新型コロナウイルスに対するワクチン開発が世界中ですごいスピードで進んでいます。
2020年11月に入ってから、ロシア、イギリス、米国などから相次いで「ワクチン完成!」のニュースが流れ、
早ければ12月から実施可能とか。
残念ながら日本は出遅れている様子。
しかし、医療者である私は「一般的なワクチン開発には10年くらいかかる」と耳にしてきました。
それが1年以内に完成するなんてあり得るんだろうか?
という素朴な疑問が生まれます。
勇み足というか、鼻息が荒いというか・・・
現時点での報告は「効果が認められた」という中間報告で、たくさんの人に接種した際の副反応の有無を検証した安全性のデータはまだ揃っていないようです。
なぜ鼻息が荒いのか?
・・・ワクチンで世界中の人々を助けようという考えがある一方で、
その裏にはワクチンで儲けようとする人たちもいることが見え隠れしてきます。
大国が威信をかけて「わが国が新型コロナ対策のイニシアチブを取る」競争という要素もありそう。
安全性が担保されていないワクチンを社会主義国(ロシア)では半ば強制的に接種されているらしい。
ロシアではプーチンを露骨に批判すると投獄されたり殺されたりしますから、文句も言えない、
というかなり危ない橋を渡っているとも捉えられます。
それから、ワクチンの効果の一つの要素に「有効期間」があります。
例えば、
・インフルエンザワクチンは約5ヶ月
・麻疹・風疹ワクチンは約10年
・B型肝炎ワクチンは20年以上
等々、実はワクチンにより様々なのです。
自然感染でできた免疫より、ワクチンでできた免疫は早く消えてしまうのが一般的です。
新型コロナワクチンはどうなるでしょうか。
元々、コロナウイルスは春と秋の鼻風邪のウイルスとして有名でしたが、
健康人でも何回も罹ると言われていました。
実際に新型コロナに罹った人も、できた抗体が消えてしまう現象や、
再感染例も報告されています。
身近な例で例えると、インフルエンザと似てますね。
毎年とはいわないけど、数年に一回くらいは罹る。
そして、ワクチンは毎年必要とされている。
新型コロナワクチンも、おそらく接種により一旦免疫ができても、
その効果は年単位で長続きせず、
毎年接種が必要、なんてことになるかもしれません。
それから、現在開発され認可待ちのワクチンは保存条件が厳しいという特徴があります。
先陣を切ったファイザー社(米国)のワクチンは、その保管環境が「マイナス70℃」、
モデルナ社のワクチンは「マイナス20℃」と少し緩和。
「マイナス70℃」を保ちつつ、米国から日本に輸送するのは大変そう。
到着してからも超低温での国内輸送が大変だし、
それを保管できる冷凍庫がある施設が日本にどれだけあるのか疑問です。
昔、大学で研究をしているときに使用していた一番低温の冷凍庫でもマイナス30℃止まりでした。
もしファイザー社のワクチンが日本に入ってきたら、どうやって接種するんだろう?
国民全員分の数は期待できないから、優先順位を付ける必要があります。
おそらく医療関係者、ライフライン関係者、高齢者・・・という順番になるのでしょう。
医療関係者の端くれである私は皆さんより先に接種することになりそうですね。
なんだか、人柱にされるような気分。
・・・以上、あれこれ疑問だらけのモヤッとした私の心を見透かしたように解説してくれる論説を見つけましたので紹介します。
著者はWHOの姿勢にも疑問を投げかけていますねえ。
世界規模の危機が発生したとき、
各国が協力して乗り切るか、
国々が分断して心も体もボロボロになって終わるのか・・・
人類の叡智が試されています。
(川口浩Dr. Medical Tribune「ドクターズアイ」 2020.11.30)
※ 下線は私が引きました。
研究の背景1:製薬企業の事情―ルール違反の「中間報告」競争
最近、米国からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの第Ⅲ相臨床試験に関する2つの朗報が相次いで世界を駆けめぐった。1つは、米・ファイザー社とドイツ・ビオンテック社が共同開発するBNT162b2(11月9日発表)、もう1つは米・モデルナ社のmRNA-1237(11月16日発表)で、ともに極めて良好な有効性が示された。
今回の試験は、2製品ともに3万~4万人規模の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したことのない参加者をワクチン群とプラセボ群にランダムに割り付けて、2回の接種を行った。問題は、双方ともに「最終報告」ではなく「中間報告」であることだ。ファイザー社は、2回目接種から1週以降(1回目接種からは4週以降)、モデルナ社は2週後の成績で、前者では94例(最終目標164例)、後者では95例(最終目標151例)の感染が確認された段階での暫定結果を世界中に公表した、ということである。
臨床試験の中間評価は、「強い副反応が出た」または「薬効が著明なのでプラセボ投与の継続が倫理的に問題である」際に、第三者委員会が試験の継続の是非を判断するためのもので、継続するのであれば暫定結果を「中間報告」すべきではない。検者、被験者が印象操作されることによって、その後の治験の盲検性が失われる可能性があるからである。
まず、「中間報告」の先陣を切ったのはファイザー社である。「両群合わせて94例の感染が確認され、ワクチン接種の有効率は90%以上であった」という内容である(ファイザー社11月9日付プレスリリース)。
インフルエンザワクチンの有効率が年によっては30%程度であることを考えると、極めて高い数字であることには間違いないが、その医学的根拠については全く触れておらず、世界中に多くの混乱を招いた。多くの人が、「ワクチンを接種した90%以上の人がCOVID-19を発症しなかった、または中和抗体ができた」と誤解しているかもしれないが、これは誤りである。ワクチンの有効率は「プラセボ対照群と比べてどれくらい発症を減らしたかを見た数字」である。すなわち、ワクチン接種群とプラセボ接種群を比較して、それぞれの群における発症数(発症率)を比較して出すのがルールである。
そこで、ファイザー社の「発症94例、有効率90%以上」だけの情報から考察すると、ワクチン群での発症は8例以下、プラセボ群は86例以上ということになる。本来86例発症するところを8例に抑えたとすると、86-8=78例を発症させなかったので、有効率は、78/86=90.7%となる。もし、ワクチン群9例、プラセボ群85例の発症だとすると、(85-9)/85=89.4%と90%を割ってしまうので、おそらく「有効率90%以上」とは、ワクチン群8例、プラセボ群86例だったのだろう。
一応、これを確認するためにファイザー社に問い合わせたのだが、「お問い合わせいただきました、『94例のワクチン群とプラセボ群の内訳』および『90%以上のワクチン有効性の具体的な算出方法』につきまして、現時点でご提供可能な情報はございません。この度は先生のご要望にお応えできず、誠に申し訳ございません」というご丁寧なお返事を文書でいただいた。ルールを無視してまで世界中に誤解を招くような曖昧なメディア発表をしておいて、根拠の説明を拒否する理由はなんなのか。
と思っていると、9日後(11月18日)にファイザー社は「170例の感染者に達した最終分析」として、「ワクチン群8例、プラセボ群162例、(162-8)/162=95.1%の有効率が示された。年齢層や人種を問わず有効で、重大な安全性の問題も生じていない。11月20日に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する」と発表した(ファイザー社11月18日付プレスリリース)。
「なんだ、俺の計算でよかったんじゃないか」と思ったが、そうすると、たった9日前に曖昧な「中間報告」をしたことへの疑念がますます深まる。モデルナ社よりも先に発表することで、「世界に先駆けて」のインパクトが必要だったのか。どうしても、政治的、経済的など、なんらかの「オトナの事情」を勘繰ってしまう。ちなみに、ファイザー社のブーラ最高経営責任者(CEO)は、「中間報告」発表当日に暴騰した株価で、持ち株の60%を売却して約560万ドル(約5億8,000万円)の利益を得ている。
後塵を拝してしまったモデルナ社は、ファイザー社から1週間遅れた11月16日に、「臨床試験に参加した約3万例のうち、これまでに95例の感染が確認された。その内訳はワクチン群5例、プラセボ群90例だった。したがって、有効率は(90-5)/90=94.4%」と、腹をくくったような明瞭すぎる「中間報告」をしている(モデルナ社11月16日付プレスリリース)。
勢い(?)で、「感染例のうち、重症11例の全てがプラセボ群で、ワクチン群ではゼロであった。今後数週間以内に、FDAにEUA申請することを目指す予定」とも述べている。
研究の背景2:2つのワクチンへの懸念―効果の持続性、安全性、そして...
両社の真逆ともいえる企業姿勢については賛否両論があるとは思うが、両ワクチンが市場に出た場合には、保存・運搬方法の差が出るかもしれない。ファイザー社のワクチンは-70℃以下の超冷凍で保存しなければならないが、モデルナ社は-20℃での保存が可能である。また、前者は2~8℃の冷蔵庫での保存期間は5日間が限度だが、後者は30日間と6倍の長さである(表)。
付記すると、英・アストラゼネカ社も負けじと11月23日に「中間報告」をした(アストラゼネカ社11月23日付プレスリリース)。このワクチン(AZD1222)はmRNAではなく安定性の高いウイルスベクターワクチンであるため、冷蔵庫の温度ですむという利点がある。有効性については、「2回とも全量投与では有効率が62%、初回が半量で2回目が全量では90%」という報告であった。
しかしその後、同社は「後者については本来2回分を投与するはずのものを誤って1.5回分投与したにすぎなかったことに科学者が後で気づいた」という意味不明の公表をした。試験そのものに疑念が生じるのは当然の帰結である。有効性95%前後のファイザー社やモデルナ社のワクチンに対抗できるかどうかを見極めるには、米国を含めた国際的な追加試験が必須となるだろう。
さて、FDAが認可すれば、ファイザー、モデルナ両社のワクチンは「ワープ・スピード」で12月10日すぎには米国で実用化される見込みである。驚くべきことに、英国政府がファイザー社ワクチンを母国の米国に先駆けて緊急承認し、12月7日にも接種を始めるという報道も出ている。米国の両社は、日本政府とも合計8,500万人分を供給することで合意しており、早ければ日本では来年(2021年)前半にも、ワクチンの接種ができるようになるかもしれない。
しかしながら、両ワクチンへの懸念も多く残されている。1つは効果の持続性である。接種後1~2週程度の有効性を公表することが医学的にどれだけの意味があるのか、という批判もある。中国でSARS-CoV-2感染者を追跡したデータでは、無症状だった感染者の4割で2~3カ月後にIgG抗体が陰性になってしまうことが報告されている(Nat Med 2020; 26: 1200-1204)
香港のBNO News(本社オランダ)には、25人の再感染例の詳細が掲載されている。
もう1つは安全性の問題である。ワクチンは、健康な人が予防を目的に接種するものなので、通常の治療薬以上の高い安全性が求められる。両試験には3万~4万人が参加しているが、ワクチン接種者はその半分の2万人程度である。この規模では副反応のリスクを正確に評価するには不十分である、という意見もある。
これらに加えて、私にはもう1つの懸念がある。
研究のポイント:査読未通過の研究でレムデシビルを非推奨にしたWHO
世界保健機関(WHO)は11月20日、COVID-19の治療薬としてFDAが正式承認したレムデシビル(米・ギリアド・サイエンシズ社)について、「生存率を改善する証拠がなく、症状の軽重にかかわらず使用は推奨しない」という声明を世界中に発信した。
その根拠となったのが、今回紹介する研究である。WHO主導の国際的な臨床試験(Solidarity試験)であるが、実は現時点では原稿が「プレプリントサーバー」と呼ばれるプラットフォームのままで、査読を通過した正式な論文にはなっていない。
この研究では、患者の生存率や、病状の改善にかかる時間などを検討した結果、「レムデシビルは致死率や酸素吸入の必要性などの改善につながらなかった」と結論している。患者数は実薬群、対照群ともに2,700例程度であるが、患者背景の記載はなく、患者の74%がアジア、アフリカ、南米で、カナダ以外の北米はゼロである。レムデシビルの有効性を示した大規模臨床試験であるACTT-1(N Engl J Med 2020; 383: 1813-1826)に反駁できる学術レベルとは思えない。現状ではこの研究は、英医学誌BMJのNewsコーナーで1ページだけコメントされているのみであり、今後査読を通過して正式な論文となることはない気がする。
私の考察1:WHOの事情?に強い違和感
WHOの声明に対して、ギリアド社が「失望した」と発表したのは当然であろう。レムデシビルは日本でもCOVID-19治療薬として特例承認済みで、既に臨床現場で使われている。
私が気になるのは、WHOが今回の声明の中で、レムデシビルの薬価が2,300〜3,100ドル(約24万〜32万円)と比較的高価なことを推奨しないとする根拠の1つに挙げている点である。この薬価は、公的保険を持つ先進国向けの価格であり、ギリアド社は発展途上国向けには後発薬メーカーに製造委託して安価で提供する方針を示し、全世界に届けるための努力をしている。今回、WHOがレムデシビルを推奨しない理由として薬価に言及したことに、強い違和感を禁じえない。
私の考察2:米国が進める「オトナの国策」、製薬企業にも死守すべき事情
話をワクチンに戻す。国内では、11月19日に予防接種法の改正案が衆議院本会議で可決され、SARS-CoV-2ワクチン接種費用は全額国が負担することになりそうである。来日した国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、東京オリンピック・パラリンピックの開催に要するワクチン費用はIOCが負担すると確約した。しかしながら、ワクチンの「薬価」は決まっていない。国民医療費は青天井なのか。IOCは白紙小切手を切れるほど裕福なのか。
世界の医療は「産・官・学」の3本柱が協調しながら進歩している。忘れてはならないのは、「産」を担う製薬企業はボランティアではなくビジネスをやっている、ということである。COVID-19ワクチンに関しては、「ワクチン外交、開発競争」が熾烈で、各国で莫大な公的資金が製薬会社に投入されていることは事実である。しかし、ファイザー社は外部からの圧力を嫌って、公的資金を受けずにビオンテック社に巨額の投資をして独自開発しているとの情報もある。
学術的見地からは、今回の両社のワクチンは、いわゆる核酸医薬の中でもDNAではなくメッセンジャーRNA(mRNA)を用いている点が革新的である。mRNAを用いた治療法は、現在までに実用化実績のない世界で初めての成果である。mRNAはDNAに比べて不安定で分解されやすいが、両社は独自に開発した脂質膜でmRNAを包んで安定化させるという非常に高度な技術の開発に成功している。私も過去に少しだけ参画したことがあるが(J Am Chem Soc 2004; 126:13612-13613)、この技術は、がんをはじめとする多くの疾患に対するRNA治療のブレークスルーになることが期待される。今回の両社の技術開発は、相応の対価を得てしかるべきである。
米国のCOVID-19のワクチンや治療薬開発における「産・官・学」体制は、資本主義社会における医療の方向性を示したひとつのモデルと言える。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「ワクチン開発のスピードは安全性を犠牲にしてはいない。科学的公正性も損なわれていない」と公言した。行政面でも、米国立衛生研究所(NIH)の資金で大規模第Ⅲ相試験を実施し、政府系の援助で製造を委託し、EUA承認後は政府が買い上げて国内全域に頒布するという、まるで社会主義国家的な強力な政府のリーダーシップで取り組んでいる。
これは「デファクトスタンダード」という、公的機関の承認などお構いなしに既成事実を作ることによって業界標準にして世界市場を独占するという、マイクロソフト社がウィンドウズOSで用いた手法である。仮に、今回のWHOの声明が「レムデシベルをネタにした、憎き米国への異議申立て」だとすると、その科学的根拠はあまりに希薄であり、とても米国の「オトナの国策」に対抗できるレベルとはいえない。
いずれにせよ、WHOや各国政府が、過度に「人道的」という大義名分を振りかざして高圧的な姿勢を続けると、「産・官・学」のバランスが崩れ、世界の医療が破綻し、人類の健康が犠牲になる危険をはらんでいる。ワクチンを発展途上国を含む世界中の人たちに届けるためには、「産」である製薬企業が業績に見合った正当な収益を得る権利を死守すべき方策を「官」も「学」も考えるべきである。