【書物師】
書棚の奥にしまっている緋色の本は
数年前
書房通りの書物師が作ったものだ。
今その書物師が暮らしていた工房は空室で
師も姿を消した。
本を持ち金星塔を上る。
展望台で表紙に手をかけた。
三千三回目だ。
頁をめくることを試みた回数は。
だがめくれない。
頭上の星が笑い
森へ帰る鳥が鳴く。

書棚の奥にしまっている緋色の本は
数年前
書房通りの書物師が作ったものだ。
今その書物師が暮らしていた工房は空室で
師も姿を消した。
本を持ち金星塔を上る。
展望台で表紙に手をかけた。
三千三回目だ。
頁をめくることを試みた回数は。
だがめくれない。
頭上の星が笑い
森へ帰る鳥が鳴く。
