弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

“Vicarious”

2008年05月28日 | 音楽
 共感したくなることを歌う。それもロックだが、とてもじゃないが賛成できないことを歌うのもまた、ロックの醍醐味、いや、モラルですらある。そんなことを最近、あらためてジンジンと感じさせてくれた曲があった。
 トゥール(TOOL)というアメリカのバンドの曲、「ヴァイケリアス」(Vicarious)。2006年のアルバム(にして目下の最新作)『10000days』のオープニング・ナンバーである。

 「vicarious」という単語は意味深い。辞書を引くと「代理体験の・・・/(想像により)他人の身になって感じる」という意味と、「身代わりの」という意味の両方を兼ねていることがわかる。たとえばキリストの受難は、すべての罪びとの身代わりとして、まさにvicarious suffering(“代受苦”)であったけれど、一方で苦しんでいる他人の気持ちを想像することもvicariousな行為である、という。ならば、本来はポジティヴな、ヒューマニスティックなニュアンスの言葉だろうと思う。
 ところがトゥールのこの曲は、他人の不幸の上に自分の生を築く人間の行き方を暴露せんがための、反語的な表現としての「vicarious」である。そしてまた、現実に起こっている悲劇を、ヴァーチャルな視力の働きとして認識することしかできない人間の、vicariousな本性を突いている。
 極めて現代的な「vicarious」の提示だと思うし、極めて日本に住む自分の日常に近い感覚の提示でもある。人によっていろんな解釈はあると思うが、僕がこの曲にシビれてしまった理由はそういうことだ。なんて誠実な歌なんだろう、と。どうしてこの手の誠実さが、この国ではヘヴィーでトゥー・マッチで持て余されるゲテモノ扱いしか受けないんだろう、と。


「Vicarious」

テレビに釘づけ
悲惨な事件にゾクゾクする
風味も様々 次から次へと
夫に殺される者
海難事故で死ぬ者
息子に撃たれて死ぬ者
別れのキス代わり 紅茶にひとさじ
妻に毒を盛られて死ぬ者
そいつは俺好みのストーリー
誰かが死ななきゃ面白くない

化け物を見るみたいに俺を見るなよ
あんただって一皮剥けば
中毒患者のような目で
ゾンビのような目で
食い入るようにテレビを観ている
そこでは母が 我が手に抱いた子供の死を看取る
そして両手を空にかかげて泣き叫ぶ
なぜ? なぜ?と

なぜなら遠く離れたところから
死を見つめる必要のある俺がいるからさ
滅び行く世界を感じながら 自分が生きていたいのさ
みんなそれを望んでるだろう?しらばっくれるなよ!

なぜそれを認められない?
なぜそれを認められない?
血が流れるまで 俺達は躊躇しないだろう
お話に描かれるようには
勇敢でも暴虐でもないけれど
血を見るまでは そのまま続けるだろう

安全な遠いところから
死を見つめる必要のある俺がいるのさ
死に行く世界を感じまくりながら 自分が生きていたいのさ
あんただって同じことを感じてる
なぜ認めようとしないんだ?

血は雨のように降りそそぐ
勇気だの誇りだのに引き寄せられて
吸血鬼であり
戦闘員であり
ニュース受信機から目が離せない
肉食嗜好の覗き魔である俺達
しゃれこうべに合わせてカタカタ歌う
ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・・・・

だまされていたいんだろう
人の世には崇高なものがあると
人の心には天使が住むと
幻想から頭を引っこ抜いて
現実を直視しな おめでたいヒッピーども
今さら言わなきゃならないのも心苦しいが
この世は敵意に満ちている 非人間的なのが自然なのだ
生き残るためにむさぼる・・・常にそういうものだったのだ

悲劇は俺達みんなの常食だ
吸血鬼にとっての血のように
死に行く世界を身代わりに
自分が生きていたいのさ
そう おまえらみんな死ぬ
 生きるのは俺だけさ!


 原詩はこちらから。
 プロモーション・ビデオはこちら。7分を越える長い曲だが、興味の湧いた人は頑張って観てほしい。またこの曲を筆頭に、アルバム『10000days』は強靭で個性的な曲揃いの傑作である。

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10 コメント

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Unknown (rei)
2008-05-28 07:56:44
おお!TOOLお聞きになったのですね。実は僕もこの曲は好きで、iPodの再生回数がダントツで1位だったりします。RATMと何かと縁のあるバンドですが、シンガーのメイナードはザック同様、一時期トレント・レズナーと共に活動していた時期もあるそうです。
ところで、もうご存知かもしれませんが、メイナードの別プロジェクトでA perfect circleというバンドがあります。NINのライブメンバーも参加していて、TOOLに比べると洗練され過ぎている気もしますが、決して安っぽくはないサウンドです。彼らが2004年にブッシュ再選を阻止すべくリリースすされたeMOTIVEというカバーアルバムがあるのですが、選曲やアレンジが非常にユニークなのでオススメです。
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>reiさん (レイランダー)
2008-05-28 21:52:04
いやいや、薦めてもらって感謝してます。
最初にreiさんに教えてもらってから、一度レンタルでこの『10000days』を借りたんですよ。その時は時間がなくて、返却するまでに2度くらいしか聴けなかったこともあり、なんかすべての曲が金太郎飴みたいにつながって聴こえてしまいました。それでも「なるほど、こういうスタイルなんだ」という感触はつかめましたが。
それから1年くらいは経ったかな、また無性に聴きたくなってしまって。特に「The Pot」の歌い出しのところが胸に引っかかっていたんだと思います。それで買ってきてあらためて聴き直して、やっぱすげえイイな!と。
ここでは「Vicarious」を、とにかく詞が心にスンナリ入ってきた曲として紹介しましたが、絶品のタイトル曲を含め、深~い曲揃いですよね。

パーフェクト・サークルの方も聴いてみます。僕はトゥールの音のスタイル(構築性)にも感心するけど、まず何よりメイナードの声が好きなんで。見てくれはヘンだけど(笑)。
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こんな歌詞だったとは (所沢の人)
2008-05-29 00:07:06
こんばんは。

ToolというとKing Crimson人脈と関わりがあったりして、かつてプログレを聴いていた人達の間では結構評判の良いバンドというイメージを抱いていました。音は良く聴く機会があったのですが歌詞はあまり気にしていませんでした。
そこで今回改めて読んでみると皮肉が利いていて面白い。でもこの歌詞だと音のほうもそれなりに重厚でないと合わないところがあります。Toolはそれにピッタリの音なんでしょうけど、この重厚な音が日本ではアングラになってしまっているのが現実なんだと思います。私はへビィメタルの進化系の音という風に感じているので積極的に聴く機会がなかなか無いんです。レイランダーさんから紹介のあったThe Mars Voltaなんかは聴いた瞬間これはイイッと思ったのですが。やっぱりこの手の音ならPearl Jam辺りのほうが好きだったりします。

私が日本でこの手の皮肉の利いた歌詞を作っていたと考えるのは70年代フォークやジャックスの早川義夫あたりくらいでしょうか。ジャックスなんてモロにアングラ扱いです。かといって頭脳警察やスターリンなんかになるともっと過激って印象が強いですし。

まあToolだって必ずしもメインストリームとは言い難い(アメリカのラジオ局なんかだとオルタナ系とされているようです)ので、それがすんなり受け入れられるというのは難しいのでしょう。でも音楽ばっかりは個人の趣向がはっきり分かれるところで、万人に受け入れられるなんていう”We are the World”的なものでは無いと思います。
むしろレイランダーさんのブログのようにこのアーティストの魅力は音だけじゃなんだよということが広く知れ渡ることが私のような聴かず嫌いを無くしていくのかも知れません。
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>こんな歌詞だったとは (レイランダー)
2008-05-30 13:09:43
そう、我々オジサンからすると、クリムゾンとつるんでライヴやったりしたというあたりに、すごく親近感を覚えたりもして。実際このバンドやマーズ・ヴォルタなんかは、クリムゾンの正統な後継だと言える面もあると(あくまで一面で)、僕は思ってます。
ただ、もう一つ言えることは、彼らを含むアメリカのオルタナティヴ・ロックと総称される連中というのは、はっきり60~70年代のアーチストとは異質なところがある。それは、“ブルースとの決別”じゃないかと、個人的には考えているんです(これはいずれちゃんと書きたいテーマなんですが)。
パール・ジャムなんかは、逆にまだ多少“ブルース”の文脈を引きずっている方で、だから「往年のロック・ファン」にも耳に馴染みやすい。だけど例えばトゥールだと、基本的な4人編成の演奏形態で、10分を超える長い曲でもギター・ソロが出てこなかったり。逆にマーズなんかだと、ほっときゃ20分でもソロを弾いてますが、それもジミー・ペイジやR・フリップがブルースから抽出した後の、純度の高い音の核だけを用いて構成しているような。
一言で言って、かつての“ブルース”の情緒を消し去ったところからスタートしているような気がするんですね。そこら辺が新世代というか。
トゥールなんかは「プログレ・メタル」なんて形容されているようだけど、本当はかつてのプログレともメタルとも一線を画していて、贅肉をそぎ落とした、とても現代にマッチした構築性を示していると僕は感じます。

ちなみに彼らはすごく売れてるバンドですよ(というか、僕が取り上げてるバンドって、たいてい売れ筋のものです)。アルバムも全米初登場1位になってますし。そりゃあ、マドンナとかホイットニー・ヒューストンとかに比べれば「マニアック」な方でしょうが、そのマニアックなものを受け入れたがる人は、アメリカではかなりな数に上るわけです。そこは日本とは状況が違う。総数でいったら、サザンくらいは売れてるんじゃないか(笑)。
たぶん、日本の自衛隊が海外派兵で現地の人をバンバン殺すようになれば、こういうバンドが日本でも出てきて、結構売れるはずです・・・って、決して冗談ではなくて。まじめな話。
所沢の人さんは、こういう歌を「皮肉の利いた歌詞」って表現しますよね。でも、僕は違うと思う。皮肉ではなく、自分が問題の一部であることを強烈に自覚している、「後ろめたさ」から来る表現だと思うんです。だから「誠実だ」と感じるし、“ブルースとの決別”っていうのも、そこに絡んでくる話なんです。
ここはすごく肝心なところで・・・なぜロックが英米発の文化として始まったのか、そしてなぜ日本人の僕がこんな風にロックにこだわるのか、その理由がそこにあるんでね。

(にしても・・・早川義夫の『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』は高校以来、ひそかな愛聴盤です。)
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追記 (レイランダー)
2008-05-30 13:19:40
忘れてました。reiさんも紹介してくださってるメイナードの別プロジェクトAPC(A Perfect Circle)ですが、レノンの「イマジン」のカヴァー、これは必聴(必見)ですね。この時代、「イマジン」はこういう風にしか演れない。

 http://www.youtube.com/watch?v=jpqKA9_ddFk
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Unknown (rei)
2008-05-30 18:36:47
イマジンのカバー。あれは確かに傑作ですね。件のカバーアルバムは原曲を問わずああいうアレンジが多いです。ジャケットからして絶望的な雰囲気ですし。しかし、それをあえて形にするところにメイナードがメイナードたる所以がある気がします。
彼等のアルバムでは僕は2ndが特にオススメです。
しかし、彼等のアルバムは国内盤はもれなくコピーコントロールという嬉しい(笑)特典付きなので、購入するなら輸入盤をオススメします。
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Unknown (rei)
2008-06-01 12:30:42
連続コメントになってすいません。今回の対訳を読んでいて、ふと思ったことがあるので一言。

メタルの持つ古いイメージの中に「悪魔の音楽」なんてものがありますよね。
90年代にSoundgardenやNIRVANAが現れて以来、そうしたイメージは払拭されたように見えますが、僕はRATMやTOOLの音楽はまさしく悪魔の音楽だと思います。
RATMは日常のニュースや企業/政府による広告の中に潜む真実を告発することで、TOOLは我々自身の目の前に鏡を突きつけることで、間違いなくそこに悪魔の姿を映し出しているのですから。

ふとそんな事を思ってみたので、コメントしたくなってしまいました。すいません。しかし、「俺の新曲を買って、俺に金をよこせ」なんて歌うバンドはTOOL以外にいないでしょうね。
気が向かれたら、1万日の表題曲やロゼッタストーンの対訳もして頂けたら嬉しいです。
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Tool - Vicarious (佐野)
2008-06-01 21:36:32
はじめまして。

初めてコメントさせて戴きます。

System Of A Downをはじめ、個人的に非常に感性を揺さぶられるアーティストを扱っていらっしゃるこちらのサイト、以前からちょくちょく拝見させて戴いておりました。節々から伺い知れる管理人さんのその手の分野への造詣の深さに毎度感服しております。

ぜひいつかToolについても取り上げて欲しいと身勝手ながら思っていたのですが、今回こういった形で取り上げられているのを見付け、書き込みさせて戴きました。

Toolの歌詞の和訳は、僕の見た限り本当の意味でメイナードの詩の芯を突いていないものが多い様に感じていましたが、目を見張る物があり、感銘を受けました。

ぜひ『訳詞と考察』のコーナーで扱って戴きたいです。
…というのはわがままでしょうか。

横から失礼しました。
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これは失礼しました (所沢の人)
2008-06-02 21:46:43
こんにちは。

よくよく調べてみたらToolって随分売れているバンドなんですね。アルバムはもちろんなんですが、"The Pot"なんてメインストリームのシングルチャートでNo.1になっているし、この"Vicarious"もNo.2になっているし、つくづく勉強不足でした。

ブルースの情緒性を消し去った音という指摘は凄く興味深いですね。ただ私にはToolと比べるとMars Voltaのほうか生々しく感じます。この辺は彼らにとって消し去ることのできない出自の部分なのかもしれません。だからこそ私にはMars Voltaのほうが聴き易く、Toolにはある種の違和感を感じるのでしょうか。実際私にはつい聞き流してしまうような身体感覚に訴えてこない音だと感じたのは事実です。


情緒性を排するという傾向は9.11以降のトレンドになっているような気がしてなりません。それは人間の生々しさや情緒性といった身体性を排して単一な社会が無限に拡大していく様を見るような感じがするのです。

Toolはその辺を意識して敢えて情緒性を排して現在社会の怪物性を暴き出そうとし、Mars Voltaは多少自らの出自を意識した音作りをすることで現在社会のあり方に抗議しているんじゃないかと感じます。そう考えると欧米産のロックというのは奥が深いですね。
じゃあ日本でこうした音楽を生み出せるのかというと難しいのかもしれません。出自の違いは消せませんから。

何故そう考えるのかはレイランダーさんの”ブルースとの決別”というのがはっきりした段階でまた書こうかと思います。
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お三方、ありがとうございます (レイランダー)
2008-06-03 22:21:03
お三方、ありがとうございます

遅くなりました。福岡事件のキャンペーンのこと等でいろいろ振り回されて、一杯一杯になっておりまして・・・。

>reiさん
かつてのヘビメタとかの「悪魔嗜好」っていうのは、自分達の音楽にまがまがしい、同時に神秘的なオーラをかぶせることで“反社会的エロス”を獲得しようとしてたようなもんで、言うなればハッタリに過ぎなかったと思います。昔の暴走族が特攻服着てたのと同じ話で(笑)。そういうのは最早パロディのネタにしかならないわけで(聖飢魔Ⅱは正しかったw)。
対してRATMやTOOLの場合、

>我々自身の目の前に鏡を突きつけることで、間違いなくそこに悪魔の姿を映し出している

いわば等身大の悪魔を見据えるわけですね。そしてそれは「私」であり「あなた」であると。ロックはそういう意味で、自分の中の悪魔、自分という悪魔に向き合う音楽でもあるのかも知れませんね。

>1万日の表題曲やロゼッタストーンの対訳もして頂けたら・・・

それって最も難しい二曲では・・・・。ロゼッタストーンの導入部(「Lost Keys」)は簡単なんですけど。


>佐野さん
はじめまして。reiさんもそうですけど、長らくTOOLを聴きこんできた人に認めてもらえるなんて、感無量というか、載せてよかったなあと思います。
まだ他のアルバム(およびAPC)を聴いてないのですが、これだけスケールの大きなバンドだし、「訳詞と考察」で取り上げる可能性は大だと思います。ただ、いつになるとは言えない・・・申し訳ない。そもそも他のアーチストのやつも完結していない有様ですし。気長にお待ちください。これからも気軽に立ち寄ってくださいね。


>所沢の人さん

何も失礼なことなんかありません。いろいろと感じ方・考え方は違うけれど、僕はそこから刺激を受けてますから。
一つ補足というか、注意しておきたいのは、「情緒性」の話のところです。
僕はTOOLなどの「オルタナ」が、かつての“ブルース”の情緒を消し去ったところからスタートしている、とは書きましたが、情緒性そのものを排しているとは思っていません。SOADにしてもマーズにしてもTOOLにしても、非常にメロディアスで情緒的です。ただ、その情緒の中身・意味が、かつてのロックのそれとは違ってきている──あるいは、より意識的で、より切羽詰ったものになっている、という風に感じるんですよ。
言い換えれば「あえて情緒性を排して」いるのではなく、「新たな情緒性を模索している」というか。でもたぶん、僕らはリアルタイムで経験していないけど、クリムゾンが第二期に入って『太陽と戦慄』を出した時だって、かつての「情緒性を排して」、「新たな情緒性を獲得した」と直感したファンは多かったんじゃないのって、今ふと思ったんですけど。

「出自」については、僕も実は昔から思うところがあって。僕は逆に、出自は違っても、日本でこうした音楽は生み出せると思ってるんですよ。いや、これ深い問題なんですよね~。
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