建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

建物引渡し目前の日々

2023-12-18 08:28:17 | 建設現場 安全

 九月 十一日(月) 晴れ  

Kビルは塔屋(エレベーター機械室・屋上出入り連絡室等)のコンクリート打設だ。
数量は多くはないけれども、設備の関係上、複雑な型になっている。 
コンクリートも
「どこから打てば入るんだ?」
という位、小さい部屋にありがちな『間仕切り小壁』がチョコマカとある。
庇もあるし点検用の階段もある。
その塔屋の屋上もコンクリートの直押さえ(防水下地)もある。

アスファルト防水層の上に歩行用保護コンクリート打設迄ある。
防水工事が終わったら、もう一度ここまで配管してコンクリート打設があるのだ。
狭い部屋なのにそれでも職種の数は結構あるものだ。

大の大人が3人も入ると尻が当たって仕事も出来ない様な所でも、防水、左官、サッシュ、
塗装、電気にEV(エレベーター)の工事等《一人前の部屋》分の作業がある。

屋上迄上るのも面倒になって、EV室は監督さんの目には触れない間に何となく仕上がって
いる場合が多い。

EVの機械が入って来て据え付けに3週間、EV工事を行っているのに、チラリチラリと職
人の出面をチェックする位で、まかせっきりで数千万円の仕事が終わって行く。
メーカーの責任施工だから、カゴさえ吊り込めば、建築屋さんは左ウチワだ。

この最後の塔屋を打っている時は、1階のコンクリートを打設する時のファイトから比べる
と、職人も含めて気楽なものだ。

生コン車が途切れても
「まだ来ないねえ」位だ。
屋上より更に上の場所だから見晴しはいいし、コンクリートも少ない。
とても1日分の仕事にはならないので、ゆっくりと仕事を楽しんでいる様だ。

昼過ぎにはコンクリート打設は終わるだろう・・・と思って私はM店舗へ行った。
昨日は日曜出勤して路盤に砕石敷き迄完了させたので、今日中にはアスファルト舗装を完了
させなければならない大事な時だ。

ところが11時に私が着いた時にはアスファルト工事が全く出来ていない。
「何でだ?・・・何でだ!」
「朝この中に車が入っていて、(アスファルト)工事の人と言い争いがあって・・・」
とまあ、子供のケンカじゃああるまいし、困ったもんだ。
私の目の届かない所での、職人同士のコゼリ合いも、突貫工事になると出て来る事を予想は
してはいたが―――だ。

とにかく半日は戻っては来ない、捨ててしまった工程になったけれど、それからは私が作業
指揮をとってアスファルト舗装を始めた。

(この分だと明日の午前中までかかるけれど・・・)
と予定表を確認したら、何と今日は午後から『社内検査日』だった。

引渡し前には店内から、工務関係者が竣工検査に立会いに来る。
我が社の基準に合っているかどうかのチェックだ。

突貫で築き上げて、やっと間に合いそうになったモノに、精度だ、品質だ、書類
『一般の建物工事』の事を言われたら、
「勝手にしろ!」と言い兼ねないだろう。

ここまで殺気立ってでも何とか出来たモノだが、クレームを付けるとすれば、私の目から見
ても反省点は大いにある。
これは今更どうなるモノでもあるまいに―――。

それよりも明日の午後からは『開発行為工事』の検査がある。
花壇の面積、駐車場の台数、敷地境界の杭の復旧、進入道路と歩道のチェック、これを
パスさせるのが建物使用が出来る大前提だ。

そして、行政の検査が終了すれば、後はオーナーさんが勝手に室内装飾で区切ろうと拡げよ
う(軽微な変更範囲)とご随意にだ。
だから、H設計事務所の検査を主とし、オーナー検査は形式だけで終わらせるつもりだ。

「打ち合わせと違っている、直せ!」
打ち合わせで「言った言わない」は今に始まった事じゃあないけれど、オーナー側から見る
と不要に見えても、どうしても法律的に必要だと言う物が出て来た。

逆らってる時間はないのでとにかく手を打つ事にした。

(冗談じゃあねえ、創りにくい上に後々クレームが起きそうだと相談しても、直す指示も間に
合わなかったし、塗装の色の件だって………なのに)

今日中に舗装工事を頑張って完了する予定だったので、夕方には植木が入って来た。
舗装面にはまだトラックは乗り入れ出来ないし、入口へ降ろす訳にもいかないので、一輪車
で花壇までサツキを運ぶしかない。

運転手にそれをさせるのは酷な話なので、皆で手伝って降ろす事にした。
別途業者の人も見るに見兼ねて手伝ってくれたので、40分位でとにかく片付いた。

午前中のロスがなければ植木も何とかなったのだが・・・。
明日の朝、植木を持って来るものと思込んでいた私の調整ミスだ。

「所長の所だから、前日(まえび)に持って来て安心させて上げようとしたのに・・・」
と言われると、
「持って帰れ」とも言えなかったしね。
だけど、私にも植木屋その1となって、運搬仕事が廻って来ようとは思わなかった。

舗装工事はやはり残った。
明日の10時迄には完了するだろう。
続いて植樹と外灯取り付け工事を終わらせて、昼から開発検査は受けられる。

合格かどうかは不明だけれど、過去何度もあったと言う例の、
「これでは検査になりません、後日また来ます
という事態はかろうじて避けられた。


   九月 十二日(火) 曇り  

昨日の様に舗装工が問題を起こしたら困るので朝の6時半まだ誰も来てない現場で昨日
の舗装工事の終わっている所にたたずみ、
(ここ迄よくやって来れたものだ・・・)と思った。
今日は花壇に植樹して、昼から『開発検査』だ。

「『外構が工事中では検査にならないので、出直して来ます』という事のないように」
と役所からは釘をさされている。

(どの位迄出来ていたら出直しをしなくて、検査対象になるのだろうか―――)
と他人の財布を気にしているのもミジメだ。
ハッキリ言って駐車場のライン引は残る。
植樹も一部残るかも知れない。

境界杭は復旧完了しているが、正確度は今一つだ。
それでも、やれるだけの事をやったのが
「ここ迄」
と言う事になったのだ。

 出来の良し悪しを問えば満足度を充実出来なかったのは、不徳の致す処だ。
普通の人からみれば、完成したらそれで良いと思うだろうけれど、創(つく)りながらの思考
は全くなく、とにかく工期に向かって走りに走った仕事だったので、私は反省する事しきり
である。

ドア一枚にしても《こうした方が………》といういつもの内容確認を行う時には、
(こんな事は設計に任せて、私は創る人・・早く決まれば手配をするから・・・)
とおっくうさを殺してでも打ち合わせを行っていたものが、あまりM店舗ではなかっただけ
に、逆に寂しさを感じる。 
オーナーとの打ち合わせは全てH設計事務所が行って下さって、決定番号○○-○だとFAX
が届く。
この数字だけだから『トータル的な色彩』はどうなっているのか、不安は多かったが
《神と神様の声》だからこの際黙って準備するのが『得策』として割り切らせて頂いた。

今朝はトラブルもなくアスファルト舗装が進んでいる。
10時には終了したが、重機の回送搬出は午後になった。
その待ち時間の中で大島建設の安田さんは、

「開店したらみっともなくて見られないだろう」
と予測して、U字溝の蓋をはずして、
「工事中に市の側溝を汚したと言われるのも面白くないから」
と言って一斉に道路(県道)の大掃除までも引き受けてくれた。

大島建設さんとはAマンションから色々と無理なお願いをしているけれど、昨日の植樹の
運搬応援にしてもKビルの乗り入れ工事も、気兼ねなく引き受けてくれて助かったものだ。

M店舗も最初と最後は大島建設の出番だった。

特に最後の砕石搬入は、私の予定を読んで大島建設の材料置き場へストックしてあったモノ
を積み込んで来たものだ。
当然積込み代は余分にかかったけれど、日曜日に搬入(建材店は休み)を見越しての事で、
これはM店舗の
『外構工事(開発検査)の生命線』でもあった。

竣工間際に雨の影響があったものの、とにかく(なんとか)ここ迄出来たのだ。

開発検査員の方は16時に来られた。
「駐車場のライン引きが残って台数の確認が出来ませんが・・・」
と先に謝(あやま)った。

「ここまで間に合っているとは思いませんでしたから、今日最後に伺ったのですよ。駐車場の
台数は・・・これだけの舗装の広さがあると台数は十分ですね。花壇の面積をチェックします
から、テープを・・・」
50mテープを差し出したが、
「図面通りの区画になっているので、最小寸法巾の所をチェックします」
と花壇の巾をあたって、面積計算を概算された。

「切捨て計算でもクリアーしているのでOKですネ。明日使用許可証を取りに来て下さい」
(バンザア~イ、ヤッタアー、よかったなあ)
早速支店に開発検査結果を報告した。

これで建物だけの検査となった。
こちらは法的に問題になりそうな所はほとんど無い筈だ。
消防署が火災報知器、排煙窓面積チェック位である。
浄化槽は既製品だから届け出の書類で終わりだ。

本設電源に切り替わり冷暖房の調子が今一つだが、これは検査の対象外だ。
オープン迄には試運転期間は十分あるし、店員さんの訓練用の研修期間内で調整完了可能だ。

これで竣工引渡しも出来るのだ。
私の仕事を代行して、何かと面倒を見て頂いた岸田工務店の中村さん、外構工事で頑張って
くれた大島建設の安田さん、三浦土木の三浦社長さん『あ・り・が・と・う』

 

 

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目鼻がつかない状態でも

2023-12-04 08:23:57 | 建設現場 安全

 九月  七日(木) 曇り    

昨日迄雨が降っていたので、地盤が緩(ゆる)い。幸いにも雨は上がっている。
もう待てないので店舗用駐車場予定場所の鋤(すき)取りを始めた。

土は粘土の如くミニユンボにくっついて、整地しているのか混ぜ返しているのか、
訳が分からなくなりそうだ。

目検討で土の盛り上がり部分を場外処分した後に地盤改良だ。
これはKビルで杭打工事の時に一度行っているので、作業内容、作業時間も予定がつく。

土を掘って改良薬剤を混ぜるのだから、濡(ぬ)れている土でも大丈夫だ。
説明書によれば土の中の水分に石灰分が作用して、熱を発生して固まるというものだ。

化学の力を信じよう、信じるのだ、今日は…。
場内掘り返しの関係上、資材搬入車両が入れない。その分周辺道路へ停めてしまう。

一般家庭の玄関の前に平気で車を停める名古屋人の図太さが理解出来なかったけれど、
止むを得ない。
広い道路の左側一車線は、早い者勝ちの駐車行列状態となってしまっている。
この都市で慣れた感覚をここの現場(周囲は田畑)でも同じ様にせざるを得ない。

しかし、今日に限って10時頃パトカーが来て、通り過ぎて―――は頂けなかった。
『責任者を呼べ』と言ってるよ、所長さん」
あり難くない呼出しだ。

「済みません・・・」
「歩道に車を置くな、道路に停めるな、駐車禁止を貼るぞ、道路使用許可は取ってあるのか、
○○組ともあろう会社が何だこれは!」
まあ国家警察とは言え、国民の公僕のお方が、何て物の言い方なのでしょうね。

工事現場と言う弱い所へ『強権発揮』して何が楽しいのだ?どこへ持って行けって言うんだ
ろうか?ここは周辺「田んぼ」だよ。(駐禁の看板は見当たらない…)

道路許可証はちゃんと頂いておりますヨ。
表示看板は仮囲いの解体とともに先日撤去したのでチトまずかった。

もう7日間で『竣工引渡し』を行うのに、仮囲いも許可表示看板もあったものじゃあない。
許可証の控えは提示したものの、
「次に巡回時は全て駐車禁止貼るからな、いいね、君の名前は?・・・」

私の父も戦後まで警察官で「オイ、コラ」だったと母はよく言っていたけれどね・・・。
とにかく国家権力と言い争っても仕事は進まない。

近所の喫茶店の駐車場を借りたり、スーパーへ一時置かせて頂いて、ガードマンを右に左に
走り廻して、場内の鋤取りが済む迄の『しんぼう』だ。
耐えるしかあるまい・・・。

明日迄はこの状態が続く。
明日『駐禁』貼られたら出頭するしかない。

ゼニで済むなら何とでもなるサ・・・というこの開き直りを警察にも、協力業者にも覚悟した。
別に国家に対してケンカを売っているつもりは毛頭ないからね。

後2日間、我々で交通整理をして、第三者災害を防ぐ努力はする。
ガードマンも増員するし駐車場の路盤(下地)が出来たら車は現場に取り込むから、明後日以後
パトカーさん来てね。

この混雑時にオーナーがやって来られた。
じっくり現場を視察される。
(もう竣工迄は注文事項は待ってよ)
と言いたいけれども、何が飛び出すやら気が気でない。

「やっぱり元の色が良かったかねえ・・・」
なんてサイン塔を見て言われた。

もう首締めてやりたいよ全く・・・。
権力と工期に押しつけられた私は、潰(つぶ)れてしまうよ。
このダメージ多い時に、
『泣きっ面に、倒れた所に牛の』だ。

オーナーとは竣工式の準備とその後の予定について打ち合わせをした。
官庁関係の諸手続きは、書類への捺印がすぐ出来る様に、事務担当の岡本副所長に動いて
頂いた。
刑務所現場勤務当時から、夜食に宿泊・夜の麻雀から全て「困った時のオカちゃん頼み」で
上役だが気兼ねなしに頼めるのもあり難かった。


「(雀鬼の)岡本さん、最低限度の書類に絞ろうよ、内容もサ。Aマンションの時の控えがフロッ
ピーに有るので官庁諸手続きの書類差し替えはすぐだよ。直す所だけ赤で書いててヨ。夜ワー
プロ打っておくから、明日は支店で社印もらって来てよ―――それから・・・」
と大先輩なのにアゴで使う私は、きっと岡本さんに甘え切っているのだろう。ゴメンネ。

社内回覧の捺印も岡本さんの力で、1時間以内に済まして来るのは簡単だと信じている私だ。
とにかくM店舗も型が整って来た。
これで舗装すれば完全だ、と思える位にはなったけれども、室内は内装工事(別途業者)がワン
サカ入って寸法を測っている。


「ここは棚だ、ショーケースだ、両開きドアだったんだね」
と、私に色々たずねて来るけれど、
(店内装飾の別途業者まで面倒みれるかっ!!) 
頭に血が上っている自分にハッとした。

自分の事しか今は考えていられないのも、当然ではあろうが、オーナーの専用業者に冷たい
態度を見せるのは、所長として良い筈はない。
最後の最後まで面倒を見て上げる事が、工期短縮出来なかった《お返し》でもあろう。

地盤改良が終わって転圧ローラーで整地を始めたのが17時。
だんだん陽が短くなっているが、とにかく明日朝からせめて10台は車を停(と)める所を作っておこう
と転圧業務を指示したのだが、やり出したら止まらない。

お隣さんが窓から顔を出して、
「何時まで今日はされますの?いつがオープンなのですか?」
「もう1時間、時間を下さい。駐車場を作らないと警察に車を持って行かれるのでね」

自分達が全面的に悪いのに、この際ミソもクソも一緒に他人のせいにする。
「はい、オープンは10月初めです。もう店の内装工事や商品が入って来ていますよ」
「大変ですねエ」
「いいえェ、いつも最後はこうなるのが現場の常でして………スミマセン」

結局20時半迄かかって専用駐車場の路盤転圧は出来た。
これを2日間寝かせておいて、アスファルト舗装をすれば完全だ。
乗用車なら明朝から入っても路盤下地が傷付く事はない。
明日は警察からもう警告を受けなくて済む・・・ホッと一安心だった。

今日も一日『台風』だったのか『戦争』だったのか、アッという間に終わってしまった。
21時半を廻っていたが、帰りにKビルへ寄った。

11日に「塔屋機械室+1階受水槽機械台のコンクリートOK」
と行事予定の黒板にN子の生きのいい右上がりの文字が書き込まれてあった。

(そうか、まだコンクリート打ちがあったのだ・・・)
私の机に腰を降ろして、ここが私の場所なんだ―――と何やらホッとするモノを感じていた。

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