今更という感じは否定できませんが、菅内閣総理大臣が12月14日にGo to トラベルの停止などを打ち出しました。期間は2020年12月28日から2021年1月11日です。
この停止は、これまで行われてきたように一部地域に限定されるものではなく、全国一律です。世間的には第三波とも言われ、緊急事態宣言前よりもひどい状況になっていることは明らかですし、何よりも医療機関の逼迫状況がまさしく現場から叫ばれているのでは、日本全国コロナカクテル状態を生み出すような政策を止めるのが当然です。東京都など、大都市周辺の感染者が多いと言われており、首都圏から他の地方・地域に移住する人も増えているそうですが、少し考えれば当たり前のことで、人口が多ければ感染者数も増えるのです。むしろ、人口がそれほど多くないのに感染者数、とくに重症患者数の割合が多い方が問題です。
何処であろうが感染の機会はある訳で、医療体制が整っていない地方・地域では目も当てられないような事態になるでしょう。このようなことを記すのは、現在私が住んでいる町が、四六時中、川崎市のあちらこちらから、そればかりか東京消防庁の救急車も見かけるような場所であるためです。少し歩けば帝京大学医学部附属溝口病院、さらに歩けば総合高津中央病院です。そればかりか、私が大分大学に勤務していた1997年4月から2004年3月まで住んでいた場所のすぐ近くにアルメイダ病院があり、大分市はもとより大分県内の各地域から救急車が走ってきていたのをよく覚えています。佐伯市、竹田市、宇佐市など、アルメイダ病院から50キロメートルも離れているような所から患者が運ばれてくるのです。そのためか、救急車が走っていると何処の消防署または病院の救急車かが気になって見ているような習性がつきました。
東京などに住んでいる方の多くは御存知ないかもしれませんが、地方で高速道路の整備が叫ばれる理由の一つが医療体制あるいは救急体制なのです。県庁所在都市など規模の大きな市でなければ重症患者に対処できないというような地域が少なくないので、仮に県庁所在都市などの規模の大きな市で医療が逼迫すれば、たちまち県全体に深刻な影響が及びかねないという地方・地域は少なくありません。
そもそも、感染が収まっておらず(いや、完全に収まることはないのかもしれません)、ワクチンあるいは予防接種など、効果的な医療が確立されていない現段階において、旅行、食事などについてGo toを行うこと自体に無理がありました。私は、このブログで7月15日に掲載した「何故急ぐ?」において「この時勢にどうして観光支援策を進めなければならないのか、理解できないという方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。内容の問題ではなく、時期の問題であるということです」と記しました。内容そのものにもあれこれとおかしな点があるかもしれませんが、そうしたことは脇に置くとしても、というつもりで記したのです。たとえ政策内容そのものが良いとしても、時期を誤ったら悪いものになる、という意味も込めています。
どうしてTravelなのか、Eatなのか。理解できないという方は少なくないでしょう。
私は、GoToが失策であると評価すべきである、と考えます。これは、実際の感染の機会もありますが、一時期政府関係者が主張していたような、GoTo(旅行であれ飲食であれ)が感染を拡大したという証拠(Evidence)がないとかなんとかいうことではありません。証拠云々を検証しないままに「ない」と断言することにも問題はありますが(これは最近の政治に見られる風潮であり、大きな問題であることを注意しておかなければなりません)、ことGoToに絞るならば、GoToを政府が打ち出したことで少なからぬ国民に気の緩みを生みださせたことこそ問題があります(飲み会やカラオケでクラスターが多発しています)。これは「自助」や「自己責任」で済まされる話ではありません。
〔ただの邪推ですが、感染症は「自己責任」や「自助」の領域の話であると考えている人が少なくないのではないでしょうか。そのような部分があることは否定できませんが、「共助」、「公序」、「公的責任」が土台になってこそ「自己責任」や「自助」が生きてきます。感染症に限ったことではありません。〕
「経済をなんとかしなければならない」という気持ちは理解できます。しかし、「この方法でなのか?」とお思いの方も多いでしょう。世界的にも感染者は増えていますし、アジアに領域を絞ってみると、おそらく日本の感染率などは突出しているものと思われます。筒井康隆さんのエッセイ集のタイトル「狂気の沙汰も金次第」という言葉が浮かんできます。日本は、少なくとも新型コロナウイルスに限定すれば後進国です。
このように記すと、「いや、こんな時に旅行だの会食だのと浮かれてはいないぞ!」とおっしゃる方もおられるでしょう。私もそうです。しかし、場所によっては人が増えていることも事実です。緊急事態宣言が発せられてからのことを思い出してください。首都圏、とくに京浜地区に限っても、大規模商業施設は閉じられ、公共交通機関の利用者は激減し、学校は休校またはオンライン授業となり、街の人通りも少なくなり、道路を走る自動車の量も目に見えて減少する、などの状況でした。私や妻が行く予定であったコンサートも中止になり、チケットの払い戻しをしてもらったことも何回かあります。
その緊急事態宣言が解除されてから、再び感染者数が増え、重症患者数も増えました。医療崩壊の危機も迫っています。この時期に進めるべき政策でなかったと言えるでしょう。
以上のように記したところで、気になる点は残っています。勿論、相互に関係があります。
第一に、一時停止となっていることです。期間が経過したら再び進める訳ですが、冬はインフルエンザなどのウイルスによる感染症が多発する時期です。COVID19(イギリスやドイツの文献では新型コロナウイルスをこのように記します。表記の仕方は国によって若干異なります)の活動は気候などにあまり関係がないようですが、我々人間との関係も考え合わせると冬は警戒すべき季節です。
第二に、一時停止の時期です。明らかに年末年始を狙っていますが、早めるべきではなかったかと思われます。ただ、準備期間もあるので12月28日からとなったのかもしれませんし、クリスマス商戦は残そうという意見があったのかもしれません。
第三に、今日(2020年12月16日)付の朝日新聞朝刊1面14版△に掲載された「国債 今年度112兆円に コロナ対策 3次補正を閣議決定」で報じられているように、GoToは6月末まで延長され、そのための費用として1兆311億円が第三次補正予算(補正予算第3号)に計上される見通しであることです。ちなみに、記事によれば第三次補正予算には「ワクチン接種体制の整備などに5736億円を計上」すると書かれています。内容を精査しなければ詳細はわかりませんが、コロナ対策に充てるべき費用が少ないのではないかと思われます。この第三次補正予算では国債発行額など様々な問題があるのですが、別の機会に取り上げたいと考えています。
第四に、Gotoのような政策を立てること自体の問題です。ホテル業、飲食店業などの業界が、その時の政治の動向などに(いっそう)振り回されやすくなります。一時停止が表明されただけでも業界からの悲鳴が聞かれるほどです。キャンセルが多くなるのですから当然でしょう。中止であれば影響はより多大であったことは間違いありません。最初から行わなければよかったということになりますが、行ってしまった以上はショックを緩和する策も必要になってきます。また、GoToが終了してからどうなるのかということについての展望も必要でしょう(勿論、楽観的でない展望です)。補助金は麻薬や覚醒剤と同じようなものであるという論評を読んだことがありますが(何に書かれていたのか覚えていません)、或る意味で当たっています。
その他にも様々な問題が考えられるでしょう。例えば、GoToで業界全体が潤う訳でもなく、ホテル業でも恩恵を受けるところとそうでないところの差が明確になってきているようです。また、飲食店業であれば、片やGoTo、片や時短と、矛盾をはらむ要請に対応しなければならなくなっています。
GoToは延期された東京オリンピックと関係の深い政策でもあります。東京都は、オリンピックの中止はないと表明していますが、あくまでも公式ということでしょうか。しかし、この時期になっても蔓延状況が収まらないのに、本当に開催を考えているのかと疑われる方も多いことでしょう。何よりも、開催国の日本、開催地の東京の状況がよくありません。どう考えても来年の春までは改善されないでしょう。オンラインでオリンピック競技を行うというのであれば話は変わってきますが、国際的なイベントでコロナカクテルを作ってどうするのでしょうか。
そう言えば、今日の朝日新聞朝刊14面13版Sに掲載された「かたえくぼ」には笑わされました。名古屋の「洋子ばあば」さんによる『勝負の3週間』で「『出たとこ勝負』だったー国民」と書かれていました。たしかに。
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