建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

ダメコン打設

2023-08-01 08:24:17 | 建設現場 安全

 七月二十七日(木) 晴れ  

Kビルの4階コンクリート打設だ。

朝9時半頃迄はF君の手配、段取りを確認していた。
職人さんの顔ぶれも下の階とほぼ同じメンバーである。
後はハプニングが起きない事を祈るだけだ。

この階も110㎥前後の生コン予定だ。
その後は、1~3階のダメコン(後で打とうと計画していた所や材料取り出し用仮設の穴の
数か所を復旧)を3㎥位打つ必要がある。

これを今日確実に打ち終わって(塞ふさいで)おかないと、サッシュとか設備工事が入って来
る時になってから、穴のままだとその場になって、あわててしまう事になる。
次の5階のコンクリート打設がお盆前だけれど、その時に打つとしたら、型枠解体するまで
の期間を考慮して、仕上げ工事の工程は9月から着手になる。

 これでも遅くはないけれど、後にズラしてまとめてダメコンを打つとすれば、ポンプ車も
土工も手配し、5~7㎥の生コン打設に一日費やしてホースを引きずり廻すだけで、時間の
無駄だ。

今日も昼過ぎには打設終了するだろう。
ポンプ車自体の残りコンクリート(ホッパー、ホース内)も含めて、全て打ち切ってしまえ
る時間がある。
3時迄有効にポンプ車を稼働させ清掃して回送しても、定時迄には作業完了する。

 しかし、今日の予定を「4階の打設だ」との先入観で場内に入って来た人に、ダメコンを打
つと言うと余分な仕事の如くに思えて、
(えッ?次の機会にしてよ)
と顔に書いてある。

ここを押し切って打てるかどうかが、F君と下請けさんの親密度の判断材料だ。
「前に来たヤツが残した所なら、前のヤツらに打たせりゃいいがねえ・・・」

 ――ご最もな意見でございます。でも――――
「自分達だって『面倒クサい所は後から打とう』とその時は言っていて、他の仲間にカバー
してもらっている事を忘れるな
私が親方ならそう言ってやる。

まあこのダメコンも定時以内に終わるように予定を組んでおけば、余程の事がない限り職人
さん達も動いてくれる。
お盆前でクニへ帰ろうとあせっている時だと無理だがネ……。

私の若い頃はポンプ車で少量のダメコン打ち等は勿体(もったい)ないという主任の考えで、
ネコ車(手押し一輪車)からバケツリレ ーで穴を埋めたものだ。
中には高さ1.2m積んだブロックの上部型枠の中へ脚立に跨(また)がって……。

この記憶がダメコン、雑コン、穴埋めコン等の言葉を聞いただけで
『やりたくないもの』
と反応してしまうみたいだ。

10時にはM店舗にいた。
『鉄骨本締め』も今日で終わるだろう。
弋工が仮締めしていたボルトを正規のハイテンションボルトに差し替える仕事は
鍛冶(かじ)工』
と称する職種の仕事だ。(鍛冶工の説明は後日しましょう)

鉄骨を製作した工場から、鉄骨組立のベテランが「本締め」に来る場合も多い。
施工図が悪かったり、うっかりすると本締めの工具が入らない狭い部分があったりすると、
工場で原寸図を引いた(書いた)人を呼んで勉強させている事もよくある話だ。

―――吊り足場がなくてハシゴでも架けると本締めは出来るけれど、本締めを止めて吊り
足場を解体する訳にはいかない。
「困ったねえ」
と言うより先に
「この部分はリフト(信号機を直すような車)を持って来て足代解体後に・・・」
となり、もう今となってはそれしかない・・・という現場もかつてあったなあ。
 こういう事の繰り返しも幾つかあって、鉄骨工事は終了していくのだ―――。

ここM店舗は待ったなしの短期工事だという事で手戻りは絶対に許されない。
それに私の性格を見通して鉄骨工も弋工もそれなりの対処をしていてくれた。
それでも窓の変更図面を打ち合わせをしていたにもかかわらず、変更前の状況が2ヵ所出
て来た。

鉄骨がやっと組めた、組めたと安心するには、まだまだ先なのかも知れない。
他にもチェックミスがないか気掛かりになり始めてきた。
ボルトの締めつけ忘れだってあるかも知れないし……。
心配のタネは尽きないものだ、全く。

夕刻にはKビルへUターンだ。

ダメコンは予定カ所全て打ってあって合格だ。
但し、ダメコンを打設時にホースからはみ出たコンクリートの処理がまずい。
これは早急に処分しておく事だ。
コンパネの上に牛の糞(ふん)の如く無造作に置いてあり、固まっている。
これも誰かが片付けねばならないのだ。

設計事務所、オーナーが来られた時、それ(牛の糞)を見てどう思われるかも建築技術屋の
神経の配り所の一つと私は思うが・・・。

七月三十一日(月) 晴れ
 
とにかく暑い。                                                                                              
朝礼中でも建物の影に入ってのラジオ体操だ。 
久し振りに朝礼時に雑談をした。                                                             
「この暑い太陽の光は、太陽からどの位の時間で地球に届くか知っている?」
(ひたい)からもう汗がキラキラと光っている人もいるこの暑い時に、頭なんか使えない
だろうけれど、一応訊(たずね)てみた。

「光でもかなりかかるよ、星は何光年というし……」     
「太陽はもっと近いから早いさ」
「雲に隠れたら届かない、測れない」
「俺そんな事知らんでも構わん」

まあそれぞれ好きな事を言っていた。
「F君、どの位だと思う?」と訊(きい)た。
「多分・・・10分位だと思います」
そう正解だ。
太陽から地球まで1億5000万キロメートル、時間にして8分30秒で到達するのだから、暑い
のだ。
オゾンがなくなるともっと環境が変化するから、スプレー塗料のガス、クーラーのガス
(フロンガス)を撒(ま)き散らす事のない様にしましょうと言ったけれど、建築現場で
なおかつ安全とは何のかかわりもない朝礼話だった。

5階のコンクリート打設は8月11日だ。
これはもう大分前に決定している事だ。
そして、翌日墨出しを午前中行って、昼から現場は休みに入る……盆明けは・・・。

「所長、いつからいつ迄Kビルは休みなの?…クニへ帰るの?
こういう会話が来客と言わず、電話と言わず、挨拶代わりに多くなった。

盆、正月はクニへ帰るし、また、この業界は出稼ぎ(この言葉は使いたくない)が、かなり
多い。
クニへ帰る人に現場再開予定は○○日だというのも、カワイソウである。

「お盆前に頑張った分、ゆっくり戻ればいいよ」
と優しい心か、甘い考えか分からないけれど私はいつも言うている。

 長期連続休暇取得の正当性をマスコミはニュースにしているけれど、この業界は働きバチ
働きバカ?)から抜け出せそうもない。
まとまって休めるのは我々も含めて盆・正月しかないのだから、若者が嫌う5Kの内の一つの
『休日がない』のKも理由の一つとしては、かなりのウェイトを占めて当然だ。

でも、『現場は楽しいものだよ』と言いたくて書き始めたこの物語も、今読み返してみると
『楽しい所なんか何もない』様だ。
私の偏見がさらに一方的に書いてあるだけで、私自身悩んでしまった。
これでは私のウップン晴らしを言いたかったと受け取られそうだから、失敗談の所はカット
してみよう。

これからは仕上げ工程に移って行くので、現場の雑談記録をテーマにして行こう。
今日の朝礼の様な話もしょっちゅうヒマツブシ(失礼、自由時間内言動)としては有るし、
駄洒落(だじゃれ)やクイズやギャンブル予想やアッと驚かす事から、チョットHな会話も
この集団(Kビル軍団)内では、日常茶飯事だ。

電気の担当者のK君、空調衛生担当のH君、わが社のF君、事務のN子と年令が22から30で
くっ付いているのに私だけダントツの42。

まさにトウが立っている私だが、彼らの中でも通用する
ヤンパー(ヤングパパ)だ』(設備総合担当のMさんもヤンパーの部類だナ)

 体力では負けるけれど口数はこっちのものだ。
教養(雑学)だってこっちのものだ。
太陽光線知らなかっただろうよ、教えてやったンだぜとフクミ笑いだ。

しかし、若者の中にいると気分的にも楽になるのは何故だろう。
『こいつらアホか!?』 
と言えない分、私もその集団側に近い方にきっと居るのだろう。

仕事の厳しさ、口うるさ型、ヤンチャ度は職人からも指摘されるけれど、それは特定の時期
特定の内容による場合で、常に監視状況ではない。
言い合える雰囲気、コミュニケーションの充実、雑学の押し売り、明るい笑い、これらは
現場には不可欠だと思う。(自己納得というけども…)

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