1.流通税
流通税とは、権利の取得や移転など、取引に関する様々な事実、事実行為や法律行為を対象(課税物件)として課される租税をいう。例として、印紙税、登録免許税、とん税、特別とん税、不動産取得税、自動車取得税があげられる。また、事実または事実行為を課税物件とする流通税の例が印紙税であり、法律行為を課税物件とする流通税の例が不動産取得税である。
とん税および特別とん税を流通税と位置づけるのは、金子宏『租税法』〔第二十四版〕(2021年、弘文堂)17頁である。これに対し、石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第10版〕(2020年、清文社)12頁は個別消費税と位置づける。
2.印紙税の例(領収書)
印紙税(法)について説明を行う前に、具体的な例を見ていただくこととしよう。いずれも、少々古いが2018年に講義担当者が取得した領収書・受領証の写真データである。
まずは郵便局の振込用紙の右側にある「振替払込請求書兼受領証」(これが領収書として扱われることも多い)である。左側の写真データは「振替払込請求書兼受領証」の表面である(「ご依頼人」欄の住所の部分のみ加工した)。これは印紙税法別表第一第17号の1文書に該当するので課税文書(後述)となる。
次に右側の写真データである。これは「振替払込請求書兼受領証」の裏面である。受領金額(受取金額)が86,400円であり、これは5万円以上100万円の金額であるから、青い円で囲まれた部分が示すように200円の収入印紙が貼られている。さらに、収入印紙と、それが貼られていない部分とに跨がって「渋谷中央街郵便局長印」の消印が押されている。
印紙税(法)では、収入印紙も重要であるがそれ以上に消印が重要である。印紙税法第8条第2項によって領収書等の発行者は消印を押すことが義務付けられており、この消印を押さなかったならば、同第23条第1号により、30万円以下の罰金に処せられる。
次に、駅の自動券売機で乗車券などを購入した時に発行される領収書である。
このようなものは、印紙税法第11条第1項にいう「課税文書のうち、その様式又は形式が同一であり、かつ、その作成の事実が後日においても明らかにされているもの」であり、しかも同第1号にいう「毎月継続して作成されることとされているもの」であるから、「課税文書の作成者」〔この例では東京急行電鉄株式会社(現在の東急電鉄株式会社)〕は「当該課税文書を作成しようとする場所の所在地の所轄税務署長」(この例では渋谷税務署長)の承認を受けて、印紙の貼り付けではなく、金銭によって印紙税を納付することが認められる。
なお、この例そのものにおいて印紙税は非課税である(受取金額が5万円未満であるため)。5万円以上の乗車券(定期券など)を購入した場合、家電量販店で5万円以上の品物を購入した場合などに特に大きな意味を持つこととなる。領収書・レシートの類をよく見てみるとよい。
▲クレジットカード払いで物品を購入した場合で、領収書にクレジットカード利用に関する記載があるときには、金銭などの受領の事実がないことにより、印紙税は課税されない。これに対し、領収書にクレジットカード利用に関する記載がないときには、印紙税が課税される。
3.印紙税の課税根拠
印紙税の課税根拠として、契約書など、印紙税法に定められる課税文書は各種の経済取引を表現するものであるから、担税力の間接的表現である、と説明される〈金子・前掲書873頁〉。
4.印紙税の納税義務者
印紙税の納税義務者は、印紙税法第3条第1項により、同法別表第一の課税物件の欄に掲げる文書(但し、同第5条によって非課税とされる文書を除く)を作成した者である。また、同第3条第2項は、一つの課税文書を複数の者が共同で作成した場合には、その者らが課税文書について連帯して印紙税を納税する義務がある旨を定める。
また、同第4条は課税文書の作成とみなす場合を定める。例えば、約束手形または為替手形(印紙税法別表第一第3号に掲げるもの)で手形金額の記載のないものに手形金額の補充を行った者は、補充をした時に約束手形または為替手形を作成したものとみなされる(同第4条第1項)。別表第一第18号から第20号までに定められた課税文書(預貯金の通帳など)を1年以上にわたって継続して使用する場合には、その課税文書を作成した日から1年を経過した日以後に最初の付け込みをした時点においてその課税文書を新たに作成したものとみなされる(同第4条第1項)。いわゆるみなし規定なので、同条各項に定められた行為を行った者は印紙税の納税義務者として扱われる。
他方、国、地方公共団体および別表第二に掲げられる法人(国立大学法人、日本赤十字社、日本年金機構など)は、印紙税の納税義務者ではない(同第5条第2号)。また、同第3号により、別表第三の上欄に掲げられる文書を作成した、別表第三の下欄に掲げられる者は、印紙税の納税義務者ではない。
5.印紙税の課税物件
印紙税法第2条は、「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する」と定める。また、印紙税法基本通達第2条は、「法に規定する『課税文書』とは、課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項(以下『課税事項』という。)が記載され、かつ、当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書のうち、法第5条《非課税文書》の規定により印紙税を課さないこととされる文書以外の文書をいう」と定める。
これらの規定からは、印紙税の課税要件が文書そのものであると読みとりうるし、一般的にもそのように言われるが、厳密に言えば、納税義務者が別表第一に掲げる文書を作成すること(事実行為)が印紙税の課税物件である。従って、課税物件とされる文書を作成すれば、その基となる契約などの法律行為の効力とは無関係に課税要件は充足されてしまう〈金子・前掲書874頁。鳥飼重和(著)・日本経営税務法務研究会(編)『法的思考が身に付く実務に役立つ印紙税の考え方と実践』(2017年、新日本法規)35頁も「契約書があれば、契約どおりの取引が実行されなくても、課税文書であることに変わりはありません」と説明する〉。すなわち、経済取引そのものに課税されるという訳ではない。また、注意していただきたいのは、印紙税法が契約書などの文書の作成を義務付けていないことである〈鳥飼・前掲書35頁。山端美德・野川悟志『間違うと痛い!! 印紙税の実務Q&A 46問46答』(2018年、大蔵財務協会)9頁〉。
文書が課税文書にあたるか否か、例えば、契約書として作成された文書が課税文書としての契約書に該当するか否かが問題となることがありうる。そこで、印紙税法基本通達第3条第1項は、「文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする」と定める。また、同第2項は、「前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする」と定める。印紙税法基本通達は法令でなく行政規則たる通達に過ぎないから国民に対する法的拘束力を有しないが、解釈の基準を示すものとして重要である。
文書が印紙税法に定められる課税文書であるためには、たとえば契約書に示されるべき「重要事項」、すなわち契約が成立するために通常必要とされる事項が記載されていなければならない。そこで、印紙税法基本通達別表第二は、「重要事項」を契約書の類型ごとに一覧表として示している(同第12条、同第17条、同第18条および同第38条も参照)。
前述のように、印紙税法第2条は印紙税の課税物件を別表第一に示された文書とする。同法の「別表第一 課税物件表(第2条―第5条、第7条、第11条、第12条関係)」は、第1号〜第20号として課税文書を限定列挙する(「課税物件表の適用に関する通則」も参照)。一部を抜粋しておく(表記を変更した箇所がある。また、定義の一部も省略した)。
第1号文書:「1 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」
「2 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」
「3 消費貸借に関する契約書」
「4 運送に関する契約書(傭船契約書を含む。)」
第2号文書:「請負に関する契約書」。この「請負」は「職業野球の選手、映画の俳優その他これらに類する者で政令で定めるものの役務の提供を約することを内容とする契約」が含まれる。
第7号文書:「継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。)」
「継続的取引の基本となる契約書」の定義は「特約店契約書、代理店契約書、銀行取引約定書その他の契約書で、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本となるもののうち、政令で定めるもの」。
第8号文書:「預貯金証書」
第17号文書:領収書のこと。大別すると次の二種となる。
第17号の1文書=「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」:次のように定義される。
「資産を譲渡し若しくは使用させること(当該資産に係る権利を設定することを含む。)又は役務を提供することによる対価(手付けを含み、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第1項(定義)に規定する有価証券その他これに準ずるもので政令で定めるものの譲渡の対価、保険料その他政令で定めるものを除く。以下「売上代金」という。)として受け取る金銭又は有価証券の受取書をいい、次に掲げる受取書を含む。
イ 当該受取書に記載されている受取金額の一部に売上代金が含まれている金銭又は有価証券の受取書及び当該受取金額の全部又は一部が売上代金であるかどうかが当該受取書の記載事項により明らかにされていない金銭又は有価証券の受取書
ロ 他人の事務の委託を受けた者(以下この欄において「受託者」という。)が当該委託をした者(以下この欄において「委託者」という。)に代わつて売上代金を受け取る場合に作成する金銭又は有価証券の受取書(銀行その他の金融機関が作成する預貯金口座への振込金の受取書その他これに類するもので政令で定めるものを除く。ニにおいて同じ。)
ハ 受託者が委託者に代わつて受け取る売上代金の全部又は一部に相当する金額を委託者が受託者から受け取る場合に作成する金銭又は有価証券の受取書
ニ 受託者が委託者に代わつて支払う売上代金の全部又は一部に相当する金額を委託者から受け取る場合に作成する金銭又は有価証券の受取書」
「資産の譲渡」の対価の例:物品の売上対価、不動産の売却代金
「資産の使用」の対価の例:土地建物の賃貸料、貸付金の利息、リース料
「役務の提供」の対価の例:請負代金、運送料
第17号の2文書=「金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外のもの」
例、借入金の受取書、敷金の受取書、預貯金の受取書、各種会費の受取書
文書の中には、二つ以上の性格(印紙税法などでは「所属」)を有するものがある。その扱い方については、印紙税法別表第一の冒頭にある「課税物件表の適用に関する通則」の2および3に示された原則により、第1号〜第20号のいずれに「所属」するかが決められることとなる。実際には、印紙税法基本通達第10条・第11条に従って決めていくこととなる。以下、同第11条に示される例をあげておく。
例① 不動産及び債権売買契約書
不動産売買契約書(第1号文書)+債権売買契約書(第15号文書)=第1号文書
例② 工事請負及びその工事の手付金の受取事実を記載した契約書
工事請負契約書(第2号文書)+手付金の受け取り事実を記載した契約書(第17号文書)=第2号文書
例③ 売掛金800万円のうち600万円を領収し、残額200万円を消費貸借の目的とすると記載された文書
600万円を領収したという部分(第17号の1文書)+200万円を消費貸借の目的とすると記載された部分(第1号文書)=第17号の1文書
例④ 機械製作及びその機械の運送契約書で、それぞれの事項に関する金額を区分することができないもの
機械製作の契約書(第2号文書)+機械運送契約書(第1号文書)=第1号文書
例⑤ 機械の製作費が20万円、その機械の運送料が10万円と記載されている文書
課税事項ごとの契約金額が区分されており、機械の製作費が運送料を超えているので、第2号文書となる(第2号文書に示される金額>第1号文書に示される金額)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます