ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

消費税の税収が2年連続で第1位

2022年07月07日 00時00分00秒 | 国際・政治

 私は、講義の関係で毎年度の国家予算を手に入れ、読んでいます。

 2014年度以降、消費税が税収の1位となることが多くなりました。所得税と消費税が1位と2位を占めており、少し開いて3位に法人税となる傾向が続いています。一方、決算においても同様の傾向が現れており、法人税の存在感が低下しているとも言えます。これは、少なくとも第二次安倍晋三内閣発足以降の傾向です。さて、2021年度はどうだったでしょうか。朝日新聞2022年7月6日付朝刊3面14版に「税収67兆円、2年連続最高 昨年度 経済回復で消費税増」(https://digital.asahi.com/articles/DA3S15345814.html)という記事が、同朝刊6面13版◎●に「消費税最多、増す存在感 所得の再分配機能、低下傾向」(https://digital.asahi.com/articles/DA3S15345769.html)という記事が掲載されています。

 2021年度の税収は過去最高の更新となりました。これは7月5日に財務省が発表したところで、2年連続であったとのことです。

 一般会計の税収は67兆379億円(およその額。以下も同じ)で、消費税が21兆8886億円(+9172億円)、所得税が21兆3822億円(+2兆1924億円)、法人税が13兆6428億円(+2兆4082億円)となっています。COVID-19の蔓延で税収が下がったかと思われていたかもしれませんが、2020年度ほどの状況ではなかったということと、法人税の収入の増加は円安が一因、所得税の収入の増加は株の配当が増えたことが一因という趣旨が、記事には書かれています。勿論、もう少しの分析が必要ですが、今はこのままとしておきます。ただ、上記3面記事に「コロナ渦で業績が低迷する中小企業も多いが、その多くはもともと赤字で法人税を納めておらず、税収への影響は小さいという」と書かれており、税収の増加が景気の動向とあまり関係がないようにも見えることが気になります。それだけ、日本国内における経済格差が拡大しているとも言えるでしょう。配当所得が多くなっているために所得税収が増えているとすれば、配当の増額が一部の国民および法人にのみ恩恵をもたらしているということが推測されます。かなり大雑把な表現となりますが、株などの投資に収入を向けられるのは高所得層に限られるであろうからです。

 ここで想起されるのが、岸田文雄内閣総理大臣が就任早々に打ち出した「新しい資本主義」です。具体的な内容が果たして新しいものであるか、など、疑わしい点は少なくありませんが、資産所得倍増計画は、池田勇人内閣時代に打ち立てられた所得倍増計画と似て非なるものであり、当初から所得の再分配とは無縁であるとも言えるでしょう。そのことにつながるのが、決算に示される税収の成果です。

 既に記したように、年度予算では消費税が税収の第1位を占める傾向が強くなっているのですが、決算においては所得税が第1位となることが多かったのでした。しかし、2020年度の税収では消費税が第1位となりました。これは、2020年度の状況を思い起こせば明らかで、所得税が第1位になりうる状況ではなかったのです。一方、消費税は、上記6面記事にも書かれているように「高齢者も含めた広い世代が負担し、景気に左右されにくい安定財源だが、税率が一律のため低所得者ほど負担が重く、累進性とは逆の性質を持つ」ものです。但し、それだけではなく、納税義務者である事業者にとっては赤字であろうが何であろうが売上がある限り負担をしなければならない租税です(この点も記事には書いていただきたいものです)。消費税の再分配機能の低さは、担税者である消費者のみの問題ではないと考えられるのです。

 一方、上記6面記事においても正当に指摘されていますが、所得税のうち、利子所得や配当所得の場合は超過累進税率ではなく、比例税率が採用されています。そのために「金融所得の割合が高い富裕層ほど実質的な税率が下がる問題も改善されないままだ」ということになります。また、法人税の税率引き下げも、世界的な観点からの日本企業の活性化には程遠く、内部留保の貯め込みという内向きの結果になっています。従業員の待遇改善にも向かっていないので、或る意味では「引きこもり」増産的な結果になっているとも言えます。上記6面記事によれば、OECDの2015年報告書で日本の再分配機能がOECDの平均を下回っていることのことです。なるほど、平成は「失われた30年」であった訳です。

 さらに聞き捨てならないのは、税収と歳出との差です。しかも、2021年度予算における歳出予算のうち、執行できずに2022年度に繰り越されたのは22兆4000億円でした。これは2021年度に次ぐもので、何のために租税を徴収したのかと問われかねない結果です。しかも、2021年度予算に計上されたはずの歳出予算のうち、繰り越されないままに不用とされたのが6兆3000億円で、これは過去最高だったとのことです。それなら国債の償還費などに充てるべきであったでしょう(予算の流用などが難しいことを承知の上で記しています)。今の日本は、或る意味においてギャンブル中毒の借金持ちのような状態になっていると言えないでしょうか。返せる時に金を返さないという点がよく似ています。

 さて、2022年度の税収はどのようになるのでしょうか。円安(自国の通貨を弱くすることを本気で考える政治屋や経済屋の思考回路はどうなっているのでしょうか。日本では食料を始めとして輸入品が増えていることは、小学生でも知っています)、国際情勢の悪化により、所得の再分配とは程遠い成果になることは目に見えています。国際情勢の悪化に対応できないという点では、70年以上にわたる日本国憲法のツケと言えなくもありませんが、外交下手はおそらく平安時代からの伝統でしょう。


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