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「描く」仕事の現場から

イラストレーター兼デザイナー兼ディレクターTETSUの独り言

減りゆくカンプライター(3)

2005年03月19日 | Work's(Comprehensive)
なぜ衰退したかというと、である。

いくつもの理由がある。

■パソコン表現の普及。

 イメージの表現を「手」と「頭」でやっていた時代を70~90年代とすると
 21世紀は「パソコン」と「頭」でやっている時代だ。
 ここでも「手」が衰退している。

 広告の現場に限らず、世の中の大多数は「手っ取り早い」方にシフトする。
 手で描くよりは、目の前のパソコンで全部済ませたいと思うものだ。
 様々なレイアウトソフト、グラフィックソフトの普及でそれらは革新的に
 お手軽になった。一時的に‥だが。
 もっと具体的に言えば、カンプを絵でおこすとスキャンする手間がいる。
 旧来のようにB3/B2の大きなもので描くと、ポジにして製版屋にスキャン出して
 データにしてもらってと、レイアウトになるまでに時間がかかって仕方がない。
 これでは、手描きカンプは消滅するはずだ。

■仮ポジ/フリー素材の普及
 これも大きい。写真加工ソフトが普及すると画材が使えない人たちが
 イメージの加工の部分に入って来れるようになった。
 それと同時に、「元ネタ」探しのニーズが急速に上がったのだ。
 本来はここで、表現者たちは安易な方向に走るべきではなかった。
 「提供者」たちは大きく企業化していく。
 グラフィックは普及しつつも、自力でイメージする力は確実に落ちる。
 今多くのデザインプロダクションがこの「弊害」に蝕まれている。
 「コラージュ」表現は進化する。
 切って、貼って、ピクセルで加工することが「イメージ」を略化することに
 寄与してはいまいか?少なくともすべてに先行して「アイデア」「イメージ」
 があってこその便利な「切って貼ってピクセル加工」である。
 その視点が見えづらくなって来たのだ。
 ただ、素材提供側も企業化して、努力する中で、イメージを広く提供できる
 ようになって来たことで、選択肢は広がりを持ってきた。よりいっそう、
 めんどうくさい昔の技術に光が当たることがなくなって来たのだ。

■語られないカンプの技術
 これも大きい。カンプライティングの現場を見たら驚嘆する技術が
 多くある。昔、デザイナーの先輩が「やつらはすざまじく早いし、上手い」
 と語っていたが、これこそがカンプライターの技術の基本である。
 詳しくは後述するが、そういういい部分を企業秘密であまり語らなかった
 ことで、この世界に憧れる人材がいなくなったのも一つの原因だろう。

■選ぶ世代。
 これからの若い世代は、昔にくらべれば数段裕福である。
 与えられたものの中で「選べ」ばたいていのことは処理できる。
 そう感じて育って来ている。
 「選択肢」を作ることはとても限られた才能になってくる。
 「選ぶ」加工が主流になる。
 「創る」こと「新しく生む」ことは「選ぶ」ことの中にない。

■パソコン依存
 最初のこととかぶるが、「依存」してしまう傾向にあるのが
 現代人である。これは、社会のストレスが「個人」に多大な影響を
 与えている現代を象徴するのであるが、パソコンで作業を始めると
 片時もパソコンを離れないデザイナーがたくさんいる。
 デザイナーはオペレーターではない。デザイナーである限り、
 自分の表現のために片時はパソコンを離れて考える、サムネールを
 別の場所で考えるという時間を持ってほしい。

■チーム化が減り個人化するクリエイティブ
 これも詳細は後述する。が、となりの技術を応用する、利用する術に
 長けた人が少ない。みな、個人で完結しがちである。

他のもあると思うが
様々な要素が、「描く」技術を衰退させていて、
僕の思う、「画術」が消えて来ている気がするのである。
(つづく)
 
 

 

減りゆくカンプライター(2)

2005年03月19日 | Work's(Comprehensive)
世間的なカンプライターの定義は簡単だ。

「カンプ(カンプリヘンシブ)」を描く人である。

カンプを(社)日本広告制作協会が出した教科書の
中なら抜粋するとこうある。

「カンプとは、完成型に近いカタチの広告表現のこと。
原寸大がほとんどだが、駅貼りポスターなどは縮小した
サイズで作る。キャッチフレーズは、きちんと写植文字を
打ってレイアウトする。メインのビジュアルはイラストで
表現する場合が多いが既存の写真を使ったり,また,実際に
写真をとって使用する場合もある」

う~~、唸ってしまった。
すでに写植も滅んでいる。

僕が語りたいのは、(新世代の)カンプライターのことだ。
旧来のカンプの基本を踏襲しつつも新しい応用表現が出来る
新しい技術エリア。

その新しい世代に求められるカンプライター像を話す前に
なぜ、カンプライターが衰退したのか、と、その表現負担は
今どこが負っているのかについて話そう。
(つづく)

減りゆくカンプライター(1)

2005年03月19日 | Work's(Comprehensive)
「これから、現場にくる、絵の描ける若い人に知ってほしい。」

カンプライターと言う職種は、
あまり語られたことがない。

だが、広告業界はこの20~30年、
多くを彼等の技術に依存して来た。

「陰」の存在であるカンプライター。

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僕がこの言葉を最初に知ったのは高校生の時だった。
スーパーリアルイラストレーションの関連書(前述)
などには、スパーリアルの描けるキラ星のような
イラストレーターがみな、異口同音に「カンプライター」
をやってきた、と発言しているのを知ってからだ。

1990年代後半に榎本了壱他がグラフィック展/JACA展
といった公募で、自由な表現をたくさん持った
現代につながるイラストレーターを幅広く発掘するま
での間では、イラストレーターになるには、
カンプライターを経由するのが当たり前だった時代が
あるのである。
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僕はある意味、その両方の流れを汲む世代だ。
カンプライターとしては、最後の世代の何人かに
残念ながらなるのかも知れない。

なぜかというと、現場で僕と同世代か僕より若い世代の
同業者をほとんど見たこと耳にすることがないからだ。

当然、職種柄、そんなにかぶっているとは
思えないので、あわないのは当たり前と言う人も
あるかも知れない。

が、探してみるといい。
本当にいない。

TVの世界のストーリーボードのイラストレーターは
まだまだ、多く存在する。(同様に若手が少ないが)
広告業界などが、そちらの人材に助けられているので、
本当に広告/グラフィック/Webの世界の方では
ここの人材が極限まで減少していることに
気付くのが遅くなっているのだ。

今なら、まだ間に合う。
この部分の人材を後世に残さねばならない。




ある日現場で、ラフカンプ

2005年03月14日 | Work's(Comprehensive)
モノクロラフカンプである。

ある日、現場で、
「某俳優の百面相描いて。」
と、事も無げに言われた。

ひゃくめんしょうでしゅか~
(半分ピノコになった。あっちょんぶりけ。)

描くしかない。
コスプレに興味を持っておけばよかったとか、
短時間限定の後悔がやってくる。

とりあえず、写真みながら、
資料を探す。

この頃友人にとても役に立つアドバイスをもらった。
それは、「いきなり描くな。」
である。1時間でかかなければいけない状況でも
何も見ないで説得力のある絵をかけるほど、
人は都合良くできていない。
「30分はあらん限りの資料を見る、探す。」

資料の使い方が下手だと時間は倍かかる上に、
出来上がりが悪い。説得力もうすい。
(本当に普段から観察している人で
ものすごく描ける人もいるかもしれないが。)

で、写真いろいろ見て描いたのがこれ。
どんな写真を見たのかは内緒。

ニケとコカ・コーラ

2005年03月11日 | Work's(Comprehensive)
4~5年前になるだろうか。
某飲料メーカーのカンプを作成してほしいとの
依頼をデザインプロダクションから受けて、
現場に入った。

AD「コーラが跳ねてね、バシャンと跳ねたそのかたちが
  ギリシャ彫刻のニケの形に見えるようにしたいんだけど‥。」

 「できるかな?」

まさに、ザッツ現場である。
出来ないとは言えない。工夫するしかない。

そのころは、まだフォトショップの5を使い始めたばかりで、
パソコンはじめて3年少しくらいの頃だ。
ようやく使えるようになって来たフィルタに
頼ることに決めた。KPTのシェイプシフターを使う。

まず、いくつかの基本的な写真を合成して、
(写真はほとんどサムネールアイコンレベルだったので、
半分はフォトショップで描く。)
きれいにグラデーションを整えたら、
グラスの周りに、アイキャンディを使って水滴を描く。
自然にしたいので、いくつかは手描きして、
コピーして散らし、機械処理臭さをなくす。

次に、ニケ。
ニケの彫刻の写真を見て、
ハイコンのピクトグラムを起こす要領で
墨一色の形をピグマで描いて作る。
羽はひとつひとつ、わけて描く。
それをスキャンして、シェイプシフターをかけてみる。

勘はあたった。

7割方、らしそうなものができて来た。
一枚レイヤーを足して、水の形をエアブラシで描く。
で、最後に全体に、ハイライトを描いて
出来上がったのが、これ。

普段から、いろんなものを使ってみておかなければ
現場の応用は効かない。

なんとか、ほぼ1日で制作できた。