建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

 最上階(6階)打設

2023-10-23 08:10:21 | 建設現場 安全

 八月二十九日(火) 晴れ 

やっと最上階(6階・屋上含む)のコンクリート打設となった。
昔流に言えば『棟上(むねあげ)だ。

 屋上には『ハト小屋』と称するものがある。
 広告塔の基礎もあるし、衛星放送用のアンテナ台、大型分電盤・避雷針の基礎や冷暖房空調
機器の基礎等あり、結構複雑だ。

 屋根には勾配もあるしパラペット(転落防止兼ねる低い外周腰壁)もあるので、今日の仕事
はかなりハードだ。
屋上への設備配管ダクトとか空気抜きダクトの出てくる部分を『ハト小屋』と名付けた先人
達はいい感覚の持ち主だ。
犬では屋上にはいないし、猫に小屋はマッチしないしね。

ハト小屋から鳩ならぬ配管が飛び出しているけれど、この小屋は常に《雨漏(あまも)れ》の
原因となる要素が強い。
雨が最初に当たる所でもあるし、太陽に常に照らされていて、自然の力の影響をモロに受けて
いる。

 屋上床からの防水を甘く考えていると、とんでもない事になる可能性が大だ。
 風向きも考えて、雨が吹き込んでも逃げ道を考えておかないと、クラック(ひび割れ)から
でも水が滲み入って来る。
 配管を伝って雨水が最下階迄降りて来る場合もある。

コンクリートで作る小さなハト小屋だから『設備工事だ』と言う事になって、
「これは設備屋のものだから、ヤツらでコンクリート打たせろよ、わしらはチト休憩だ」
と平然と言い、打設中でも堂々と(煙草休憩)の職長さんもかつてはいた。
その時代から比べると随分設備屋さんも楽になったというか、恵まれて来たというか、チーム
ワークとしては一緒にコンクリート打設しようという気に「ここKビル」ではなっている。

しかし、後で聞けば設備の世話役のK君とH君は、この前の現場では、躯体職の親方にかな
りのビール券が出て行ったと言い、Kビルではその3分の2以下ですと言う。

半分と言わない所が面白いネ。
その4割ほどは缶ビールとなり現場事務所の冷蔵庫に戻って来ていて、誰れ彼なく持って出て
(私の目を盗んでも)いる。                                  

「こんな現場ここだけで、他ではないぜ」          
職人達のほくそ笑んでる声が聞こえてくるのも楽しいものだ。    

 何やらかんやらで、屋上コンクリート打設が終了したのが2時30分だった。
天気は昼から曇って来たけれど、今日は大丈夫だ。明日は雨かもしれない……。

 左官工が思いの他手間どっている。
何時もは水平に均(なら)すのだけれど、屋根には雨水勾配が有るだけに、流れ方向が気に
掛かったものだ。

 ―――屋上の話――――
        建物の屋上のコーナーにはよく水が溜まって、夏には草が生えている建物も
       ある位だ。
       コンクリートの屋根の上に防水層があって、保護コンクリート(押えコン)
        打ってその中に目地を入れる。

  厚みの少ないコンクリートだから太陽熱によっての収縮が激しく、目地には
  アスファルトを流し込んでいた昔の建物は、夏場になると目地アスファルト
  がコンクリートの伸縮力で押し出されて、秋から春にかけてコンクリートは
  縮みアスファルトは戻らないので隙間となって、そのほんの僅かの隙間から
  も雑草が生えて来る。
  雑草の如く逞(たくま)しくとはこの事を言うのだね。

      普段屋上へは上らなくてもいい非歩行用防水屋根の点検時に、鳥の死骸、野
      球のボール、ビニール袋類、枯れ葉等を掃除する。
      これらのモノでドレーン(軒樋)が詰まり始めている時もある。

    「手入れをしない部屋」と言ってもいい位に、屋上は荒れ放題な場所だ。
   
   一般のビルの屋上はクーリング機器等があり空調水滴が落ちていて、床面
  が濡れたままの所もあったり、出入り口のドアが閉まらなかったり、点検口
      の蓋(ふた)が外れかかってたり―――なぜか屋上は悲惨な部類に入る所だ。

  せめて半年に一度は点検する様オーナーにはお願いしてはあるのだけれどね。
  打設済の表面にアスファルト防水をして保護コンクリートを打つまでまだまだ
  手間のかかる作業が残っている。
     いろいろな経験をして来たなあと振り返りながら、もう少し話を続けよう―――

躯体工事も塔屋(エレベーター機械室)を残して完了だ。
1階コンクリート打設が6月初めで、もう8月も終わり。
その間3ヵ月弱。ペースは早い方だろう。

 屋上のコンクリート打設が終了という節目は建築屋さんにとって、躯体工事が完了した日と
して記念になる日だ。
(やはり《棟上げ》だから一杯飲みに行かねば示しが付かない…かナ)

これからは仕上げ工事に気分が変わって来る。
コンクリート打設日を目指しての直前目標が無くなって、当面の仕事の期限がズルズルとなる
のも悪い習慣だ。

 工程表も工期迄あるかの如くただ書いてあるだけで、シマリのない表だ。
自分で書いて言うのだから、大したものだろう。(笑)

 サッシュはいつ迄に終わるんだ?造作は、左官は、塗装はいつから出来て何時終わるのか?
ガラスは、タイル貼りはと次から次へと仕事は続くが、工程表に日時は書き込んでない。
途切れたり、詰まったりしては
『段取りの悪い現場』
と評判になる。

職種も多いのに、工程表としては各職種が重なったまま、仲良く竣工直前迄全員でいる
のでは『工程監理』とは言えないね。

―――夕方、M店舗に行った―――
もう9月が目前なのに、外壁吹き付け工事がやっと終わりそうで、一部足代解体に取り掛から
ねばならない。

向こう半月間はM店舗に付きっきりとしてでも、
「とにかく引き渡さねばならない」
という内容の工程表を見ながら、結局はKビルから職人を連れて来ない事には《絶対数》
足りないという結論だ。

KビルとM店舗とで、職人感情が―――何て事はもう言ってはいられない。
お互いの親方を説得して(無理やり納得させてでも)やるしかないのだ。

これらの打ち合わせを確認していて気が付いたら21時だった。
今日も充実した(時間を追い越した動きの)一日だった。

帰りにKビルへ立ち寄って屋上の直押さえ(金コテ下地)を見た。
左官の仕上げは水銀灯の明りの下で見ても精度よく出来ていた。
山あり谷ありの雨水勾配付きのコンクリート押さえだったが、よくこなしてくれていて気持
ち良く家路につく事ができた。

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掛持ち工事竣工1か月前

2023-10-10 08:05:38 | 建設現場 安全

    八月二十四日(木) 晴れ     

 M店舗の《サイン塔》とも言うべく目印になる部分の仕上げが、一向に出来上がらない。

建物の正面(屋根上から)7mも突出して形はまるで、フランスの『凱旋門』並だ。
中が空間でこれには頂上で半円形がくっついており、雨漏り対策上最も気にかかる詳細に
なっている。

 デザイン者から見るとメインだのアクセントだのインパクトだのおっしゃるけれど、創る側
からみれば何の事はない、ただの鉄の《飾り塔》だ。

(平屋建てに煙突の如く凱旋門を作って、低層建築物及び田んぼと民家しかない所で、目印も
クソもあったものじゃあない)
これが職人を含めての本音だ。

「デザインはしましたけど構造的にはプロではないので、その辺の仕事のオサマリは任せます
ので、よろしく・・・」
とボソッと言われればどうしようもない。
全く創る側の全責任だ。
どうりで超安全設計になっていたのだが、変更すると『手を抜いた』とも言われかねないので、
設計図通りに工場製作したのがムダに思える。
(変更打ち合わせ期間さえない突貫工事でもあったが―――)

 これが今ネックになって、足代解体がズレ遅れそうな気配から外構工事に余裕がなくなる。
高い所から下へと仕上げて来る手順は、人間が飛びながら作業が出来ない以上当然だ。

 一旦、足代を解体して、外構工事を部分先行させて、また足代を組む方法も検討した。
当然経費は倍以上かかるけれど、今、何らかの手を打たねば、工期にアウトが目に見えて来た。

足代解体が始まると周辺立入禁止も出来ない中、竣工目前で内装工事職人の出入りが多くなって
来て、ヘルメット・安全帯も着用せず(室内作業で危険が少ない)安全監理とは口先だけだ。

ここへ安全パトロール隊が来たら
「心臓が止まるぜ」
と言っていた藤本工事部長の言葉が頭をかすめる。

内装工事は天井下貼り迄完了しているので、後(クロス・塗装工事等)は何とかなりそうだ。
WC、事務室、玄関等狭い空間に集中して職人達がいる。
少しでもズラして工事を行うと能率がいいのだけれど、壁だ、天井だ、配線だ、寸法取りだと
目まぐるしい人の出入りの中で、徐々にだが仕上がって来ているので幾分落ち着いていられる。

しかし、問題は床だ。
床の仕上げの段取りが全く予定つかずだ。
これだけの人の出入りで床を仕上げるには、室内立入り禁止以外にないと決めている。

 床カーペットタイルはコンクリートに直貼りだが、入念に掃除して、順番に貼って行かねば
ならないし、仕上がったこの上に土足で上る事は厳禁だし、脚立を立てて天井に冷暖房器具を
取り付けるのも、本来ならゴメンこうむりたいものだ。
そこまでは今回は無理を言えないので使用を認めたが、仕上がった床に傷がついたら……と心配
だった。

 しかし、工期迄の工事量を順番に頭に描いていたら、とてもまともに納る事はなさそうな予感が、
心臓を圧迫してくる。
(何とかなるさ―――)
と思えず『責任感の強~い、気の小さ~い』私の性格が情けない。
事故があるとしたら脚立から落下・転倒による労災発生を防ぐ厳重管理が必要だ。   
 どういう訳かこのM店舗へ来ると、喫茶店へエスケープしたくなる。   

責任を逃れたい為か見るに見兼ねて、やる気が失せて来るからか、自分の思い通りに人を動
かせないじれったさからだろうけれども、喫茶店からの窓越しで現場を見ている。

 全く第三者的にモノを考えていられるのも、窓側から聞こえて来る軽いノリの音楽のせい
かも知れない。
バックミュージックに流れているのは、昔、学生時代に明けても暮れても演奏(ピアノ弾き)
していたグレンミラー、クインシージョーンズ、デュークエイリントン等のジャズだ。
 スウィングジャズがこんないら立った心境の時に、落ち着きを取り戻してくれるとはあり難い
ものだった。(建築屋でなく音楽関係の道に進みたかった……私の心がよみがえる)

 私には快(こころよ)い音楽でも
「ジャズはサッパリわかんねえ」
と言う職人さんとの打ち合わせ時には場違い(保護帽・安全靴姿)だった店ではあるが・・・

夕刻にKビルへ戻ったら、F君の自信の声だ。
「最後のフロアー6階のコンクリート打設を29日に決定しました。全て手配完了です」
「うん、有り難う、御苦労さん、今回はポンプ工から手違いの電話がなかったかね?」
と冷やかしてみた。
「『あのお盆前の狂騒曲は何だったンだ?』と言っておやりよ」
と破顔一笑で冗談を言う。

お盆直前に打設した現場は他の現場と再開も重なって、圧接工、鉄筋工、大工等の奪い合いと、
足の引っ張り合いで、とても今月末迄にコンクリート打ち出来る事はあるまい。

 小さな現場とかお盆前に打てずに延びてしまってた所をポツンポツンと打っているのが毎年
の盆明け8月後半の仕事だ。
  そして9月の第一週に再びピークがあって、年末にまた大パニックになる・・・。

 その中で8月末日迄には余裕を残した日に、コンクリートが打設出来るという我々の現場は
相当『強運』と思われる。

 Kビルはお盆前には次の階の柱の鉄筋組立を『完了していた』分、他の現場より相当早いコ
ンクリートの打設となったので《段取りの良さだ》と自慢しておこう。

 私はM店舗へ飛んで行ってしまっていたこの一ヵ月なのに、4階、5階、6階へとペースを
守り続けて工程監理をしてくれたF君、それに協力してくれた職長さんや職人さんに
「アリガトウ」
の感謝の気持ちと「ゴメンナサイ」の気持ちを、示さねばなるまい。

A設計事務所とも少し御無沙汰しているので、打設後は『焼き肉大パーティ』をしよう。

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