PFAS(ピーファスと読みます)は花粉-食物アレルギー症候群の略称です。
花粉と食物アレルギーがなぜ関係あるの?
と不思議に思う方、その通りですよね。
でも、自然界の摂理がこの病態を作っているらしいのです。
花粉が原因になるアレルギー疾患が、いわゆる花粉症です。
花粉の中のアレルゲン成分(アレルゲンコンポーネント)に人の免疫システムが反応して症状が出るというメカニズム。
一方、PFASに関係する食物アレルゲンは果物や野菜、すなわち植物由来が中心です。
樹木と植物・・・仲間ですよね。
その成分に似た構造があっても不思議ではありません。
事実、植物の進化の過程で生まれた、生存競争を勝ち抜くためのタンパクなどがそれに相当しています。
そして、花粉症を発症したヒトが、そのアレルゲン成分と似た構造を持つ果物や野菜と反応するのがPFASです。
この花粉症にはこの果物・野菜という関係が成り立つのも特徴といえます。
まず花粉症を発症して、それと関連する果物・野菜を食べると症状が出るようになるのが普通の経過です。
症状は口の中だけのことが多く、PFASは「口腔アレルギー症候群」とも呼ばれます。
アレルゲンはヒトの消化液でその分解されて立体構造が失われるとアレルゲン性を失ってしまいます。
なので消化吸収されてから全身性の症状を出すことはまれです。
小児臨床アレルギー学会2021の教育セミナーで、近藤康人先生(藤田保健衛生大学教授)からPFASについてレクチャーがありました。
知識のアップデートとして、視聴メモと私のコメントを記しておきます。
□ PFASの歴史
1942年に Tuft らがシラカンバ花粉症と果物(リンゴ、西洋なし、サクランボ)との関係を報告
1978年に Lowenstein らが花粉と食物の共通抗原性を証明
有名になったのはここ10-20年くらいの印象ですが、もう40年以上前に証明されていたのですね。
□ シラカンバ花粉アレルゲン
シラカンバは Birch(学名:Betula verrucosa)
【Bet v 1(PR-10)】
・生体防御タンパク(Pathogenesis-relater protein)の一つで、花粉だけでなく種や実にも存在し、症状を誘発するが、Profilinと比べて種が限定される。
【Bet v 2(Profilin)】
・Pan-allergenと呼ばれ、多くの種に普遍的に存在しているため、様々な植物間で交叉抗原性の主な原因となっているが、症状を起こさないこともある。
シラカンバの主要アレルゲンは Bet v 1 というコンポーネントです。
これに反応する場合は、いろいろな花粉を一緒に検査しても、シラカンバだけで陽性になるパターンが多い。
一方、Bet v 2 に反応してシラカンバが陽性になる場合は、多数のほかの花粉でも弱陽性になるパターンが多くなります。
多数の似たアレルゲンが弱陽性の場合は、症状と関連しないことが多く、あまり意味がないと考えられています。
□ 生体防御タンパク(Pathogenesis-relater proteins: PR-P)
・生体防御タンパクとは、病原体攻撃または非生物的ストレスにより誘発される生体防御タンパク質。
・外敵から植物自身を守る働きをする。
・植物が病原体からの攻撃や、干ばつ、洪水、慣例などの攻撃を受けると、防御機構として誘発される。
・生体防御タンパクには17群が知られている。
・Bet v 1 はPR-Pの10番目(PR-10)に属する。
このPR-Pは植物が自分を守るために進化の過程で獲得したシステムであり、
全く同じでなくても似た構造の物質を、多種類の植物がもっているもの。
そしてこのような成分がアレルギーを惹起する性質を持つことがあると、
多種類の植物に反応してしまいます。
また、多種類に共通するアレルゲン構造は植物だけには限らず、
広く動植物に分布しています。
その視点から分類したものが「アレルゲンスーパーファミリー」です。
□ アレルゲンスーパーファミリー(食物アレルギー)
共通の起源から進化してきたタンパク質は同じファミリーに分類される。
共通の基本構造を有しているため交差抗原/交差反応を生じやすい。
植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー
(プロラミン)
・穀物のプロラミン:Tri a 19(小麦)など
・Bifunctional inhibitor:Hor a 15(大麦)など
・2Sアルブミン:Jug r 1(クルミ)など
・Non-specific lipid-transfer proteins(nsLTP)など
(クーピン)
・ビシリン:Pis s 1(エンドウ)など
・レグミン:Mac i 2(マカダミア)など
(Bet v 1-like)
・Bet v 1:Mal d 1(リンゴ)など
(Profilin-like)
・プロフィリン:Cuc m 2(メロン)など
動植物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー
(EF-hand)
・植物 ポルカルチン:Bra r 5(菜の花)
・動物 パルブアルブミン:Gad c 1(タラ)など
動物性アレルゲンタンパク質スーパーファミリー
(Tropomyosin-like)
・トロポミオシン Pen m 1(ブラックタイガー)など
この辺から複雑化して混乱してきますね。
□ Bet v 1 ホモログ(PR-10)のアレルゲン
Bet v 1 ホモログは生体防御タンパク(PR-10)なので、様々な植物にも存在する。
カバノキ科アレルギーの人は、リンゴなど様々な食品にアレルギーを起こす。
(花粉)
カバノキ科:Bet v 1(シラカンバ)、Aln g 1(ハンノキ)、Cor a 1(ハシバミ)、Car b 1(シデ)
ブナ科:Fag s 1(ブナ)、Que a 1(オーク)、Cas s 1(クリ)
(食物)
セリ科:Apo g 1(セロリ)、Dau c 1(ニンジン)
バラ科:Mal d 1(リンゴ)、Fra a 1(イチゴ)、Pru ar 1(アンズ)、Pru p 1(モモ)、Pru av 1(サクランボ)、Pyr c 1(ナシ)、Rub i 1(キイチゴ)
ナス科:Sola l 4(トマト)
マタタビ科:Act d 8(グリーンキウイ)、Act c 8(ゴールドキウイ)
マメ科:Ara h 8(ピーナッツ)、Gly m 4(大豆)、Vig r 1(緑豆)
カバノキ科:Cor a 1.04(ヘーゼル)
クルミ科:Jug r 5(クルミ)
★ Bet v 1 とMal d 1 のアミノ酸配列上の同一性は56%。
□ Bet v 1 ホモログ:Bet v 1 とのアミノ酸相同性
Aln g 1(ハンノキ)とBet v 1(シラカンバ)の相同性は81%。この二つのコンポーネントとの相同性は以下の通り;
バラ科食物(リンゴ、モモ、アンズ、サクランボ、西洋梨、レッドラズベリー)→ 55-60%
セリ科食物(セロリ、ニンジン)→ 約40%
マタタビ科食物(キウイ)→ 約50%
ナス科(トマト)→ 45%
カバノキ科(ヘーゼルナッツ)→ 75%
マメ科(ピーナッツ、大豆、緑豆)→ 43-49%
□ Bet v 1 の特徴
・生体防御タンパク質:様々な植物にも存在するため、バラ科食物などにアレルギーを起こす。
・OASの主な原因:IgEエピトープがタンパク表面上にあるため、Bet v 1 ホモログを含む食品を摂取した直後に口腔内でアレルギーを生じる。
・加熱や消化酵素に弱い:缶詰やジャムなど軽度の加熱処理が施されることで摂取可能になる。
□ Bet v 1 ホモログとOAS(口腔内アレルギー症候群)
・Bet v 1 ホモログのIgEエピトープは構造的エピトープのため、加熱に弱い(=加熱すると食べられる)、消化酵素に弱い(=症状は口腔内限局)
・症状は「口腔内アレルギー症候群」(Oral allergy syndrome)として現れる:口唇や口腔内、のどや耳の奥のかゆみ、ぴりぴり感やチカチカという異常感覚。口唇や口腔内に軽微な浮腫を伴うことあり。
□ PFAS(pollen-food allergy syndrome)の概念
・花粉-食物アレルギー症候群とは、花粉感作後に、花粉と交叉抗原性を有する植物生食物を経口摂取してアレルギー症状を来す病態
・PFASは口腔咽頭症状に限局することが多く、口腔咽頭症状を主徴とすることから「口腔アレルギー症候群」(oral allergy syndrome)とも呼ばれる。
□ PFAS一覧表
□ PFASの指導・管理上の注意点
・摂食時に口腔違和感を感じる食品(果物・野菜)の除去
・Bet v 1 ホモログを含む食品の“しぼりたてジュース”を不用意に一気に大量に飲むことを避ける
・加熱処理した野菜や果物の加工食品は食べてもよい
・果物(植物)のコンポーネント含有量は以下の状況で異なる;
品種間
季節および熟成度
部位(上部・下部)
生育過程、貯蔵過程で受けるストレスの程度