弱い文明

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ルー・リード、解き放たれる

2013年10月28日 | 音楽
 ルー・リードが死んだ。もう世界中で何十万人もがブログに書いているのだろうが、僕もオールド・ファンの一人である以上、少しは書こう。
 少しは。少ししか書けないからだ。彼という人は、全く語り尽せない。
 この人には、間違いなく影響を受けた。ミュージシャンとしてだけでなく、詩人として。あるいは、ただ人物として。

 詩人といっても、彼の師匠デルモア・シュワルツがそうであったような「文学界の異才」としての詩人ではなく、彼は「声」の詩人だった。その声に、初めて聴いた時から、爬虫類のような顔ともども虜になった。その「声」があればこそ、彼の作る個性的な歌は、たぐい稀な歌になった。
 たとえば「Men Of Good Fortune」の絶妙な韻の踏み方は、いつも自分に英語で作られた詩へのジェラシーをかき立てる。

 Men of good fortune often cause empires to fall
 While men of poor beginnings often can't do anything at all
 The rich son waits for his father to die
 The poor, they just drink and cry

 だけどそれとて、字面の「詩」が醸し出す以上の迫力を醸し出しているのは、彼の声の震えが伝える「詞」のほうなのだ。僕は彼の曲を通して、「うた」とは何か、ということを飽くことなく考えるようになった(今でも)。

 彼のアルバムは20枚近く聴いたと思うが、本当に好きなのは名盤『ベルリン』を含む2~3枚に過ぎない。それ以外の大部分は、駄作とは言わないまでも、駄作スレスレと言ってしまっていいと思っている(ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの作品に関しては、また別の基準があるのでここには含まない)。
 それでも、そんなことで彼の魅力が減じることはなかった。なぜなら、彼は良いアルバムを作ってなんぼとか、良い演奏をしてなんぼとかという意味での、ミュージシャンではなく、詩人としてただそこにいることが重要な人だったからだ。僕にとっては。
 彼ほどセクシーな詩人はいなかった。

 彼の死を知って、ブログに何か訳詞を載せようとすぐ思った。しかし、何を載せればいいか、わからなかった。好きな曲はたくさんある。字面の訳詞がインパクトのありそうなタイプの曲も、山ほどある。だけど、それを載せるのがこの際ふさわしいのか。
 それより、彼の死を聴いた時、最初に頭に思い浮かんだ曲を訳してみよう、と思った。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの3作目、その名も『The Velvet Underground』所収の「I'm set Free」。あまり語られることのない、地味な曲だけど、個人的に昔から好きだった。

 多くの彼の曲は、痛みから生まれたと思う。生きることの苦痛から逃げ惑う人間を描きながら、彼自身の残酷な詩で世界と切り結んだ。だがその詩を伝える声は、踏みつけられたトカゲのように弱々しく、孤立無援だった。その弱さが、彼の歌の美しさの正体だったのではないか。そんなことを考える。
 ある音楽誌のインタビューで、彼はこう言っていた。「罪が一つあれば、歌が一つ書ける」。そんな言葉を思い出す。

I'm Set Free

ずっと自由でいて ずっと縛られている
昨日の雲の記憶に つながれている
ずっと自由でいて ずっと縛られている

そして今
俺は解き放たれた 自由になった
新しい幻想を見つけるために

ずっと目が見えなかった けれど今は見える
何が起こったんだろう この俺に
横にぴったり歩いているのは お伽話の王子様

そして今
俺は解き放たれた 自由になった
新しい幻想を見つけるために

ずっと自由でいて ずっと縛られている
俺が見つけたものを あんたがたにも教えてやるよ
俺自身の生首が 笑いながら地面を転がって行ったんだ

そして今
俺は解き放たれた 自由になった
新しい幻想を見つけるために


http://www.youtube.com/watch?v=wfzoyDOXfzY


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