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『リアル鬼ごっこ』山田悠介作品の素晴らしいところを分析する(2)

2007-10-26 04:18:25 | 本・コミック・かってに配役
「平成版日本三大奇書の1つ」
「読み終わった後床に叩きつけた」
「一番楽しむ方法はレビューを読むこと」

などなど,小説としてではなく,その文章の劣悪さを
笑うネタとして話題になりながらミリオン達成してしまった
『リアル鬼ごっこ』。

私もこの本を読んでいないのですが,
  日本語がおかしい  
設定が稚拙

という評判らしく
ネット上に意見を残しておられるほとんどの方
(Amazonレビューの9割以上がバッシング並みの否定的評価。
 文芸社版・幻冬舎文庫版ともレビュー569件で…共通なのか?
 …星2つ★★★★★)は
「なぜこれがこんなに売れているのか理解できない」
「今後の日本は大丈夫なのか」

と不可解さに頭を悩ませているようでしたので,
その謎に対する私の見解を。
PART2の今回は,文法・文体編のつづきとストーリー編です。


前回のエントリー「『リアル鬼ごっこ』山田悠介作品の素晴らしいところを分析する(1)」

~超初歩的な誤字脱字のほか,
『リアル鬼ごっこ』をはじめとする山田悠介作品の特徴として,
「読んだ内容多少を忘れてしまったり読み飛ばしても同じ内容の文が繰り返し出てくるので安心です」と評される
別名「山田リピート」が挙げられます。

短い範囲に同じ言葉や言い回しが何度も繰り返されるのは下手な文章の見本,
文章を書くときにはなるべく避けましょう というのは
小学校の国語でも教わる基本中の基本
ですが,
【3】で触れたように,山田ersは読んだ内容を片っ端から忘れていくので
リピートされればされるほど印象が強まって良いと感じる

のではないかと思われます。

さらに気がつくのは,
「いざ、着地してみるとそこは森の様な草むらに二人は降り立っていた」
「着地してみるとそこは森のような草むらだった」
「森の様な草むらに二人は降り立っていた」という同じ意味の2つの文章を
少しずらして再度重ね合わせ,1つの文として作り上げられています。
また,先に挙げた,
「二人が向かった先は地元で有名なスーパーに足を踏み入れた」にしても
2つの出来事を1つの文の中で重ね合わせている多層構造。
これはまさに,情景描写のミルフィーユ状態!!
超高度な未来的テクニックなのかもしれません。

芥川賞作家の平野啓一郎,ノーベル文学賞作家の大江健三郎
といった大作家は,一度読みやすい文章で書いたストーリーを
わざわざ読みにくい文章に書き直して作品として仕上げるといいますが
山田文体も,実は他人の追随を許さない,
それどころか素人にはその良さすら理解できない
超々々高度なテクニックの産物なのやも…。

第2次世界大戦でヒトラー率いるナチス党がドイツの人心を掌握するため
駆使した宣伝テクニックとして,1日の疲れや夕暮れの暗さ・赤い光で
人々の判断能力が低下している夕方に街頭やラジオで演説を行い,
単純で印象的なフレーズを繰り返し使うことで感情をたかぶらせ,
自分たちに対して好感をもたせる
というものがありました。

山田ersは学校や塾,家庭で精神的に疲れた日々を送っている人たちなのかもしれません。
はたまた,山田悠介氏がゲッベルス並みの策士なのか?!

その線で考えると,
『リアル鬼ごっこ』で主人公たちが逃走するシーンの描写が
「左に曲がりすぐにもう一度左へ曲がった。真っ直ぐ走ると
 今度は右に、そして、左に(原文のママ)」
という具合で
現実に必死で逃げる人間がバカ正直に道を曲がるだけなんて
ありえねー
と指摘されている点についても説明がつきます。
息詰まる緊迫した状況での逃走の描写をたった38文字で書ききり
その中で「右」と「左」を計4回も繰り返して書くことで
(まさに「10文字で忘れる」理論の裏付け!)
簡潔さによるスピード感と疾走感,リピート効果による強い印象を
読者に与えることに成功しているといえましょう。
壁を乗り越えたり民家の庭を横切ったり屋根に登ったり飛び降りたり
などといった3次元的な逃走の描写
なんて,
オバQのような子ども向けの漫画でさえも
よく出てくるような情景ですが,これを小説で書いたら,
山田ersの脳は映像に変換する処理に時間がかかって,
とてもスピード感や疾走感を感じられるほどスラスラ読めないんでしょう。

「ゲーム感覚」の小説と評されたりもするが
これを楽しめる読み手は「ゲーム脳」なだけなんじゃないか
という批判も,正確にはカセットビジョン以上PS2以下,
ファミコン脳とでも言うべきなのかもしれません。
『フロッガー』でおなじみ「ぴゅう太」脳でもいいかもしれません。


■そして文筆家としては致命的といっても過言ではない
誤字脱字の多さ。そのすさまじさ故に
「山田誤字」・「山田脱字」とも呼ばれたりもしています。
「佐藤さんを捕まえるべく鬼の数である」
ランニング状態で足を止めた
「遠く離れると横浜の巨大な遊園地ができた」
「三人は分かち合うように抱き合った」
営々と逃げ続けた」
「一人の鬼が瞳の奥に飛び込んだ
永遠と続く赤いじゅうたん」
「この話は人々の間とともに長く受け継がれていく」
「二人は鬼たちに目をとらわれていた」
「九人の足跡がピタリと止まった」


だいたいが伝わればいいんです。
【1】で書いたように,山田ersは正確さ・具体性より雰囲気が伝わればいいんです!

たとえば,外国の名曲をBGMとして思い浮かべる必要があるとしましょう。
小説の中にいきなり英文でその歌詞を書かれてあなたは読みますか?
いわんや,五線譜でメロディーを書かれても音符を読みながらストーリーを
追うなんて無理ですよね。
そんなとき,
「サル♪ ゴリラ チンパンジー~♪~♪」
あるいは,
「空きっ腹~~,f餡団子~~~♪」
と書く方がよっぽど書く方も簡潔ですし,読む方もわかりやすい。
鮮明にその曲のメロディーが脳裏によみがえってくるというものです。

表現が厳密でなくても正確でなくても
書き手の書きたかったことが読み手に伝わればいいんです。
ボクシングの亀田史郎元トレーナーが,7年前に
息子の興毅選手に送ったという手紙
※1※2)をご覧なさい。
「興毅よ万文の山はいくつはばまおうとも」(注:×万文 ○万丈)
「戦陣の谷」「前え進め」
など誤字のオンパレードですが
その手紙をずっと大事に保管しておくほど,しっかりと
息子を思う父親の気持ちは興毅選手に伝わったわけですよ。


■続いて,ストーリーに関する特徴。
『リアル鬼ごっこ』の設定に関する指摘・批判として,
・「佐藤姓」皆殺し作戦に至る王様の思考が非常識すぎる。
 その彼たった1人の暴虐ぶりに誰も逆らわないのがおかしすぎる。
・西暦3000年という極端すぎる設定。
 東京~大阪間が新幹線で2時間半など
 描かれている作品舞台の様子が現代と全然変わらず,
 あそこまで極端な未来にする意味が全くない。
・「鬼ごっこ」のルールに穴が多すぎる。(海外逃亡など禁止されていない)
 その穴を突いて逃れようという「佐藤姓」の人間が
 全然いないのもおかしい。
・主人公の翼がバカすぎる。


などと言った点が指摘されています。 
ふつうの読者はフィクションを読むときには
いかに面白く上手なウソをついてくれるかを楽しみ,
当然作品にはウソを納得させる上手なつじつま合わせを
期待するわけですが,
矛盾した内容がさらけ出されたり,当然感じる疑問点について
その穴をあらかじめふさいでおく配慮がなされていないと
粗さが気になって気持ちが入り込めず
作品を楽しむことができなかったりするものです。しかし,
【4】山田ersは,ピュアなので
書かれている以外のことについていちいち考えないし
疑問など持たない。


主人公をはじめとする登場人物に対して「なんでこうしないのか」
なんて思わないんです。
主人公が怒れば一緒に怒り,主人公がどんなに愚かなミスで
悲劇に見舞われたとしてもその愚かさに呆れたりなどせず
主人公と一緒に不運を嘆くのです。

そういうピュアな心を持っていると考えないと説明がつきません。


■話の運び方について
伏線を張らない・
逆に前に出てきた話と矛盾する展開が多々ある

というような点についても同様です。

いきあたりばったり,いいじゃないですか。
きっと想像するに,山田悠介先生は,自分が見た夢
きちんとメモするなりして記録に残しておいて
それを小説という形で詳細に再現したんですよ。
だったら,あの漫画史に残る名作・つげ義春先生の『ねじ式』
よりよっぽど理知的で話がちゃんとつながっているじゃないですか。

そして,『リアル鬼ごっこ』など山田作品では
前後の話に全く関係ないシーン(食事のシーンなど)が
延々と続くというようなことが多々見受けられるそうですが,
山田ersは,ストーリーのつながりとか構成とか関係ないんです。
場面場面の雰囲気を楽しむのですから,別に前後の流れと関係ない,
ストーリーを進める上で必要のないシーンがあっても
その場面でシリアスっぽい雰囲気とか友情なり絆とか
感動できる要素を感じられればそれでいいんです。

幼稚園児に30分くらいの芝居や映画・ビデオを見せてごらんなさい。
発達の度合いに個人差はあるものの,
低・中学年だったら,仮に全部通して見られる集中力が続いたとしても
彼(彼女)はストーリーの流れなど全く覚えていません。
ただ,面白かった場面があった,怖いシーンがあった,
悲しい出来事が起こったという記憶,途中途中の場面で
かきたてられた感情がその作品全体に対する印象・評価
になるのです。

「誰々は結局つかまってしまってかわいそうでした」
「王様はひどくて許せないと思いました」
→怒りや悲しみ満載の感動作


以上の見解をまとめますと,
【山田ersの特徴】
とてもピュアで主人公に感情移入しやすく
文面で書かれている以上のことは想像・推察しない。
小説の内容に矛盾があってもいちいち疑問など持たない。
10文字以内の単位で文章を読んでは片っ端から忘れていくので
平易な表現で同じ単語や文が繰り返し出てくる文章が読みやすい。
1つの文や1ページあたりに多くの情報量を詰め込まれても
ありがたくなく,具体的・詳細な描写より雰囲気が伝わる短い表現
(たとえば「豪華な朝食」)がよいと感じる。

で,今の日本では,そんな人たちが増えている。


といったところでしょうか。

『リアル鬼ごっこ』が書かれた当時より時代は進み,
人気を集め,書籍化すれば何十万冊と売れるという
ケータイ小説が花盛りといいますが,
ケータイ小説の多くもまた山田悠介作品が持つ要素を持っている
ようですから,
短歌に新しい感覚を持ち込んだ俵万智先生のように
日本文学における表現方法の新潮流を立ち上げたパイオニアとして
10年後には科学的・社会的に評価されているかもしれませんね。



ちなみに,金欠で一年中閑古鳥がピーピー泣いていて
年中お金が欲しいお金が欲しいと口癖のように物語っている
私が心の中では言うまでもなく
山田氏が一連の作品で巨万の印税を得ている件に対して当然
怪獣バリゾーゴンが「ヤマチュー氏ネ!」
半裸芸人タムケンが「山田氏ね!家建てて完成する前日に氏ね!」
と叫び続けていることは自明であり明らかに言うまでもありません。



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『リアル鬼ごっこ』文芸社
 著者インタビューなど。
> 『リアル鬼ごっこ』の完成度の高さからは、書けなかった時があったなんて思えませんね。
> 文芸社とのやり取りの中で一番印象に残っているのは、
> 原稿のやり取りをしている時のことですね。主に言葉の使い方や、
> 物語の組み立てについて教えていただいて。
> いろいろなところを指摘されたことが、とても勉強になりました。



映画『リアル鬼ごっこ』

ついにあの「リアル鬼ごっこ」が実写映画化(GIGAZINE)http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20071023_real_onigokko/


ナチ・ドイツと言語―ヒトラー演説から民衆の悪夢まで

宮田 光雄 (岩波新書2002/07)

大江健三郎作家自身を語る (単行本)

(新潮社2007/05)

日 蝕

平野啓一郎(新潮文庫2002/01)


サラダ記念日―俵万智歌集
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1046448.html
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1063580.html

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4 コメント

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Unknown (カラス)
2009-05-09 23:51:09
禿げ同
余りのも的確すぎてびびった。
返信する
Unknown (xevs)
2010-12-15 11:17:14
豪華な朝食のくだりは誰にも真似できないエンターテインメントとして確立していると私は思います(笑)
返信する
Unknown (まる)
2012-05-17 19:24:48
山田さんの作品には、よくもやもやしたよくわからない気持ちが沸いてきましたが こちらの解釈にすっきりしました。ありがとうございます。
返信する
Unknown (Unknown)
2016-12-12 13:45:45
完璧。
返信する

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