小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

意外なところに隠れているアレルゲン物質〜家のホコリにクルミ、洗顔料に小麦・トウモロコシ!

2023年08月14日 10時33分29秒 | 食物アレルギー
約15年前、食物アレルギーの原因というか、
感作ルートが明らかになりました。
それは「バリアの壊れた皮膚」、つまり湿疹です。

バリアの壊れた皮膚から侵入する物質(たんぱく質)を、
人の免疫システムは“敵”と見なして排除しようとします。
このやり取りが繰り返されると、
人の身体はその物質を受け付けない体質に変化します。
これがアレルゲンとアレルギーの関係であり、
皮膚から侵入 → アレルギー成立という現象を“経皮感作”と呼びます。

注目されたのが乳児湿疹です。
生後数ヶ月の赤ちゃんに湿疹が出てくると、
部屋の中に存在するアレルゲン物質が皮膚に付着を繰り返し、
“経皮感作”が成立してしまうのです。

乳児アトピー性皮膚炎に食物アレルギーが多い現象が、
これで説明できるようになりました。
実際に乳児湿疹をしっかり治療すると、
食物アレルギー発生率が下がることが報告されています。

え、うちではしっかり掃除しているからそんなことは起こらない?

いえいえ、部屋の中にはダニアレルゲンや、
それを上回る卵の微粒子がたくさん存在しているのです。

▢ 100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出
100%の家庭の子どもの寝具から鶏卵アレルゲンが検出されました。
しかも、鶏卵アレルゲンがダニアレルゲンよりも高濃度で検出されました。
エコチル調査パイロット調査に参加している子どもの寝具を掃除機で埃を吸い取り、埃中のチリダニアレルゲン、鶏卵アレルゲンの量を調べました100%の子どもの寝具の埃から鶏卵アレルゲンが検出され、それら全ての家庭でダニアレルゲン量よりも高濃度で検出しました。この研究成果は、2019年3月5日に日本アレルギー学会公式英文雑誌であるAllergology Internationalより発表されました。

さて近年、ナッツアレルギーが急増していることが関連学会で話題になっています。

▢ 食物アレルギーにおいて3位の頻度になったナッツ類アレルギー。検査は?治療は?
堀向健太:医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

従来の食物アレルギーベスト3は、
1.鶏卵
2.牛乳
3.小麦
が定番でしたが、現在は小麦を抜いてナッツが3位に躍り出ました。
その中でもクルミの増加が著しい。
これはクルミの輸入量と比例しており、
クルミが日本人の食生活に浸透してきた弊害とも言えます。

さて、クルミのアレルゲンは室内に存在するのでしょうか?
答えは YES です。

▢ 家庭内のほこりにクルミアレルゲン
 比企野綾子(2023年07月18日:Medical Tribune
 日本では近年、クルミアレルギー患者が急増している。国立成育医療研究センターアレルギーセンターの安戸裕貴氏、センター長の大矢幸弘氏らは、同センターアレルギーセンターを受診した小児の家庭内のほこりを調査した結果、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在を確認したと、Allergol Int(2023年6月29日オンライン版)に報告。「クルミアレルギー発症との因果関係を示すものではないが、家庭内のほこりにクルミアレルゲンが存在することが示された」としている。

◆ リビングルームと子供用ベッドからほこりを採取
 食物アレルギーの発症要因として、環境中の食物アレルゲンの存在が注目されている。これまでに大矢氏らは、3歳児の寝具を調べたところ、全例から鶏卵アレルゲンが検出されたことを報告している(Allergol Int 2019; 68: 391-393)。しかし、過去に環境中のクルミアレルゲンについて検討した研究はほとんどない。そこで今回、家庭内のほこりに含まれるクルミアレルゲンについて調査した。
 対象は、国立成育医療研究センターアレルギーセンターの外来を受診した小児(年齢中央値6.9歳、範囲1.6~16.6歳)の家庭のうち、食物アレルギーの患児がいる32家庭およびいない13家庭。食物アレルギーの内訳は、クルミアレルギーが11家庭、ピーナツアレルギーが13家庭、卵アレルギーが18家庭(複数回答あり)だった。
 家庭におけるクルミの摂取状況は、2021年8月と11月にアンケートを実施して調査。ほこり採取日前の6週間分について、週平均の摂取量を算出した。
 ほこりの採取はスタッフが各家庭を訪問し行った。リビングルーム、子供用ベッドの上のほこりを同一手法で採取し、ELISA法でほこり中のクルミアレルゲン量を測定した。
 クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1への感作については、ほこり採取日の前後1年以内に測定されたJug r 1特異的IgE値を用いた。

◆ Jug r 1感作陽性児の50%で、ベッドのほこりにクルミアレルゲン
 検討の結果、約3分の1の家庭(リビングルーム13家庭、子供用ベッド14家庭)で、家庭内のほこりから環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンが高レベル(200μg/g以上、最大6万μg/g)で検出された。
 また、家庭内におけるクルミの消費量が4g/週未満の家庭と比べ、4g/週以上の家庭ではリビングルームと子供用ベッドの両方でほこりに含まれるクルミアレルゲンの量が有意に多かった(順にP=0.0053、P=0.0025)。
 さらに、クルミ由来の主要アレルゲン蛋白質Jug r 1に対する感作が陰性だった子供のベッド(9家庭)のほこりからは、クルミアレルゲンが検出されなかった。一方、Jug r 1に対する感作が陽性だった子供のベッドの半数(6家庭中3家庭)で、ほこりからクルミアレルゲンが検出された
 以上から、安戸氏らは「家庭内のほこりにはクルミアレルゲンが存在しており、小児のクルミアレルゲン感作と関連する可能性が示唆された」と結論。その上で、「昨今のクルミアレルギー患者の増加の一因として、環境アレルゲンとしてのクルミアレルゲンの存在が考えられ、今後注視していく必要がある」と付言している。

次は洗顔料に含まれるトウモロコシ成分で感作され、
トルティーヤを食べたらアナフィラキシー(重度のアレルギー症状)を発症した報告例を紹介します。

▢ 洗顔料のトウモロコシ成分に注意!トルティーヤでアナフィラキシーを起こした一例
・・・トウモロコシによるアナフィラキシーショック症例が、第52回日本皮膚免疫アレルギー学会(2022年12月16〜18日)で報告された。発表した京都府立医科大学附属病院皮膚科の谷口正和氏は、スクラブ洗顔料中のトウモロコシ成分による感作に注意を呼び掛けている。
◆ 摂取の15分後にアナフィラキシーを発現
 患者は51歳女性。幼児期からアトピー性皮膚炎を有していたが、食物アレルギーの既往はなかった。メキシコ料理店でトルティーヤ(トウモロコシ粉で作る薄焼きパン)を食べ、店を出て15分ほど歩いたときに頸部発赤、全身瘙痒、呼吸困難が出現、血圧低下がみられたため救急車を要請した。・・・原因精査の目的で京都府立大学皮膚科を受診した。
 谷口氏が血液検査を行ったところ、総IgEは3,075IU/mLと高かった。抗原特異的IgEではヤケヒョウダニとハウスダストIが高値(クラス6)を示したが、これはアトピー性皮膚炎の原因と考えられた。注目すべきはトウモロコシがクラス3と高い点であった。
◆ トルティーヤとトウモロコシアレルゲンがプリックテスト陽性
 次に、メキシコ料理店で供された玉ネギやチキン、トルティーヤやカルニータス(豚肉のラード煮込み)などに絞ってプリックテストを行った。すると、トルティーヤと「トリイ」トウモロコシ(診断用アレルゲン皮内エキス)のみ15分後判定で陽性だった。そして患者に日常生活を尋ねると、トウモロコシ成分の入った洗顔料の使用が判明した。また、前年までトウモロコシ入り食物繊維食品を摂取していたことも分かった。・・・再度のプリック検査を施行した。・・・陽性を示したのは、22品目中コーンスターチ、トウモロコシ缶詰、トウモロコシ生のみ。トウモロコシ含有洗顔料のスクラブパックは陰性だった
・・・
◆ 疑われるトウモロコシ含有洗顔料による感作
 以上から、本症例はトウモロコシアレルギーと診断された。以前は普通にトウモロコシを食べられていたので、トウモロコシ含有洗顔料で感作され、大量のトルティーヤでアナフィラキシーが生じたと谷口氏は考えた。感作経路は立証できなかったが、トウモロコシ摂取と洗顔料使用は控えるよう説明したという。
 一般に食物アレルギーの感作経路としては、
①経口:消化管粘膜で感作
②経気道:花粉に感作しそれに交叉性を持つ食物の摂取で症状が現れる
ーの両者が多数を占める。ところが近年、成人発症の食物アレルギーとして、
③経皮感作
が注目されている。健常な皮膚は分子量500 Da(ダルトン)以下の物質しか通過できない。トウモロコシの主なアレルゲンであるプロフィリンやLTP(lipid transfer protein)などはどれも9kDa以上で、本来、皮膚バリアを突破できないはずだ。・・・
 しかし、本症例にはアトピー性皮膚炎の既往があり、またスクラブ洗顔料で顔面をこすることで角質が除去され、バリア機能が低下していたそのため、食物抗原が皮膚を通過、経皮感作が成立してアレルギーを発症したのでないかと、同氏は推測している。
◆ 食品を含む洗顔料では食物アレルギーに注意する必要がある
 トウモロコシアレルギーの報告数は多くない1)。比較的まれな食物アレルギーといえるだろう。同大学病院皮膚科では、たまたま成人発症トウモロコシアレルギー症例を経験しており2)、容易にトウモロコシを疑うことができた。
 選考症例はトウモロコシ含有せっけんで洗顔しており、経皮感作後のアレルギー発症という流れも同じだった。今回の症例では、患者が日常使用していたスクラブ洗顔料にトウモロコシの穂軸の粒子が含まれていた。洗顔料はプリックテストで陽性にならず、トウモロコシ穂軸成分は入手できなかったため、経皮感作の証明はかなわなかった。しかし谷口氏は、食品成分を含有する洗顔料の使用については、食物アレルギーに細心の注意が必要だと述べている。

トウモロコシ成分以外にも、洗顔料に入っている食物成分に感作されてアレルギー症状を誘発した例が報告されています。
有名なのが、2010頃話題になった「茶のしずく石けん事件」

▢ 『茶のしずく石けん事件』とは?食物成分配合化粧品などが招く食物アレルギーに注意!

▢ 茶のしずく石鹸(加水分解コムギ)によるアレルギー~小麦アレルギー

他のアレルゲンの報告例の紹介はこちらにも;

▢ 洗顔料に含有する食物抗原によるアレルギー~小麦以外の例

というわけで、今回のブログのポイントは、
・湿疹病変はしっかり治療してツルツルすべすべが望ましい。
・食品成分の入った洗顔料・スキンケア製品は避けるべし。
でした。


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