弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

今年心に残った映画─②『ホーリー・マウンテン』

2010年12月26日 | 映画
②『ホーリー・マウンテン』

 これは今年の映画ではなく、1973年公開作品のリバイバル上映。
 先月渋谷のミニシアターで、短期間・一日一回上映をしていたのを観に行った。同監督のより有名な作品『エル・トポ』も同時期にやっていたが、そちらは見逃した。
 80年代後半頃だったか、両作品とも僕は観ている。『ホーリー・マウンテン』の方はパンフレットも買った。
 『エル・トポ』はカルト映画史上の金字塔と呼ばれる作品で、世界的にロングランになったり、映画に入れ込んだジョン・レノンが配給権を買い取る(レノンは次回作への出演も希望したとか)など、「伝説」っぽい話題に事欠かない。そのわりに、日本ではレンタルビデオ屋に置いてあった時期もあり、昔から比較的観る機会があった方だと記憶している。
 一方その次作『ホーリー・マウンテン』の方は、メディア的にはやや地味な扱いで露出が少なかった(長く続かなかった)ように思う。しかし内容は『エル・トポ』以上の怪作で、僕はこっちの方がより感動したのだった。なので今年、滅多に観れないアレをまた観れる!ということもあり、一も二もなく、行きたくもない渋谷くんだりまで足を運んでしまった。


 そう、僕はこの映画が好きだった。というか、それまでに観たすべての映画の中で、最も唖然としたラストシーンだったのである。今回久しぶりに観て、やはりこれを超えるラストはない、と再確認した。ハリウッドではありえないだろうな。
 ラストに限らず、いくら前作がヒットした後だとはいえ、よくこんな映画に金を出す制作会社があったもんだ^^と感心してしまうシーンの連続、ということも再確認した。一つ一つのセットを見ているだけで「こんなもんに金かけて・・・」と、笑いがこみ上げてくる(そのくせ、出演者の半裸~全裸率がポルノ並に高い)。
 同時に、その一つ一つの情景が、若い頃に観た時よりも、当たり前かもしれないけど、今の方がはるかにわかる。昔はただのおふざけ、むちゃくちゃとしか感じなかったシーンも、今観ると「ああそうか、なるほど」と腑に落ちるところが多い。
 救済に群がる人々、偽キリスト、(双子の兄弟のような)セックスと権力の面白うてやがて悲しき乱舞──そして「野蛮」な文明からの脱却、「人間性」の発見。
 若い頃にはそれらを「カリカチュア」として頭で捉えるのが主だった。それが今になると、よりダイレクトに肉感的に味わっている自分がいる。クレージーな、グロテスクなシーンを胸いっぱいに吸い上げても、人間に対する不思議な信頼感、優しさを感じてしまう自分がいる。

 監督アレハンドロ・ホドロフスキーは、撮影当時こんなことを言っていたという。
「私は預言者なのかもしれない。いつの日か、孔子やマホメッド、釈迦やキリストが私の元を訪れることを想像することがある」
 よう言うわ!大川隆法かおまえは!とツッコみたくなるのだけど、このあたりの「山師」っぽさも含めて、なんだか愛おしい。ホドロフスキーという人は確信犯、それも人に思いっきり優しい確信犯なのだな、と思う。
 DVDにもなっている。だが、できることなら映画館で観たほうがいい。家で観るなら、家族が寝静まった夜中に、ヘッドフォン装着で観るのがいい。
 しかしこういうものを観ると、ますます無味乾燥な文章をしらっと書き連ねている自分に苛立ってきてしまうのだよな。俺も来年はもっとロックしよう。

 『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』公式サイト


*ちなみにこの映画は、しょこたんも絶賛している。確かに音楽もアシッドでたまらんのよね。えらいぞしょこたん。
 http://ameblo.jp/nakagawa-shoko/entry-10300263523.html

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (こいし)
2011-01-19 20:05:08
僕も先週富山で初めて見ました。

自分はロックが足りないせいか体が疲れていたせいか最初の方は悪趣味だなぁという感じで、わかって見に行っていたくせに(むしろそれを見に行っていたくせに)いまいち楽しめませんでした。

早く山に登れ早く頂上へ行って結末を見せろという感じでみていたので、最後はそれはないだろというかずるいなぁと思いました。

映画のために死んだ動物は成仏できたのかが気がかりです。

自分は欲にまみれて生きていますが、十年ぐらいしたらレイランダーさんのように感じられるのでしょうか(今でももう若くないのですが)。
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>こいしさん (レイランダー)
2011-01-22 12:46:33
富山でもやってたんですか。よかったです。

もちろん悪趣味です。それを笑って楽しめる「悪」な部分の濃い人でないと、この映画はそれ自体がまさに「苦行」だったりして(笑)。
映画のために死んだ動物は成仏できたのかが気がかり、とのことですが、僕は人間にしろ動物にしろ、成仏できたかどうか判定する能力を持ち合わせていません。日頃食べている肉の、元の動物が成仏できたかどうかも気にしてないくらいですから。

客観的に見れば欲にまみれていることは間違いないだろうに、その自覚もなくノホホンと生きてます。こんな僕の方こそ、あと10年位したら、こいしさんのように「悪」が薄まって物の見方が変わるでしょうか。
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Unknown (こいし)
2011-01-23 18:49:26
自分は食べるために殺すのはありだと思うのです。自分も死んだら循環の中で何かの生き物に食べられたいかも(そのために死にたいとは思いませんが)
自分は馬肉も食べます。

芸術のために殺すのはどうかなぁという感じです。

他の知性のある生き物がいたとして(宇宙人とか)その生き物の芸術のためには死ねないなぁと思います。

が、自分も子供のころは虫などをよく殺しました。多分楽しみのために。
今でもゴキブリとか出たら(北国なのであまりいないですが)殺してしまうかも


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ことしの映画 (もののはじめのiina)
2018-12-29 11:22:12
ことしは、みたい映画が少なかったです。
ミッション・インポッシブルとボヘミアン・ラプソディくらいしか印象に残っていないです。

閉館感謝に500円で観た「ニュー・シネマ・パラダイス」は、よかったです。
映画の全盛時代から閉館にいたるまでの映画館を描いた作品でした。

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