ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

講義内容を公開します 酒税 2022年版その2

2022年07月15日 00時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 3.酒税の納税義務者

 酒税の納税義務者は、国内で製造された酒類、輸入酒類のいずれに該当するかに応じて異なる。

 国内で製造された酒類については、酒類の製造者が納税義務者である。納税義務の成立時期は、製造者が酒類を製造場から「移出」した時点である(酒税法第6条第1項、国税通則法第15条第2項第7号)。「移出」は、酒類を流通過程に置くために製造場から他の場所へ移すことを意味するので、売買、贈与、交換、占有移転などの別を問わない〈判例とともに、金子・前掲書854頁を参照。〉

 一方、国外で製造された輸入酒類については、酒類引取者(酒類を保税地域から引き取る者)が納税義務者である。納税義務の成立時期は、保税地域から引き取る時点である(酒税法第6条第2項、国税通則法第15条第2項第7号)。

 この他、酒税の納税義務については、注意しなければならない規定が存在する。

 まず、酒税法第6条の3第1項は酒類等の移出が行われたものとみなす場合を定める。例えば、酒類が製造場において飲用されたとき(同第1号)、酒類等製造免許が取り消された場合などにおいて酒類が製造場に現存するとき(同第2号。同第3号も参照)、酒類が滞納処分や強制執行などの手続により換価されたとき(同第4号)である(以上については同第4項も参照)。また、同第3項は「酒類等が保税地域において飲用される場合には、その飲用者が飲用の時に当該酒類等をその保税地域から引き取るものとみなす」と定める。

 次に、同第6条の4は収去酒類について非課税とする旨を定める。

 収去酒類とは、食品衛生法第28条第1項に基づいて臨検検査等が行われる際に無償で収去された酒類、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」第69条第4項および第6項に基づいて立入検査等が行われる際に無償で収去される酒類をいう。

 そして、最も注意しなければならない規定ともいえるのが、次に示す同第43条である。

 「(みなし製造)

 第43条 酒類に水以外の物品(当該酒類と同一の品目の酒類を除く。)を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす。ただし、次に掲げる場合については、この限りでない。

 一 清酒の製造免許を受けた者が、政令で定めるところにより、清酒にアルコールその他政令で定める物品を加えたとき。

 二 清酒又は合成清酒の製造免許を受けた者が、当該製造場において清酒と合成清酒とを混和したとき。

 三 連続式蒸留焼酎と単式蒸留焼酎との混和をしたとき。

 四 ウイスキーとブランデーとの混和をしたとき。

 五 酒類製造者が、政令で定めるところにより、その製造免許を受けた品目の酒類(政令で定める品目の酒類に限る。)と糖類その他の政令で定める物品との混和をしたとき(前各号に該当する場合を除く。)。

 六 政令で定める手続により、所轄税務署長の承認を受け、酒類の保存のため、酒類にアルコールその他政令で定める物品を混和したとき(前各号に該当する場合を除く。)。

 2 前項の場合において、酒類に炭酸ガス(炭酸水を含む。)の混和をした酒類の品目は、この法律で別に定める場合を除き、当該混和前の酒類の品目とする。

 3 第1項第1号の規定の適用を受けて、清酒にアルコールその他の物品を加えた酒類は、清酒とみなす。

 4 第1項第6号の規定の適用を受けて、酒類にアルコールその他の物品の混和をした酒類は、当該混和前の品目の酒類とみなす。

 5 第1項の規定にかかわらず、酒類の製造場以外の場所で酒類と水との混和をしたとき(政令で定める場合を除く。)は、新たに酒類を製造したものとみなす。この場合において、当該混和後の酒類の品目は、この法律で別に定める場合を除き、当該混和前の酒類の品目とする。

 6 連続式蒸留機によつて蒸留された原料用アルコールと連続式蒸留焼酎との混和をしてアルコール分が36度未満の酒類としたときは、新たに連続式蒸留焼酎を製造したものとみなす。

 7 単式蒸留機によつて蒸留された原料用アルコールと単式蒸留焼酎との混和をしてアルコール分が45度以下の酒類としたときは、新たに単式蒸留焼酎を製造したものとみなす。

 8 第1項、第2項及び第5項の規定にかかわらず、リキュールと水又は炭酸水との混和をしてエキス分2度未満の酒類としたときは、新たにスピリッツを製造したものとみなす。

 9 前各項に規定する場合を除くほか、酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和に関し、必要な事項は、政令で定める。

10 前各項の規定は、消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない。

11 前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。

12 前項の規定の適用を受けた酒類は、販売してはならない。」

 例えば、自宅で梅酒を作るとする。梅酒は焼酎に梅などを混和して作るものであるから、焼酎からリキュールに変わることとなり、「新たに酒類を製造した」とみなされることとなるはずであるが、同第11項および酒税法施行令第50条第14項により、自宅で梅酒を作る場合には「新たに酒類を製造した」とみなされない。但し、あくまでも自家消費に留まらなければならず、他人に販売してはならない(酒税法第43条第12項、同第56条第1項第4号)。同様のことは料理店などの経営者が営業場において提供する梅酒についても妥当する(同第10項、租税特別措置法第87条の8)。

 次に、自宅でハイボールを作るとする。ハイボールはウイスキーに炭酸水を混和して作るものであるから、酒税法第43条第2項によってウイスキーとして扱われることとなるが「新たに酒類を製造した」とみなされることとなるはずである。しかし、この場合も同第11項によって「新たに酒類を製造した」とみなされない。自家消費に留まらなければならないことは梅酒の場合と同様である。また、カクテルの種類によっては酒税法第43条および酒税法施行令第50条第14項に違反するおそれもあるので、注意されたい。自家消費であるから何でもよいという訳ではないのである。

 一方、ショットバーで提供されるハイボールを店員が作り、客に提供した場合は、酒税法第43条第10項および酒税法施行令第50条第13項が適用されるため、「新たに酒類を製造した」とみなされない。カクテルについても同様である。但し、あくまでも「酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供することを業とする者がその営業場において消費者の求めに応じ、又は酒類の消費者が自ら消費するため、当該混和をするとき」に限られる。

 

 4.酒類の製造、販売に関する免許制度

 酒税法は、酒類等(酒類、酒母またはもろみ)を製造しようとする者、販売しようとする者に対し、製造場または販売場ごとに所轄税務署長の免許〈行政法学における許可に該当する。〉を受けなければならない旨を規定する。この免許制度は酒税の徴収確保のためであり、「酒税の円滑な転嫁及び検査取締り上の要請等を目的として採用された」〈富川・前掲書151頁。これに対し、金子・前掲書852頁は「国民の健康と衛生の維持ならびに酒税の保全のため」と説明する。〉

 〔1〕酒類製造免許

 酒税法第7条第1項は、「酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、製造しようとする酒類の品目(第3条第7号から第23号までに掲げる酒類の区分をいう。以下同じ。)別に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許(以下「製造免許」という。)を受けなければならない。ただし、酒類の製造免許を受けた者(以下「酒類製造者」という。)が、その製造免許を受けた製造場において当該酒類の原料とするため製造する酒類については、この限りでない」と定める。免許の効力が対象(物)および場所の面において制約を受けていることに注意されたい。

 また、同第2項は、1つの製造場における1年間の製造見込数量を、種類ごとに定めている。製造免許を受ける際には、この製造見込数量を超えることが求められる。

 酒類製造免許を受けずに酒類を製造した者には刑事罰が科される(同第54条)。

 〔2〕酒母またはもろみの製造免許

 酒母またはもろみを製造しようとする者についても、やはり製造場ごとに製造免許を受けなければならない(同第8条)。但し、酒類製造業者が製造場において酒類の製造のように供するために酒母またはもろみを製造する場合など、除外事由もある(同第1号〜第3号)。

 酒母またはもろみの製造免許を受けずに酒母またはもろみを製造した者には刑事罰が科される(同第54条)。

 〔3〕酒類販売業免許

 酒類販売業、酒類販売代理業、酒類販売媒介業のいずれかを営もうとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地(販売場を設けない場合には住所地)を所轄する税務署長の免許を受けなければならない。但し、酒類製造業者が製造場において酒類の販売業を営む場合、および「酒場、料理店その他酒類をもつぱら自己の営業場において飲用に供する業」については酒類販売業免許が不要である(同第9条第1項。同第2項および同第3項も参照)。

 なお、酒類販売業免許は大きく酒類小売業免許および酒類卸売業免許に大別され、さらに酒類小売業免許は3種類、酒類卸売業免許は8種類に分けられる〈富川・前掲書153頁。〉

 酒類販売業免許を受けないで酒類を販売した者には刑事罰が科される(同第56条第1項第1号)。

 〔4〕上記各種免許の要件

 上記各種免許の申請者が酒税法第10条各号のいずれかに該当する場合には、税務署長は申請者に対して免許を与えないことができる。列挙事由をみると、酒税法の規定に違反したことによって免許等を「取り消され」てから一定の期間を経過していない者、滞納処分を受けてから一定の期間を経過していない者、一定の事由による刑の執行が終わってから一定の期間を経過していない者などが多いが、「正当な理由がないのに取締り上不適当と認められる場所に製造場又は販売場を設けようとする場合」(同第9号)、「酒類の製造免許又は酒類の販売業免許の申請者が破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」(同第10号)、「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」(同第11号)、「酒類の製造免許の申請者が酒類の製造について必要な技術的能力を備えていないと認められる場合又は製造場の設備が不十分と認められる場合」(同第12条)があげられている。

 この他、上記各種免許の「取消し」については同第12条ないし第14条を、製造場または販売場の移転の許可については同第16条を、製造業または販売業の廃止については同第17条を、販売場を設けていない酒類販売業者の住所の移転については同第18条を、酒類製造業または酒類販売業の相続については同第19条を参照していただきたい。

 〔5〕免許制度と憲法

 ●最一小判平成元年12月14日刑集43巻13号841頁(「どぶろく裁判上告審判決」)

 事案:千葉県の某町に居住するX(被告人)は、所轄税務署長から清酒製造免許を受けることなく、自宅で清酒を製造した。これが酒税法第7条に違反するとして、原料を収税官吏に差し押さえられた上、起訴された。Xは、酒類製造免許制度が酒の自己消費を規制するものであって憲法第13条に違反するなどと主張したが、一審判決(千葉地判昭和61年3月26日判時1187号157頁)はXを罰金刑に処す旨の判決を下し、控訴審判決(東京高判昭和61年9月29日高刑集39巻4号357頁)もXの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もXの上告を棄却した。

 判旨:酒税法第7条第1項および同第54条第1項は「自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり」(最二小判昭和30年7月29日刑集9巻9号1972頁を参照)、「これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法31条、13条に違反するものでない」(最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁、最一小判昭和35年2月11日集刑132号219頁を参照)。

 ●最三小判平成4年12月15日民集46巻9号2829頁

 事案:東京都内のX株式会社は、昭和49年7月30日に所轄税務署長に対して酒類販売業免許の申請をしたが、所轄税務署長は昭和51年11月24日付で免許拒否処分を行った。これは、X株式会社が酒税法第10条第10号(「酒類の製造免許又は酒類の販売業免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」)に該当することが理由とされたものである。X株式会社は免許拒否処分の取消を求めて出訴した。一審判決(東京地判昭和54年4月12日税資105号46頁)はX株式会社の請求を認容したが、控訴審判決(東京高判昭和62年11月26日判時1259号30頁)は所轄税務署長の控訴を容れてX株式会社の請求を棄却したため、X株式会社が上告した。最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。

 判旨:①「酒税が、沿革的に見て、国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、酒類の販売代金に占める割合も高率であったことにかんがみると、酒税法が昭和13年法律第48号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができる。その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った本件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論の余地があることは否定できないとしても、前記のような酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ合理性を失うに至っているとはいえないと考えられることに加えて、酒税は、本来、消費者にその負担が転嫁されるべき性質の税目であること、酒類の販売業免許制度によって規制されるのが、そもそも、致酔性を有する嗜好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品である酒類の販売の自由にとどまることをも考慮すると、当時においてなお酒類販売業免許制度を存置すべきものとした立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定し難い。」

 ②酒税法第10条第10号は「免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合に、酒類販売業の免許を与えないことができる旨を定めるものであって、酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられる最も典型的な場合を規定したものということができ、右基準は、酒類の販売免許制度を採用した前記のような立法目的からして合理的なものということができる。また、同号の規定が不明確で行政庁のし意的判断を許すようなものであるとも認め難い。そうすると、酒税法9条、10条10号の規定が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。」

 なお、同旨の判決として、最一小判平成10年3月26日判時1639号36頁、最三小判平成14年6月4日判時1788号160頁などがある。

 

 5.酒税の課税標準および税率

 酒税の課税標準は、酒税法第22条第1項により、酒類の製造場から移出された、または保税地域から引き取られた酒類の数量であるとされる。但し、「粉末酒に係る数量の計算は、その重量を基礎として政令で定める方法により行う」(同第2項)。このことから、酒税は従量税である。

 そのため、税率も数量を単位として定められる。同第23条は、酒類の種類に応じて1㎘あたりの税率を次のように定める。

 ①発泡性酒類:155,000円(同第1項第1号)。

 但し、「発泡性酒類のうちその他の発泡性酒類」は100,000円(同第2項)。

 ②醸造酒類:100,000円(同第1項第2号)。

 ③蒸留酒類:200,000円が基本である(アルコール分が20度であることを前提としている)。アルコール分が21度以上である場合には、200,000円に、1度毎に10,000円を加えた金額である(同第3号)。但し、ウイスキー、ブランデーおよびスピリッツでアルコール分が37度未満であれば370,000円(同第3項)。

 ④混成酒類:200,000円が基本である(アルコール分が20度であることを前提としている)。アルコール分が21度以上である場合には、200,000円に、1度毎に10,000円を加えた金額とする(同第4号)。但し、次に掲げるものは別に定められる。

 ・合成清酒:100,000円(同第4項第1号)。

 ・みりん:20,000円(同第2号)。

 ・雑酒(みりんに類似する酒類として政令で定められるもの):20,000円(同号)

 ・甘味果実酒およびリキュール:120,000円を基本とし、アルコール分が13度以上である場合には、120,000円に、1度毎に10,000円を加えた金額とする(同第3号)。

 ・粉末酒:390,000円(同第4号)。


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