弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

破天荒、男気、などなど

2009年09月05日 | 言葉/表現
「破天荒」は豪快で大胆?=40代以下、7割超が誤解-文化庁・国語世論調査
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009090400702

 誰も成し得なかったことをするという意味の故事成語「破天荒」を、40代以下の人の7割超が「豪快で大胆な様子」だと誤解していることが4日、文化庁が発表した2008年度の国語世論調査で分かった。
 (中略)
 破天荒の意味を正しく選んだ人は16.9%だった。一方、「豪快で大胆」との回答が64.2%に達し、年代別では16~19歳が75.0%、20代から40代が73.4~77.2%だった。
 何もせずに傍観することを表す「手をこまねく」の意味として、「準備して待ち構える」を挙げた割合は45.6%。16~19歳では61.1%で、若者の誤答が目立った。「時を分かたず」では、本来の意味「いつも」を選択したのは14.1%のみで、「すぐに」との回答が66.8%を占めた。
 慣用句の表現を選ぶ質問では、指示・指揮することを表す「采配(さいはい)を振る」を正しく答えた割合は28.6%。58.4%の人が「采配を振るう」を選んだ。目上の人に気に入られることを示す「お眼鏡にかなう」を「お目にかなう」と間違った割合は39.5%だった。(時事通信)
 
 僕も40代だけど間違えていた。「大胆で豪放」または「型破り」みたいな意味だと思っていた(後者はまだ原義に近いけど)。
 「時を分かたず」はもっと明らかに勘違いしていた。「間をおかず=わりあいすぐに」という意味だと思っていた。「采配を振る」「振るう」は、どっちもありだと思っていた。
 いい歳をして、言葉をわかっているようで実はわかっていないという発見は、これからも続くだろう。こんなブログみたいなところでものを書く機会のある人間だけに、間違えて使って恥を書くこともあるだろう。いつだったかも、「すべからく」の用法を勘違いしていることを、敵意を持った常駐のネット・フナムシさんに指摘してもらうという経験をしている(「的を得る」と「的を射る」)。これはナイスな経験だったが。

 ただ、負け惜しみで言うわけではないが、世の中の大多数の人が間違って憶えているなら、もうそっちの方に合わせる、あるいはそっちもアリということにしてもいいのではないかと、一方では思う。言葉は時代と共に変わっていくものだ。古文で習う言葉の意味・用法が今とは違っている、ズレているケースは山ほどある、それと同じで。

 たとえば、以前聞いた話では、「確信犯」の意味などは、ほとんどの現代人が勘違いしているそうだ。原義は「正しいことだと確信してあえて禁を犯す」なのだが、たいていの人は「悪いことだとわかっていて、あえてやる」という風に思っている。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A2%BA%E4%BF%A1%E7%8A%AF
 僕もその口だ。だって記憶にある限り、ほとんど後者の使い方しか目にしたことがない。国語辞典や教科書ではなく、社会に溢れている生の文章の中でそう憶えてしまったのだから。特にこの「確信犯」の場合、元々法律用語だったものが、一般社会に浸透する過程で変化していったらしい。そういう現象は、古今東西の大衆社会において、いたって自然なことのように感じる(必ずしもいいとばかりとは言い切れないが)。
 なので、今さら修正しようという気も今いち起きない。言葉を何のために使うかと言ったら、僕の場合相手に何かを伝えるためにあるのであって、学校の試験に受かるためではない。大方の人に伝えたいニュアンスが伝わるなら、それでいいのだ。
 しかしそれじゃあ、正しい使い方をしている少数派が迷惑をこうむるではないかと言われれば、確かにそれは申し訳ない、お気の毒さまです、と思う。でもまあ、多くの一般の人に比べて、正しい使い方をできる人というのは相応のインテリなのだから、「私はあえて本来の使い方で通す!」という孤高の姿勢を貫いてもらっていいし、「私が今ここで使っているのは本来の意味であって」という注釈を付けてもらってもいい。あるいはそっちの意味用に、いっそ新しい言語をひねり出してくれてもいいのではないか。勝手な期待だとは思うが、テキトーな民草の一人としては、あえて「確信犯」的にそう言いたい。お、うまくオチがついた。

 ちなみにパオロ・マッツァリーノの『反社会学講座』(ちくま文庫)には、こんなケッサクな説明がある。
…若者の会話を耳にしたとき、「言葉の用法が変わってきているなあ」と面白がるのが言語学者。「言葉遣いが乱れている、けしからん」と怒るのが国語学者です。言語学では「正しい日本語」なるものは存在しません。日本語が乱れている、と嘆いたり憤ったりしているのは、国語学者です。国語学には正解があり、それをみんなに押しつけます。(『反社会学講座』第1回─なぜ社会学はだめなのか、より)
 

 逆に、近頃よく目にする言葉で、一般に本来の意味があまり意識されていないようで、残念に感じるパターンもある。その一つが「男気(おとこぎ)」という言葉である。
 これに任侠道の侠の字を当てて、または「侠気」と書いて「おとこぎ」と読ませるのは、どちらかといえば当て字らしいのだが、僕はそっちの方が好きなのだ。
 http://thesaurus.weblio.jp/content/%E4%BE%A0%E6%B0%97
 別にヤクザ映画や高倉健が特に好きなわけではない。ただ僕として、「おとこぎ」の肝心要のところは、「弱きを助け強きをくじく」とか、「損を承知であえて一肌脱ぐ」気風だと信じている。つまり、それは男性だけが持っている資質ではなく、女性にも「おとごぎ」あふれる人はいるわけだ。語源をたどれば、元々男性に多く見受けられる資質だからこそ、「おとこ・ぎ」なんていうネーミングになったのかもしれないけれど、上の意味で言ったら、今の時代、案外女性の方が「おとこぎ」の持ち主は多い気もする。
 対して「男気」という書き方は、単に男くささ、荒々しさ、細かいことを気にしない大胆さや度胸の良さなんかを意味しているだけに見えてしまう。近頃世間に浸透している「男気」の中身というのは大部分これであって、「侠」のニュアンスが抜けているような気がするのだが、それは要するに、普通に言う「男っぽさ」を、もったいつけて言い直しただけのものではないか。そこが物足りない。
 最近流行の分類で言うと、「肉食系」の男らしさばかりを強調しているような感じでもある。でも実際は、「草食系」男子であっても、「おとこぎ」を備えた人間性というものは当然ありえる。どころか、「おとこぎ」を備えた草食系男子というのは、ある種理想の男性像のようにすら僕には思えるのだけど。国語学者でないから(笑)、それこそ好みを押しつけるつもりはないけれど。

 とにかく、言葉とは生きているものなんですよ、という話。

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6 コメント

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マッツァリーノ氏続刊 (ところ)
2009-09-06 22:49:32
もうお持ちかもしれませんが、「続・反社会学講座」(ちくま文庫)が刊行されました。
中身は「反社会学の不埒な研究報告」を加筆したものだそうですが、まあ、文庫のほうがお得でしょう。

さて言葉の話ですが、この続刊でも「長屋武士道」で「大和魂」なる言葉の本来の意味が書かれています。真逆の意味で使われているってところが驚きでした(単に自分が勉強不足なだけ?)。
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>マッツァリーノ氏続刊 (レイランダー)
2009-09-09 11:06:21
情報ありがとうございます。「続」の方はまだ読んでません。『反社会学講座』の中でもちょこっと宣伝されてたやつですね。『つっこみ力』は買ったんですけど。いずれにしても「買い」ですね。
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Unknown (オピノキ)
2009-09-10 09:41:25
そこそこお久しぶりのオピノキです。

マッツァリーノ氏の著書も読まれてるんですね!
個人的にはアレを読んでビジネス書中毒をやめれた思い入れがあります。
「反社会(常識)的」でありながらポップというか、読みやすい、
という点で氏に対してはある種ロック的なものを感じます。
もっとこういう著者がいたら結構日本も面白くなりそうですね。
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>オピノキさん (レイランダー)
2009-09-11 22:51:22
マッツァリーノ氏の本は、いつもコメントいただいてるところさんに教えてもらったんですよ。こういうのも、ブログやってて得したなー、と思うことの一つです。

>「反社会(常識)的」でありながらポップというか、読みやすい

ええ。だから、たとえばチョムスキーの本とか薦めるのはちょっと、と思う人にでも、この人の本なら簡単に薦められるという。そこも利点なんですよね。
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おじゃまします (夕凪)
2009-09-27 04:42:25
たまたまパオロ・マッツァリーノさんの『反社会学講座』で検索してて流れつきました。
私もポッブで楽しく読めるいい本だと思います。社会学者ってペテンなんだなと実感。
アムネスティがよく「死刑廃止によってカナダでは殺人事件が減った」と言って、
死刑による犯罪抑止力はなく、寧ろ廃止によって犯罪は減るという主張をしてますが、
これもパオロ・マッツァリーノさんのように死刑廃止の1966年からデータを見ると実際には
二倍半にも増えているんですよね。アムネスティは独自調査をピークの1975年と、いったん
減った1980年・2003年にだけ行っていて、件数でなく10万人中の比率で発表しているために
ぐんぐん減っているような印象を受けるわけです。都合のいい時しか調査しないのも笑えるけど。
こうやって人を騙す社会学者はこういう怪しげな団体にも関わっているんでしょうね。
私は死刑反対・廃止派だけど、それとは別に嘘つきアムネスティに対しては存置派の人たちよりも
軽蔑してます。こういうのと共闘はしたくないです。こちらの品性が疑われますので。
(下のグラフをご覧ください。アムの馬鹿っぷりに感動すら覚えます)
http://blog-imgs-21-origin.fc2.com/y/a/w/yawanews/canada01.jpg
http://blog-imgs-21-origin.fc2.com/y/a/w/yawanews/canada02.jpg
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>おじゃまします (レイランダー)
2009-09-28 10:24:48
>こういうのと共闘はしたくないです。こちらの品性が疑われますので。

共闘以前に、おたくがどんな闘いを実践なさってるのか、そこら辺の説明から入るのが普通は筋でしょうね。残念ながら僕としては、とっくにそちらの品性疑ってますよ。
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