ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

興味深い本ではあるけれど、少々気になる

2023年02月06日 00時00分00秒 | 本と雑誌

 先日、池口英司『JR旅客6社徹底比較』(河出書房新社)を購入しました。

 今、読んでいる最中なのですが、気になることがありました。

 この本の78頁に、次のようなことが書かれています。

 「企業のもうひとつの顔ともいえる資本金を見比べてみると、JR北海道が90億円、JR東日本が2000億円、JR東海が1120億円、JR西日本が2261億円、JR四国が35億円、JR九州が160億円(いずれも2020年)となっており、これはどこも堂々たる数字となっている。/ちなみに私鉄最大手となっている近畿日本鉄道のそれは1億円であり、JR6社が鉄道会社として別格であるといえる規模を誇っていることがうかがわれる。」

 まず、引用文の冒頭の意味がよくわかりません。資本金は会社の規模などを知るために非常に重要な情報です。従業員数も非常に大事ですが、資本金と従業員数を「顔」と表現することの意味は何なのでしょうか。

 次に、資本金で言えば、近畿日本鉄道の資本金というのは、おそらく近鉄グループホールディングスの子会社としての近畿日本鉄道の資本金のことでしょう。親会社の近鉄グループホールディングスの資本金は1264億7600万円で、子会社の近畿日本鉄道の資本金は1億円ということのようです。

 また、東京地下鉄株式会社の資本金は581億円ですし、東急電鉄の資本金は1億円ですがその親会社である東急の資本金は1217億2400万円です。もう少し続けると、東武鉄道の資本金は1021億3597万1747円、名古屋鉄道の資本金は1011億5800万円、阪急電鉄の資本金も1億円ですが阪急阪神ホールディングスの資本金は994億7400万円、小田急電鉄の資本金は603億5900万円、西鉄の資本金は261億5729万円です(西鉄の資本金はJR九州より多いということです)。

 その他の大手私鉄については省略しますが、池口氏の記述は、比較の基準なり対象なりがよくわからないものになっています。企業形態、事業内容などからすれば、JR東日本やJR西日本と比較すべきなのは、東急、東武、近鉄グループホールディングス、名古屋鉄道、阪急阪神ホールディングス、小田急電鉄、西鉄なのです。

 (ちなみに、このブログの「存廃問題に揺れる近鉄内部線・八王子線に乗る(その1)」に記したところを再掲しておくならば、2012年3月末日の時点での近鉄の資本金は927億4100万円、東急が1217億2400万円でした。この時点で1000億円を超える資本金を有する私鉄は東急だけでした。)

 中小私鉄とされる鉄道会社でも、例えば富士急行の資本金は91億2600万円であり、これはJR北海道より多いということになります。

 以上のことからすれば「JR6社が鉄道会社として別格であるといえる規模を誇っていることがうかがわれる」とは言えない訳です。むしろ、JR東日本、JR東海、JR西日本は近鉄、東急、東武、名鉄などのような巨大私鉄と同等かそれ以上の資本力であることがうかがわれます。

 企業の力は様々な方面から検討しなければなりません。単に営業キロだけで日本一などと判断してはならず、資本金、輸送人員、輸送密度など、要素はたくさんあります。


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