小児アレルギー科医の視線

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喘息でない咳にも吸入ステロイド薬は効く!?

2018年02月10日 06時36分08秒 | 気管支喘息
 長引く咳には喘息が隠れていることがあります。
 しかし、いわゆる喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)を伴う呼吸因難発作が全例で見られるわけではありません。
 では非典型例をどうやって診断するのか?
 それは「肺機能検査」であり、「呼気NO(FeNO)検査」であります。
 これらの検査は数字で客観的に評価が可能です。
 
 肺機能検査は、末梢気道の状態が評価できます。
 喘息患者では、発作状態でなくても末梢気道が健常者より狭くなっているのです。
 当院でも肺機能検査をやっています。小学生以降、検査可能です。

 FeNOは喘息の本態である「好酸球性炎症」の程度を反映します。
 しかし、当院では導入しておりません(器械が100万円もするので)。

 そのFeNOに関する記事を紹介します。
 内容はCOPDと喘息のオーバーラップ例にFeNOを検査すると喘息の要素がどれくらい関与しているかわかるので便利であり、原因不明の遷延性咳嗽例でFeNOが上昇していれば吸入ステロイドが有効かもしれない、とのこと;

※ 下線は私が引きました。

■ 喘息でない咳にも吸入ステロイド薬は効く!?
2017年12月12日:メディカル・トリビューン
◇ 研究の背景:FeNOは好酸球性炎症を反映する検査指標
 呼吸器内科では、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)を測定することがある。特殊な機器が必要だが、検査自体は驚くほど簡単である。詳しい機序は割愛させていただくが、FeNOは好酸球性炎症を反映するもので、数値が上昇しているほど「喘息らしい」といえる。判断基準についてはいろいろな意見があるが、37ppb以上ではその可能性が高いと考えてよく※、50ppbなら間違いなく好酸球性炎症ありと判断してよいだろう。
 近年、喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)のオーバーラップ(asthma and COPD overlap;ACO)という疾患概念が登場している。日本呼吸器学会はこのオーバーラップ疾患のガイドラインについて、11月にパブリックコメントを募集していた。これら閉塞性肺疾患を診断する上で、FeNOはかなり役立つのだ。では、どう役立つのか。
 COPDの治療の根幹は、吸入長時間作用性抗コリン薬である。この薬は気管支平滑筋を弛緩させて、気道を広げる。それによって長期的に1秒量が底上げされる効果が得られる。ひいては、COPD患者の増悪リスクや死亡リスクも軽減する(N Engl J Med 2008;359:1543-1554)。一方、喘息の治療の根幹は、吸入ステロイド薬(ICS)である。気道の好酸球性炎症を緩和して、気管支攣縮を抑制する。これによって、喘鳴や呼吸困難感などの呼吸器症状を軽減し、さらなる喘息発作のスパイラルを断ち切ることができる。
 もしCOPDと喘息の両者が合併しているとしても、目の前の患者がどのくらいの割合でそれらを有しているかはすぐには分からない。それらを見分ける指標としてFeNOはある程度有効と考えられているわけだ。すなわち、FeNOが高ければ喘息コンポーネントがあるといえる。たとえCOPDらしい患者でも、FeNOが高ければICSが有効かもしれない好酸球性炎症には薬理学的に吸入長時間作用性抗コリン薬よりもICSの方が効くだろう、そういう簡単な考えである。
 さて、慢性咳嗽や非特異的呼吸器症状を呈する患者においても、この手法は妥当だろうか。つまり、よく分からない呼吸器疾患患者でFeNOが上昇しておれば、ICSは効くだろうか。この疑問に一石を投じたのが今回紹介する研究である(Lancet Respir Med 2017年11月3日オンライン版)。

◇ 研究のポイント1:典型的な喘息患者を除外
 この研究は、非特異的呼吸器症状を有する患者を対象としており、典型的な喘息患者は除外されている。具体的には、未診断の18~80歳で、咳嗽や呼吸困難感などの呼吸器症状を伴い、気道可逆性が20%未満の患者を組み入れている。
 典型的な喘息を除外できているのかは少し疑問が残るが、呼吸器疾患のある患者で気道可逆性10%などのように厳しい基準を設けると、結構な頻度で組み入れができなくなる。咳喘息や好酸球性気管支炎では気道可逆性が中途半端な値になることもあり、10%近辺の数値になることもある。議論の余地はあるかもしれないが、ICSが効果的な典型的喘息ではない非特異的集団を対象にしたいという意図は伝わる。
 試験デザインは、二重盲検プラセボ対照比較試験である。治療群に投与されたのはベクロメタゾン(商品名キュバール)である(1日当たり800μg)。プラセボと1:1でランダムに割り付けられた。また、FeNO測定値は25ppb、40ppbの2値で区切って3群に層別化している。1次エンドポイントは、喘息コントロール質問票(ACQ7)の平均スコア変化とした。ACQ7は喘息の症状を患者に問診したもので、QOLを反映していると思ってもらえればよい。FeNOが高い群においてACQ7の変化が大きいと、ICSの効果があると考えられるわけだ。
 1年余りの試験期間仲に294例の患者が登録され、148例がICS群、146例がプラセボ群に割り付けられた。吸入薬の研究では吸入手技の問題もあってプロトコル違反が多くなるのだが、本研究ではそういった除外例を加味すると214例が解析対象になった(ICS群114例、プラセボ群100例)。

◇ 研究のポイント2:原因が好酸球性炎症らしい患者ほどICSが効果的
 結果は、ベースラインのFeNOと治療集団の間には有意な相関性が見られ、ベースラインのFeNOが上昇するごとにICS群はプラセボ群よりもACQ7の変化が大きくなった(P=0.044)。つまり、非特異的呼吸器症状の原因が好酸球性炎症らしい患者であるほど、ICSが効果的だったということだ。

表. ACQ7の変化

(Lancet Respir Med 2017年11月3日オンライン版)

 実は、今回の研究とは"逆の観点"が過去に報告されている。逆というのは、ステロイドが効果を発揮する咳嗽(咳喘息、好酸球性気管支炎、アトピー咳嗽など)と発揮しない咳嗽の患者のFeNOを調べ、その測定値にどのくらい差があるか見たものだ(Chest 2016;149:1042-1051)。治療結果から先にアプローチして、FeNOをアウトカムにしている。
 この研究によると、ステロイド反応性咳嗽のFeNO値中央値はステロイド不応性咳嗽よりも有意に高い水準だった〔32.0 ppb (四分位範囲19.0~65.0ppb) vs. 15.0 ppb(同11.0~22.0ppb), P<0.01〕。このステロイド反応性咳嗽の診断において、FeNO 31.5ppbをカットオフ値にすると、感度・特異度はそれぞれ54.0%、91.4%で、陽性的中率89.3%、陰性的中率60.0%だった。
 つまり、ステロイドの有効性から見た解析でも、FeNOを層別化した解析でも、類似の結果が得られているといえる。

私の考察:なんでもかんでもICSではダメだが・・・
 FeNOはICSの効果を担保してくれるバイオマーカーであると私自身も確信している。実際、これぞという診断ができない、FeNOが40ppbの患者にICSを処方すると、慢性咳嗽がピタリと止まることがある。咳喘息を診ているのかもしれないが、咳喘息やアトピー咳嗽の基準に合致しない例も結構いる。そういう取りこぼし例の全例にICSを投与しても問題ないのかどうかは分からない。「過ぎたるは及ばざるがごとし」の可能性もあるので注意が必要だ。ICSは副作用が少ないと思われているが、嗄声や口腔内カンジダ症などは結構多い。致死的な影響はないため、さほど気に留めない医師は多いと思うが、なんでもかんでもICSを処方して無用な合併症を増やすのはよくない
 今回の臨床研究でいえることは、FeNOが高値であることがICSを使用する後押しになるということであって、慢性呼吸器症状を呈している原因不明の疾患に、試しにICSを処方してよいと断言するものではない。
 ただ、国内のガイドライン(日本呼吸器学会『咳嗽に関するガイドライン第2版』2012年)では、症状から咳喘息かアトピー咳嗽を疑ったときに、ICSを2週間トライするという手法が容認されている。診断の付かない呼吸器疾患において、どのラインからICSを処方するかという問題は、いまだコントロバーシャルなのだ。
 実地診療ではせめて好酸球性炎症を疑えるラインに到達したいところなので、やはりそのためにはFeNOを測定することをぜひとも試していただきたい。

※日本人のFeNOの正常上限は37ppbと考えられている(Allergol Int 2011;60:331-337
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