DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#60.星粒

2018年04月17日 | 星玉帳-Blue Letters-
【星粒】



水の色が濃くなったのは



夕刻が深くなったからだ。




海底の星粒はひとりで数えるのがよいと分かったのは



金星号に乗った人を見送ってから。




海に潜り声を殺して数え続けた。


金星号はとうに通り過ぎたので



もはや二度と会えぬ人なのか、




海の底から夜を見上げ、



数えた粒を撒く。








#59.氷

2018年04月17日 | 星玉帳-Blue Letters-
【氷】


方位の見えない地を往く。




なにものかを



さがしているのかいないのか



わからなくなり



夜の深い氷河にもたれ



氷片を握りしめる。




鋭さに幾度も自分は自分でなくなった。




手に余る心と痛みは



凍りつく宇宙の氷山に置くがいい。




心と名のつくものが



その暗がりの森に溶けてしまわぬよう。



深く深く。






#58.熱風

2018年04月16日 | 星玉帳-Blue Letters-
【熱風】


土星の人と笑い合ったのは



太陽が近くなる日


熱い風が吹く惑星の夏だった。




星へ繋がる一本の糸は



度重なる強風で力を失い



切れてしまうことを



わたしたちはおそらく分かっていたのだ。




糸の切れ端はもう空には見えないが



季節の激しさは残る。



それは誰のものでもないことを知った。





#57.花火

2018年04月16日 | 星玉帳-Blue Letters-
【花火】


打ち上げられた花火を眺めていると



光を帯びた欠片が流れてきた。



花火の音で星樹の葉が散り風に流されるのだ。




森の星で出会った人は



花火音に飛ばされた葉の光り方をとても気に入っていた。




光るのは一夜だけだから、と。



散った欠片を繋ぎ腕に巻く。




このまま丘に上ろう。



遠い惑星に手を振ろう。





#56.書物師

2018年04月15日 | 星玉帳-Blue Letters-
【書物師】


書棚の奥にしまっている緋色の本は


数年前


書房通りの書物師が作ったものだ。




今その書物師が暮らしていた工房は空室で



師も姿を消した。





本を持ち金星塔を上る。




展望台で表紙に手をかけた。




三千三回目だ。




頁をめくることを試みた回数は。




だがめくれない。




頭上の星が笑い



森へ帰る鳥が鳴く。






#55.橋

2018年04月14日 | 星玉帳-Blue Letters-
【橋】


星の川に架かる橋に辿り着く。



橋の下には銀の星のかけらが流れていた。




いつの時代だったか




土星の人と共に橋を渡り向こう岸に行った。




川を眺め、かけらを数えた。



星の消える刻、戻る時はひとり。




数えた星のかけらだけ暁を迎えれば



時は橋を越えるだろうか。




向こう岸、星の森に向かい



時を超えるささやかな歌を歌う。






#54.青砂

2018年04月13日 | 星玉帳-Blue Letters-
【青砂】



丘を越え海の香りのする方角へ歩くと



青の砂浜が見えてきた。



一面の青砂海岸は



海との境目が曖昧だ。



砂を一掴み握り、飛ばす。



海風に乗せると



この砂はどこか別の惑星の



青砂海岸に着くという。



風の軌跡を知る鳥は砂の行方が分かると聞いた。



飛ばした砂の行方を尋ねると



鳥は一声鳴き宙を舞った。








#53.墓

2018年04月12日 | 星玉帳-Blue Letters-
【墓】


丘の上の墓所に



石でできた小さな墓がある。


この星を訪れた日には



それに草花を飾ったり


貝殻を繋いだ輪をかけたりするのが


慣わしだ。




わたしはここに誰が眠っているのか知らない。



ただこの墓が愛しい。



そのことを墓守の黒ヤギに気づかれまいと




墓前のグラスに水を注ぎながら



ずっとすすり泣いている。





#52.紙船

2018年04月11日 | 星玉帳-Blue Letters-
【紙船】


「夏至船に今年こそは乗りたかったのですが



この紙で船を折り海へ流しに行きます…」



キツネが言う。



キツネの手元には水玉がびっしりと描かれた紙があった。




ほんの束の間波間を漂うだけの紙船は



行き場を失くしたその絶望でしか行けないという



海底を見つけるために自ら沈み



海中を漂うという。





#51.酒庫

2018年04月10日 | 星玉帳-Blue Letters-
【酒庫】


宿の薄暗い階段を下りると



星樹の熟香が香ってくる。




階段は地下の酒庫に通じている。



酒庫には星樹の惑星で作られた酒が寝ているのだ。





番をする酒師は



気まぐれに訪ねた者にグラスを持たせ



なみなみと星樹の酒を注いでくれる。




それは焼けるように喉を流れ



物言わぬ氷のように



固く冷ややかに時間を止める飲み物だ。






#50.夏至船

2018年04月09日 | 星玉帳-Blue Letters-
【夏至船】


今夜は森の水辺で夏至の火が焚かれる。



天に上る煙を頼りに森の道を行き、炎に辿り着いた。



羽を生やしたヤギ、王冠をつけた蛙、草花をまとった小さな人、



などが炎の周りで語らっていた。




暫く火に当たっていると



港の方角から鐘の音が聞こえてきた。



「あれは夏至船の鐘。彼岸へ鳴る音です」



小さな人がそう教えてくれた。





#49.月

2018年04月08日 | 星玉帳-Blue Letters-
【月】


土星の人から最後の便りが届いたのは



赤い惑星にとどまって三度目に迎える夏至前



丸い月の夜だった。




夜は短かく行き過ぎ




一緒に月を見ることはなかった。




日が暮れると星のない部屋で



ただ小さなランプに灯りをともし



肩を寄せた。




月が歌う伝説は願いの呪文なのだと




四度目の赤い月で知った。





#48.春霞

2018年04月07日 | 星玉帳-Blue Letters-
【春霞】


霧の惑星で出会った人は船を好んだ。




出会ってすぐ


わたしたちは春霞の水上から船に乗った。




交わした僅かな言葉は霧のためか



すぐに波間に見えなくなった。




航海の殆どが霧だったことは幸いだ。



霧だけを思い出せばいい。




夏至の前に何かの約束をしたかもしれないが



約束の所も時も決めなかった。



霧は幸いだ。





#47.荷

2018年04月06日 | 星玉帳-Blue Letters-
【荷】


空き家になっている森の小屋は



星から星へ荷を運ぶ白ヤギの休み処だ。




温かいお茶を持ち森小屋を訪ね



出立の時間まで白ヤギと過ごした。




白ヤギは言う。



この頃見かけは小ぶりなのにずっしり重い荷が増えて…と。




細い足は誰にもわからぬよう震えている。




震える白ヤギと共に何杯もお茶を飲み



夜を迎える。












#46.水

2018年04月05日 | 星玉帳-Blue Letters-
【水】


広場に水売りの屋台が出ていた。




水の星から運ばれた様々な色水が並ぶ。




その中からよく冷えた銀色の水を求めた。




水の星で暮らしていたことを




忘れかけては思い出し



その度



水を手にする。




そして




思い出す事を何かの色に染めようとしても




何色にもならないことを知る。




この水は傷みに効くだろうか。