建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

鉄筋アシバ組み立てに

2022-08-22 09:30:20 | 建設現場 安全

 

 五月  三日(水) 晴れ

 

 ゴールデンウィークまっただ中だ。 

 世の中は連休だというのに、この業界の《5K》の
中の一つ(休日がないのK)にとっぷりと漬かって、
レジャー人間を横目に仕事をしている哀れな所長の私である。

  鉄筋組立も八割済んで後はスリーブ(配管が通る穴)の補強とサシ筋(壁に
なる所の鉄筋を出しておく)それに一部残ったエレベーターピット周りの
壁筋位だ。

型枠工もトラックで相当なパネルを搬入し始めて、場内所狭しと降ろしている。
やっと鉄筋の材料が片付いたと思えた矢先に、休まる事もなく次の工事用の
資材は搬入される。

当然であるこの繰り返しが完成まで、幾度となく続くのだろう。
花壇の『客土(きゃくど)』を入れて植樹をして最後だろうとは思うけれど、
まだまだ先は長い。

  とにかく今、現場は始まったばかりだ。
 そろそろ配筋(はいきん)検査(設計事務所の構造担当者による検査)の打ち
合わせを連絡しておかねばならない。

何故の配筋検査なのかを語ると長くなるので、今日は止めておこう。

  今は配筋を見て頂くのが先決でそれには私も自主検査を行っておく
必要がある。
 そのような事を思いながら窓から鉄筋足代を何となく見渡していたら昔、
大失敗をした事を
フト思いだした。

足代(安全に組立て)と足場(場当たり的な組立モノ)は区別しよう》

―――昔―――(鉄筋足場事件)―――――
        私のかけ出しの頃だ。鉄筋足代なんて組んだ事もそれよりも見た事も
  ない様
 な時に、主任から
 「計画しておけ」と夜、酒を飲んでいる時に言われた。

    「《鉄筋アシバ》何だそれは?・・。まあ鉄筋屋の足場になれば
   いいんだろう。
丸太で組むのだから間違ってたらノコギリで切れば済む
    し・・・」
    と甘く考え
て、私も酒を飲んでは日を過ごしていた。
    そして鉄筋アシバ組立が明日となった。

  組み立て用の丸太は現場の片隅にドッサリと段取りよく?昔から置い
  てあるので、
 何も考えずに日々を過ごしていた訳だが、

  「まあ何とかなるだろう、弋の親方に相談しよう、親方はやさしいし
       今までも
色々と手助けしてくれてたし……」
    と思い組立図は書かなかった。

    当日、ねじり鉢巻き姿(当時弋がヘルメットなんてかぶってられるかっ!)
    オッサン連中がやって来て、 
 
  「オイ兄チャン、タテジ(建地)は何処まで延ばすんだ?ヌノ(布)
      ステ(捨てコン)
からナンボ何だ!?
        サンバシは?・・・ヤラズは?コロバシは?―――ナンボ何だ!!」
      とまあ一体何語を喋(しゃべ)っているのか私はオロオロしてしまった。

      確かに『建築用語』と知ってはいるものの、相手の威勢のいいのに、
     私のペ
ースは狂ってしまった。

      それからあわてて基礎の図面を見て鉄筋アシバという
よりも丸太柱を
     立てる 位置を図面に書いた。

   「兄チャン、現場でシルシを書いてくれんとワシらに図面の事言うて
も・・」
   「エッ!現場に印!?・・・そうか現地で石灰で丸を書いて弋さんに
   『ここに柱を建てて下さい』
    と言うのか、何だ簡単じゃアないか、私は今図面に印をしたのを持って
    出れば
  済む……」
     と勇んで現地へ飛び出した。

     しかし布(ヌノ=水平方向に繋ぐ丸太)の高さが全く頭に入ってなかった。
      弋さんが自分の頭より少し高い所で横丸太を組んでくれればイイものと
    思い
 込んでいたので、チェックどころか組上がって行くのを楽しく見惚(みと)
     れていた。

   「バッカモン!何組んでンだバカ!!
    とヘルメット越しに主任のゲンコツと雷が飛んで来た。

    ムッと見返すと更に、
   「お前、基礎の高さ知ってンのか!地中梁の中を丸太が通れば鉄筋どう
     やって
組むんだ?バカモン!!」

    「えッ !?」
     何たる事だ。言われてみればその通り。全身の血がスーッと引いて行く。
    今
まで組んでいた物が全く使えない。
    解体してまた組み直さねばならないのだ。

     弋工に「ゴメン・・・俺、間違えたァ」
     と言ったって通じるだろうか?通じない
だろうなあ―――と悩んでいたら、
    「よくあるこったヨ、若けェうちは………」
     と分かった様なお助け言葉が返って来た。

   (おやッ?)
      と感心していたら、所長が親方に頭を下げて「やり直しの話」を付けた
      のだ
そうだ。

       スミマセンでした主任、アリガトウ所長、
        この所長の下で働くのなら ―――。

       しかし、話はここで終わらない。

      今度はじっくり図面を見て梁成(梁の高さ)が1.8mだから余裕を考えて
      捨てコンから2.0m 
のところへ布を組む事にした。
      丸太は太さが10~15㌢はあるし、この位置に組んでおけばいいだろう。
 (うん、いいアイデアだ)
      と思って現場へ出て行こうとした時、

     「やっぱりマエらはその程度か
!!
      とキツくトゲのある親方の声だ。

      (なにッ!?)と親方を見ると、 
    「大工の持って来るパネルはコンクリートが6尺なら、そのうえの7尺
      パネル
だゼ。7尺パネルより少し上がってネエとサシ筋は出来ネエし、
       土方がコンク
リートを均(なら)せない(水平に出来ない)ゼ、どうする?」
      と丁寧(ていねい)に教えて下さった。

      所長はこの会話を眼鏡越しにニヤッと聞いていたようで、目配せして
     うなづいている。

    (そうか、親方から私は勉強させてもらったんだ…今日は―――)
     と改めて感謝、感謝だった。

   組み立て施工図、計画図なしで(書けなかった)組もうとした理由も、
  今ハッキリと
《自分の無知》をも、身にしみて気が付いたものだった。
  あの頃は一つ一つが勉強だった(失敗だらけだった)なあと思い出した。

               

私が今、当時の様に若手職員に、
「バッカモン!!
と叱ったらどうなるだろうか? 

「僕、今日限りで会社辞めます・・・」
なンて言い出しかねない様な気がするけれど、時代の流れか教育を受け
た者の『自己優先思考』かは別にして、理解出来る様に全てを順序よく
説明しない限り、相手に通じないと思えるのは――私だけだろうか・・。

『盗んで見て覚える』
のが建築界の常識だとばかり思っていたら、大間違いの様な気がする。
鉄筋足代を見ながらフト昔にタイムスリップしてしまったが、今の私の
やり方で良いのか悪
いのか………結論は若手職員が育ってくれた時に出ても
遅くはないだろう・・・、

私はこれからも《私のペース》で押し進めるより仕方がないだろう。







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