建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

水張試験の実態

2024-02-19 08:30:48 | 建設現場 安全

十月  十四日(水) 曇り   

 屋上のアスファルト防水が終わって屋根の上に水を張って検査を行っている。
通称『水張検査』というものだが、案外無視(面倒)している現場が多いものだ。

既に48時間以上も経過しているけれど、天井や壁に水が滲(しみ)出ている所は無しの合格だ。
 屋上に水を張る(10㌢位水を溜める)のは簡単だが、この水をどうやって処理しようかと、検討
の必要がある。

ドレーン(樋金物)から縦樋を通して水を落とすとしても、桝(ます)に繋がっていないと大変だ。

この桝に入った水も最終桝からマンホール本管へ行くか道路U字溝へ連結されているかを
確認しておかないと、縦樋が外れた状態であり、地表面は水浸しどころでなく、お隣の敷地
へも流れ込んでしまう場合も多々もある。


一本の縦樋から屋上の水を排水流出させると、集中豪雨の勢いで地盤面に溢れ出るのは、
想像が
付くと思う。

Kビルは現場事務所のすぐ横迄、7月の間に設備工が埋設配管工事を終わらせていた。
そこへ接続すると道路のマンホール内へ流れて行くので心配はない。

また、U字溝へ接続されている配管類は雨水専用にではあるが、部分的に工事完了で、とに
かく
桝迄配管を繋(つな)ぐと、場内を水浸(みずびたし)にする事もなく完全排水可能の状況だ。

屋根面全体に雪が10㎝積もった様な「浅いプール状態」を作って大量の水道の水を下水管
に流す
のも、勿体ない話ではあるが、せっかく屋上に水をためても有効活用は出来ず、捨てる
運命の
水道水だけどテストならば仕方あるまい。
この放出先が整っている(設備先行工事済)場合は数える位しか経験がない。

後日、配管工事に行くには、隣家との間隔が狭くて小型掘削機・人力で掘るには困難な場合
は1階の躯体工事の前までに仕上げた事もあるにはある。
Kビルの場合は足代を解体してから外構工事の配管に着手しても、広さも工期的にも余裕は
あった。
 しかし、設備工もその工事が竣工直前の慌(あわ)ただしい時期だと見通して、少しでも時間の
余裕のある時に
出来る限り配管の埋設を行おうと決めていたものだった。
これが今回全て活用された形となった。

 夏が来る前の躯体工事中に、スリーブ(配管の通る穴)を取り付ける合間をぬって、場内を
掘り起こしていた時、職人達から、
「後でやれば同じじゃあないか―――今こんな事したって邪魔(迷惑)だ……」
とイヤミを言われていたけれど、配管埋設後に埋戻しをして地盤面が整備され、駐車場の
スペースが広がってからは、
「エライ、偉い、あんたがエライ」
となっていた。
これで道路駐車している躯体工のマイクロバスも場内に取り込めるし、何よりも警察の
『駐車禁止取締り』の心配をする事がなくなって大助かりだ。

設備屋さんが躯体職人と色々と打ち解けた話も出て来て、コミュニケーションが随分良くなった
と思え始めたのは、この時期、この事件あたりからだと思う。

 そのお蔭を持って、屋上の水は栓を抜いただけで流出させる事に、一切の手をわずらわせる
事なく終了出来るのだ。
屋上の水を張る時にドレーン(樋受け金物からたて樋に落ちる直径10㌢)の部分で水を堰(せき)
止める方法(栓は何を使って代用するか)が検討される。


流水止め用の栓(せん)として風船を詰める、ボールを押し込む、雑巾と土納袋で押さえる――等
今まで色々とやって来た。
WCの防水なら水量・水圧が少ないので風船でも流水防止対策は可能だった。
膨らませた風船をパイプの中に押し込むけれど、パイプの中にアスファルトが流れ出ている
(パイプとアスファルトの境目は特に入念にアスファルトをくっつけている)ので、管の中は
凸凹だ。

風船を押し込む、風船が割れる。
パイプの中を掃除して風船を入れると、滑り止めがなくな
って水圧で風船が抜け落ちる。
こんな試行錯誤を繰り返しているのも、現場の実情だ。

 明後日の定例打ち合わせには、A設計事務所所長もオーナー夫妻も来現の予定だから、屋上
防水検査雨水は漏って来ません)の確認をして頂いてから水を抜く事に決めた。

「ここまでチェックをして工事を進めているのだから、水は絶対に漏らない、防水工事も完全
にチェックしている」
という現場の姿勢のアピールだ。

大事な所は確実に、そして皆の記憶に残っている方法で検査する』という方法を行えば、
信用度もアップ、イメージアップにも繋がると常々私は思っている。

『土建業、見えぬ所で手を抜いて、バレてもとぼける強心臓
には、決してなりたくない。

  十月  六日(金) 曇り

昼からは《定例打ち合わせ》だ。
オーナーのお土産のケーキを、皆で頂きながらなごやかな雰囲気の打ち合わせ会となった。

これからまだ決めなければならない様なものは、内装仕上げ材の壁のクロス、床カーペット
の色、玄関サイン案内板、アプローチのタイルの色、花壇の植木の配置位で、
オーナーの好みに任せます」
見本を並べての品評会だ。

「今日決めなくても結構ですから、こういうモノだというフィーリングを掴(つか)んでいて下さい。
色は基準色ならいつでもそろえますから」
と伝えておいた。

 オーナーさんも最近は特に建築現場に目が行くそうで、外から内部を勝手に判断して、楽し
まれて
「そこの現場はレッカーがね・・・」
「あそこのホテルのロビーは感じのいいクロスなので見て来て下さい」
「あのビルの玄関タイル貼りは好きだから―――」
「花壇には……」云々。

 打ち合わせも終わって場内見学として、屋上へ『ピアット』に載って上ってもらった。
建設現場用の人の乗れるエレベーターではあるが、簡単な手すりが付いているだけで、外部
景色と言わず動く機械そのものまで見れて、初心者としては心臓が高鳴った事だと思う。

                  
屋上迄は目をつぶってもらった。
そして屋上では一面の水張りに驚きの声だ。  

「雨が降ってこんなに溜まったの?」      
冗談にしては最高!!」  

「水を張ってもう60時間以上経っているので、漏(も)れていると下の階に滲(にじ)み出て
来るから、それをチェックしてるのですヨ」 

「これが『水張り検査』ですか・・・」 
「水を張ってる状況を見てもらいたくてね、今から水を抜きます」

「前回の工事で『こんな事』はしなかったよ」
(ヤッパリねと思いつつ……)
「多分、余程自信が有ったのでしょう」
「ここまでやって下されば、安心です」
「どう致しまして、当然の仕事です」

アスファルト防水は完全だ』
と思い込む所長も多いが、とんでもない事だ。
アスファルト防水そのものには欠陥はない。
だが、『ヤクモノ』と称する配管、立ち上り管や便器等の周辺から水は漏れる。

―――昔、E中学校新築工事の時―――
        12箇所あったWCのアスファルト防水
  「水張り検査をしなくて大丈夫だ」
  という職人が来た時、私も意地になって水張りを試みたら、このベテラン
  の職人さんでさえ、漏らしてしまったのだ。
   便器が並んでいるのが、その下の階から見上げると分かる。
       便器の周辺で漏れている。
   雨だれの如くの部屋もあった。
       なんと12箇所のWCの内、9箇所もなんらかの水漏れを発見した。
      残りの3箇所は1階のWCだったのでチェックのやり様がなかっただけだ。
     (油断すると、とんでもない事になってしまう)と体験したものだ。
       でもいまだに、防水工事店と大看板拡げて仕事をしているけれど、私の所
   へ は『挨拶』にも来ない様になった・・・。

 オーナーの前回のマンション工事でも水張り試験を見なかったと仰っていた様に、随分と手
間のかかるのが『水張り検査』だからつい「パス」してしまったのだろう。
やる事をキチットやれば、さほど面倒な事はない。それなのに、
「防水は防水工事会社の責任施工(10年保証)だから、万一漏れたらヤツらを呼びつけて叱る
無償修理させる)だけよ」
と変に意識している現場カントクさんも多い。
だが、この完全である工法の防水も、職人の腕によっては、
『漏れる』
という事を肝に命じておく事だ。

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忙中閑あり・・

2024-02-05 08:36:03 | 建設現場 安全

九月二十一日(木) 晴れ  

今日から4階のサッシュ取り付けだ。
6階迄一気に取り付けられる状況になっている。

3階迄の造作工事も終わりに近い。
何となくヒマそうに感じられていたこの頃であったが、
M店舗からの解放感(一週間)で、こういうのをボケ症状とでも言うのでしょう。

 ゴルフでもしてスカーッと……という味を私は知らない分、性格が暗いのだろうか。
スナックへ行ってカラオケで気分転換もいいだろうなア……と遊ぶ事ばっかり考えている。

きっと私はネクラ《根っから暗い性格》なのだ―――本当は・・・)
と悩んでいると、N子が訊(きい)て来た。

「所長、お体どこかお悪いのですか?」
「うん、実はね―――」
と言っても全く信用してくれない。
所長は絶対ネアカ、九十九%以上ネアカと言う。

今、本人はネクラだと……相当落ち込んでいる時なのにね。
スランプなんだよ、何かに落ち込んでいるのだ………。
美術館のインパクトもかなりボディに効いてはいる。
M店舗の精算業務も頭痛の一端を担っている。

 景気付けに昼食はF君、N子の三人で『しゃぶしゃぶのK』へ行った。
 昼間からビールを飲んでいる隣の席を横目に見ながら、目一杯食った。
飲めない分バカに食った。

美味(うま)いモノを食わねば、上手(うま)い仕事は出来ねえ!』
と自分勝手にあみだした哲学を広める為にも、私は忠実に実行に移している。

どこかで《ゼニの成る木》を捜さねばならないけれど、一回《飲み屋》へ行ったと思えば安
いものだ。
麻雀もここ最近していないので、小遣いはピンチというより、負けた時の出費代から換算すると、
食事代くらい何とかなる。(様な気がするだけ……かナ) 

 目一杯食ったからか、昼から益々ボーッと頭がお休みだ。
もうすぐ今月度の『工事報告書』を作らねばという時期になっている。

今月は何やってたんだ・・・?)
とボーッと現場を眺めていると、M店舗の狂い咲き騒動が浮んで来た。
動き廻っている方が私の性分(なに分ネズミ歳だし)に合っているんだろうネ。

「所長が戻って来て現場がまた明るくなったね」
とH設備の牧田さんが言ってくれた。

 職人達に対して常に頭を低く低くして対処している牧田さんは、私が後ろにいるだけで、
気が楽になったのだろう。
「今度食事にでも行きましょうヨ」
とこの満腹の時に限って、誘ってくれた。

「そんな事11時頃に言ってくれたら、今日一緒に行ったのに―――(ゲップ)」
「それを見越して言ったつもりですヨ」
「バーカ、ハッハッハ・・・」

しかし今の一言、私もN子もしっかり聞いたぞ。
しっかり胸(この場合胃袋)にキザミ込んだのだ。

そうだ、来週はN子の誕生日(二十ン歳)だからパアーッと行こうよ夜、夜にだよ。

「夜はパパと・・・」 
「何、また仲良しするの三人目!?」と冗談。

松田聖子のそっくりさんベスト3に入ったN子は、二児のママだった。(モッタイナイ)
じゃあお昼にステーキでも……となって、予約担当N子、金銭担当牧田さん、仲間手配担当
F君、ついて行って食べるだけの私。
これが『昼食会』の段取りだった。

 そして、設備業者と建築業者のコミュニケーション会、忘年会の下準備会へと来月から世話
役を決めよう、と話は遊ぶ方へどんどん膨らんで行った。

一体何が原因で食べる話が大きくなったのだ?これも現場が楽しく仕事をしている余裕から
来るのだろう。
大いに遊んで大いに食って、楽しんでから、仕事に頑張ろう。

美味(うま)いモノを食わねば、上手(うま)い仕事は出来ねえ!』私の言葉にウソは無い。

 

  九月二十五日(月) 晴れ  

チャレンジ21」の看板の横にオーナーから依頼されたテナント募集の看板が掲げてある。
 これも私の独断で全くのオリジナルだし『N子看板店の力』によるものだった。
この足代に掲げたシート看板の件で、テナントの問い合わせが、かなり来る様になった。

 パンフレットを渡して一応どういう会社かを私も訊(たず)ねてはみる。
 横文字の名前、カタカナの会社名が多いのも、今の時代の特徴なのかも知れない。
  各階とも現在はオープンスペース(外壁のみの状態)だから感覚がつかめない様だ。

「広いね」と言う人と「狭いね」と言う人の会社の感覚、人数、レイアウトにもよるだろう
けれど、各社様々だった。

 我々の作業によって建物が出来たとしても、テナントがさっぱりだとオーナーも資金繰りに
悩むケースが出て来るので、何とかして全フロアーの早期入居者契約決定を望んでいる。
入居者は個人相手でなくて会社(企業進出)の話だから私には心当たりはほとんど無い。
売り込む方針よりも、私には看板でお客が飛び込んで来る迄待つしかない。

しかし世間にアピールするにはこの看板効果はテキメンだった。
掲げたのが土曜日で、月曜日にはもう第一報の希望者が現れた。

「パンフレットを頂きに参りたいのですが………」
とかなりの件数があった。

ただ単に下調べ中の会社もあるし、不動産業者の方はまとめてテナント募集業務を行いたい
とか申し出て来られた。
問い合わせ先を看板に記入しなかったのだが、現場事務所の電話番号迄調べて私への話だから、
かなり入居希望が強いと見てよかろう。

「お宅の支店でここの電話番号聞きました」
と言う会社もあった。看板効果絶大也。

もう一つの看板『チャレンジ21』の件。
今日迄で3週間だけれど、仲間内からや協力業者の方々からの声は面白かった。

   《言われた言葉》            《言えなかった言葉》
    「何て書いてあるの?」        (これにはガッカリした、読めないのでは………
 「カッコいいね、どの位した?」     (安かったダメって言うのか、十五万で売るヨ)
 「誰が考えたの?いいねえ」    (当たり前だ、俺以外でどこに遊び人がいる? )    

    「私の所でも掲げたいので・・」  (どうぞご遠慮なく、真似して結構ですヨ。  )
 「看板屋さん紹介して下さい」   (私とN子アマチア塗装店なんだけれど、いい?)
 「現場の看板計画の参考に・・」  (参考だけで終わるなよ、作れよ何か考えてサ。)

 「全景写真送って下さい」     (自分で撮れよ、外から丸見えだから看板なのに)
 「外す頃、私の所が掲げる頃で」  (クレってはっきり言え、タダでか?十万か? )
 「恥ずかしいから降ろしたら」   (キツイ冗談だぜ全く―――こう言う人は大嫌い

 「勝手に看板掲げるな」      (俺の現場だ、簡単には降ろさないぜ。    )    
    「看板掲示理由を上申したか?」  (理由を言って迄自作掲揚する気持ちは全くない)
 「どういう趣旨で作ったのか?」  (誰もしていなくて、目立ちたかっただけのモノ)

 「今度現場見学させて下さい」   (現場かね、看板かね、製作方法かね?    )
 「車で通る度に話題だよ」     (ヒマだから作ってたなんて言うと頭殴るからね)
 「所長はどんなセンスの持ち主?」 (期待に反してズボラだったりするものだヨ。 )
 「今度から決まった看板なの?」  (決まってパテント料入るといいねえ。    )
        ・・・                ・・・・

        ・・・                ・・・・

        ・・・                ・・・・
建設業界のイメージアップ作戦も重要視されて来ているものの、市街地でも何の楽しみもない
仮囲いに殺風景な塗装が多いものだ。
以前にも言ったけれど『建築のセンスをアピールする』力が、土建屋の方々は上手くない。

 今の若者は会社の作業服に対してでも、センスの良し悪しを語り、個人の作業服で仕事をし
たい人も多いみたいだ。
「これが会社からの貸与の服だ」
(何十年前の仕事服スタイルだ……どうしてもコレでないといけないの?)だ。
会社の名前もカタカナにしたらイメージアップにはなるしナウイ感じだと考える。

いまだに社名に『組』が付いてる。
せいぜい『建設』にして、さらに○○コンストラクションに一気に変換すると 
「流石(さすが)だ、若い社長に就(つ)いて行ける、若い力で!!」な・ん・て・ね。

 が、今の社名の基で頑張った『エライ様』に嘴(くちばし)の黄色い若造が、何を言ってもダメ
なのでしょうかね。

 何とかして第三者に、安全第一以外に訴えるものを考えていたにもかかわらず、私もせい
ぜいこの看板程度で終わってしまった。
しかし、たかが一枚の看板を巡って、色々と意見、世間もかいまみえて、この業界のセンスの
低さを痛感したものだ。

 もっとインパクトのあるモノにしたかったのだけれども、取り敢えず
一石を投じたら波紋はどうなるか』
を覗(のぞ)いて見たかった気持ちも多分にあった。

 足代の全面シート、ただ隠しているだけのシート貼りだけれど『大きなキャンパス』と見立
てれば、これほど面白いものはない。
何だって描けるではないか。

私の『究極の夢』はそこにある。
実現は不可能だろう(可能に出来ない事はない)けれど発想一番者として、ふざけたアイデア・・・。


 ―――その夢として――――
   大きな現場の仮囲いを『大きなキャンパス』としての話。
   「マリリンモンロー」のスタイルを描く。
   ポイントは出入口で、その仮囲いシートを上にめくっておけるシステムにする。

           現場が稼働している時は、シートを上にめくり地下鉄から吹き上げて来る風によって、
   モンローの例のシーンが、それとなく現れる。
           その下を出入りするたびに、男衆の頭上確認になるだろうし、色気位あってもいいだろう。
          作業終了とか、休日でシートを降ろしておくと、普段のモンローそのままになる。

           現場は完全にシートで覆っても何故かめくってある所があって、遠くから眺めていても恥
   ずかしい程、中途半端でダラーンとなっている時が多い。ならば、
   「いっその事、めくってしまえ!」
    一喝するとコソコソと直している時もある位だから………。

この(モンロー仮囲い)は、映画館を創る時には、使ってみたい手だ。
スポンサーがなんと言うかが分かれ目だが、誰か私の代わりに・・・。

 

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