新・定年オジサンのつぶやき

残された日々をこの世の矛盾に対して勝手につぶやきます。
孫たちの将来に禍根を残さないよう、よき日本を「取り戻したい」。

動機が不純な事業や政策は必ず破綻する

2023年11月03日 12時11分24秒 | マイナンバーカード

沖縄地方では、11月でも日中の最高気温が25℃を超えて夏日になるため、春と言うには暖かすぎるので「小夏日和」と呼んでいるらしいのだが、沖縄以外でも「小夏日和」という表現が使われていた。
 
「【全国の天気】“小夏日和”さらに暖気広がる! 一番暑い『「文化の日』
 
寒いよりは暖かい日のほうが心地よいのだが、昨年の今頃には我が家では電気こたつが出ていたし、毎年11月になるとやってくる「灯油販売車」もスピーカーから音楽を鳴らしながら走っていたが、もちろんどこの家庭からも声がかからなかったようである。
 
こんな陽気に乗って多くの物価高に苦しんでいる国民を逆なでするような能天気なことを口走っていた輩がいた。
 
岸田首相会見『来年夏には所得の伸びが物価上昇上回る状態に』
 
昔から「来年のことを言うと鬼が笑う」という諺があるが、年末年始や年度替わりの4月前後の出費が増える時期に間に合わない「偽装減税」や一度きりの給付金ではなんの意味もないことは、言うまでもない。
 
岸田文雄は連合の大会に出席するなど大手の企業内労働組合と近づき、そこの労働者たちが所属する企業に大幅な賃上げを依頼している。
 
しかし現在の日本の労働組合の組織率は限りなく減少しているなかで、一部の大手企業内組合員たちが恩恵を受けているに過ぎない。

国民の間で格差がますます増える可能性もある。
 
こんな岸田文雄政権なので、国民から吸い上げた税金を自分たちが自由に使ってもいいという傲慢な錯覚から、またもや無駄遣いをするつもりらしい。
 
大阪万博の建設費増額、政府受け入れ 当初から8割超増」 
  

政府は2日、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の会場建設費の増額を受け入れると発表した。運営主体である日本国際博覧会協会は建設費について従来より500億円増える試算を示し、国に協力を求めていた。政府が応じたことで正式に決まった。建設費の増額は2度目で、当初から8割超の上振れとなる。
政府とともに費用を分担する大阪府・市と経済界もすでに受け入れを表明している。増える500億円は政府と大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担する。政府は臨時国会に提出する23年度補正予算案に関連する予算を計上する見通しだ。
西村康稔経済産業相と自見英子万博相が2日、経産省で記者会見して明らかにした。西村氏は「物価や人件費が高騰しており、増額はやむを得ない」と述べた。自見氏は「今後もコストダウンに努めることは前提だ」と強調した。

 
維新の会の吉村洋文大阪知事に泣きつかれた岸田文雄の深慮遠謀があったのだろうが、大阪府民以外の国民からの万博への関心は極めて希薄であり、「そんなに税金をつかうのなら、1年延期か中止」という声が圧倒的に多い。
 
建築エコノミストの森山高至は改めて大阪万博開催の問題点を整理し現実的な提案をしていた。
 
このままでは税金負担が倍増のうえ間に合わない…一級建築士が提案する関西万博"起死回生の具体策"
 
■万博予算は1250億から2350億円に倍増し税金負担も増加
大阪万博の行方が怪しい。今年に入って2回目の予算超過が発表された。当初の予定金額の1250億円から1800億円に加算されたのが2年前の2020年12月、それが本年の10月には2350億円となった。ウクライナ紛争はじめ資材高騰により予算増大が予想されていたとはいえ、約2倍になるとは、われわれ国民にとっても寝耳に水だ。
しかも万博協会(2025年日本国際博覧会協会)の石毛事務総長も国の西村経済産業大臣、自見万博大臣、それぞれも素人同然に「驚きを隠せない」「精査する」といった当事者意識を欠いた発言を繰り返している。この万博予算は開催地である大阪府市と国、そして経済界の3者で三等分し費用負担することになっている。
つまり、増加した予算1100億円の337億円相当を含め、全体の3分の1、783億円もの金額が国民全体の負担となるのだ。この責任をめぐり批判が高まるなかこれまで「大阪の万博」を強調し続けてきた大阪維新の会も「増額分は国の負担で」と、大阪万博から日本万博にイメージを塗り替えようと躍起だ。
■大阪維新の会は「国全体の問題」にしようとしている
岸田首相も「絶対に成功させるべき」と維新の会・馬場代表に応えている。関西経済連合会の松本会長は「内容についてよく確認したい」との発言があり、関西の財界幹部からは「これ以上はびた一文出せない」と不快感を示している。もはや3者の押し付け合いが始まる様相だ。
さらに万博誘致の首謀者である大阪府の吉村知事に至っては「万博協会は説明が不十分」と強い口調で、万博協会に怒りをぶつけたとも報道され、当事者の中心にいながら、まるで被害者のふるまいである。
同時に、予算超過だけでなく大きな懸念材料となっているのが、万博の華といわれる各国パビリオン建設のめどがつかないという事態だ。開催まで600日を切ろうかという時期にもかかわらず、海外パビリオンの万博協会への建設申請が本年7月の時点ではゼロと報道された。
パビリオン(pavilion)その原義は、展示会や博覧会に用いられる仮設の建築物、テントいわば、お祭りの屋台のようなものを示すが、戦後の万博では、特に高度成長期に開催された前回の大阪万博EXPO’70をピークとして、建築の技術発展を背景に最新の素材や工法の見本市のような様相を呈すようになった。各国が斬新なデザインのパビリオンを自国文化の発揚をカタチにしたものとして建設し「万博の華」とも呼ばれる。その各国パビリオンが立ち並ぶ未来都市のごとき楽しげな風景こそが、これまでの万博会場のメインイメージだ。
■万博の華であるパビリオンの建設がまだ始まっていない
その各国パビリオンの建設が遅れているどころか、まだ始まっていないという。普段われわれが目にする街の工事現場の進捗しんちょくを考えれば、「着工から1年ほどであっという間に建っている、まだ2年あるではないか」と思われるかもしれない。しかし、建設行為は目に見える工事現場の作業だけではなく、その前の設計デザインや法務対応、許可申請、材料調達、材料加工、工場での部材の組み立て、運搬、現場作業、完成検査、設備やインテリアの設置、といった流れで、工事前後にもさまざまな工程が控えており、現場工事が1年で進むように見えて、実はその1年前から作業開始していなければならない。
それを裏付けるように、スーパーゼネコン清水建設の代表取締役会長で日本建設業連合会の会長でもある宮本洋一氏から本年8月に以下のような悲痛な叫びが発信されている。
「正直に申し上げて、いま図面をもらっても、間に合うかわからないくらいですよ。万博は2025年4月開幕なので、その年の1月か2月には完成させないといけない。あと1年半しかないんです」
これは、「設計図をもらっても、許認可や素材手配にも通常ならば、1年近くかかるため、実際の工事期間が1年を切っている」という意味だと受け取れるのだ。
■「今からでは開催に間に合わない」というゼネコンの悲鳴
さらに、通常の建築ではなく、万博パビリオンという性格から、各国を代表するデザイナーが、創意工夫にあふれた斬新な造形を模索し、最新の素材や未来を見越した提案を設計に盛り込むため、ひとつひとつの建築の難易度が高くなりがち、通常以上に準備や工事作業が掛かってしまうのが必須だからである。それを見越して、建設会社は「早く設計図を見せてほしい、そこから難易度や仕様を調べて、工事金額の見込みを立てたい」と言っているのである。
つまり、現時点で各国パビリオンの設計が明らかになっていないということは、工事費用はまだまだこれから増える可能性があるのだ。その後、韓国とチェコとルクセンブルグの申請がなされたといわれるが、現在もその手続きは数カ国にとどまっている。
現時点で大阪・関西万博の問題は予算が見えない、会場建設のめどが立たないという2つの大きな問題を抱えたままなのである。端的にいえば、大阪万博が抱える問題は「建設の見込みが立たず、予算と工期が見えない」ということに集約される。
なぜ、このような場所を選んでしまったのか?
それは、IR誘致に万博を利用したからに他ならない。
■カジノを含む統合型リゾート施設を誘致しようとしたが…
万博会場に隣接するエリアでは、2030年にIRの開業が予定されている。このIR誘致には、大阪だけでなく、長崎、和歌山、横浜といくつかの日本の都市が候補地として手を挙げていた。IR(Integrated Resort)とはカジノを含む統合型リゾート施設という意味だが、世界中から富裕層を呼び込むためのカジノ施設を施設規模の3%と上限を設けたために、一定規模のカジノ施設のために逆算で大型の施設全体規模を設定する必要があった。
 

 
さらには賭博性を伴うということで反対運動や環境への影響を受けにくい、一般の居住エリアや商業ゾーンから隔離可能な空間を想定したことから、市街地から一定の距離がありながらも利便性の高いエリアを模索した結果、大阪では臨海の人工島である「夢洲」を候補地にしたものだ。
おそらく、決定権者が大阪の地図を広げ「使われていない、周囲になにもない土地」を指示しただけだと思われるが、その時点で未活用な土地なのは、「まだ完成した埋め立て地になっていなかったから」という認識が抜けていたのではないか。その場所をIR候補地に選んだうえに、万博誘致で上書きできれば、さらにイメージアップにもつながると、机上で都合よく考えたのかもしれない。
■大阪市は土地を貸すだけのつもりが、インフラ整備もするはめに
当初のIR誘致の条件には、大阪市は土地を貸すだけでIR事業者にインフラ整備も押し付け、税収を使わずして街づくりを行うことを夢想していたようだが、事態は思わぬ方向に動き始めていった。世界中を席巻したコロナ禍の影響で、世界中で多くのプロジェクトが頓挫し国際間移動も困難になった。その影響で、大阪IRに進出予定の事業者の多くが辞退することとなり、MGMリゾーツ・インターナショナル(オリックス・関西地元企業等20社の出資)のみが候補として残っただけである。
結果として当初の目論見であったIR事業者によるインフラ整備は、ほごになっただけでなく、進出条件の中に土地活用の利便性の保障や地盤対策なども押し付けられたカタチとなり、また、条件が整わない場合には契約破棄も可能な特約を付けられてしまっているのである。
IR誘致と万博の抱き合わせが、完全に裏目となっており、本来ならIRのためのインフラに万博が乗っかるはずのものが、万博開催のためにまず、IRの分も含めたインフラ工事や地盤改良工事も先行しなければいけない羽目に陥っている。
では、そうすればよいのか?
それは、万国博覧会とはいったい何なのか? という原点に返ればおのずと見えてくる。
■そもそも大阪には過去に作られた万博記念公園などがある
万博の定義をひも解いてみると、「国際博覧会条約」というものがあり、外務省のHPにはその定義が記されている。
いわく、「博覧会とは、名称のいかんを問わず、公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若もしくは二以上の部門において達成された進歩もしくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう」つまり、その目的は第一義に「公衆の教育を目的とする催し」ということである。
ならば、その催しは一定の規模をもった公共性の高い場所でおこなえばいいということである。
大阪には前回の万博開催地である万博記念公園はじめ、多くの万博開催を可能にする公共緑地が存在する。そもそも、万博期間は半年程度とされ、パビリオンは仮設建築でかまわない。
■既存の公園にパビリオンを建てるという逆転の発想が必要
ならば既存のインフラもあり建設のための空地をもった公開緑地を活用すれば、パビリオン建設前での準備工事がいらなくなる。吹田の万博記念公園だけでなく、服部緑地、花博を開催した鶴見緑地、大阪城公園、中之島公園、長居公園、ほしだ園地、蜻蛉池公園、みさき公園など、多くの既存の緑地公園が存在する。それらを活用すれば、今夢洲で抱えている問題の大多数は解決するはずなのだ。
万博の無事開催のためには、この際、IRと万博は切り離して考えなおすことが必須である。
現在の夢洲では木造リングと広場の「大阪万博夢洲会場」にとどめ、他のパビリオンやイベントは大阪府全体の緑地帯に会場を分散設置し、会場を巡るための公共交通機関無料パスを発行、大阪中にある飲食店や商店街をも巻き込んだ、大阪という都市全体を巡る日本の文化として生きた博覧会として、参加各国の誰もが満喫できるような万博にすれば、むしろ起死回生となるはずなのだ。それこそ大阪で開催する大義となるであろう。

 
まさに以前から指摘されていたように、「IR誘致と万博の抱き合わせ」という当初の動機が不純であったことが現在の惨状を招いてしまったのであろう。
 
しかし今更「既存の公園にパビリオンを建てるという逆転の発想」が「大阪万博を誘致した」ことを手柄にして選挙を戦った維新の会の吉村洋文大阪知事が、「名を捨て実身をとる」という英断ができるのかは、はなはだ疑問である。
 
しかし日本には「名を捨て実身をとる」どころか「名も実」も欲張っているのが、現在のマイナンバーカードをめぐる混乱である。
 
 誰も便利にならないマイナ保険証をゴリ押しする意味はどこにある?
荻原博子に聞く、犠牲をいとわない岸田政権の「マイナ保険証」普及戦略

 
6月2日に成立した「改正マイナンバー法案」。従来の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一本化する「マイナ保険証」を事実上義務化する法律だ。健康保険証の廃止は拙速な判断だと批判する声が絶えないが、河野太郎デジタル相は将来的には健康保険証に加え、運転免許もマイナンバーカードに一本化していく意向を示している。

 なぜ政府はこれほどマイナ保険証の普及を急ぐのか。『マイナ保険証の罠』(文春新書)を上梓した経済ジャーナリストの荻原博子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
 

 
荻原博子氏(以下、荻原):私たちはコロナ禍に、お医者さんたちにとてもお世話になりました。皆さん、本当に身を削って医療に携わってくださいました。そして、ようやくコロナが一段落してきたのに、またお医者さんを苦しめるものが出てきた。それがマイナ保険証です。
「マイナ保険証を導入すれば、医療機関での手続きがスムーズになる」と言われていますが、そんなのは大嘘です。
 2024年の秋に、これまで使われてきた健康保険証が廃止になります。これまではずっと、この健康保険証が1枚あるだけで、いろんなことに対応してもらうことができました。
 ところが、2024年秋に従来の健康保険証が廃止された後は、患者ごとに、保険証に代わる以下の6つのパターンのいずれかに、医療機関の窓口は対応しなければならなくなります。
①マイナ保険証
②暗証番号のないマイナ保険証
③マイナ保険証を持っていない人のための資格確認証
④被保険者資格申立書(オンライン資格が確認できない患者に、本来の自己負担額の保険診療を行うための申請書)
⑤資格情報お知らせカード(マイナ保険証を利用できない医療機関で、マイナ保険証と同時に提示することで保険診療が受けられるようにするもの)
⑥従来の健康保険証(これまでの健康保険証は2024年秋に廃止するが、政府は完全廃止までに1年間の暫定期間を設ける)
 複数の異なる保険証の形に対応するため、医療機関の窓口業務はメチャクチャ大変になりますし、こういったものを持っていかなければならない患者さんも迷う可能性がある。
 停電が起きれば一時的にカードリーダーが使えない事態も発生するでしょうし、顔認証がうまくいかない問題はすでに頻発している。暗証番号を3回間違えて、拒否になってしまう患者さんをどう扱ったらいいのかなど、窓口と患者の双方にとって多大な混乱や手間を強いる事態が想定されます。
■マイナ保険証対応で増えかねない病院の廃業
荻原:健康保険証は1カ月に一度出せば良かったけれど、マイナ保険証は毎回提出が必要になります。そのたびに、何か齟齬があると、そこで手続きが止まる。健康保険証であれば、忘れたとしても顔見知りの医療機関なら「今度来た時に持ってきてくださいね」と言ってすみますが、デジタルになればそうはいかなくなる。医療機関は本当に大変になると思います。
 さらに、「2026年に新マイナンバーカードを出す」と政府は言い始めた。こうなると、今回やっと用意したカードリーダーが使えなくなる可能性も出てきます。
 国はカードリーダーの設置に補助金を出していますが、全額出してくれているわけではないので、医療機関は自分で設備を購入しています。「設置しないと保険医の資格取り消しになりますよ」という脅しを受け、しかたなく設置している。そのコストは自分持ちです。
 もし新マイナンバーカードが今回導入したカードリーダーで読み取れなければ、新マイナンバーカードに対応するカードリーダーも購入しなければなりません。マイナンバーカードの有効期限は10年ですから、同じタイミングで新マイナンバーカードを出したら、両方が同時に使われる期間は10年になります。
 10年間も2台のカードリーダーを置かなければならないのですか? 2倍のコストを医療機関が負担するのですか? これ、おかしくないですか?
 余計なコストをかけ、余計な心配をかけ、忙しい医療スタッフに余計な手間をどんどん課している。そして、問題が発覚するたびに場当たり的に新しいカードや申請書などを出していくから、前述のように医療機関はすでに6つのパターンに対応しなければならなくなった。この数はもっと増えていくかもしれません。
 お医者さんの倒産が増えています。特に、診療所(19床以下の医療施設)で、経営をやめてしまう人がとても多い。
 過疎地の高齢の医師で、患者さんも高齢だと、マイナンバーカードを持ってくる人はいません。「カードリーダーなんて置かれても使いこなせません」という方も結構います。そういう方に、マイナ保険証や新マイナンバーカードへの対応を強いることになります。
 厚労省の昨年の集計によれば、診療所の場合、日本では60歳以上の医師が経営する施設が全体の半分を占めています。全国保険医団体連合会によると、マイナ保険証の導入で、廃業を決めた医師が全国にすでに1000人以上いるそうです。
 介護の現場も大変です。山口県保険医協会が特別養護老人ホームや老人保健施設など、全国の施設に対して行ったアンケート調査の結果(回答したのは187施設)によると、90.9%の施設が「マイナカードの申請に対応できない」と回答しています。
 国は訪問介護にもカードリーダーを携帯させることを義務化しようとしていますが、訪問介護の事業者は零細企業が多く、介護士1人が現場を訪れて、6つのパターンに対応できない事態に陥れば仕事は止まってしまいます。
 介護する相手は老人や寝たきりの患者さんです。誰がマイナ保険証を管理するのでしょうか。
 岸田首相は先日テレビに出演して「マイナ保険証を持たない人は、資格確認書を皆にお配りします」と言いましたが、現状ではそれをやるのは1回のみです。そうすると、結局は自分でマイナ保険証を作りに行かなければならない。
 寝たきりの人などは、たいへんな作業になりますが、代理人が申請するとなると、代理人であることを確認するための書類をいろいろ用意しなければならなくなります。
 こんなムチャクチャな制度を国民に押し付けようとしている政府に、私はものすごい怒りをおぼえます。
■マイナンバーとマイナンバカードの違い
──「マイナ保険証の誤登録は今わかっているだけで7300件以上」と書かれています。どうして誤登録が次々発生するのでしょうか。
荻原:2万円分のポイントで国民を釣り、とにかくマイナ保険証の保有率だけを上げようとした結果ではないでしょうか。
※政府は期限までにマイナンバーカードを申請した人に対して2万円分のマイナポイントを付与した。第一弾の期限は2023年の2月末まで、第二弾の期限は9月末まで。マイナポイントはQRコード決済や電子マネーなどのキャッシュレス決済サービスで利用できる。
 ちゃんとした申請の方法を丁寧に教える人も用意しなかった。一時的にすごい数の加入者が押しかけ、5時間待ちという人までいました。そんなに待たされたら、いい加減な情報の入力をするケースも出てくると思います。
──「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は異なる、これが重要な違いであると書かれています。両者はどう異なるのでしょうか。
荻原:マイナンバーの一番大きな目的は、国民の所得を把握することです。政府は何度もこういった試みをしてきました。
 マイナンバー以前の最も新しい例でいうと「住基ネット」がありました。しかし、みんなが住基ネットに大反対して、自治体まで入ることを拒否したので、ほとんど使われなくなってしまった。
 漏らさず税金を徴収するためには、国民背番号制を作る必要があります。そして、国民1人に1つの番号というマイナンバーは国民背番号制です。
 国民がどこでどんな稼ぎ方をしようが、番号を打ち込めば所得が明らかになるシステムを作りたい。これが、マイナンバーの最も大きな目的です。もちろん、マイナンバーを使って行政の効率化を図るという狙いもあります。
それでは、マイナンバーカードとは何か。多くの人はマイナンバーの書かれているカードだと思っています。この認識は正しくありません。
 マイナンバーが「社会保障・税番号制度」に基づいているのに対して、マイナンバーカードは「マイナンバー(個人番号)制度」に基づいて作られています。そして、マイナンバーカードの目的はデジタル・トランスフォーメーション(DX)にあります。
 皆さんの個人情報を束にした情報の高速道路のようなものを作り、デジタル管理し、個人情報を民間サービスなどと紐づけていく。それが大きな目的です。
 スウェーデンやノルウェーなどの北欧の国々では、特にこういった面でのDXが進んでいると言われます。カードを1枚持っていると、買い物やイベントの参加など、いろんなことが手軽にできる。このようなDXを日本も実現したい。
 日本もマイナンバーカードを作り、「公的個人認証」ができるようにして民間企業と連携できるようにしたい。その結果、民間サービスの利用、銀行口座の開設、クレジットカードの申し込みなどもマイナンバーカードを通してより手軽に行うことができるようになる。これがマイナンバカードの目標です。
 でも、今の日本のマイナンバーカードは、とてもDXなどと呼べる水準ではありません。「なんちゃってDX」です。だって、全然便利じゃないじゃないですか。これ、本当に便利ですか?
■便利であればポイントがなくても普及する
荻原:日本のデジタル政策は、今のところほとんど思いつきです。コロナ禍に作った管理支援システム(HER-SYS)にしても、医療関係者が情報を入力する手間に苦しんだばかりで、結局どう役に立ったのか分からない。
 私の知り合いの医療関係者は、HER-SYSに情報を入力する作業で、ほとんど徹夜の業務を強いられてヘトヘトでした。「HER-SYS地獄」です。あの時、強引に集めた情報はどう活用されているのか。お医者さんたちは「結局、何のためになったのか分からない」と言っています。
 日本のDX戦略と呼ばれるものは「世界がDXと言っているから、とりあえずやらないとまずい」「HER-SYSで失敗したからマイナンバーカードのDXで取り戻そう」というだけです。でも、マイナンバーカードは現状では便利ではありません。便利さがないから普及しない。
 普及させたいのであれば便利にすればいい。ところが、2万円バラまいて、さらに健康保険証を入れて、従来の健康保険証を廃止する。そうすると、国民はマイナンバーカードを持たないわけにはいかなくなる。
 しかし、従来の健康保険証を廃止すれば、前述の様々な問題が膨大に発生します。たった1枚のカードで、国民全員がどこでも誰でも安く医療を使える「国民健康保険」のシステムを日本は60年かけて構築したのに、こんな拙速なDX戦略のためにそれを壊そうとしている。──「改正マイナンバー法案」によって、マイナンバーの利用範囲が拡大されていくことに関しても懸念を書かれています。
荻原:そりゃそうですよ。当初マイナンバーは「社会保障」「税」「災害対策」の3つの分野で使われる約束でした。ところが2023年6月2日のマイナンバー法の改正で「そこに準ずる業務」という条件が入った。
「準ずる業務」とはつまり、霞が関用語では「何でもあり」ということです。でも、今のなんちゃってDXのマイナンバーカードだと、セキュリティが危ない。民間と接続するほど、どこから情報が漏れていくか分からない。
ですから、本来であれば、あらゆる方向から安全で便利なものを作り、皆さんに便利だと実感してもらってから普及させるべきです。せっかちなんでしょうね。強引に期限を切って、犠牲になるのが健康保険証です。
■マイナ保険証の真の目的
──マイナ保険証は何のためかという点ですが、核心は、病院や薬局、訪問看護ステーションなどをデジタルにつなぐ「医療DX」にあるのですよね。
荻原:そうです。それが、マイナ保険証の目的です。でも、それが全くできていないことが問題なのです。
 マイナ保険証があれば、リアルタイムに、どこでも行った先の医療機関と必要な情報を共有できる。だから、最高の医療を受けられる。こういうビジョンがありますが、実際はマイナ保険証に現時点で付いている国民の医療情報はレセプト(医療機関が医療保険者へ発行する診療報酬明細書)情報で、タイミング的にも1カ月、2カ月前の情報です。
 政府は10月半ばに、救急搬送された意識不明の患者の医療情報を、マイナ保険証を通して医療機関が確認できるようにする方針を固めたと発表しましたが、倒れている人の1カ月、2カ月前のレセプト情報で、なぜその人が倒れているのか、どの程度分かるものでしょうか。
レセプト情報は請求書情報だから、情報が載るまでに、どうしても1カ月程度時間がかかる。処方された薬の情報も含めて、それだけ遅れる。これだったら、現行のお薬手帳の方が正確で情報が新しくて、よっぽどリアルです。
──顔認証の技術があれば、本人確認は簡単で確実だと思いますが、荻原さんは現状の顔認証の技術にも大いに不安を感じておられます。
荻原:不安どころか、恐怖です。長崎のある男性医師が自分の顔のお面を作り、病院の女性スタッフにお面をつけてもらい、自分のマイナ保険証を使って顔認証を受けさせたら認証されてしまうという過程を見せる動画をYouTubeにあげ、動画込みでこれを東京新聞が報じました。これじゃ誰でも誰かに成りすますことができる。誰でも顔認証です。
私の知人で医療事務をやっている女性がいます。彼女も男性の同僚からマイナ保険証を借り、自分の顔と同僚のマイナ保険証で顔認証をやったらパスしちゃいました。もはや似ているかどうかさえ問題ではない。
顔認証は高い精度で設定すると、本人でも通過できない場合が出てくる。本人が認証されないと問題になるので、業者に精度を下げさせる。そうすると、今度は本人でなくとも認証されるようになってしまう。
 こんな調子なので、病院によっては「顔認証はお断り」というところも出てきています。これでセキュリティになるのでしょうか。
■最善の解決策は既存の健康保険証の存続
──現状のマイナ保険証や、政府の普及戦略には問題や課題が多々見られますが、では、マイナ保険証をやめていく方向で話を進めるべきなのか。それともマイナ保険証をより、安全で、便利で、使いやすいものに進化させていくべきなのか。どう思われますか。
荻原:ソリューションは1つだと思います。今ある健康保険証の廃止をやめることです。穴だらけの高速道路1本にするために、隣の安全な側道を封鎖したわけでしょう。だったらやはり、健康保険証を廃止しないで、再開すれば、問題の大部分は解消できると思います。
 若い人は、マイナ保険証に移っていく。それはそれでいい。でも、それだけでは不都合が生じる人のために、従来のやり方も残すべきです。
──荻原さんの問題提起の内容は、河野大臣も、岸田首相も分かっていて、それでも突き進んでいるのではないかと思いますが、現状では、まだ危険なマイナ保険証を、政府はなぜこれほど強引に進めるのだと思いますか。
荻原:問題は、危険が分かっているのではなく、分かっていないということです。マイナ保険証をやるのであれば、考えなければならないのは医師や患者といった使う人たちの都合です。これを考えて、最もいい方法を取らなければならない。
 それをしないで、とにかく「マイナンバーを普及させたい」が先にきている。デジタル大臣が独走して進めるべきことではなく、本来は厚労大臣が入るべき問題です。だから、現場の声を無視した進め方になるのではないでしょうか。
──再び法改正して「従来の健康保険証を残す」という方針を政府が出せると思いますか?
荻原:ただでさえ支持率が下がっている岸田政権がそんなことをしたら、内閣は吹っ飛ぶ。だから、逆にゴリ押ししている。このゴリ押しがどんどんヘンな方向に向かっている。それでも、勇気を持って「健康保険証の廃止をやめる」と言ったら、私はものすごく評価します。


 
あらためて『マイナ保険証の罠』が明らかになり、もはや国民が挙って反対することが日本の医療を守ることが喫緊の課題であろう、とオジサンは思う。  

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