抗生物質の乱用が社会問題化している昨今。
近年、抗生物質は抗菌薬と言い換えられるようになりました。その理由は、抗菌薬は細菌をやっつける薬であることを明確化するため。
いわゆる風邪の90%はウイルス性であり抗菌薬は効きません。
残りの10%が細菌性で、その内容は「溶連菌性咽頭炎」「咽頭扁桃膿瘍」「化膿性中耳炎」「マイコプラズマ肺炎」などであり、これを見極めて適切に処方するスキルが臨床医に求められています。
「風邪ですね、じゃあ抗生物質を出しておきます」という方針は「見極める自信がないことを白状する行為」と見ることもできます。
目に付いたAFPによる記事を集めてみました(一部抜粋)。
アジア地域では医師の処方箋なしに薬局で抗菌薬が購入できると聞いていましたが、インドではそれが中止になったことを知りました(表向きは)。
しかし家畜のエサに抗菌薬を使われては、医師にはどうしようもありませんね(泣)。
■ 高まる薬剤耐性菌リスク、インドの抗生物質多用が世界の問題に(2014年08月31日:AFP)
重度の肺炎や気管支炎といった急性の細菌感染症の治療に使われる強力な抗生物質は、本来、最後の最後に頼るべき薬とされる。インドでも処方箋なしの販売は昨年、違法化された。しかし、AFP記者は多くの客でにぎわう薬局で、およそ700ルピー(約1200円)で簡単に購入できた。
医師や医療専門家らは、人口12億人のインドでこのように手軽に抗生物質が入手できる事実が、薬剤耐性菌を増やし、地球規模の問題をもたらしていると指摘する。治療可能となって久しい病気が、再び不治の病になりかねないのだ。
「抗生物質への耐性が上がってきているのは恐怖だ」と、インド医薬品規制当局のGN・シン(GN Singh)局長はAFPの取材に語った。「誤用や乱用は、あってはならない。そのうち、軽い病気でも治せなくなる」
だが、抗生剤が簡単に入手できてしまう現実に「驚きはしない」とシン局長。薬剤師や過剰処方する医師を取り締まり、使い過ぎの危険を患者に説いているが、苦戦しているという。
* 世界で増加する抗生剤使用、インドがけん引
米プリンストン大学(Princeton University)が7月に発表した研究「Global Trends in Antibiotic Consumption 2000-2010(抗生物質消費の世界的傾向・2000~2010年)」によれば、抗生物質の過剰使用は、インドをはじめとする新興国で顕著だという。
経済規模124億ドル(約1.3兆円)のインドの医薬品産業は、世界の抗生物質の3分の1近くをまかなっている。
インドでは、寝ていれば自然に治るような軽い病気でもすぐに治そうと抗生物質を常用する人々が、台頭する中間所得層で増えている。医師たちも、抗生物質が効かない病気にも誤って処方していると、消化器系が専門のスディープ・カナ(Sudeep Khanna)医師は証言する。
「患者から多大なプレッシャーをかけられることが多い。患者はすぐに楽になりたいと思い、医者も早く回復させようと過度な治療を行う傾向がある」(カナ医師)
プリンストン大の研究では、世界の抗生物質の使用量は2000年からの10年間で36%増えた。世界最大の消費国は62%増のインドだ。
*スーパー耐性菌の温床にも
抗生剤の乱用は、薬物耐性のある「スーパーバグ(超強力細菌)」を生む温床となりつつあり、貧困層が多く公衆衛生が不十分なインドに甚大な影響をもたらしていると専門家は指摘する。
2010年、ニューデリーで、ほとんどの抗生物質が効かない新型スーパー耐性菌「NDM-1(ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ、New Delhi metallo-beta-lactamase 1)」が発見された際は、世界中がパニックに陥った。
一方、インドには世界の結核患者860万人の25%が暮らしており、2種類以上の抗生物質に耐性のある「多剤耐性結核」の症例も増えている。
インド政府は昨年、46種類の強力な抗生物質について、処方箋なしの販売を禁止した。この中には結核治療に使われる抗生剤も含まれている。この新政策の下では、抗生物質の製造・販売をチェックし、処方箋の記録を付け、人々の理解を深めるための最善の方法を記したガイドラインが全ての医療関係者に配られる。
国立インド医学研究評議会(Indian Council of Medical Research)のVM・カトク(VM Katoch)議長は、抗生物質の誤用リスクについて国民を広く教育することが急務だと指摘。「インド人は、深く考えることなく気軽に抗生物質を使いすぎている」と苦言を呈した。
■ 抗生物質効かない薬剤耐性菌のまん延、専門家らが警鐘(2014年01月21日:AFP)
専門家の中には、抗生物質の不適切な使用が、世界温暖化やテロ攻撃に匹敵する規模の脅威を健康にもたらしていると指摘する者もいる。ただ薬剤耐性のまん延は完全に予防することができる。
仏パスツール研究所(Pasteur Institute)で抗生物質の研究チームを率いるパトリス・クルバラン(Patrice Courvalin)氏は、「病気の治療が不可能になるということだけでなく、この20年~30年間の進歩が台無しにすらなりかねない」と指摘する。
重篤患者に特定のリスクをもたらす日和見感染細菌に対して有効な抗生物質がなければ、大きな手術、臓器移植、がんや白血病の治療ができなくなる可能性があるという。
英カーディフ大学(Cardiff University)のティモシー・ウォルシュ(Timothy Walsh)教授(医微生物学)は、「世界の一部の国々では、抗生物質がすでに底をついている」と語る。
「インド、パキスタン、バングラデシュ、そしておそらくロシア、東南アジア、南米中部などでは、既に手遅れになりかけている。何も残っていない。しかも不幸なことに、供給経路にさえ残っていないのだ」
服用期間が短すぎる、服用量が少なすぎる、服用を途中でやめるなど、誤った方法での服用で、抗生物質に変異した細菌を殺す効果はなくなる。
服用した薬剤は他の細菌にもダメージを与えるため、優位性を得た耐性菌は他の細菌を支配し増殖することになる。
問題の根底には、医師による抗生物質の不適切あるいは不必要な処方がある。アジアやアフリカなどの一部の地域においては、処方箋なしで安易に薬剤を入手できるケースもあるという。
薬剤耐性のまん延を防ぐには、分別のある薬剤の使用が大事となる。感染がウイルス性と細菌性のどちらなのか、治療効果があるかどうかをより慎重にかつ迅速に診断する必要がある。
畜産業者は家畜に抗生物質を与えることをやめ、病院や個人は細菌の拡散を防ぐために衛生面を向上させる必要がある。
■ 家畜への抗生物質投与にガイドライン、米FDA 耐性菌懸念で(2013年12月12日:AFP)
薬剤耐性菌が世界的に増えていることを受けて、米食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)は11日、家畜への抗生物質の定期的な投与を抑制する業界向けガイドラインを発表した。
ガイドラインに強制力はなく、適用は任意。また、使用を制限する薬剤についても、健康な家畜の成長促進や生産量増大を目的としたものに限定する。さらに3年をめどに、人の感染症治療に重要な抗生物質の家畜への使用を全廃するほか、家畜の病気予防や治療のための薬剤でも、投与に際して獣医師の処方を義務付けるとしている。
世界保健機関(World Health Organization、WHO)は結核やマラリア、淋病といった人の感染症で薬剤耐性菌が広がっている大きな要因の1つに、家畜に対する抗生物質の乱用があると指摘している。
■ 「喉の痛みに抗生物質」いまだ6割、耐性菌への懸念 米調査(2013年10月04日:AFP)
米国では喉の痛みを訴える患者のうち抗生物質が必要なのは1割程度にすぎないにもかかわらず、患者の約6割に抗生物質が処方されているとの調査結果をまとめたレター論文が3日、米国医師会雑誌(Journal of the American Medical Association、JAMA)に掲載された。
抗生物質が効かないスーパーバグ(超強力細菌)発生の一因となるため、抗生物質の過剰処方は危険だ。米国の保健当局は、世界の主な細菌感染症のほぼ全てが、一般的な抗生物質治療に対して耐性を示すようになっていると繰り返し注意を呼び掛けている。
米ハーバード大学(Harvard University)と米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women's Hospital)に所属するマイケル・バーネット(Michael Barnett)氏とジェフリー・リンダー(Jeffrey Linder)氏は最新の研究論文で、1997~2010年に診療所と救急診療部の8100件以上の受診データを分析した。
論文によると、1993年ごろは70~80%程度だった抗生物質の処方率は、2000年ごろ60%程度に下がったが、その後は横ばいだという。
「喉の痛みを訴えて受診する成人患者について言えば、一般的な原因の中では唯一抗生物質が必要になるA群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus、GAS)の有病率は約10%だ」と論文は指摘する。病原菌の抗生物質耐性が強くなる懸念があるにもかかわらず、医師は必ずしも必要ではないペニシリン、アモキシシリン、エリスロマイシンなどの治療薬を日常的に処方する習慣を変えようとしないという。
■ 抗生物質が効かない薬剤耐性菌の脅威(2013年09月18日:AFP)
米国では少なくとも年間200万人が抗生物質に耐性を持つ感染症にかかり、2万3000人がこの種の感染症で死亡しているとの最新の調査報告が、米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)より発表された。
これらの数字は、抗生物質を使いすぎないことの重要性を強調している。調査対象の症例の半数で、例えばウイルス感染症などで、抗生物質の使用は不要か、もしくは不適切ですらあったと研究者らは指摘している。
また、感染症に効果的な治療薬が不足する危険性に対しても、報告書は注意を促している。現状では、新しい抗生物質の開発数は、短期の必要量を満たすには至っていない。
今回の調査対象の病原菌18種の大半は、ありふれたタイプの細菌で、危険度によって「緊急」「懸念」「重要」の3つのカテゴリーに分類されている。フリーデン所長によると、「緊急」グループの中には、特に興味深い次の3種類の病原菌が存在するという。
・カルバペネム耐性腸内細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae、CRE)は「悪夢の細菌」で、基本的にすべての抗生物質に耐性を持ち、血液中に入ると死に至る場合がある。
・クロストリジウム・ディフィシレ菌(Clostridium Difficile)は、命を脅かす感染症菌の1つで、年間1万4000人の死亡と25万件の入院に関連している。
・薬剤耐性淋菌(りんきん)(Drug-Resistant Gonorrhea)は、米国で毎年80万件以上の感染が発生しており、利用可能なすべての薬剤に耐性を示す割合が増加している。
近年、抗生物質は抗菌薬と言い換えられるようになりました。その理由は、抗菌薬は細菌をやっつける薬であることを明確化するため。
いわゆる風邪の90%はウイルス性であり抗菌薬は効きません。
残りの10%が細菌性で、その内容は「溶連菌性咽頭炎」「咽頭扁桃膿瘍」「化膿性中耳炎」「マイコプラズマ肺炎」などであり、これを見極めて適切に処方するスキルが臨床医に求められています。
「風邪ですね、じゃあ抗生物質を出しておきます」という方針は「見極める自信がないことを白状する行為」と見ることもできます。
目に付いたAFPによる記事を集めてみました(一部抜粋)。
アジア地域では医師の処方箋なしに薬局で抗菌薬が購入できると聞いていましたが、インドではそれが中止になったことを知りました(表向きは)。
しかし家畜のエサに抗菌薬を使われては、医師にはどうしようもありませんね(泣)。
■ 高まる薬剤耐性菌リスク、インドの抗生物質多用が世界の問題に(2014年08月31日:AFP)
重度の肺炎や気管支炎といった急性の細菌感染症の治療に使われる強力な抗生物質は、本来、最後の最後に頼るべき薬とされる。インドでも処方箋なしの販売は昨年、違法化された。しかし、AFP記者は多くの客でにぎわう薬局で、およそ700ルピー(約1200円)で簡単に購入できた。
医師や医療専門家らは、人口12億人のインドでこのように手軽に抗生物質が入手できる事実が、薬剤耐性菌を増やし、地球規模の問題をもたらしていると指摘する。治療可能となって久しい病気が、再び不治の病になりかねないのだ。
「抗生物質への耐性が上がってきているのは恐怖だ」と、インド医薬品規制当局のGN・シン(GN Singh)局長はAFPの取材に語った。「誤用や乱用は、あってはならない。そのうち、軽い病気でも治せなくなる」
だが、抗生剤が簡単に入手できてしまう現実に「驚きはしない」とシン局長。薬剤師や過剰処方する医師を取り締まり、使い過ぎの危険を患者に説いているが、苦戦しているという。
* 世界で増加する抗生剤使用、インドがけん引
米プリンストン大学(Princeton University)が7月に発表した研究「Global Trends in Antibiotic Consumption 2000-2010(抗生物質消費の世界的傾向・2000~2010年)」によれば、抗生物質の過剰使用は、インドをはじめとする新興国で顕著だという。
経済規模124億ドル(約1.3兆円)のインドの医薬品産業は、世界の抗生物質の3分の1近くをまかなっている。
インドでは、寝ていれば自然に治るような軽い病気でもすぐに治そうと抗生物質を常用する人々が、台頭する中間所得層で増えている。医師たちも、抗生物質が効かない病気にも誤って処方していると、消化器系が専門のスディープ・カナ(Sudeep Khanna)医師は証言する。
「患者から多大なプレッシャーをかけられることが多い。患者はすぐに楽になりたいと思い、医者も早く回復させようと過度な治療を行う傾向がある」(カナ医師)
プリンストン大の研究では、世界の抗生物質の使用量は2000年からの10年間で36%増えた。世界最大の消費国は62%増のインドだ。
*スーパー耐性菌の温床にも
抗生剤の乱用は、薬物耐性のある「スーパーバグ(超強力細菌)」を生む温床となりつつあり、貧困層が多く公衆衛生が不十分なインドに甚大な影響をもたらしていると専門家は指摘する。
2010年、ニューデリーで、ほとんどの抗生物質が効かない新型スーパー耐性菌「NDM-1(ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ、New Delhi metallo-beta-lactamase 1)」が発見された際は、世界中がパニックに陥った。
一方、インドには世界の結核患者860万人の25%が暮らしており、2種類以上の抗生物質に耐性のある「多剤耐性結核」の症例も増えている。
インド政府は昨年、46種類の強力な抗生物質について、処方箋なしの販売を禁止した。この中には結核治療に使われる抗生剤も含まれている。この新政策の下では、抗生物質の製造・販売をチェックし、処方箋の記録を付け、人々の理解を深めるための最善の方法を記したガイドラインが全ての医療関係者に配られる。
国立インド医学研究評議会(Indian Council of Medical Research)のVM・カトク(VM Katoch)議長は、抗生物質の誤用リスクについて国民を広く教育することが急務だと指摘。「インド人は、深く考えることなく気軽に抗生物質を使いすぎている」と苦言を呈した。
■ 抗生物質効かない薬剤耐性菌のまん延、専門家らが警鐘(2014年01月21日:AFP)
専門家の中には、抗生物質の不適切な使用が、世界温暖化やテロ攻撃に匹敵する規模の脅威を健康にもたらしていると指摘する者もいる。ただ薬剤耐性のまん延は完全に予防することができる。
仏パスツール研究所(Pasteur Institute)で抗生物質の研究チームを率いるパトリス・クルバラン(Patrice Courvalin)氏は、「病気の治療が不可能になるということだけでなく、この20年~30年間の進歩が台無しにすらなりかねない」と指摘する。
重篤患者に特定のリスクをもたらす日和見感染細菌に対して有効な抗生物質がなければ、大きな手術、臓器移植、がんや白血病の治療ができなくなる可能性があるという。
英カーディフ大学(Cardiff University)のティモシー・ウォルシュ(Timothy Walsh)教授(医微生物学)は、「世界の一部の国々では、抗生物質がすでに底をついている」と語る。
「インド、パキスタン、バングラデシュ、そしておそらくロシア、東南アジア、南米中部などでは、既に手遅れになりかけている。何も残っていない。しかも不幸なことに、供給経路にさえ残っていないのだ」
服用期間が短すぎる、服用量が少なすぎる、服用を途中でやめるなど、誤った方法での服用で、抗生物質に変異した細菌を殺す効果はなくなる。
服用した薬剤は他の細菌にもダメージを与えるため、優位性を得た耐性菌は他の細菌を支配し増殖することになる。
問題の根底には、医師による抗生物質の不適切あるいは不必要な処方がある。アジアやアフリカなどの一部の地域においては、処方箋なしで安易に薬剤を入手できるケースもあるという。
薬剤耐性のまん延を防ぐには、分別のある薬剤の使用が大事となる。感染がウイルス性と細菌性のどちらなのか、治療効果があるかどうかをより慎重にかつ迅速に診断する必要がある。
畜産業者は家畜に抗生物質を与えることをやめ、病院や個人は細菌の拡散を防ぐために衛生面を向上させる必要がある。
■ 家畜への抗生物質投与にガイドライン、米FDA 耐性菌懸念で(2013年12月12日:AFP)
薬剤耐性菌が世界的に増えていることを受けて、米食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)は11日、家畜への抗生物質の定期的な投与を抑制する業界向けガイドラインを発表した。
ガイドラインに強制力はなく、適用は任意。また、使用を制限する薬剤についても、健康な家畜の成長促進や生産量増大を目的としたものに限定する。さらに3年をめどに、人の感染症治療に重要な抗生物質の家畜への使用を全廃するほか、家畜の病気予防や治療のための薬剤でも、投与に際して獣医師の処方を義務付けるとしている。
世界保健機関(World Health Organization、WHO)は結核やマラリア、淋病といった人の感染症で薬剤耐性菌が広がっている大きな要因の1つに、家畜に対する抗生物質の乱用があると指摘している。
■ 「喉の痛みに抗生物質」いまだ6割、耐性菌への懸念 米調査(2013年10月04日:AFP)
米国では喉の痛みを訴える患者のうち抗生物質が必要なのは1割程度にすぎないにもかかわらず、患者の約6割に抗生物質が処方されているとの調査結果をまとめたレター論文が3日、米国医師会雑誌(Journal of the American Medical Association、JAMA)に掲載された。
抗生物質が効かないスーパーバグ(超強力細菌)発生の一因となるため、抗生物質の過剰処方は危険だ。米国の保健当局は、世界の主な細菌感染症のほぼ全てが、一般的な抗生物質治療に対して耐性を示すようになっていると繰り返し注意を呼び掛けている。
米ハーバード大学(Harvard University)と米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women's Hospital)に所属するマイケル・バーネット(Michael Barnett)氏とジェフリー・リンダー(Jeffrey Linder)氏は最新の研究論文で、1997~2010年に診療所と救急診療部の8100件以上の受診データを分析した。
論文によると、1993年ごろは70~80%程度だった抗生物質の処方率は、2000年ごろ60%程度に下がったが、その後は横ばいだという。
「喉の痛みを訴えて受診する成人患者について言えば、一般的な原因の中では唯一抗生物質が必要になるA群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus、GAS)の有病率は約10%だ」と論文は指摘する。病原菌の抗生物質耐性が強くなる懸念があるにもかかわらず、医師は必ずしも必要ではないペニシリン、アモキシシリン、エリスロマイシンなどの治療薬を日常的に処方する習慣を変えようとしないという。
■ 抗生物質が効かない薬剤耐性菌の脅威(2013年09月18日:AFP)
米国では少なくとも年間200万人が抗生物質に耐性を持つ感染症にかかり、2万3000人がこの種の感染症で死亡しているとの最新の調査報告が、米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)より発表された。
これらの数字は、抗生物質を使いすぎないことの重要性を強調している。調査対象の症例の半数で、例えばウイルス感染症などで、抗生物質の使用は不要か、もしくは不適切ですらあったと研究者らは指摘している。
また、感染症に効果的な治療薬が不足する危険性に対しても、報告書は注意を促している。現状では、新しい抗生物質の開発数は、短期の必要量を満たすには至っていない。
今回の調査対象の病原菌18種の大半は、ありふれたタイプの細菌で、危険度によって「緊急」「懸念」「重要」の3つのカテゴリーに分類されている。フリーデン所長によると、「緊急」グループの中には、特に興味深い次の3種類の病原菌が存在するという。
・カルバペネム耐性腸内細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae、CRE)は「悪夢の細菌」で、基本的にすべての抗生物質に耐性を持ち、血液中に入ると死に至る場合がある。
・クロストリジウム・ディフィシレ菌(Clostridium Difficile)は、命を脅かす感染症菌の1つで、年間1万4000人の死亡と25万件の入院に関連している。
・薬剤耐性淋菌(りんきん)(Drug-Resistant Gonorrhea)は、米国で毎年80万件以上の感染が発生しており、利用可能なすべての薬剤に耐性を示す割合が増加している。