HPVワクチンが定期接種ながらも「積極的勧奨停止」状態になり、
もう何年経つんだろう。
接種率は70%から1%に落ち込み、忘れられたワクチン。
しかし最近、風向きが変わってきた印象があります。
まず、「サーバリックスが品不足で出荷調整」に入ったこと。
予定数の1%しか接種していないのに「品不足」なんてあり得ません。
接種数がじわじわ増えてきたことが覗えます。
また、親の判断で接種しなかった女子が成人になり、
「私は接種したい」
「接種の機会を与えてください」
と主張しはじめました。
(2020.8.2 BuzzFeed JAPAN)
公的機関が発信源の情報はすべてHPVワクチンが安全であることを示していることに気づいたと書かれています。
第三者、Twitter、視聴率稼ぎ目的の報道は危険性を煽って炎上している、と。
そんな折、スゥエーデンから新しい報告がありました。
従来の報告では「前がん状態を減らす効果が確認された」に留まったのですが、
今回初めて「子宮頸がん減少」が証明されたことになります。
■ 4価HPVワクチンはスウェーデン女性の子宮頸癌を減らした17歳までに接種した少女では未接種女性に比べ子宮頸癌が88%減少
スウェーデンKarolinska研究所のJiayao Lei氏らは、同国の女性を対象に、4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種とその後の浸潤性子宮頸癌の関係を検討するコホート研究を実施し、ワクチンを接種したことがない女性に比べ、17歳までに接種した少女は子宮頸癌の発症率比が0.12に、17~30歳までに接種した女性は0.47に減少していたと報告した。結果はNEJM誌2020年10月1日号に掲載された。
原題は「HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer」、概要はNEJM誌のウェブサイトで閲覧できる。
この報告を受けて、日本産婦人科学会も声明を出しています。
■ HPVワクチンで劇的効果、学会がコメント スウェーデンのレジストリ研究:NEJM
また、問題になってきた副反応に関しても海外から新たな報告がありました。
デンマークからの報告で、HPVワクチン接種と痛みなどの自律神経障害関連疾患に関係が無いことを証明しています。
■ HPVワクチンと自律神経障害関連疾患は無関係デンマークの女性約137万人を追跡した自己対照ケースシリーズ研究
安全性に関する懸念が、4価のHPVワクチンの普及を妨げているのは日本だけではない。デンマーク、アイルランドでも普及が遅れているという。デンマークStatens Serum InstitutのAnders Hviid氏らは、接種後の発症が懸念されている、慢性疲労症候群や複合性局所疼痛症候群、体位性頻脈症候群といった、自律神経障害を特徴とする疾患と、4価のHPVワクチンの接種の関係を評価するために、住民ベースの自己対照ケースシリーズ研究を実施して、それらの間に有意な関係が見られなかったと報告した。結果はBMJ誌電子版に2020年9月2日に掲載された。
最近は「HPVワクチンを接種した場合と接種しない場合(現況)の比較」もされるようになりました。
以下の報告による試算では、「1994~2007年の間に生まれた女性では、一生涯のうちに2万4,600~2万7,300人が超過罹患し、5,000~5,700人が超過死亡すると推定」されています。
HPVワクチンにより救えるはずの5000人の女性の命が、散ってしまうのです。
そして子宮頸がんは30歳代に増えており、「Mother Killer」と呼ばれています。
幼い子どもを抱えたお母さんの命を奪う病気です。
※ 下線は私が引きました。
■ 子宮頸がん、HPVワクチン積極的勧奨中止で死亡者1万人超の予想
北大ほか、HPVワクチンの積極的勧奨中止による影響を定量化
北海道大学は2月18日、日本での子宮頸がん予防HPVワクチンの「積極的勧奨の中止」による影響を定量化し、ワクチンの「積極的勧奨の中止」を行わなかった場合に、子宮頸がんへの罹患を防ぐことができたと予想できる患者数と、そのために失われた命について具体的な数字を推定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院のSharon Hanley 特任講師やCancer Council New South WalesのKaren Canfell教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Public Health」にオンライン掲載されている。
HPVワクチンは、日本において2013年4月に予防接種法に基づき定期接種化されたが、接種後に痛みやけいれんなどの多様な症状を訴える声が相次ぎ、2か月後にワクチン接種に関する積極的勧奨が中止された。その後、ワクチンと症状は無関係とする数多くの研究成果が出ているが、現在も6年半にわたり「積極的勧奨の中止」は継続している。積極的勧奨の中止前には70%程度あった接種率は、1%未満まで減少し、上昇しない状況が続いている。
そこで研究グループは今回、HPVワクチンの「積極的勧奨の中止」の影響について、「日本における2019年までのHPVワクチンの積極的勧奨の中止が及ぼした影響として、接種した場合に子宮頸がんへの罹患を防ぐことができたと予想できる患者数と、接種しなかったことで失われた命についての具体的な数量値」「HPVワクチン接種の勧奨中止が継続され、低接種率が持続した場合における、子宮頸がんの超過的な患者数及び超過死亡数」「接種率の回復による推定する子宮頸がんの罹患数や死亡数の変化」を定量化することを目的に研究を実施。以上により、「1994~2007年生まれの女性に対する積極的勧奨中止の影響」「上記以降の出生コホートも含む50年間(2020~2069年)の影響」を分析した。
同研究では、英国、オーストラリア、ニュージーランド、中国などの各国政府が子宮頸がん検診とHPVワクチンに関する政策を決定するときに利用するPolicy1 Cervix Modelと呼ばれる数理モデルを使用。平均余命、細胞診陽性におけるHPV感染率、浸潤がんにおけるHPVの型別の感染率、子宮頸がん検診率、がん情報サービスに基づく子宮頸がんの罹患率と死亡率、ステージ別の子宮頸がん生存率などの国内データを適用して、解析した。
研究の結果、積極的勧奨が中止される前に既にHPVワクチンを接種した女性について、接種によって15,400~17,300人の罹患と、3,100~3,400人の死亡が防止されたことが判明。しかし、現在は2013~2019年の間の「積極的勧奨の中止」により接種率が1%となっており、接種率が約70%に維持された場合と比較すると、1994~2007年の間に生まれた女性では、一生涯のうちに2万4,600~2万7,300人が超過罹患し、5,000~5,700人が超過死亡すると推定された。また、これからの50年間で、合わせて5万5,800~6万3,700人が超過罹患し、9,300~1万800人が超過死亡すると推定された。積極的勧奨が再開されず、接種率が現在と同じ1%未満のままであれば、現在12歳の女性だけでも、一生涯のうちに3,400~3,800人が子宮頸がんとなり、700~800人が死亡すると推定される。
積極的勧奨を再開し、12歳時点の女性の接種率が70%に回復した場合、1994~2007年生まれの女性の一生涯への影響は、以下のようになると推定された。
- 2020~2025年の間に緩やかに接種率が回復した場合:超過罹患数は2万3,000~2万5,500人、超過死亡数は4,800~5,400人。
- 2020年に速やかに接種率が回復した場合:超過罹患数は2万2,000~2万4,400人、超過死亡数は4,400~5,100人。
- 2020年に速やかに接種率が回復し、かつ13~20歳にキャッチアップ(未接種であった対象者の50%に接種)を行った場合:超過的な罹患数は9,800~1万1,100人、超過死亡数は2,000~2,300人。
- 2020年に速やかに接種率が回復し、かつ13~20歳のキャッチアップ(未接種であった対象者の50%に接種)を行った上で、日本でまだ未承認である9価ワクチン(7つの型の発がん性HPVを防ぐ)を2020年から使用した場合:超過罹患数は4,300~7,000人、超過死亡数は900~1,600人。
以上の結果より、これまでワクチン未接種であった女性を含むキャッチアップ接種率にも力を入れると、「積極的勧奨の中止」による超過罹患数・死亡数の60~80%の死亡を防ぐことが可能となると判明した。これからの50年間で、ワクチン接種環境が急速に回復し、13~20歳の女性の50%が接種を受けることができれば、80%(4万6,500~5万3,000人)以上の患者の超過罹患と、75~80%(7,100~8,600人)の超過死亡を防ぐことができると推測される。一方、以上の全てのシナリオでワクチンの接種率が70%に回復した場合であっても、2095年までに検診率も上昇しない限り、日本ではWHOが目指している子宮頸がんの公衆衛生問題としての根絶(elimination)(10万人当たり、4人以下)を達成することは不可能となる。
今回の研究結果により、日本でのHPVワクチンの「積極的勧奨の中止」により1994~2007年の間に生まれた女性だけでも、一生涯のうち2万4,600~2万7,300人が子宮頸がんに超過罹患し、5,000~5,700人が死亡すると予測される。直ちに積極的勧奨が再開され、かつ9価ワクチンの承認により、12歳~20歳の女性の接種率を2020年中に50~70%に回復できた場合、子宮頸がんの超過的死亡数の80%の命を救うことができると推定され、積極的勧奨の再開が期待される、と研究グループは述べている。