建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

1階コンクリート打設前に

2022-12-16 08:33:47 | 建設現場 安全

六月  三日(土) 晴れ

久し振りに気合の入った土曜日だ。

2階のスラブ(床面)になる所で鉄筋工が10名もいて梁筋を組んでいる。
梁底を結束するのに伏せて手を伸ばした所へポケットからタバコを落としたとかスケールが
落ちたとか賑やかなものだ。
これを『現場の活気』とでも言うのだろうね。

 昨日の夕方に梁底のノコ屑を掃除したのに、もう、鉄筋を結束していた細い番線とか符号を
つけていた紙名札が梁底に散乱し始めた。
梁筋を組むと手を突っ込んでも鉄筋の間に引っ掛かって取りにくい。

 先を尖(とが)らせた銛の様なものを作って板切れを除去したり、桟木(さんぎ)にガムテープ
を巻いてトリモチの様に紙屑や吸殻を取っている。
軍手が落ちている事も良くあることだ。 

『コンクリートを打ってしまうと分からない』
と思うのは浅はかな考えなのだ。型枠解体を行うとタバコも軍手も、時には板切れも現れて
来るものだ。

コンパネ(型枠用ベニア板)に墨出しとか赤チョークで現地打ち合わせして書いた時の数字文字
や略図が、逆さ文字となって迄コンクリートの表面に現れる場合すらある。

スラブを貼る頃になるとコンクリート打設日を決定したらもうズラせない時に達して来る。
天気を読み、作業速度を考えて、余裕も考慮に入れて打設日のセットを行う。

Kビルの1階のコンクリート打設は6月8日に決定した。
少し無理だと思えるが、9日はR現場が600㎥近くのコンクリート打ちを決めていて、重な
ると困るのは私の方だ。
大きい現場へ職人は流れるものだし、その後に私の現場へ来れば、気の抜けた状態
(昨日はエラかった)
という人達で『覇気』がない。
私はその辺の事情も今の現場の世話役さん達に正直に伝えた。

「雨がなかったら何とかなるさ」
「明日出て来てもいいのなら出て来るヨ」
「日曜日は近隣対策上困るサ、朝っぱらからドンドン音が出ていたら、隣のマンションから
苦情じゃ済まない事件になりかねないので、日曜日はダメ、音の出る仕事は絶対にダメだ」
と念を押しておいた。自主的に出勤もダメだけれど……。

 5月のゴールデンウィークの時は事前に了解を取って、朝8時30分から17時30分迄で
仕事を終了したけれど、午前中は極力神経を使ったものだった。
やはり室内作業にならない限り音は『騒音』と受け取られても仕方ないと思う。
(久し振りの休日の朝だ)という人も中にはいるだろう。
とにかく近隣とも仲良くするのが一番だ。

十時の休憩の後だった。
土曜日にしてはめずらしく支店からI建築部長の「すぐ来い」コールだった。

「今日は半ドンですか?」
「当たり前だ。お前が来るまで待つからすぐ来い!」
「一体何ですか?」
「君の(お前とは言わなくなった)現場の近くに一つ現場が出るので《兼務辞令》を出したの
だよ。7日が起工式だからすぐ段取り付けに来い。打ち合わせとく事も有る……」
との強烈パンチが耳にバンバン入って来た。

(冗談じゃないよ全く、今日は最近でも特に神経がピークになっているのに、兼務、兼務とは
現場監督の掛け持ち―――冗談じゃないぜ)
と言えないのがサラリーマン下役のつらさだネ。

「仕事の話は後日でいいが、起工式の打ち合わせを至急したい」と言う。
(起工式の段取りの打ち合わせ内容なら、FAXでも送って頂ければ何とかしますヨ)
と強がりを言いたかったもののそれも言えず、とにかく支店へ行って打ち合わせを行った。

月曜日には式典用に草ぼうぼうの土地を整地して、火曜日は式典のテントを張って水曜日が
起工式で、木曜日がKビルの1階コンクリート打設。何というスケジュールだ。

部長から設計図を渡されメインとなるKという会社を紹介された。
何にせよ掛け持ちなのだが、体は一つだ。給料は上がりはしないし、結局は忙しい思いが
増えるだけだ、全く・・・。

 ブツブツ言いながらKビルへ戻った時、やっと昼食にありつけた。
2時半を廻っていたし、まるでオヤツだ。食欲減退だよ。

せめて、このKビルの1階コンクリートを打ってから
『兼務辞令』
であって欲しかったなア。

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刑務所に舞い戻って

2022-12-04 09:20:28 | 建設現場 安全

   五月二十九日(月) 晴れ

 一年振りに刑務所に舞い戻った。

 去年の三月に出所?したから15ヶ月も経っている。
苦労して建てた建物だけに懐かしさも格別だ。
(まさ)にここでは『塀の中の懲(こり)た面々』だったモノね。

今日の用件は地盤沈下の測定だ。
 完成した時点で杭のない建物や道路の地盤沈下は想像以上に現れていた。
刑務所として広い敷地を確保の為には山を削った所もあれば、沼を埋めた所もあったそうだ。
以前にも少し言ったけれど、こんなに広い敷地なのだから、この下に何が埋まっているやらだ。

沼を埋めた時ユンボが埋まってしまい引揚げに来た湿地用ユンボも動けなくなって、多分一台
は埋まっている(刑務所用地だからとにかく造成)筈だという言い伝えも残っている。

工事中に地盤表面の悪い部分を深さ1.2m位迄掘削し不良地盤を撤去改良した記憶も残っている。
だから杭打ち工事には困難を極(きわ)めたものだった。
予定の杭長を打っても支持地盤に達しないのでさらに打ち足したり、その1mも離れない隣の
杭はたったの3m打ち込むとこれ以上打ち込めないとか………

8m杭の半分近くが電信柱の如くそびえ立ち、杭打ち機械が旋回出来ない時もあった。
本当に3000本以上の杭打ちで塀の中の『懲りた面々』になってしまったものだ。

高さ4mの刑務所独特の塀の中には5m道路を延500m位は造ったし、建物間をつなぐ渡り廊下
では中央部分を歩いても延1000m以上もあるので歩くにはいい運動になる距離だ。

我々が渡り廊下を『イッチニ、イッチニ』と掛け声を出して歩いている(揃(そろい)
ねずみ色の服を着てる)人たちを見ている以上に、我々の行動を独房から猫でも見る様な
視線が(殺気迄はいかないにしても)感じられ、塀の中は何が正義なのかが逆転した感じだ。

 我々測量班三名が、看守の人達によって守られているのだから、当然我々は団体行動だし、
私も雀鬼も役満のケンさんだって、一人でトイレにも行けないのだった。

 でも一年経っていても現地に戻ってみると『ここは何号棟だ』という記憶はフラッシュバッ
クされるものだった。獄舎ふくめて50棟以上もあったのにネ・・・。

 水を飲むにはあそこが近い、電気はあの壁からとか、このマンホールからこっちは・・・等
と思い出して来る。
でも鍵は持って無いし、施錠開錠は二~三個の鍵が必要な事も知っているので、万一開いて
いたドアに勝手に入り込んだとしたら出られない部分もある。

工事中、竣工間際になって鍵を付け始めた時、閉じ込められた職人もいたなあ。
窓にはびくともしない鉄格子があり、絶対に出られない……鍵は我々の預かり知らぬ事だか
ら本庁(霞関)へ連絡するから夜までには……とよく困らせては楽しんでいたっけ―――。

 そんな事を思い出しながら道路の縁石の天端を測量している。
約6m毎に側点マークがペイントしてある。
配置図にもポイントが書かれているが500分の1の縮尺図面でもA3で六枚位に分割コピー
して小脇に抱えての仕事だ。

犬走りとアスファルト舗装面は同一(段差は不可)だったのは検査が厳しかっただけによく
覚えている。
これが今つまずく様に段差が出来て簡易アスファルトで盛り上げて補修している部分が多い。
鉄筋コンクリート部分は何とか持ちこたえているがEXPジョイント(動きを想定してある所)
は想定値の倍近くも動いている所もあった。

 敷地全体も相当沈下しているのは一目瞭然だ。
杭のある建物部分はしっかりしているのだが道路に杭は打っていない。
まさか設計者もこんなに地盤沈下するとは想定出来なかったろう。

 測定しながらも何か間違って寸法を測ってるのではと再々疑ってみたものの、現状を把握す
る事が先決だとして作業を進めた。

今までにも何度か土木測量屋さんが実測値を提出してあるけれど、一向にデータ分析が出来ない。
沈下もあれば上昇部分もあり、前回(1年前)と今回の差がかなりひどい部分もある。

とにかく前回から測って九割近くも変化無しなら、沈下終了に向かっていると誰でも判断出
来るだろうが、なにしろ縁石面を測っているのだから、車が乗り上げただけでも前回と同一記
録を望むのは無理だと私は主張した。

 昼迄には終わらず、3時になって足も腰も目も疲れて来た。
何か意味のない事をしている様であって、気持ちも乗らなくなった。
これを後3回(半年毎)は行うのだから、なんらかの方法でスピードアップを考えねばなら
ない。とにかく塀の中は(懲りて)しまった。

    六月  一日(水) 晴れ  

 毎月一日は安全大会だ。

 今月の主要工程の説明をして、それに伴う安全チェックポイント《危険予知活動》として
15分間のミーティングだ。
私の方からの一方的な安全対策の押し付けでなくて《皆で考えよう》というテーマだ。

日々の安全点検も重要であるが、職人さん達が集団の中でも安全衛生について自分の意見を
述べる機会があってもいいと思う。

「命綱はもう少し上になってからでいいでしょう」
「100ボルトの電気の差し込み口を増やして下さい」
「○通りの材料は△△日迄に動かしておかないと出し難くなりますヨ」
「掃除道具とゴミ入れ用の袋を階段室付近に増やして置いて、皆でゴミを片付けよう」
「灰皿の中に燃えやすい物は入れない様にしましょう」
「休憩室に扇風機が欲しい、もう暑い日が近いので」

一人が発言するとそれぞれ勇気ある提案が飛び出して来た。
普段でも私に対しては言っている事を、更に念押しするかの如く言われてしまった。

一言でも皆の前でしゃべったら、次(来月)は何を言おうかと各々がテーマを探して来る様
になる。
それが安全に少しでもつながればそれに越した事はないけれど、
(俺たちもこの現場で作業しているんだ)
という喜び又は自覚が芽生えて来る事を私は願っている。

一言自分が発言しようと思っていた内容を他の人が発表するとすぐに第二弾の意見、考えを
言わねばならない。

「今さっきも△△さんが言っていた様に○○をお願いします」
と簡単明瞭な発言を下すのは要領のいい人というのかケガを起こし易い人というのか、今一歩
の安全性に欠けるものだ。

「言い足りない点や言いたい事は事務所へ何時でも言いに来て下さい、今日の安全大会の記念
品として『安全マーク入りのタオル』を配ります。もらった人から解散して結構ですが、これ
からも安全作業でお願いします」
と終わりの挨拶をした。

本日の参加者は型枠工8名、鉄筋工4名、電気工3名、土工3名全員参加の安全大会であった。

六月も無事故で乗り切ろう!


 

 

 

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