近年、一部の小児科医の間で密かにハチミツ・ブームが起こっています。
かぜ薬(咳止め)としてハチミツを処方しているのです。
「え? ハチミツって薬なの?」
という反応がふつうですよね。
当初、私もそうでした。
でも、れっきとした医学論文もあるのです。
■ 小児の夜間の咳に対するハチミツの有効性
(2012年08月21日:Medical Tribune)
イスラエルの小児科医が1〜5歳の小児の風邪症状に対してハチミツと偽薬(=プラセボ:ハチミツに似たナツメヤシ・シロップ)を投与したところ、ハチミツ投与群の方が、対象者全員で咳と睡眠の改善が認められ、さらにハチミツ群の方が改善の程度が有意に高かった、という内容です。
ただハチミツは、乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、1歳未満の乳児には使用できないこと,さらには齲歯リスクの観点からハチミツの使用は必要最小限にとどめるべき、との注意点も示しています。
気になることは、この研究が「イスラエルハチミツ連盟などによる資金提供を受けて実施」されていること、偽薬(プラセボ)でも効果があったことですね。関連団体からお金をもらっていると、その団体に有利な結果が出る傾向がありますから。
一方、なんと「WHOは1歳未満の乳児以外への咳止めとして使用を推奨している」という文章もあり、ちょっと驚きました。
同じ論文を扱った記事をもう一つ見つけました;
■ 薬よりも効果が高い?かぜの代替療法
(2014/12/24:日経メディカル)
「子どもの咳には蜂蜜が効果的かもしれない」─。にしむら小児科の西村龍夫氏はこう話す。実際、就寝30分前にスプーン半分から2杯の蜂蜜を与えた小児の群は、プラセボを投与した群に比べ夜間の咳嗽が緩和され、夜間の咳に伴う本人と親の睡眠状態を有意に改善したというランダム化比較試験(RCT)のデータがある(図A)。
日本薬局方には「ハチミツ」が収載されている。「外来で親に説明し、初回は薬局で処方してもらうとよい」(西村氏)。ただし、蜂蜜にはボツリヌス中毒の恐れがあるため、1 歳未満には与えないよう注意が必要だ。
蜂蜜入りコーヒーは、成人を対象にしたRCTでもステロイドやグアイフェネシンを含む去痰薬よりも咳嗽を軽減させている(Raeessi MA, et al.Prim Care Respir J. 2013;22:325-30.)。成人では蜂蜜単独よりも蜂蜜入りコーヒーの方が咳嗽を軽減させる効果が高いという(Raeessi MA, et al:Iranian Journal of Otorhinolaryngology.2011;23:1-8.)。
フムフム・・・。
ハチミツって咳止め効果があるんだ!
と思いきや、実は、クスリでなくても何かを飲ませるだけで乳幼児の夜間咳嗽は改善するという報告もあります。
■ 乳幼児の夜間咳嗽にはプラセボでも効果
(2014/11/20:日経メディカル)
急性の非特異的咳嗽で受診した生後2~47カ月の乳幼児に対して、就寝前のアガベネクター(アガベシロップともいう。リュウゼツラン由来の天然甘味料で、主にフルクトースとグルコースからなる)またはプラセボの投与により、無治療に比べて有意に症状の軽減効果があることがランダム化比較試験(RCT)の結果として示された。米Pennsylvania州立大学のIan M. Paul氏らが、JAMA Pediatrics誌電子版に2014年10月27日に報告した。
・・・・・
ペンシルバニア州内の大学に付属する小児科外来施設2カ所で、2013年1月28日から2014年2月28日に、生後2~47カ月の小児で急性の非特異的咳嗽が発生してから7日以内の患者を登録。発熱、鼻閉、鼻漏など咳嗽以外の症状を有する小児も登録可能とした。喘息や肺炎など、治療が可能な疾患が疑われる患者は除外した。
・・・・・
介入前夜と介入日の夜の各症状のスコアの差を求めて3群間で比較したところ、治療なし群に比べて、アガベネクター群とプラセボ群では、咳嗽の煩わしさ(P=0.06)以外の項目に有意な改善が認められた(P<0.05)。しかし、アガベネクター群とプラセボ群には、差は認められなかった。
ここでは1歳未満にも使えるアガペネクター(成分はフルクトースとグルコース、つまりハチミツと同じ)を採用し、アガペネクター投与群と偽薬群と何も投与しない群で比較したところ、投与2群は非投与群より咳嗽が改善したけど、アガペネクターと偽薬では差がなかった、という結果です。つまり、ハチミツ類似のアガペネクターが効いたわけではない、ということ。
論文著者の結論は「急性の非特異的咳嗽を呈する乳幼児には・・・プラセボ効果のみが期待される治療の実施を検討してもよいのではないか」というオチ(?)でした。
ウ〜ン・・・上記を読んでも、
「本当にハチミツってクスリとして効果があるの?」
という素朴な疑問が残ります。
たくさんの信頼できる論文を集めて解析したコクラン・レビューにも蜂蜜の評価がありました。
■ 蜂蜜は小児の急性咳嗽に効くのか?
(2018/04/23:ケアネット)
小児の咳症状は、外来受診の理由となることが多い。蜂蜜は、小児の咳症状を和らげるために、家庭で一般的に用いられている。University of Calabar Teaching HospitalのOlabisi Oduwole氏らは、小児の急性咳嗽に対する蜂蜜の有効性を評価するためにシステマティックレビューを実施し、2018年4月10日、Cochrane Database of Systematic Reviewsに公開した。本レビューは、2010、2012、2014年に続く更新。本レビューの結果、蜂蜜は、無治療、ジフェンヒドラミン、プラセボと比較して、咳症状を多くの面で軽減するが、デキストロメトルファンとはほとんど差がない可能性が示唆された。また、咳の持続時間についてはサルブタモール、プラセボより短縮する可能性はあるが、蜂蜜使用の優劣を証明する強固なエビデンスは認められなかったと結論している。
著者らは、MEDLINE、Embase、CENTRAL(Cochrane Acute Respiratory Infections Group's Specialised Registerを含む)などをソースとして、2014~18年2月のデータを検索した。また、2018年2月にはClinicalTrials.govとWHOのInternational Clinical Trial Registry Platformも同様に検索した。対象とした試験は、急性の咳症状で外来受診した12ヵ月~18歳の小児に対する治療(蜂蜜単独、蜂蜜と抗菌薬の併用、無治療、プラセボ、蜂蜜ベースの咳止めシロップ、その他の咳止め薬)における無作為化比較試験で、899例の小児を含む6試験。今回の更新で、3試験331例の小児が追加された。これらの試験では、蜂蜜をデキストロメトルファン、ジフェンヒドラミン、サルブタモール、ブロメライン(パイナップル科の酵素)、無治療、プラセボと比較していた。
有効、無効の論文が混在する中で、結論は「急性咳嗽に対して蜂蜜使用の優劣を証明する強固なエビデンスは認められなかった」というもの。
まあ、“微妙”ということです。
では、最も有効な咳止め薬は?
知りたいですよね。
・・・実は、存在しないんです。
■ 「風邪による咳に効く薬はない」米学会が見解
(2017/12/08:HealthDay News:ケアネット)
しつこい咳を抑える風邪薬を探し求めている人に、残念なニュースだ。市販されているさまざまな咳止めの薬から米国で「風邪に効く」とされているチキンスープといった民間療法まで、あらゆる治療法に関して米国胸部医学会(ACCP)の専門家委員会が文献のシステマティックレビューを行ったところ、効果を裏付ける質の高いエビデンスがある治療法は一つもなかったという。これに基づき同委員会は指針をまとめ、「風邪による咳を抑えるために市販の咳止めや風邪薬を飲むことは推奨されない」との見解を示した。
このシステマティックレビューと指針はACCP専門家委員会の報告書として「Chest」11月号に掲載された。筆頭著者で米クレイトン大学教授のMark Malesker氏によると、数多くの米国人が風邪による咳に対して市販薬を使用しており、2015年の米国における市販の風邪薬や咳止め薬、抗アレルギー薬の販売額は95億ドル(約1兆700億円)を超えていたという。
今回、同氏らはさまざまな咳に対する治療法の効果を検証したランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを実施した。その結果、抗ヒスタミン薬や鎮痛薬、鼻粘膜の充血を緩和する成分が含まれる風邪薬に効果があることを示す一貫したエビデンスはなかった。また、ナプロキセンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の試験データの分析からも、これらの効果を裏付けるエビデンスはないことが分かった。
ACCPがこのトピックについてシステマティックレビューを実施したのは2006年に発表した咳ガイドライン以来だが、「残念ながら2006年以降、風邪が原因の咳に対する治療の選択肢にはほとんど変化がない」と同氏らは説明している。
なんだか、力の抜けるオチになってしまいました。
結局は、(薬を飲ませる行為を含めた)家族の優しい看護が最も有効な治療、というこでなのでしょう。
実はハチミツ、クスリとしては人間と長い付き合いがあります。
以下に、Wikipediaから一部抜粋しました:
【薬用】
・古代エジプトの医学書エーベルス・パピルスおよびエドウィン・スミス・パピルスには内用薬および外用薬(軟膏剤、湿布薬、坐薬)への蜂蜜の活用が描かれている。
・『旧約聖書』の「サムエル記・上」には疲労と空腹により目のかすみを覚えたヨナタンが蜂蜜を食べて回復する逸話が登場する。
・古代ギリシャでは医学者のヒポクラテスが炎症や潰瘍、吹き出物などに対する蜂蜜の治癒効果を称賛している。
・古代ローマの皇帝ネロの侍医アンドロマコスは、蜂蜜を使った膏薬テリアカを考案した。テリアカは狂犬病に罹った犬や毒蛇に噛まれた際の、さらにはペストの治療薬として用いられた。テリアカの存在は奈良時代に日本へ伝えられ、江戸時代になってオランダ人によって現物が持ち込まれた。
【薬効とその科学的根拠】
・蜂蜜は古来、外科的な治療に用いられてきた。古代ローマの軍隊では、蜂蜜に浸した包帯を使って傷の治療を行っていた。蜂蜜は無毒で非アレルギー性で、傷にくっつくことはなく、痛みを与えず、心を落ち着かせ、殺菌スペクトルは広域で、抗生物質の耐性菌にも有効であり、かつ耐性菌を生まない。元となる花の種類は効果に差を生じさせないようである。創傷(けが)に有効性を示した研究は少なくなく、火傷では流水後、火傷に直接つけるかガーゼに浸潤させたり、また閉塞性のドレッシング材にて覆ってもいい。交換頻度は、滲出液によってハチミツが薄まる速度に応じて行う。
・蜂蜜には強い殺菌力のあることが確認されており、チフス菌は48時間以内に、パラチフス菌は24時間、赤痢菌は10時間で死滅する。また、皮膚の移植片を清浄で希釈や加工のされていない蜂蜜の中に入れたところ、12週間保存することに成功したという報告がある。蜂蜜の殺菌力の根拠についてカナダのロックヘッドは、浸透圧が高いことと、水素イオン指数が3.2ないし4.9で弱酸性であることを挙げている。蜂蜜の持つ高い糖分は細菌から水分を奪って増殖を抑える効果をもたらし、3.2ないし4.9という水素イオン指数は細菌の繁殖に向いていない。しかしながらポーランドのイズデブスカによって、蜂蜜に水を混ぜて濃度を10分の1に薄めても殺菌力を発揮することが確認され、ロックヘッドの主張と両立しないことが明らかとなった。アメリカのベックは、皮膚のただれた箇所に蜂蜜を塗って包帯を巻くとリンパが分泌され、それにより殺菌消毒の効果が得られると主張している。前述のように蜂蜜に含まれる酵素グルコースオキシターゼは、グルコースから有機酸(グルコン酸)を作り出すが、その過程で生じる過酸化水素には殺菌作用がある。人類は古くから蜂蜜がもつ殺菌力に気付いていたと考えられ、防腐剤として活用した。
・蜂蜜は古来瀉下薬として用いられ、同時に下痢にも効くとされてきた。蜂蜜に含まれるグルコン酸には腸内のビフィズス菌を増やす効能があり、これが便秘に効く理由と考えられる。フランスの医学者ドマードは、悪性の下痢を発症し極度の栄養失調状態にある生後8か月の乳児に水と蜂蜜だけを8日間、続けてヤギの乳と水を1:2の割合で混ぜたものを与えたところ、健康状態を完全に回復させることに成功したと報告している。これは、蜂蜜のもつ殺菌作用によって腸内環境が改善されたためと考えられている。
・古代エジプトの医学書中には盲目の馬の目を塩を混ぜた蜂蜜で3日間洗ったところ目が見えるようになったという記述が登場する。また、マヤ文明ではハリナシバチが作った蜂蜜を眼病の治療に用いていた。その後、蜂蜜が白内障の治療に有効であることが科学的に明らかとなった。インドでは20世紀半ばにおいて、蜂蜜が眼病の特効薬といわれていた。
・欧米には「ハチミツがガンに効くという漠然とした"信仰"に近いもの」が根強く存在する。1952年に西ドイツのアントンらが19000人あまりを対象に職業別の悪性腫瘍発症率を調べたところ、ほとんどの職業において1000人中2人の割合であったところ、養蜂業の従事者については1000人中0.36人の割合であった。この結果からは養蜂業従事者の生活習慣の中に悪性腫瘍を抑制する要因があることが読み取れるが、それを蜂蜜の摂取に求める見解がある。フランスのアヴァスらは、動物実験によってハチミツに悪性腫瘍を抑制する作用があることを確認している。また、前述のように蜂蜜には生成の過程でローヤルゼリーに含まれる物質が混入すると考えられているが、カナダのタウンゼンドらはローヤルゼリーの中に悪性腫瘍を抑制する物質(10-ヒドロキシデセン酸)を発見している。
・二日酔いには蜂蜜入りの冷たい水が有効であるとされる。蜂蜜に含まれるフルクトースは肝臓がもつアルコール分解機能を強化する効果をもち、さらにコリンやパントテン酸にも肝臓の機能を高める作用がある。デンマークの医師ラーセンは、泥酔者に蜂蜜を飲ませたところ、短時間で酔いから覚めたと報告している。また、ルーマニアのスタンボリューは124人の肝臓病患者が蜂蜜を摂取することにより全快したと報告している。
・古代ローマの詩人オウィディウスは『恋愛術(恋の技法)』の中で、精力剤としてヒュメトス産の蜂蜜を挙げている。蜂蜜の精力増強作用について、19世紀の科学者は懐疑的であったが、20世紀に入りイタリアのセロナは0.9gの蜂蜜中に20国際単位の発情物質が含まれると発表した。
・蜂蜜には血圧を下げる効能があるといわれてきた。蜂蜜にはカリウムが多く含まれるが、食塩を過剰に摂取した際にカリウムを摂取すると血圧を下げることができる。また、蜂蜜に含まれるコリンには高血圧の原因となるコレステロールを除去する効果がある。
・古代エジプトや中国の文献には、蜂蜜の駆虫作用に関する記述がみられ、甘草と小麦粉、蜂蜜から作った漢方薬「甘草粉蜜糖」は駆虫薬として知られる。1952年(昭和27年)に日本の岐阜県岐阜市にある小学校で実験が行われ、蜂蜜を飲んだ小学生の便からは回虫の卵がなくなるという結果が得られた。蜂蜜に含まれるどの成分が駆虫作用をもたらすかについては明らかになっていない。
・その他に、鎮静作用が認められ、咳止め、鎮痛剤、神経痛およびリウマチ、消化性潰瘍、糖尿病に対する効能が謳われている。
かぜ薬(咳止め)としてハチミツを処方しているのです。
「え? ハチミツって薬なの?」
という反応がふつうですよね。
当初、私もそうでした。
でも、れっきとした医学論文もあるのです。
■ 小児の夜間の咳に対するハチミツの有効性
(2012年08月21日:Medical Tribune)
イスラエルの小児科医が1〜5歳の小児の風邪症状に対してハチミツと偽薬(=プラセボ:ハチミツに似たナツメヤシ・シロップ)を投与したところ、ハチミツ投与群の方が、対象者全員で咳と睡眠の改善が認められ、さらにハチミツ群の方が改善の程度が有意に高かった、という内容です。
ただハチミツは、乳児ボツリヌス症のリスクがあるため、1歳未満の乳児には使用できないこと,さらには齲歯リスクの観点からハチミツの使用は必要最小限にとどめるべき、との注意点も示しています。
気になることは、この研究が「イスラエルハチミツ連盟などによる資金提供を受けて実施」されていること、偽薬(プラセボ)でも効果があったことですね。関連団体からお金をもらっていると、その団体に有利な結果が出る傾向がありますから。
一方、なんと「WHOは1歳未満の乳児以外への咳止めとして使用を推奨している」という文章もあり、ちょっと驚きました。
同じ論文を扱った記事をもう一つ見つけました;
■ 薬よりも効果が高い?かぜの代替療法
(2014/12/24:日経メディカル)
「子どもの咳には蜂蜜が効果的かもしれない」─。にしむら小児科の西村龍夫氏はこう話す。実際、就寝30分前にスプーン半分から2杯の蜂蜜を与えた小児の群は、プラセボを投与した群に比べ夜間の咳嗽が緩和され、夜間の咳に伴う本人と親の睡眠状態を有意に改善したというランダム化比較試験(RCT)のデータがある(図A)。
日本薬局方には「ハチミツ」が収載されている。「外来で親に説明し、初回は薬局で処方してもらうとよい」(西村氏)。ただし、蜂蜜にはボツリヌス中毒の恐れがあるため、1 歳未満には与えないよう注意が必要だ。
蜂蜜入りコーヒーは、成人を対象にしたRCTでもステロイドやグアイフェネシンを含む去痰薬よりも咳嗽を軽減させている(Raeessi MA, et al.Prim Care Respir J. 2013;22:325-30.)。成人では蜂蜜単独よりも蜂蜜入りコーヒーの方が咳嗽を軽減させる効果が高いという(Raeessi MA, et al:Iranian Journal of Otorhinolaryngology.2011;23:1-8.)。
フムフム・・・。
ハチミツって咳止め効果があるんだ!
と思いきや、実は、クスリでなくても何かを飲ませるだけで乳幼児の夜間咳嗽は改善するという報告もあります。
■ 乳幼児の夜間咳嗽にはプラセボでも効果
(2014/11/20:日経メディカル)
急性の非特異的咳嗽で受診した生後2~47カ月の乳幼児に対して、就寝前のアガベネクター(アガベシロップともいう。リュウゼツラン由来の天然甘味料で、主にフルクトースとグルコースからなる)またはプラセボの投与により、無治療に比べて有意に症状の軽減効果があることがランダム化比較試験(RCT)の結果として示された。米Pennsylvania州立大学のIan M. Paul氏らが、JAMA Pediatrics誌電子版に2014年10月27日に報告した。
・・・・・
ペンシルバニア州内の大学に付属する小児科外来施設2カ所で、2013年1月28日から2014年2月28日に、生後2~47カ月の小児で急性の非特異的咳嗽が発生してから7日以内の患者を登録。発熱、鼻閉、鼻漏など咳嗽以外の症状を有する小児も登録可能とした。喘息や肺炎など、治療が可能な疾患が疑われる患者は除外した。
・・・・・
介入前夜と介入日の夜の各症状のスコアの差を求めて3群間で比較したところ、治療なし群に比べて、アガベネクター群とプラセボ群では、咳嗽の煩わしさ(P=0.06)以外の項目に有意な改善が認められた(P<0.05)。しかし、アガベネクター群とプラセボ群には、差は認められなかった。
ここでは1歳未満にも使えるアガペネクター(成分はフルクトースとグルコース、つまりハチミツと同じ)を採用し、アガペネクター投与群と偽薬群と何も投与しない群で比較したところ、投与2群は非投与群より咳嗽が改善したけど、アガペネクターと偽薬では差がなかった、という結果です。つまり、ハチミツ類似のアガペネクターが効いたわけではない、ということ。
論文著者の結論は「急性の非特異的咳嗽を呈する乳幼児には・・・プラセボ効果のみが期待される治療の実施を検討してもよいのではないか」というオチ(?)でした。
ウ〜ン・・・上記を読んでも、
「本当にハチミツってクスリとして効果があるの?」
という素朴な疑問が残ります。
たくさんの信頼できる論文を集めて解析したコクラン・レビューにも蜂蜜の評価がありました。
■ 蜂蜜は小児の急性咳嗽に効くのか?
(2018/04/23:ケアネット)
小児の咳症状は、外来受診の理由となることが多い。蜂蜜は、小児の咳症状を和らげるために、家庭で一般的に用いられている。University of Calabar Teaching HospitalのOlabisi Oduwole氏らは、小児の急性咳嗽に対する蜂蜜の有効性を評価するためにシステマティックレビューを実施し、2018年4月10日、Cochrane Database of Systematic Reviewsに公開した。本レビューは、2010、2012、2014年に続く更新。本レビューの結果、蜂蜜は、無治療、ジフェンヒドラミン、プラセボと比較して、咳症状を多くの面で軽減するが、デキストロメトルファンとはほとんど差がない可能性が示唆された。また、咳の持続時間についてはサルブタモール、プラセボより短縮する可能性はあるが、蜂蜜使用の優劣を証明する強固なエビデンスは認められなかったと結論している。
著者らは、MEDLINE、Embase、CENTRAL(Cochrane Acute Respiratory Infections Group's Specialised Registerを含む)などをソースとして、2014~18年2月のデータを検索した。また、2018年2月にはClinicalTrials.govとWHOのInternational Clinical Trial Registry Platformも同様に検索した。対象とした試験は、急性の咳症状で外来受診した12ヵ月~18歳の小児に対する治療(蜂蜜単独、蜂蜜と抗菌薬の併用、無治療、プラセボ、蜂蜜ベースの咳止めシロップ、その他の咳止め薬)における無作為化比較試験で、899例の小児を含む6試験。今回の更新で、3試験331例の小児が追加された。これらの試験では、蜂蜜をデキストロメトルファン、ジフェンヒドラミン、サルブタモール、ブロメライン(パイナップル科の酵素)、無治療、プラセボと比較していた。
有効、無効の論文が混在する中で、結論は「急性咳嗽に対して蜂蜜使用の優劣を証明する強固なエビデンスは認められなかった」というもの。
まあ、“微妙”ということです。
では、最も有効な咳止め薬は?
知りたいですよね。
・・・実は、存在しないんです。
■ 「風邪による咳に効く薬はない」米学会が見解
(2017/12/08:HealthDay News:ケアネット)
しつこい咳を抑える風邪薬を探し求めている人に、残念なニュースだ。市販されているさまざまな咳止めの薬から米国で「風邪に効く」とされているチキンスープといった民間療法まで、あらゆる治療法に関して米国胸部医学会(ACCP)の専門家委員会が文献のシステマティックレビューを行ったところ、効果を裏付ける質の高いエビデンスがある治療法は一つもなかったという。これに基づき同委員会は指針をまとめ、「風邪による咳を抑えるために市販の咳止めや風邪薬を飲むことは推奨されない」との見解を示した。
このシステマティックレビューと指針はACCP専門家委員会の報告書として「Chest」11月号に掲載された。筆頭著者で米クレイトン大学教授のMark Malesker氏によると、数多くの米国人が風邪による咳に対して市販薬を使用しており、2015年の米国における市販の風邪薬や咳止め薬、抗アレルギー薬の販売額は95億ドル(約1兆700億円)を超えていたという。
今回、同氏らはさまざまな咳に対する治療法の効果を検証したランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを実施した。その結果、抗ヒスタミン薬や鎮痛薬、鼻粘膜の充血を緩和する成分が含まれる風邪薬に効果があることを示す一貫したエビデンスはなかった。また、ナプロキセンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の試験データの分析からも、これらの効果を裏付けるエビデンスはないことが分かった。
ACCPがこのトピックについてシステマティックレビューを実施したのは2006年に発表した咳ガイドライン以来だが、「残念ながら2006年以降、風邪が原因の咳に対する治療の選択肢にはほとんど変化がない」と同氏らは説明している。
なんだか、力の抜けるオチになってしまいました。
結局は、(薬を飲ませる行為を含めた)家族の優しい看護が最も有効な治療、というこでなのでしょう。
実はハチミツ、クスリとしては人間と長い付き合いがあります。
以下に、Wikipediaから一部抜粋しました:
【薬用】
・古代エジプトの医学書エーベルス・パピルスおよびエドウィン・スミス・パピルスには内用薬および外用薬(軟膏剤、湿布薬、坐薬)への蜂蜜の活用が描かれている。
・『旧約聖書』の「サムエル記・上」には疲労と空腹により目のかすみを覚えたヨナタンが蜂蜜を食べて回復する逸話が登場する。
・古代ギリシャでは医学者のヒポクラテスが炎症や潰瘍、吹き出物などに対する蜂蜜の治癒効果を称賛している。
・古代ローマの皇帝ネロの侍医アンドロマコスは、蜂蜜を使った膏薬テリアカを考案した。テリアカは狂犬病に罹った犬や毒蛇に噛まれた際の、さらにはペストの治療薬として用いられた。テリアカの存在は奈良時代に日本へ伝えられ、江戸時代になってオランダ人によって現物が持ち込まれた。
【薬効とその科学的根拠】
・蜂蜜は古来、外科的な治療に用いられてきた。古代ローマの軍隊では、蜂蜜に浸した包帯を使って傷の治療を行っていた。蜂蜜は無毒で非アレルギー性で、傷にくっつくことはなく、痛みを与えず、心を落ち着かせ、殺菌スペクトルは広域で、抗生物質の耐性菌にも有効であり、かつ耐性菌を生まない。元となる花の種類は効果に差を生じさせないようである。創傷(けが)に有効性を示した研究は少なくなく、火傷では流水後、火傷に直接つけるかガーゼに浸潤させたり、また閉塞性のドレッシング材にて覆ってもいい。交換頻度は、滲出液によってハチミツが薄まる速度に応じて行う。
・蜂蜜には強い殺菌力のあることが確認されており、チフス菌は48時間以内に、パラチフス菌は24時間、赤痢菌は10時間で死滅する。また、皮膚の移植片を清浄で希釈や加工のされていない蜂蜜の中に入れたところ、12週間保存することに成功したという報告がある。蜂蜜の殺菌力の根拠についてカナダのロックヘッドは、浸透圧が高いことと、水素イオン指数が3.2ないし4.9で弱酸性であることを挙げている。蜂蜜の持つ高い糖分は細菌から水分を奪って増殖を抑える効果をもたらし、3.2ないし4.9という水素イオン指数は細菌の繁殖に向いていない。しかしながらポーランドのイズデブスカによって、蜂蜜に水を混ぜて濃度を10分の1に薄めても殺菌力を発揮することが確認され、ロックヘッドの主張と両立しないことが明らかとなった。アメリカのベックは、皮膚のただれた箇所に蜂蜜を塗って包帯を巻くとリンパが分泌され、それにより殺菌消毒の効果が得られると主張している。前述のように蜂蜜に含まれる酵素グルコースオキシターゼは、グルコースから有機酸(グルコン酸)を作り出すが、その過程で生じる過酸化水素には殺菌作用がある。人類は古くから蜂蜜がもつ殺菌力に気付いていたと考えられ、防腐剤として活用した。
・蜂蜜は古来瀉下薬として用いられ、同時に下痢にも効くとされてきた。蜂蜜に含まれるグルコン酸には腸内のビフィズス菌を増やす効能があり、これが便秘に効く理由と考えられる。フランスの医学者ドマードは、悪性の下痢を発症し極度の栄養失調状態にある生後8か月の乳児に水と蜂蜜だけを8日間、続けてヤギの乳と水を1:2の割合で混ぜたものを与えたところ、健康状態を完全に回復させることに成功したと報告している。これは、蜂蜜のもつ殺菌作用によって腸内環境が改善されたためと考えられている。
・古代エジプトの医学書中には盲目の馬の目を塩を混ぜた蜂蜜で3日間洗ったところ目が見えるようになったという記述が登場する。また、マヤ文明ではハリナシバチが作った蜂蜜を眼病の治療に用いていた。その後、蜂蜜が白内障の治療に有効であることが科学的に明らかとなった。インドでは20世紀半ばにおいて、蜂蜜が眼病の特効薬といわれていた。
・欧米には「ハチミツがガンに効くという漠然とした"信仰"に近いもの」が根強く存在する。1952年に西ドイツのアントンらが19000人あまりを対象に職業別の悪性腫瘍発症率を調べたところ、ほとんどの職業において1000人中2人の割合であったところ、養蜂業の従事者については1000人中0.36人の割合であった。この結果からは養蜂業従事者の生活習慣の中に悪性腫瘍を抑制する要因があることが読み取れるが、それを蜂蜜の摂取に求める見解がある。フランスのアヴァスらは、動物実験によってハチミツに悪性腫瘍を抑制する作用があることを確認している。また、前述のように蜂蜜には生成の過程でローヤルゼリーに含まれる物質が混入すると考えられているが、カナダのタウンゼンドらはローヤルゼリーの中に悪性腫瘍を抑制する物質(10-ヒドロキシデセン酸)を発見している。
・二日酔いには蜂蜜入りの冷たい水が有効であるとされる。蜂蜜に含まれるフルクトースは肝臓がもつアルコール分解機能を強化する効果をもち、さらにコリンやパントテン酸にも肝臓の機能を高める作用がある。デンマークの医師ラーセンは、泥酔者に蜂蜜を飲ませたところ、短時間で酔いから覚めたと報告している。また、ルーマニアのスタンボリューは124人の肝臓病患者が蜂蜜を摂取することにより全快したと報告している。
・古代ローマの詩人オウィディウスは『恋愛術(恋の技法)』の中で、精力剤としてヒュメトス産の蜂蜜を挙げている。蜂蜜の精力増強作用について、19世紀の科学者は懐疑的であったが、20世紀に入りイタリアのセロナは0.9gの蜂蜜中に20国際単位の発情物質が含まれると発表した。
・蜂蜜には血圧を下げる効能があるといわれてきた。蜂蜜にはカリウムが多く含まれるが、食塩を過剰に摂取した際にカリウムを摂取すると血圧を下げることができる。また、蜂蜜に含まれるコリンには高血圧の原因となるコレステロールを除去する効果がある。
・古代エジプトや中国の文献には、蜂蜜の駆虫作用に関する記述がみられ、甘草と小麦粉、蜂蜜から作った漢方薬「甘草粉蜜糖」は駆虫薬として知られる。1952年(昭和27年)に日本の岐阜県岐阜市にある小学校で実験が行われ、蜂蜜を飲んだ小学生の便からは回虫の卵がなくなるという結果が得られた。蜂蜜に含まれるどの成分が駆虫作用をもたらすかについては明らかになっていない。
・その他に、鎮静作用が認められ、咳止め、鎮痛剤、神経痛およびリウマチ、消化性潰瘍、糖尿病に対する効能が謳われている。