建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

捨てコン 打設

2022-08-06 16:52:00 | 建設現場 安全

    四月二十二日(土) 晴れ

天気にも恵まれて今日は『捨てコン』を打設する。

生コン車から直接生コンを流し込める基礎は今回は三ヶ所だけだ。掘削した部分が水平なら
まだしも、基礎と地中梁、地中梁と小梁とかで段差が沢山ある。
これをネコ車(一輪車)で土工が生コンを運んでいたのでは仕事にならない。
コンクリートポンプ車でステコンを打つなんて事はあまり行った事がないが、今は職人不足の
為、殆どになった。

Kビルは最初から計画して予算を組んでおいた。
土工に直取り(ネコ車打ち)させればいいという上司の意見もあったけれど
『今はそんな時代じゃないのが見えないのか―――』
というのが本音だったが、もちろん言えずに終わった。

第一回目のポンプ車が7時30分に到着した。
「あらー所長、今度はここかねエ、またよろしくね」
「うん、Kビルは最大の打設時でも220㎥だ、4時迄にはいつでも終わる予定だから楽勝
だヨ、きょうは昼迄には終わるだろう」
と門扉を開けながら話が始まった。

ポンプ車を設置する為に一度場内を見渡してから、能率の上がる場所へ車を移動した。
土工はすでに着替えも終わり「朝礼さえ済めば何時でもいいよ」と言い、スポーツ新聞を熱
心に読んでいた。
今度は天皇賞か、私も一口乗ってみるかと首を突っ込んだ。

「所長、馬やるの?」
「当たり前よ、お馬ちゃんとお話が出来る位に馬には詳しいよ」
「ヘエ――!?」

口から出任せもいいところだ。競馬場に一回も行った事がない。
予想オッズを見ては中穴から流して、かすりもせず損ばかりしている。
職人の手前、本命を買って気の小さいガチガチの男と思われるより、多少の夢を追っかける
(好配当なら飲みにいける)方が『仲間意識』が盛り上がるという私の偏見だ。
実は小遣いを増やしたい《ひと儲けの下心》が見え見えなのにネ。

ともあれ、ステコン打設は始まった。
所定厚さ50㍉の所へ生コンの砂利が25㍉あるから、水平にならす仕事は時には精度が悪い場
合がある。(砂利が重なったら50ミリになって砂利が見えてしまう)

通常「木ゴテ」で左官の仕事の様に表面をならしているけれど、何せスコップ、ツルハシが
本職の土工だから砂利がブツブツ飛び出て来て、コテの跡も残る。

私は土工に『金ゴテ』を使う様に指導している。ただ単に、木ゴテを金ゴテに持ち替えるだけ
であるが、金ゴテで一度均した時
(もう一度ならすと完全になるだろうな………)
という感じが、土工にもよく分かるものだ。

誰でも上手に作ってみたい気持ちはある。
他の職種の人や自分の親方(社長)が自分の仕事を見に来た時に、
「何だ、この仕事はシロウトの方がまだ上手い―――誰がやったんだ」
という軽蔑の言葉を受けたくない。
最も職人のプライドが傷つく言葉なのだ。

大工仕事も左官仕事も塗装工事等、仕上げが見える職種は特に腕自慢が多いものだ。
この心意気が土工にも通じて来るのだから面白い。
たかが『金ゴテ』に持ち替えただけで及ばずながらも左官工の気分で表面を丁寧(ていねい)
仕上げようという気持ちになって来る。

最初のコンクリートをビシッと決めると、以後入ってくる鉄筋工、型枠大工から、
「ここの土工はしっかりしている
と必ず言われる。
このステコンの上で仕事をするのだから、足元がつまづく様なコンクリートだと困るのだ。

たかが捨てコンだよ、基礎の墨が描ければいいではないか、多少でこぼこしてても基礎がのっ
かかれば用を足すンだから………)
と思っている技術者(技術屋)も以外と多い。

ステコンを厚く打った場合は正規の位置より盛り上った事になり、その上の梁が小さくなっ
た事になる。
その為××省の仕事の時、ステコンの高い(厚い)部分はサンダーで削り落としたという情報も
耳にしている。

捨てコンだとなめてかかった結果だと思うが、それを、
「××省の仕事はチイさい所にキビシイのでイヤだ」
というのは本末転倒というものだ。

若手職員も検査する側の立場でモノを判断する力をよく勉強して欲しいものだ。

ステコンも型枠を当てて通り良く打設する事が原則である。
掘った所へベターッといっぱいに拡げて打っている現場にもよく出会う。
墨を出したらステコンが全く違う所に打ってあった経験のある人ほど、目一杯に拡げて表面も
ガタガタで文字通り
『捨てたコンクリート』
の様に固まっているのを見ると、完成まで一体何を監理するのか―――私は疑問を感じてしまう。

     
 四月二十六日(水) 晴れ

鉄筋足代(あしば)組立も完了し、鉄筋工事も基礎では最盛期を向かえている。

 *** 足代=きちんと整備されたもの。
     足場=場当たり的に組んであるもの として私は区別しています。***

掘削内(まさに大きな幾つかの穴)での仕事だから、穴から穴へと渡るにも上部で通路が繋
がっていない事には、鉄筋工事のみならず型枠材料も取り込めない。

レッカーで各々の穴へ材料を全て搬入するには時間が掛かり過ぎる。
鉄筋足代上の作業通路を物を担いで職人達は動き廻る。
昔は鉄筋足代を丸太と番線で組んでいたが、昨今は単管とクランプ(専用取付け金具)で
スマートに組める様になった。

だが、この基礎用の鉄筋足代を無くしてしまおうという風潮もある。

低い基礎(最低でも60㌢はあるだろうが)でも跨(また)いで行けるほどの物はほとんど無い。
高さ的に低い小さな基礎なら鉄筋も型枠組立時も自立しているだろうけれど、生コン打設時
には苦労する。

コンクリート圧送ポンプ車からの筒先ホースは重たいものだし、足代がないとホースを常時
肩に担(かつ)いだ状態でコンクリートを打設する訳だ。
梁の天端からバイブレーダーで水平に突き固める時にはコードを引っ張り廻しながらの作業だし、
腰から上になった型枠の中をのぞき込む様にして、左官工が梁の天端を押さえ(仕上げ)て行く
のも困難なものだ。

 ある時は、足代がなくてなおも型枠だけで1.8mもあり(6尺パネル)型枠によじ登って型枠
を跨(また)いでコンクリートを打った(打たされた?)現場もあった。

大股開いた真下には40㌢の長さの壁筋が20㌢の間隔で二列にも飛び出ている。

(何とかが縮み上がる)というのもこういう状態から生まれたのでは・・・」
とニガ笑いをしながら、それでも『安全第一』を唱えつつ作業をしたこともあった。
労基署さんには内緒(時効)にしておいて下さいね。

Kビルは根切り底(掘削深さ)迄1.6mある。
柱筋が自立するには不可能だから鉄筋足代を利用して垂直に組み立てる。
その柱の中に梁筋が貫通して、部分的にはアンカーと称する折れ曲がり部分もある。

外壁柱になる所にはトップ筋といって更に梁の主筋がアンカー付で増えてくる。
基礎の方を見ると杭の頭の中から補強筋が飛び出しているし、ベースは鳥籠の如く組上がって
いる。

 この中へ生コンを流し込むのだから足代計画はしっかりしておかないと、足代建地が基礎の
中へ入り込んでしまう場合も出て来る。

足代の建地間隔(要は足代の柱となるパイプ)は安全衛生規則で1.8m以内と決まっているが、
基礎が2.5m角だとどうしても基礎に入ってしまう。
とりあえず基礎内に建てておいて、コンクリート打設中に順次盛り替える方法をとらざるを得な
いのだが、打設中には色々とする事があって、単管柱の盛り替えを何故か忘れる事が多い。

打設後、夕方見たらコンクリートに埋まったままで、もう抜けなくなっていた事も多い。

今回は打設前日までにヤラズ(控え柱)を取り付けて補強しておこう。
コンクリート打設時にはコンクリートに専念して、安全かつ、いい仕事をしようと思う。

それにしても、掘削内は狭いので材料を足代上に一時ストックしている。
足代上を物置き変わりにしていて一時は作業通路もなくなってしまう。
総掘りしておけばスペース的に余裕が有ったのにと思うが、もう二週間何とか凌(しの)げば
コンクリートが打てるのだからと考えてしまって、鉄筋足代に経費を掛けてもムダだと思う事
もある。

(この足代上からのケガや事故さえなくて、早く生コン打設して基礎を埋める事だ)
と工程第一に考えてしまった。
でもこれが本音なのだと思うけれど―――。

 現在鉄筋工の作業性は悪くなっているが、地中梁の時はどこの現場でも《こんなもの》だと
職人さん達は慣れている。
私達ゼネコン側も短期間なのだからとついつい《横着》になってしまっているのも正直な所だ。
反省します。もう一度反省します。


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