ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

北陸鉄道石川線の命運は その1

2023年08月30日 01時35分40秒 | 社会・経済

 北陸鉄道の鉄道路線については、2023年3月9日12時20分00秒付の「北陸鉄道の石川線と浅野川線 上限分離方式に移行するか」において取り上げておきました。特に石川線については、鉄道路線として存続するのか、それともバス路線に転換するのかが問題となっています。どうなるのかと経緯を見ていたところ、北陸放送のサイトに「日常の足はどうなる? 北陸鉄道石川線 存廃のゆくえは…」という記事(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/mro/689561?display=1)が、昨日(2023年8月29日)の20時39分付で掲載されているのを見つけました。

 正直なところ、YouTubeでは有名な鐵坊主さんの暇坊主チャンネルにアップされている動画「【暇坊主の動画です】北陸鉄道石川線はBRTではなく鉄道維持が濃厚。ただ、その先にあるLRT化、北陸本線乗り入れはどうなるのか?」(https://www.youtube.com/watch?v=BOgfUfYukDI)のほうが詳しく解説されている部分が多く、そちらのほうを参考にされたほうがよいのですが、とりあえず、北陸放送の記事を基にすることとします。

 石川線については、今日、つまり2023年8月30日に、沿線自治体(金沢市など)の首長と知事が話し合うこととしているようです。北陸放送の記事によれば「年間の利用者数はおよそ89万人で、そのうち49万人が通勤、通学で利用しています。実に半数以上の人が日常的に利用しているのです」とのことですが、ここで年間というのが具体的に何時のことかが書かれていません。2022年度ということなのでしょうか。また、一日平均の輸送人員がどの程度であるのか、ということも書かれていなければならないでしょう。

 北陸鉄道の鉄道事業は20年度連続で赤字が続いているとのことで、2022年度には1億8000万円ほどでした。2014年度から2017年度までは1億円未満でしたが、2018年度に1億円を超え、2020年度には2億円を超えました。2021年度も2億円程度であったようです。この2箇年度はCOVID-19の影響によるものであろうと考えられますが、2022年度も1億8000万円ほどですから、回復は遅いとも思われますが、その辺りについては詳しい検討が必要でしょう。

 多くの地方私鉄に見られる傾向として、鉄道事業の赤字をバス事業、とくに高速バスの黒字で補塡する、いわゆる内部補助によって維持することがあげられます。北陸鉄道もその一つです。内部補助がCOVID-19によって崩壊したことは多くの鉄道会社に見られる現象で、御存知の方も多いでしょう。また、バス事業の場合は燃料費に左右されるところがあり、このところのガソリンや軽油の価格の上昇(私も近所のガソリンスタンドを見て驚いています)によって収益が減少していることから、内部補助はますます機能しなくなっている訳です。もっとも、内部補助が機能しないのは昨今に限られた話でもない点には注意を要します。

 ただ、単純に石川線を廃止すればよいという話にもならないようです。私が一度だけ、起点の野町駅から終点の鶴来駅まで利用した(実際には往復しました)時は真夏の土曜日であったのでよくわからなかったのですが、この辺りは降雪地帯であり、バスよりも鉄道のほうが安定的に運行できるのです。いや、一般的に、バスより鉄道のほうが時間に正確ですから、通学客にとっては鉄道路線が残ったほうがありがたい訳です。石川県や沿線自治体による議論でも「石川線を廃止して路線バスに転換した場合、所要時間はおよそ2倍、利用者数も鉄道の半分に落ち込み、社会が被る不利益は年間6億円にもなると推計されたことなどから『石川線の廃止は好ましくない』、すなわち大量輸送手段は残すと結論付けました」とのことです。

 もっとも、「石川線の廃止は好ましくない」ということから、直ちに鉄道路線が残るということにはなりません。昨日(2023年8月28日)に開業した「ひこぼしライン」のようにBRT化するという選択肢もあるのです。「ひこぼしライン」は日田彦山線の添田駅から夜明駅までの区間を鉄道からBRTに転換した路線で、JR九州のサイトにも時刻表が掲載されています。

 赤字鉄道ローカル線の対応策としてBRTは有望な選択肢の一つと考えられることが多く、実際に「ひこぼしライン」の他にJR東日本の気仙沼線BRT・大船渡線BRTの例もあるのですが、道路交通法による規制を緩和して最高速度を上げる、バス専用道路の割合を増やす、などの方策を採らなければ、あまり意味はないものと思われます。バスが道路渋滞に巻き込まれて何十分も遅延するというのではBRTの意味がないからです。

 そればかりでなく、昨今ではバス運転手の不足がよく言われるようになりました。新潟交通が2023年4月に行ったダイヤ改正では、運転士の不足による減便が行われています。今月には、函館市と札幌市を結ぶ高速バスの減便が発表されていますし、十勝バスも運転士の不足が理由となる減便、さらには路線の廃止を実施しています。北陸鉄道のバス部門も運転士の不足状態にあり、新潟交通と同様に2023年4月に行われた「ダイヤ改正では、平日でおよそ160便、土日でおよそ200便の大幅な減便が行われて」います。本来であれば346人の運転士が必要ですが、30人が不足しているというのです。そのような状況にあるのに石川線をBRT化するならば、一層の運転士不足になり、BRTのために多くのバス路線の減便、それどころか廃止も行われなければなりません。そうなると、金沢市内も含めて大幅な路線の統廃合が行われ、公共交通機関空白地帯が多くなる可能性が高くなります。

 ここで石川線に話を戻しますと、鉄道路線を維持するならば2両編成を1人で運転することとなりますが、バスに置き換えると5台、つまり5人の運転士が必要になります。どういうことかと言えば、電車の場合は1両あたりの定員が140人から150人ほどであり(石川線を走る元東急7000系の定員がその程度であるはずです)、2両であれば300人を乗せることができます。実際には250人くらいが利用するそうですが、バス1台では50人くらいが定員であるため、5台が必要になるという訳です。勿論、ギュウギュウ詰めにすればもっとお客を乗せることはできますが、それではかなり危険なことになります。2011年3月11日に私が国際興業バスで西台中学校バス停から池袋駅まで乗った時には途中での乗り降りができないほどの超満員状態で、バス停によっては運転士が乗車拒否をせざるをえないほどでしたが、これは緊急事態であったから許されたのでしょう。いずれにしても、バスでは大量輸送ができないということです。

 それでは、運転士の不足の問題があるから鉄道路線を維持すればよいかというと、そう簡単にはいきません。

 何しろ、石川線には縮小を重ねてきた歴史があります。石川線の鶴来駅から加賀一の宮駅までの区間が廃止されたのが2009年11月1日であり、その加賀一の宮駅から白山下駅までの路線であった金名線が廃止されたのは1987年4月29日(但し、1984年12月中旬から営業休止)、鶴来駅から新寺井駅までの路線であった能美線が廃止されたのは1980年9月14日です。それぞれの路線・区間で廃止(休止)の理由は異なるのですが、やはり乗客の減少が根本にあります。さらにたどれば沿線の人口の減少とモータリゼイションの進行という、多くの地方に共通する問題があります。鉄道を利用するのは主に通学客ということになり、学校(主に高等学校)を卒業したら鉄道を利用しなくなるという人が少なくありません。これでは、石川線が鉄道として存続する限り、常に存廃問題も残ることとなってしまいます。

 また、上記北陸放送記事には書かれていませんが、実は鉄道についても運転士の不足という問題があります。たとえば、2023年5月に長崎電気軌道が減便ダイヤ改正を行っていますし、10月には福井鉄道が減便ダイヤ改正を行います。いずれも運転士の不足が理由(少なくとも一つの)となっています。また、とさでん交通の軌道路線でも、8月中旬から平日でも土休日ダイヤで運行されています。これも運転士の不足が理由です。北陸鉄道の石川線および浅野川線がどうであるのかわかりませんが、運転士の養成、運転士に必要な免許の取得のことなどを考えると、運転士不足はむしろ鉄道のほうが深刻になるとも予想されます。

 以上とは別に、石川線に特有の事情としてあげられるのが起点の野町駅です。鐵坊主さんによる上記動画においても言及されていますが、私もこのブログの「北陸鉄道石川線野町駅」で記したように、野町駅は鉄道路線の起点としては不便な場所にあります。歴史的な背景もあるので簡単には片付けられませんが、1967年2月に北陸鉄道金沢市内線という軌道線、言い換えれば路面電車が廃止されてから、他の鉄道とは接続しない駅となったのです。同様の例として、熊本電気鉄道藤崎線の藤崎宮前駅(本来は藤崎線の終点ですが、実際には藤崎宮前駅から御代志駅までの運行系統において起点駅となります)、名古屋市営地下鉄上飯田線開業前の名鉄小牧線の上飯田駅があります。

 野町駅から電車に乗り、二つ目の駅が新西金沢駅です。ここが北陸本線との乗換駅であり(北陸本線は西金沢駅)、現在の石川線では他の鉄道路線との接続がある唯一の駅です。ただ、北陸本線の西金沢駅には普通電車しか止まりませんので、利便性の点では疑問も残るところでしょう。

 ここから、鉄道路線として残す場合の選択肢が二つ登場します。一つが西金沢駅・新西金沢駅から北陸本線の金沢駅に乗り入れるというものであり、もう一つが、野町駅から香林坊へ路線を延伸するというものです。長くなってしまいましたので、これらについては機会を改めることとします。


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