が存在する。これは、法律の趣旨を完全に逸脱しており、許されないものと解すべきである。

 (2)行政機関の開示義務

 同第3条が私人に情報開示請求権を認めていることとの関係で、同第5条は行政機関の開示義務を規定する。すなわち、行政文書については開示することが原則とされているのである。

 もっとも、行政文書に含まれている情報であればいかなるものであっても開示しなければならないというものではないし、むしろ、開示してはならない情報(不開示情報)もある。不開示情報が含まれている場合には、情報の開示はできない。不開示情報を開示しないこと自体については、行政機関に裁量が認められない(但し、同第7条により、公益上特に必要であるとして開示することが認められる場合があることに注意を要する)。ただ、現実的には、一つの行政文書の中に開示情報と不開示情報とが混在することが多いため、部分開示が認められている。

 (3)不開示情報とされるもの

 行政機関情報公開法第5条各号は、不開示情報を定めている。各号ごとにみていくこととする。

 ①第1号:個人情報。個人が識別されうるものであれば、原則として不開示である。

 個人情報については、個人情報であれば定型的に不開示とするタイプ(個人識別型)と、プライバシーとして保護に値するならば不開示とするタイプ(プライバシー型)とが存在するが、情報公開法は個人識別型を採用する。

 なお、個人情報であるから全てが不開示情報とされる訳ではない。第1号のイ~ハは、個人情報でありながら不開示情報とされないものを列挙する。

 かねてから、個人情報として開示(公開)か不開示(非公開)かが争われたのが、公務員の職および職務遂行に係る情報である。判例の蓄積などによって、地方公共団体の条例においては、職務遂行に関する情報である場合については、公務員の職のみならず、氏名を開示情報とする場合が多くなっている(最三小判平成15年11月11日民集57巻10号1387頁(Ⅰ−35)、最三小判平成19年4月17日判時1971号109頁(Ⅰ−37)を参照)。これに対し、情報公開法は、公務員の職および職務遂行の内容に係る情報を開示情報としており、氏名は含まれないとされている。但し、人事異動などの際に課長以上の職であれば開示されるのが慣行である。

 〔念のために記しておくが、職務遂行に関係のない情報であれば、いかに公務員に関する情報であるといえども通常の個人情報と同じく不開示(非公開)とすべきである。例えば、公務員個人が保有する銀行預金の口座番号、運転免許証の番号などは不開示とされることになる。これらは公務員の個人的な生活に関わるからである。〕

 ②同第1号の2:行政機関非識別加工情報等(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第2条第9項も参照)。行政機関が保有する個人情報から個人識別部分や個人識別符号を取り除いて作成された情報を、行政機関非識別加工情報という。これは不開示情報である。また、削除された個人識別部分や個人識別符号も不開示情報である。

 ③第2号:法人の情報および個人の事業に関する情報。個人情報と異なり、イおよびロに掲げられた事由に限定されている。

 イは「正答な利益を害するおそれのあるもの」となっていて、ノウハウや信用などを広く含むとされる。この場合、「おそれがあるもの」と規定されているので、「おそれ」が実際に存在したか否かについては裁判所の審査に服する。

 ロはいわゆる任意提供情報で公にしないという条件が付されたものとなっている。但し、「行政機関の要請を受け」たものである、などの条件が付されている。

 ④第3号:国の安全等に関する情報。これについては、「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」となっており、実際に「おそれ」があるか否かについての判断は行政機関の長の要件裁量が認められる。従って、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する(要件を全面的に審査するのではない)。

 ⑤第4号:公共の安全と秩序の維持に関する情報。司法警察活動に関する情報である。これについても、「おそれがある」か否かについての判断は行政機関の長の要件裁量が認められるので、裁判所は、行政機関の長が「おそれがある」と判断したことに「相当の理由」があるか否かについてのみ審査する。

 ⑥第5号:行政機関などの内部または相互間での審議、検討または協議に関する情報(意思形成過程情報)。この場合は「おそれ」があるか否かについて裁判所の全面的な審査が及ぶ。例えば、審議会における審議の内容が逐一公開されるならば、場合によっては外部からの不当な圧力や干渉を招くことになる。また、場合によっては不要な憶測を招き、地域の混乱などを招くこともありうる。そのため、このような情報は不開示とされるのである。しかし、逆に、審議や検討などの最中にある案件について、最終的な意思決定がなされるまでに不開示(非公開)としておくと問題が生じることもありうる(後掲最二小判平成6年3月25日を参照〕。

 ⑦第6号:事務事業情報。この場合も「おそれ」があるか否かについて裁判所の全面的な審査が及ぶ。不開示とされる情報はイないしホに分類されているが、これは例示であるとされている。なお、不開示情報については、審査基準を設定し、公表しなければならない(行政手続法第5条)。

 (4)開示・不開示の判断

 行政機関情報公開法に基づく開示請求がなされた場合、行政機関の長は開示または不開示の決定をなさなければならないが、既に述べたように、同第5条本文により、原則として開示決定をなさなければならないことになる。

 しかし、例外として、行政機関の長は不開示決定をなすこともできる。一つは全部不開示で、これは申請に対する拒否処分としての性格を有する。次に部分開示であり、これは申請に対する一部拒否処分としての性格を有する。そして、同第6条第2項による、氏名など、個人識別情報を除外しての開示処分である。

 同第7条は、前述のように、例外の例外を認めている。裁量的開示決定である。これは行政機関の長に効果裁量を認めるものである。

 なお、同第8条は、特殊な判断として存否応答拒否処分を認めている(グローマー条項ともいう)存否応答拒否処分は、アメリカの判例法で形成されたものである。CIAと国防総省が、当時のソ連の潜水艦グローマー・イクスプローラ号を合同で引き揚げようとした計画があった。これについて開示請求がなされた際に、記録の存否に関する応答が拒否されたという事件があった。これについて、1981年、連邦最高裁判所判決は拒否を妥当と解した。この事件がきっかけとなり、存否応答許否処分を定める規定をグローマー条項というようになった。開示請求の対象となっている文書の存否そのものを回答するだけで、開示請求の目的が達成される場合がある。その場合に、行政機関の長は、文書の存否を明らかにすることなく、開示請求を拒否することができるのである。北海道情報公開条例第12条は、存否応答拒否処分ができる場合を限定的に定めているが、行政機関情報公開法第8条は特別な限定を加えていないため、濫用されないことが望まれる。

 開示決定または不開示決定をなす際に、手続的に考慮しなければならない事項が存在する。同第13条は、第三者に対する意見書提出の機会の付与等を規定する。開示請求の対象となった行政文書に第三者の情報が記録されている場合がありうる。このときに、その第三者の情報が開示された場合に不測の権利侵害などが生じる可能性も否定できない。そのため、その第三者に意見書の提出などの機会を与えることができる。なお、同条のうちの第1項は裁量事項であり、第2項は義務的事項を定めるものである。

 開示決定・部分開示決定・不開示決定のいずれも要式行為である(同第9条)。また、前述のように、部分開示決定・不開示決定については理由付記が求められる(同第8条)。

 期間は、開示請求があった日から原則として30日以内とされている(同第10条第1項)。

 〔5〕部分開示決定・不開示決定に対する救済措置

 (1)救済措置を申し立てることができる者

 まず、開示請求者は開示請求権を有するので、不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。

 その他の個人や法人は、情報公開法によって保護される利益がある限り、行政機関情報公開法第13条・第19条・第20条にいう「第三者」として、不服申立適格(行政不服審査制度)、原告適格(行政事件訴訟制度)を有する。

 (2)救済制度その1 行政事件訴訟

 行政機関情報公開法に特別の規定が存在しないので、行政不服審査制度を利用することなく、直ちに、行政事件訴訟法に定められる抗告訴訟を提起することができる。

 a.取消訴訟 従来から認められている。これは、開示請求者にも「第三者」にも認められる。

 b.義務付け訴訟 行政事件訴訟法の改正によって明文で認められた(同第3条第6項第2号)。

 c.差止訴訟 「第三者」が開示決定について提起することができる(同第3条第7項、第37条の4)。

 (3)救済制度その2

 直ちに抗告訴訟を提起するのではなく、行政不服審査制度を利用することができる。基本的には行政不服審査法の規定によるが、行政機関情報公開法には特別な手続が規定されている。

 a.不服申立てがなされた場合、同第19条に規定されている場合を除き、行政機関の長は「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問する。

 b.諮問した旨を、不服申立人などに通知する(同条)。

 c.諮問を受けた審査会は、審査の結果を答申として示すことになるが、答申の写しは不服申立人などに交付され、一般に公表される(情報公開・個人情報保護審査会設置法第16条)。

 d.答申を受けた行政機関の長が、最終的に不服申立に対して裁決または決定を行う。行政機関の長は、審査会の答申に法的に拘束されないが、尊重される必要がある。

 

 4.情報公開に関する判例

 ●最一小判平成6年1月27日民集48巻1号53頁(大阪府知事交際費公開請求訴訟、Ⅰ―34)

 事案:大阪府の住民等であるXらは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和60年1月から3月までの大阪府知事の交際費に関係する文書の公開を請求した。これに対し、知事Yは一部を公開したが、債権者の請求書および領収書、歳出額現金出納簿、支出証明書について、同条例第8条第1号・第4号・第5号、第9条第1号に該当するとして非公開とした。大阪地判平成元年2月14日判時1309号3頁はXの請求を認めたのでYは控訴したが、大阪高判平成2年10月31日行集41巻10号1765頁は控訴を棄却したので、Yが上告した。最高裁判所第一小法廷は破棄差戻判決を下した。

 判旨:⑴「知事の交際費は、都道府県における行政の円滑な運営を図るため、関係者との懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費である。このような知事の交際は、懇談については本件条例8条4号の企画調整等事務又は同条5号の交渉等事務に、その余の慶弔等については同号の交渉等事務にそれぞれ該当すると解されるから、これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否かは、これらの情報を公にすることにより、当該若しくは同種の交渉等事務としての交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か、又は当該若しくは同種の企画調整等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ適正に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定されることになる。」

 ⑵「知事の交際事務には、懇談、慶弔、見舞い、賛助、協賛、餞別などのように様々なものがあると考えられるが、いずれにしても、これらは、相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的して行われるものである。そして、相手方の氏名等の公表、披露が当然予定されているような場合等は別として、相手方を識別し得るような前記文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば、懇談については、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、今後府の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ、また、一般に、交際費の支出の要否、内容等は、府の相手方とのかかわり等をしん酌して個別に決定されるという性質を有するものであることから、不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに、これらの交際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事例ごとに、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には、知事においても前記のような事態が生ずることを懸念して、必要な交際費の支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって、本件文書のうち交際の相手方が識別され得るものは、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているものなど、相手方の氏名等を公表することによって前記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き、懇談に係る文書については本件条例8条4号又は5号により、その余の慶弔等に係る文書については同条5号により、公開しないことができる文書に該当するというべきである。」

 ⑶「本件における知事の交際は、それが知事の職務としてされるものであっても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。本件条例9条1号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが、知事の交際の相手方となった私人としては、懇談の場合であると、慶弔等の場合であるとを問わず、その具体的な費用、金額等までは一般に他人に知られたくないと望むものであり、そのことは正当であると認められる。そうすると、このような交際に関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表、披露されることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきである」。

 ●最三小判平成6年2月8日民集48巻2号255頁(大阪府水道部文書公開請求訴訟または大阪府食糧費情報公開訴訟)

 事案:大阪府の住民であるXは、大阪府公文書公開条例に基づいて、昭和59年12月に行われた大阪府水道部の会議接待費および懇談会費についての公文書の公開を請求した。これに対し、Yは、この請求に対応する文書を支出伝票、債権者の請求書および経費支出伺と特定した上で、同条例第8条第1号・第4号・第5号に該当するとして非公開とした。Xは異議申立てを行ったがYは棄却の決定を行った。このため、Xが出訴した。一審判決(大阪地裁平成元年4月11日判タ705号129頁)はXの請求を認めたのでYは控訴したが、二審判決(大阪高判平成2年5月17日判時1355号8頁)は控訴を棄却した。Yは上告したが、最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。

 判旨:⑴「本件文書には飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件文書の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない」。

 ⑵「本件文書に記録されている情報は、府水道部の懇談会等に関するものであるが、このような懇談会等の形式による事務は、前記のとおり、単なる儀礼的なものではなく、すべて府水道部の事務ないし事業の遂行のためにされたものであって、その内容いかんにより、4号の企画調整等事務ないし5号の交渉等事務に該当する可能性があることは十分考えられる。しかし、右情報は、前記のとおり、懇談会等の開催場所、開催日、人数等のいわば外形的事実に関するものであり、しかも、そこには懇談の相手方の氏名は含まれていないのがほとんどである。このような会合の外形的事実に関する情報からは、通常、当該懇談会等の個別、具体的な開催目的や、そこで話し合われた事項等の内容が明らかになるものではなく、この情報が公開されることにより、直ちに、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは断じ難い」。本件懇談会等に関する文書を公開することにより、大阪府公文書公開等条例8条4号・5号にいう事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるというためには、「上告人の側で、当該懇談会等が企画調整等事務又は交渉等事務に当たり、しかも、それが事業の施行のために必要な事項についての関係者との内密の協議を目的として行われたものであり、かつ、本件文書に記録された情報について、その記録内容自体から、あるいは他の関連情報と照合することにより、懇談会等の相手方等が了知される可能性があることを主張、立証する必要があるのであって、上告人において、右に示した各点についての判断を可能とする程度に具体的な事実を主張、立証しない限り、本件文書の公開による前記のようなおそれがあると断ずることはできない」。

 ●最二小判平成23年10月14日判時2159号50頁

 事案:Xは、平成16年8月9日、行政機関情報公開法第3条に基づき、A(近畿経済産業局長)に対し、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」第11条に基づいて同日までに各事業者から提出された定期報告書の開示請求をした。Aは、開示請求に係る行政文書として、最新年度の定期報告書のうち熱管理に関する定期報告書および電気管理に関する定期報告書を特定したが、これらの第1表には各工場の燃料等または電気の使用量等に関する情報が記録されており、行政機関情報公開法第13条第1項に定められる第三者情報に該当するものであったことから、定期報告書を提出した第一種特定事業者に対して意見書の提出を求めた。同年9月24日までに意見書の提出を受けたことから、Aは同年10月8日に246通、同年12月10日に664通の定期報告書のうち、提出者等に関する事項のうち個人情報等に該当する部分については行政機関情報公開法第5条第1号の不開示情報に、法人等の印影については同第2号の利益侵害情報に該当するとして不開示とし、第1表については全て開示するという部分開示決定を行った。また、Aは、平成17年1月6日、52通については上記と同様の部分開示、214通については第1表についても全部または一部を不開示とする決定を行った。なお、第1表の一部を不開示とすることにつき、「法人に関する情報であって、通常一般には入手できない当該法人の事業活動に関する内部情報であり、当該情報を競業他社が入手し、パンフレット等により生産量の情報を知り得た場合、製品当たりのエネルギーコスト等が推測され、製品当たりの製造コストが類推可能となり、競業他社との競争上の不利益や、販売先事業者との価格交渉上の不利益が生じること等が想定される。従って、これらの情報を公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位、ノウハウ等正当な利益を害するおそれがあることから、法第5条2号イに該当するため、これらの情報が記載されている部分を不開示とした」とする理由が付されていた。

 Xは、同年2月23日、B(経済産業大臣)に対し、214通の定期報告書の第1表も不開示とした部分開示決定処分について審査請求を行った。Xは、同年7月29日にこの部分開示決定処分の取消を求め、Y(国)を被告として訴訟を提起した。なお、Aは平成18年5月19日付で部分開示決定処分の一部を変更する旨の処分を行っている。

 一審判決(大阪地判平成19年1月30日判例集未登載)はXの請求を一部認容したが、Yが控訴し、二審判決(大阪高判平成19年10月19日判例集未登載)はY敗訴部分を取り消し、Xの請求の一部を棄却、一部を却下した。最高裁判所第二小法廷は、Xの上告を棄却した。

 判旨:⑴部分開示決定処分に係る非開示情報のうち数値情報(以下、本件数値情報)は、訴外各会社(以下、本件各事業者)の各工場において「特定の年度に使用された各種エネルギーの種別及び使用量並びに前年度比等の各数値を示す情報であり、本件各事業者の内部において管理される情報としての性質を有するものであって、製造業者としての事業活動に係る技術上又は営業上の事項等と密接に関係する」。また、「温室効果ガス算定排出量の公表及び開示に係る制度においては、事業所単位のエネルギー起源二酸化炭素の温室効果ガス算定排出量を算定する基となる本件数値情報に相当する情報が報告及び開示の対象から除外されており、かつ、この情報が情報公開法5条2号イと同様の要件を満たす場合には、各事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益(以下「権利利益」という。)に配慮して、事業所単位各物質排出量に代えてこれを一定の方法で合計した量をもって環境大臣及び経済産業大臣に通知し、公表及び開示の対象とする制度が併せて定められている。すなわち、(中略)本件数値情報に相当する情報よりも抽象度の高い事業所単位のエネルギー起源二酸化炭素の温室効果ガス算定排出量についてさえ、事業者の権利利益に配慮して開示の範囲を制限することが特に定められているのであって、このことからも、本件数値情報が事業者の権利利益と密接に関係する情報であることがうかがわれるところである」。

 ⑵「本件数値情報は、事業者単位ではなく工場単位の情報であるという点で個別性が高く、その内容も法令で定められた事項及び細目について個々の数値に何らの加工も施されない詳細な基礎データを示すものであり、本件各工場における省エネルギーの技術の実績としての性質も有するものである。しかも、定期報告書は毎年定期的に提出されるもので、前年度比の数値もその記載事項に含まれているから、これを総合的に分析することによって、本件各工場におけるエネルギーコスト、製造原価及び省エネルギーの技術水準並びにこれらの経年的推移等についてより精度の高い推計を行うことが可能となるものというべきである」。

 ⑶「これらによれば、競業者にとっては、本件数値情報が開示された場合、上記のような総合的な分析に自らの同種の数値に関する情報等との比較検討を加味することによって、上記の点についての更に精度の高い推計を行うことができるものというべきであり、本件各工場におけるエネルギーコスト、製造原価及び省エネルギーの技術水準並びにこれらの経年的推移等についての各種の分析に資する情報として、これを自社の設備や技術の改善計画等に用いることが可能となるものということができる。また、需要者にとっても、本件数値情報が開示された場合、上記のような総合的な分析によってエネルギーコスト及び製造原価並びにこれらの経年的推移等の推計を行うことにより、本件各工場におけるエネルギーコストの減少の度合い等を把握することができるものというべきであり、本件各事業者との製品の価格交渉等において、この点についての客観的な裏付けのある情報としてこれを交渉の材料等に用いることが可能となるものということができる」。

 ⑷「本件数値情報の内容、性質及びその法制度上の位置付け、本件数値情報をめぐる競業者、需要者及び供給者と本件各事業者との利害の状況等の諸事情を総合勘案すれば、本件数値情報は、競業者にとって本件各事業者の工場単位のエネルギーに係るコストや技術水準等に関する各種の分析及びこれに基づく設備や技術の改善計画等に資する有益な情報であり、また、需要者や供給者にとっても本件各事業者との製品や燃料等の価格交渉等において有意な事項に関する客観的な裏付けのある交渉の材料等となる有益な情報であるということができ、本件数値情報が開示された場合には、これが開示されない場合と比べて、これらの者は事業上の競争や価格交渉等においてより有利な地位に立つことができる反面、本件各事業者はより不利な条件の下での事業上の競争や価格交渉等を強いられ、このような不利な状況に置かれることによって本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益が害される蓋然性が客観的に認められるものということができる」。したがって、「本件数値情報は、これが公にされることにより本件各事業者の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして、情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に当たるというべきであ」り、「その内容、性質に鑑み、人の生命、健康、生活又は財産を保護するために公にすることが必要であるとは認められず、情報公開法5条2号ただし書所定の開示すべき情報に当たるものでないことは明らかである」。

 ●最二小判平成6年3月25日判時1512号22頁(京都府鴨川ダムサイト情報公開訴訟、Ⅰ―36)

 事案:京都府知事Yは、鴨川の河川管理者であり、鴨川の改修計画について幅広く意見を聴くために鴨川河川協議会を設置した。この協議会においてダムサイト候補地点選定位置図が提出された。そして、協議会が終了した後、ダム構想の存在と先の位置図が提出されたことが記者会見で発表された。これを知ったXは、京都府情報公開条例に基づいてダムサイト候補地点選定位置図の公開を請求したが、Yは、これが条例第5条第6号に規定される意思形成過程情報に該当するとして非公開の決定をした。なお、ダムサイト候補地点選定位置図は初期の段階の資料であり、地質などの自然要件や用地確保の可能性などといった社会的条件については全く考慮されていなかった。

 京都地方裁判所は、Yの処分を違法とした。これに対し、大阪高等裁判所は、Yの処分が相当であるとしてXの請求を棄却した。理由として、先の記者会見によって委員や担当課に対して交渉の申し入れや強要があったなどという事実の下では、本件文書が意思形成過程における未成熟な情報であり、これを公開すれば無用の誤解や混乱を招き、さらに協議会の意思形成を公正かつ適切に行うことに著しい支障が生ずるおそれがあると述べている。

 判旨:最高裁判所第二小法廷は、大阪高等裁判所の判断を正当として是認し、京都府情報公開条例第5条第6号が憲法第21条などに違反するというXの主張を退けた。

 

 ▲第7版における履歴:2021年2月13日掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月25日掲載(「第17回 情報公開法制度」として)。

              2017年12月20日修正。


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