濁泥水の岡目八目

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間宮林蔵が裸足で歩いたのは、隠密任務で全力疾走するためだった

2017-11-22 14:19:25 | 歴史談話


間宮林蔵は変人だった。これは事実であるが、彼を貶めるものではない。彼のようにずば抜けた知性と知識、強靭な肉体と強固な精神力によって驚嘆する様な実績を上げたという自信があれば、他人の思惑など全く無視したくなるのも無理はない。彼の身分は低かったが、幕臣としてのあらゆる規則を破って好き勝手に暮らしていたのである。老中が彼の上司に「間宮林蔵は今どこにいるんだ?」と聞いたが、上司は返答に困ったという。勝手に引っ越しをして、引っ越し先の住所を上司に報告もしなかったのである。
「俺のように有能な男を首に出来るものならやってみろ!」
という態度をむき出しにしていたのだ。そもそも彼の身分で老中がその名前を知っていたこと自体、彼がいかに特別な立場であったのかと分かる。本来なら老中とは全く係わりのない下っ端のはずである。間宮林蔵の変わり者ぶりの一つに、常に裸足で歩いたという事がある。人にその理由を聞かれて「足の裏が軟らかくなると困る。」と答えたそうである。その意味を考えてみた。 
 間宮林蔵が裸足で歩いていたのは、足の裏を靴底のように硬くして何時でも何処でも全速力で駆け出せるようにする為だったと思う。北方探検の後で彼は隠密として各地を探索したが、乞食によく変装したという。その時に経費として大金(現在の金で数百万円もするらしい)を懐に入れたが、着物がボロボロなので隠すのに苦労したと語っている。隠密の経費は使い方など報告する必要は無いし出来ないから(金を貰って情報を漏らした奴が領収書を書くか?)経費で安楽な旅をしてもよかったはずである。宿屋にも泊まれぬ乞食姿になったのは、北方探検で無人の原野や森林の中で野宿し続けた彼には、日本本土の野宿など何の辛さも感じずに宿屋など面倒くさいだけだと思ったのだろう。
 ただ乞食姿で大金を持って旅をするのは危険を伴う。人に襲われるかもしれないのだ。普通の人々は乞食など相手にしない。しかし世の中には弱い者いじめが大好きなタチの悪い奴等も結構いる。現在でもホームレスを襲う馬鹿がいるだろう。さらに最も危険なのは地元の乞食である。商売敵が来たと思い込んで追い払おうとするだろう。博徒の敵は博徒、乞食の敵は乞食である。食い扶持を奪い合う同業こそ敵である。もちろん間宮林蔵は彼等と争う必要は全く無い。出来るだけ避ければいい。しかし大金を身に付けていると気付かれたら大変である。死にもの狂いで追ってくるだろう。
 だから間宮林蔵は少しでも危なそうな連中を見たら、全速力で逃げ出したはずである。道の両脇が田畑でも草原でも森や岩場であろうと全力疾走して逃げてしまえばいいのである。彼の足の裏は靴底のように固いからどんな場所でも痛みを感じなかったのだろう。そのために裸足で足の裏を鍛えていたのである。当時の日本人の履物は草履や雪駄や下駄のように指先に引っ掛けるものだから全力疾走など出来ない。すぐ脱げてしまう。ただ旅に出る時は足首まで締め付けた草鞋に脚絆を巻いて足拵えをしっかりさせた。これなら全力疾走出来るが、そんな姿の人間が因縁を付けたりはしないだろう。探索している藩の武士に追いかけられたらその可能性もあるが、それはもう別次元の話である。普通の草履は消耗品だから、使い捨てられたものを拾ったり貰ったりして乞食でも履けただろう。履くものがあれば乞食だって履いただろう。間宮林蔵のように意識的に裸足で居続ける人間など例外中の例外である。
 普段から履物を履いている者が、草履や雪駄を懐に入れて走ろうとしても足が痛くて走れない。当時の道は舗装されてないし、草原は軟らかい芝生ではない。小石や枯草の茎、森なら木の枝などがあり裸足で走れるものではない。映画「ええじゃないか」で主演した泉谷しげるが裸足で川を渡る場面があるが、川底の小石で死ぬほど足が痛くてやらせる監督を「鬼だ!」と思ったそうである。そんな場所でも間宮林蔵は平然と駆け抜けたであろう。その為に常日頃から裸足で歩いて足の裏を靴底のように固くして鍛えていたのである。何時でも隠密任務につく為には「足の裏が軟らかくなると困る。」と思ったのであろう。

 

 

 



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1 コメント

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このお話、大好きです。 (みかん)
2019-12-06 21:43:21
間宮林蔵って、すごい方なんですね。
隠密で、乞食に扮装するのが得意だったとか、
歩いて、択捉まで探索したとか、
本当にすごいなぁ〜と感心しています。
まるで、日本昔話の桃太郎や、
浦島太郎のように、
間宮林蔵のこの記事は、
何度読んでも楽しくて、わくわくします!!
ありがとうございます。

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