美容室グレープス (飯田市) 店長&スタッフ・ブログ

飯田駅アイパーク広場前「美容室グレープス」(グレープス.com)のブログ。 
本店「スズキ美容室」(飯田市)の話題も。

映画と着物 ④ 「きものの着こなしは、季節を表す季語」

2015年06月21日 | 映画と着物

 

映画  「鬼龍院花子の生涯」   原作 宮尾登美子  監督 五社英雄

◆数ある名作映画の中から、堂々、「シネマきもの手帳」のカバーフォトを飾るのは、

 「鬼龍院花子の生涯」に出演の夏目雅子さんの着物姿。 (撮影 立木義浩)

 

手には、水仙の切り花。

たいへん魅力的な写真です。

 

が、この写真。

冬の花の代表ともいえる水仙と、単衣(ひとえ)の着物のコーディネイトは、

なんとも、映画的。

つまり、映画業界の舞台裏(撮影が、常に、映画公開の半年以上前に行われています)

の事情ががバレバレで、

なにか違和感 (季節がずれている、)を感じていたのですが・・・

 

実は、この花は、西洋水仙。

春から初夏にかけて花を咲かせる水仙でした。

(冬の水仙は「ニホン水仙」という別の種でした。)

◆撮影2017.5.1 飯田市にて◆

 

古典の文学作品や、俳句の世界と同様に、

「着物の着こなし」や「衣替え」も、

古くから、移ろいゆく季節を敏感に感じ取って行なわれる、

日本的なものの代表選手といわれています。

 

このカバー写真で夏目さんが着用している、淡い色の植物柄のきものは、

(「小地谷縮」などの、麻ものではないか・・)

映画の中では、扇風機やうちわが大活躍している、真夏の場面で登場するもです。

 

近年の、全国的な気温の上昇傾向もあり、

「単衣の着物 (裏地のないきもの) を着始める時期がかなり早まっている」ことが、

わたしたちの美容室でも、お客様との話題によくのぼっている、今日この頃です。

 

◆実際、この季節を先取りした着こなしについて◆

「本当に暑い日であれば、この写真のように、夏物のきものを、時期を前倒しして着ることは、

「粋」 なものという捉え方でよいのではないか。」

と、呉服屋さんの社長さんに解説していただきました。

 

 さて、

◆「鬼龍院花子の生涯」◆

 は、宮尾登美子さんの自伝的小説群のなかでも、代表作のひとつと呼ばれるものです。

 

日本の歴史上、「男性が最も強かった時代では?」 

と思われる、明治から大正、昭和初期の激動の時代を、たくましく生き抜いた、

知性と反骨精神にあふれる、気丈で優しい女性の半生が、

メインテーマとして、映画でも貫かれています。

 

 ただし、

◆この映画作品に関しては、

公開当時、夏目雅子さんの劇中でのタンカを切るセリフ 

「なめたらいかんぜよ」

が、テレビなどで、流行のキャッチコピーとして、リピートされたため、

強烈な任侠映画のイメージが植えつけられてしまい、

多くの女性にとっては、「疎遠な映画」となってしまったように記憶しています。

 

しかし、

◆いま 「きもの着こなし」の観点から見直してみると、

大変に見どころが多い作品です。

 

また、五社英雄監督作品らしい、骨太の文芸作品であることも間違いありません。

「侠客」とか、「義侠心」とか・・・

いまの世の中では、ちょっと引いてしまうような、

でも、「近代の歴史」のなかで、大切にされてきた価値観の本質を垣間見ることができるのも、

この作品の魅力であると思います。

 

さいごに、

★映画「鬼龍院花子の生涯」での、きもの着こなし、要チェックポイントを、もうひとつ。

 

◆「女性の職業ときもの」◆

 

時は大正時代。

女衒の親分の養女として育てられた少女が、

自らの強い意志で女学校へ進み、

学校の先生になるのが、夏目雅子さんの役どころ。

 

当時の学校の女性教師の服装である、

「小紋の着物と袴」スタイルの夏目さんの清々しい教師姿に注目です。

 

●当時の女学生の制服が、「振袖+袴」であったことは、多くの方がご存じだと思います。

が、女性教師も袴姿だったことをご存知の方は、多くないと思います。

● 数年前ぐらいまで、当店のお客様で、学校の入学式、卒業式に

「着物+袴」の着付けに来ていただいた学校の先生方もいらっしゃいました。

しかし、大正時代に、なぜ、袴姿が女性教師の服装になったのか、

その理由を知っている方は、いらっしゃいませんでした。

 

(今回、いろいろあたって調べてみましたが、お伝えできるような理由や、きっかけは、まだ見つかっていません。)

 

加えて、

◆もうひとつ注目していただきたい点は、・・・

夏目さんが着る、その「袴スタイルの着物」の、衿の部分の着付けが、

「抜き衿」スタイルを採っているところです。

 

 

◆抜き衿 (「旅の着物に・・「風立ちぬ」八ヶ岳編より」)

 

● 現在の卒業式などでの女子学生の袴スタイルでは、

多くの既製品の振袖がそのように仕立てられているためか、

「抜き衿」のスタイルが当たり前なのですが、

● 明治・大正時代の女学生の袴スタイルでは、

振袖の衿は、抜かれていない(男性の着物の着方と同じ)スタイルが、

一般的だったようです。

● また、伝統的なスタイルを守る「宝塚歌劇団」の卒業のセレモニーでも、

袴スタイルで衿は抜いていないようです。

(娘役も男性型の衿を抜かない「着物+袴」スタイルです。)

 

◆以前ご紹介させていただいた、映画「紀ノ川」 ◆

 

 この映画で、娘役を演じているのが、岩下志麻さん。※

この画像(向かって右側)は、岩下さんが、大正時代の女学生に扮した場面です。

このように、映画「紀ノ川」で登場する女学生の通学着は、矢絣の振り袖に袴。

衿は抜かれていません。

 

※ 「鬼龍院花子の生涯」では、夏目さんの義母役で登場する岩下さん。縦じまのパンチの効いた着物姿に、大きく結い上げたアップスタイルは、のちの「極道の妻たち」シリーズを想起させます。

 

さて、

★今回は、きものの「仕様」に関することまで、こまごまと触れさせていただきました。

これは、着物には、「仕立」という工程があり、

それが、実は大きな意味を持つことを知っていただくための、

サワリであることをご理解いただければ幸いです。 

 

次回に続く。

 


映画と着物 ③

2015年02月21日 | 映画と着物

  

映画 「不思議な岬の物語」 

原作 森沢明夫  監督 成島出

 

 ◆ 飯田市の中央通り 「千劇シネマズ」にて、まだまだ上映中

 

この映画の中に着物は登場しません。

 

しかし、上映前に、この映画のプロデューサーで、主演でもある吉永小百合さんから、飯田の皆さんへのご挨拶の上映があります。

 

着物姿での登場です。

 

 えんじ色の着物姿が素敵です。

が、メッセージに集中していると、時間がすぐに過ぎてしまい、着物のチェックを忘れてしまいます。

普段の映画鑑賞より、一息前に心の準備を整えて、オープニングに集中してください。

 

 

 ~さて、グレープスの本店、「スズキ美容室」には、吉永さんと同年代の皆様に、大変多くご来店いただいています~

 

 そして、「不思議な岬の物語」をごらんになったお客様の多くの方が、この映画に込められたメッセージに共感されたとおっしゃっています。

 

この映画には、大げさなストーリー展開はありません。

平凡なのに、実際にはありえないような、ファンタジックな世界が描かれています。

 

★  岬に立つ喫茶店のマダムは、身の回りで起こる出来事に、いつも自然体で、身をゆだねていて、時に周りの人々の世話を焼いたりしながら、つつましい生活を送っています。

 

そんな主人公の人となりを表現してみると・・・

 「決して怒らない」 「威張らない」 

「他人を許し、他人を憎まない」 「自分のことより他人の心配をする」・・・

 

 いま、映画の中でさえ、こんな価値観を、絵空事でなく体現できる人は、他にはいないはずです。

 

これは、吉永小百合さんによる、the「吉永小百合映画」であることに間違いない作品です。

 

 そして、こんな時代であればこそ、この映画に込められたメッセージは、世代を超え、そして国境を越え、きっと多くの人の心に届いているはずです。

 

 

◆併せて見たい、もう一本の映画

 

映画  「草原の椅子」

原作 宮本輝   監督 成島出

 

 

「不思議な岬の物語」の成島出監督の作品。

 

カメラ 長沼六男さん。音楽 安川午朗さん。

 宮本輝さんの原作を佐藤浩市さん主演で映画化。

 

★ 肉体的にも、社会的立場においても、人生の曲がり角を意識するようになった主人公の内面に起こる心の動きと、価値観の変化の描写に、共感を覚えます。

「不思議な岬の物語」とも通じる、繊細な心理の動き、人間が持っている広いこころが描かれている作品です。

 

そして・・・

吉瀬美智子さん。 吉瀬さんのショートカットのヘアスタイルに映える、凛としていながら、魅惑的な着物姿が楽しめるのが、この作品です。

 

 

 ◆最後に・・・

「千劇シネマズ」さんのお得な情報を一つ・・

 

 美容室のようなサービス業の世界に身を置いていると、土日のお休みはありません。

高速道路の割引もなぜか、土日だけ。

こんな不遇な私たち、美容業界の人間に 「千劇」さんは優しい。

 

 ★映画鑑賞料金の月曜日特別割引を実施されています。

 

 同業者の皆さんも、他のサービス業に従事されている皆様で、月曜日がお休みの皆様も、是非このチャンスを利用されてはいかがでしようか。


映画と着物 ②

2014年11月27日 | 映画と着物

 「細雪」    原作 谷崎潤一郎   監督 市川 崑

 

 

◆ この映画が、東宝映画の50周年記念作品ということにあやかって、スズキ美容室の50周年記念イベントの

料亭でのお祝いごとに合う、ファッションショー」製作のヒントとさせていただきました。

そもそも、圧倒的な予算とスケールで、贅を尽くしたこの映画を素材にするということは、大変恐れ多いことでした。

 

◆ 映画「細雪」は、谷崎潤一郎の原作にある谷崎文学独特の゛エグ゛さやセクシャリティの要素はありません。

家族そろって、見られる映画になっています。

 

◆ そして、原作のもうひとつ特徴である、昭和初期の豪華絢爛な着物ファッション、風俗描写の部分を映画の前面に押し出して、演出されています。

 

◆ 常に実験的で、スタイリッシュな映像表現が代名詞だった市川崑監督の、集大成的な作品。

この映画のためにしつらえられた、豪華な着物の数々が、関西の四季の風物詩(嵯峨の桜、箕面の紅葉など、など、)と溶け合う映像は、見ているだけで、精神的に満たされる美術品と呼んでもよいのではないでしょうか。

 

 

<写真集「細雪のきもの」>

 現在でも「着物の映画」という言葉から連想される映画の一番手ではないかと思える「細雪」 。

それほどの映画ですから、関連本も非常に興味をそそります。

 

この写真集は、映画メイキング本という位置づけでしょうか。

劇中で使用される着物の製作話から、出演のオールスターキャストのきものへのこだわりなどがつづられています。

 

尋常ではなく深いバックグラウンドと、仕込みがあっての細雪のきものであり、映画「細雪」の奥行きの深さが出来上がっていることがよくわかります。

 

 

 

 

 

< 映画の主演キャスト総出演の、写真集「細雪の女たち」  撮影 立木義浩 >

◆ この写真集も、映画とのコラボレーション企画と思われます。

「細雪」を題材にした写真集。こちらも写真界の巨匠を配しての大作。

 

写真集は、映画とは全く違った演出で制作されています。

主人公の四姉妹、特に四女が、映画よりも、原作に近いキャラクター(女性の性の生々しさを体現する存在として)で、中心的に表現されていることに興味を引かれます。

 

 

 

 

 

 

 

◆ 映画「細雪」では、三女 「雪子」の縁談話を中心にストーリーが展開してゆきます。

 

お見合いの場面がいくつかあるのですが、その際の着物選びに注目です。

両親を亡くしている雪子(吉永小百合さん)の親代わりとして、お見合いに同席する、次女(佐久間良子さん)夫妻の着物にも注目です。

 

◆ この映画から、お見合いの場面だけ抜き出してみると、

「お見合い」にも、T.P.O があり、着物の選びの大きな要素になっていることがよく理解できます。

 

◆さいごに、この映画を参考に製作された

当店の「料亭でのお祝いごとに合うファッションショー」から、一場面をご紹介させていただきます。

 

 ◆向かって左  姉 「辻が花の訪問着」

 妹のお祝いの席に、出席する姉の設定で、スタイリングしています。

◆向かって右 妹 「京友禅の振袖」

 二十歳のお祝い。 主役として、このお祝いの席に出席する設定で、スタイリングしています。

 

企画 制作 スズキ美容室

撮影     砂場栄一(リアライズ)

 

衣裳協賛 「澤村屋」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


映画と着物 ①

2014年11月22日 | 映画と着物

前シリーズのテーマでもあった、「着物のある暮らし」

 

と、簡単に言っても・・・

いま、私たちの日常生活の中で、着物姿をイメージすることは、とてもむずかしいことです。

 

なんとか、着物ライフのイメージソースを探そうにも、

「着物のファッション誌」のモデルさんは、生活感とは無縁のポーズを決めて、写真に納まってしまっています。

 

となると、あとは映像に頼るしかありません。

 

そう、映画のフィルムの中には、いきいきと着物姿で生活をしている人間のシーンが、たくさん焼き付けられています。

 

ここでは、

そんな映画(時代劇は除く)の中から、現在の私たちの着物ライフの参考になりそうなものをいくつか、ピックアップしてみたいと思います。

そして、着物を通して、いつもと違う角度から映画を見る、というささやかな楽しみ方をご紹介できたら、と思います。

 

 

<「シネマきもの手帳/森恵子著」  ★この本を、今回の連載の「テーマ設定の」参考文献とさせていただきました>

 

◆着物という一つのテーマにフォーカスして、日本映画を楽しむ◆

着物のみに注目して、今までに見た映画を見直してみる。

すると、一度観た映画でも、今まで気付かなかった、見落としていた映画のこだわり、魅力を発見することができるような気がします。

 

では、まずはこの作品から、

 

 ① 映画 「紀ノ川」  原作 有吉佐和子  監督 中村登  

 

 

◆この映画は、明治時代、まだ特権階級だった、地主の旧家に嫁いだ、主人公(司葉子さん)の一生を、その娘(岩下志麻さん)との葛藤を軸にして描く、まさに大河ドラマと呼ぶにふさわしい大作です。

 

「旅の着物に・・・」の連載の最初のスタイリングである、夏物の白い着物。 

そのイメージソースにさせていただいたのは、次のワンシーンです。

 

◆主人公の司葉子さんが、夏の炎天下、紀ノ川の河原で、夏休みに帰省した息子と、将来について語り合うシーン。

真っ白な着物姿が、とても印象的です。

 

<「旅の着物に・・・/「風立ちぬ」八ヶ岳編」より>

 

映画「紀ノ川」は、このほかにも、着物ファッションの歴史を知るうえで、見どころが大変多い映画です。

 

例えば、

◆映画の冒頭での、紀ノ川を下る「嫁入り行列」の場面と、旧家同士の豪勢な「祝言」の場面は、

「古典的な結婚式」の再現映像としても、興味深く、見ごたえがあります。

 

 

スズキ美容室主催、「ウェディング・ファッションショー」の際には、白無垢の花嫁の重要な映像資料として、擦り切れるほど、再生して、研究させていただきました。

 

⇒「ウェディングファッションショーの記録」

 

 

 

 ② 映画 「夏の終り」  原作 瀬戸内寂聴   監督 熊切和嘉

 

 ◆この映画は、男女の3角関係を描いた、瀬戸内寂聴さんの私小説ともいわれるベストセラーの、何度目かの映画化。

 

◆こちらの映画でも、主人公を演じる満島ひかりさんが着る、夏の真っ白な着物が印象的。

満島さんが着こなす着物の数々は、昭和の中期頃の時代設定のものなのですが、「現在の感覚で、その時代の着物を表現した」と形容するにふさわしい、ハイセンスな感性に満ちています。

 

◆まだ着物が日常着として切られていた時代の、この物語。

満島さんと小林薫さんの着物姿での日常生活が、こだわりぬいた映像表現で綴られています。

 

男性の日常着としての着物の着こなしについても、参考になる映画です。

 

 

つづく。