建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

1階コンクリート打設日。

2023-02-14 09:05:46 | 建設現場

六月  八日(火) 晴れ/曇り  

 1階のコンクリート打設日だ。天気は晴れ後曇り。
この一週間の何と早かったこと、慌(あわ)ただしかった事だと振り返ってみている。
久し振りに現場に長く足を留められる。

 Kビルはコンクリート打設前の、そうね《王手飛車取り》位の段取り以後、どうなったかを
じっくりチェックする間もなく、今日の日を迎えてしまった。

 型枠が斜めになっていたら、そのまま斜めのコンクリート壁が出来るだけの事だけれど、窓枠
や配管用穴が間違って付けてあるとどうしよう・・・という不安もある。もう腹をくくって、
「打ってしまえ!」
と言ってはいるものの、私のハートはストップモーションだ。

 朝の7時には土工が型枠に撒水(さんすい)を始めている。
型枠面にイヤダと言うくらい水を含ませておくと、濡れた型枠に生コンの水分が吸い取られな
くて、キレイな表面のコンクリートが出来る。

 だから私は撒水本来の目的は《表面重視の為の水洗い》だと土工にはウルサク言う。
生コンは水平に打つ事(プールに水道から水を入れる状態)を原則としているが、鉄筋という
邪魔物がある。
バイブレーターで振動を与えるか型枠を叩いて生コンを水平にさせるかだ。
気を抜いていると生コンは《おむすび》の如く山になるので、土工も気合を入れねばならない。

8時から打設開始だ。
朝礼もラジオ体操も10分前には行って生コン車を待つだけになった。
「所長は雨男だから心配したヨ、晴れてよかったネ
と伊藤組の高田さん(土工の世話役)がわざわざカッパを着て、雨降りのスタイルで来た。

「俺は運だけの人間だから、大丈夫だ、降りはしない」
曇って来たが雨の心配はなく、1階のコンクリート打ちが始まった。

バイブレーターがビービー音を出す。
土工が型枠を木のハンマーでドンドンドンと小刻みに叩く音が、いかにもコンクリート打ちだ
という気分を盛り上げてくれるものだ。

「ここだぞー」
と言う声を聞いてドンドンドンと小刻みに叩(たた)いていると、コンクリートが入って来ると
音が変わる。
変わりかけた所を集中して叩く、一日中叩くのはまるでキツツキみたいだが、この壁、柱は叩き
かたの能力によってコンクリートの仕上がり表面が随分違う。

バイブレーターに頼ってスラブの上からだけだと、型枠内へ入っているのか、詰まって下へ
流れないのか分からない。
昔のように『竹』で上から突くのが良いコンクリート打ちなのだが、今の時代は電動となった。

                                   
コンクリートの汁がポタポタと型枠の隙間から落ちて来る。
体が濡れて乾くとセメント分が作業服に白く現れて来る。(だから合羽(かっぱ)を着るのだ…)
建築現場を嫌う項目の一つのK『汚い』がここに有る。

 躯体工事として節目としてのコンクリート打設工事だから、各階へ打ち上がって行くとき、
昔はお祭り騒ぎにも似た『華やかさ』があったけれど、今は打設そのものを最重要視する感覚
は無い。

 ポンプ車圧送、生コン購入となってからは『現場練り』の必要がなくなったのは最も進ん
だ工法の一つだが、これからの時代、今の体力勝負の重労働状態が続くと若者はこの業界に
入らなくなる気持も理解出来る。
が、今日は打設中だから余分な考えは持たない事にした。

 10時現在打設数45㎥だ。
ペースとしては順調だ。階高の半分迄はほぼ水平に打ち込んだ。

スラブ(2階の床になるところ)を均(なら)す左官工も到着した。
彼達は昨夜も残業でコンクリート直押さえをやって来たと言う。
まだ今日はスラブを押さえる迄時間があるので車の中で休んでいる様、指示した。

しかし、左官工も現場内へ入ったら職人魂が丸出しとなって、コンクリート打ちを手伝って
いる。
バイブレーターのコードを鉄筋の引っ掛かりから解いたり、足代上の通行の邪魔になるもの
を片付けたり、何かとこまめに働いていた。

11時にはもう2階スラブ(2階から見た床)の上にコンクリートが上がって来た。
土工は壁の叩きが終了し、『目鼻が付いた』という気持ちだろう。

1階内でコボレているコンクリートや流れ出たノロ(モルタルの水分の多い不良品)をバケツ
で処分したり、高速洗浄機で洗っている。
所々打設中に抜け落ちた『さし筋』を拾っては差し込んでいる気のきいた土工もいた。

 左官工はコンクリート直押さえだから、レベルを足代上にセットして高低差を3㍉以内に仕
上がる様に監視をしている。
何分にも固まる迄本当の水平精度は測れない。

押さえて仕上がって行く段階で、コテの力によっても表面の厚さ3㍉程度は誤差が有るものだ。
2時頃になって残り1台分の5㎥以内で終わる所迄になった。
 スラブ上で皆がザッと見渡してみて追加が4㎥だの4.5㎥だの5㎥あれば余るだのドン
ブリ勘定が始まる。

それより1台前の生コン車が打ち終わる迄にラストの車は何㎥必要かが計算のしどころ、
監督の腕のみせ所だから、素早く計算して、工場へ連絡する。
余分に購入してもいいが1㎥1万円以上もするのだから0.5㎥単位で発注し、余ったコンクリート
分はムダ金支払いになってしまう。
打設事に毎回0.2~0.3㎥は生コン車に残り処分するのだから生コン予算からオーバーするのも
致し方無いが、積算通りに数量は収まらない。

 最終の生コン車が到着する間、左官工は押さえ仕事をしているにしても、土工は片付けも
出来ず、(下階はもう片付いているし)酒もまだ飲めないし、疲れを癒(いや)すのにただ座
って待っている・・・。

この無駄な時間は雑談には都合がいいけれど、手待ち時間を金額換算すると……。

 やっと落ち着いた気分となったのは5時を廻ってビールを飲んだ時だった。
 左官工は直押さえが一通り終ったけれど、夜10時に再来してもう一度頭を張る(表面の押さ
えを仕上げる)事を約束して、ひとまず帰って行った。

 照明設備の水銀灯と投光器をセットし、我々も事務所で『御苦労さん』の乾杯だ。
早出して深夜迄、長い時間働いた気持ちよりも、1階を打設完了した充実感で一杯である。

《建築屋》としての気持ちのいい一日であった。

 

 

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起工式とパトロール

2023-02-01 09:17:40 | 建設現場

六月  七日(水) 晴れ 

天気も良くM店舗起工式が九時半から始まった。
式には施主、地主、入居予定のオーナーと担当者、設計事務所所長、銀行関係、地元の世話
役、わが社からは支店長他………かなりの賑わいをみせた。

 これだけの『役付き』が集まるのも、最初で最後だろう。竣工式があったとしてもここ迄は
(そろ)わないだろう。

起工式が始まる前には相変わらずの名刺交換が繰り返されていた。
(日本人だなあ)
と思うのは頂いた名刺ですぐに相手の名前を言えない事だ。

「所長の福本です」
とは常々言ってるけれどすぐに、
「○○設計事務所○○さんですね」
と言い返す時がない。

 名刺を一方的に出して、又頂いて、名前と顔を一気に覚える術に私は弱いのだ。
フルネイムで一度は施主なり設計者と話をしてみたい。

 そんな中で式の始まる前に支店長から、
「今日は昼から(確か・・・帰りに)君のKビルに立ち寄るけどいいネ?」
と言われた。
驚きよりもマサカ―――だった。

 何を隠そう事か、支店長は今日私のKビルには労務安全部の安全パトロールが巡察に来る事を
御存
知だったのだ。
そのメンバーに当初(先月20日頃) から入っていたもので、予定表はまだ生き残っていたのだ。
支店長の予定表を考察すると、午前は起工式で午後はパトロールとインプットされていたのだ。

私、私の頭の中には――― 
(その日は遠慮してくれよナ)
と儚(はかな)い望みで労務部に打診したけれど、
「変更はしない」と掛け持ち辞令の時に却下されて―――少しは記憶に残っていた。

「行く」という人に「来るな」とも言えず、今日はありのママを見てもらうつもりだった。
だが支店長が実際に立ち寄るとは計算外だった。
今更バタバタしても始まらない。明日はコンクリート打ちだから、現場の状況としてはあまり
不備な点はなく、A90点は頂けるだろう。

 タイミング的には良い方だろうが、午後には配筋検査もあり、確認とか打設直前手配チェッ
クとかプレッシャーの掛かる時に―――取り合えず公衆電話に飛びついて現場に連絡だ。

(そんなこと勝手にやってくれ、何考えてンだこのクソ忙しい時に・・・)
と聞こえそうで聞けなかった福原君の声だった。

今、オーナーには悪いけれど起工式の気分はさめていた。
一刻も早くKビルへ帰り、受け入れ準備を点検しておきたい……。

 現場をおおまかに一廻り点検出来ない内にパトロール隊が来て、支店長も到着された。
めったに揃わない豪華メンバーの安全パトロールだったので記念に名を残して置くと、
K支店長、I建築部長、K工事部長、N所長、N機材センター課主任、協力業者は木工事の
T専務、電気工事のK部長、そして当社労務安全部S課長の合計8名也。

支店長の出席情報をキャッチして、義理(やむなく)的に参加したような顔ぶれでもあるが
寄ってたかって私の現場を見たいものでもなかろうに・・・と私の心はつぶやいてもいる。
多分、支店長の手前かなりキツイ意見も出るだろうと覚悟を決めて現場を見て頂いた。

「ありのママを見て頂いた今回だから忌憚(きたん)なく言って下さって結構です」と私。
「言わせてもらえば―――」
とパトロール隊は私の見過ごしていた(この位はいいだろう)という事を追及して来たので、
弁解の余地は無しだった。

来月はM現場もあるので御苦労さんだが、頼むよ」
とK支店長から慰められてるのか、誉められているのか言われて返答に困ったものだった。

朝の予想に反して評価は悪かった。
88点、減点項目6カ所、評価B。特記事項、月内再パトロール実施のこと。

是正報告書には写真を添えて『一週間以内に支店へ提出して下さい』との事だ。
毎度お決まりの書類だけれど、是正ヶ所の写真まで添付して誰が喜ぶってモノなのかネ。

 事故が起きては遅いし、その責任を所長全てに背負ってもらわなくてもという《親心》かも
しれないが、検挙されるのは『統括安全衛生責任者』なのだ。

 来月は掛け持ち故(Kビルも安全注意が手薄になり)もっと指摘事項が増えるだろう。
それがイヤならば
「今からもっと安全点検に注意を払え!」という事なのだ。

掛け持ちだから、安全監理の質が落ちるという様では
《その器(うつわ)でない》
と査定される事だな。

(多少の危険ヶ所には目をつぶっているから、とにかく掛け持ちでやってくれ)
という様な会社なら何とかなりそうだが、現場の大小を問わず一様な監理書類も、期日提出
を求められているのは何だか変だ。

10億でも5000万円の建設現場でも、統一様式の画一的な安全監理を押し付け?るのは何故だ。

「小さい現場ほど安全監理費も少ないけれど、危険カ所は予算に合わせて減少しない
と本音をズバッと言ったので、来月はM現場とも厳しいモノ(ジュンサツ)になりそうだ。

安全パトロール中にA設計事務の中島さんが来られて配筋検査が行われた。
今日は何と色々な事が重なっている日なんだろうか。

「後は所長に任せます。よろしく………」
と今日一日で何度聞いた事かね。
そんなに私、責任とやらを担(かつ)いで歩く力は有りません。

誰も助けてはくれないし
「助けを呼んでも太平洋のド真ん中、サメに食われない様に泳ぐだけ
が今日の私の心の叫びだった。

明日のコンクリート打ちの天気は「晴れ後曇り」を聞いて大分気持ちが救われた。
疲れたとは言わない、色々あったが明日はコンクリート打設だ。頑張ろう。

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仮囲いに遊びの絵でも

2022-11-05 12:29:00 | 建設現場

  五月二十二日(月) 曇り

 道路に沿ってのバンノー板仮囲い(高さ3m、鉄板製)の塗装をしている。

 鉄板に各々の現場で何度も塗りたくっているものだから、塗料にも厚みが出ている。
ハンマーで叩くとパリパリとペンキが剥(はげ)落ちる部分もある。
弋工が組立中にも塗料の破片が剥がれて、側溝に落ちたので泥の片付け兼用に掃除をした。

仮囲いの色は各ゼネコン(建築会社)も各社独自のカラーを守っている。
私の所も、
色はいつもの通りだよ、面積は210㎡だよ、よろしくね」
とだけで、清水塗装店の原田さんは一切を仕切ってくれた。

『名古屋デザイン博』があるのに、この仮囲いに所長のセンスで色を塗ると街もキレイに
(にぎやか)になれば、少なくとも現場お決まりの殺風景さは少なくなると思いませんか?

サイケディリックな絵も良いし、デザインだと言う絵も面白いのだが、塀(へい)があると落書き
したくなる《イタズラ心》はどこに行ったのでしょうか。

―――昔―――――
    K小学校の増築工事の時。
               長々と運動場を区切る仮囲いを設置して、塗装は剥げたままをグランドに
    向けて、子供達には うっとおしくなる境界を作った。
     子供達のサッカーボールが飛び越えて来たら・・・との配慮もあるが、
    仮囲い付近からはよくボールが当たっている音が聞こえていた。

     私はチャメッケを出した。
    約5mの区間をワザと
    『落書きコーナー』
              と看板に書いてみたら、目ざとい子供はその日の内に塀にくっ付き始めた。

     最初は絵を書いていたのが、何時の間にか「バカヤロウー」「××死ね」等、
             私の昔の時代と同じ下手な落書き文になってしまった。

     落書きの楽しさは変わっていないのだネ。
              人が書いた所へ『遠慮なし』に書き加えるものだから、迫力はある。

             下塗り用の塗料と小さな刷毛で遊んで、服にペンキを付けて帰宅した子供を
          親様達はどの様に見たのでしょうか?

    約一週間そのままにしておいたけれど、現場内に何故かボールの飛び込みは
          殆どなくなった。
           一騒ぎが終わった頃に塗装工が仕上げ塗り(指定色で上塗り)を行った。
         だんだん消えていく『下塗りの絵、文字』を見ていると子供たちの声が耳に
       に残った。

       「塗らなくて(消さなくて)もいいじゃん、このままで・・・」
         私もそう思うが、やっぱり大人にも現場にも常識というモノが―――だ。

        もし、今度学校の増改築のチャンスがあれば
      『仮囲いデザイン展』
         と称して自 由に描いてもらう案を校長先生に提案しよう。
   塗装職人に代わって先生が刷毛を使うのも面白いだろう。

   塗料を支給して学年別とかクラス別に図案を考えて図工、美術の時間に
       仕上げていく。
   この夢はいつか実現させてみたいものだ。
       父兄会時には親が高い所を手伝ったり、文化祭には他校にも見せるとか
                                                       面白いだろうなア・・・ ――――――

 何の変哲もない仮囲いに昔どおりの《決まった通りの塗装》をする事を当然だと考えて、ただ塗
る事を指示しているのは、全くセンスが無いと私は思っている。
 思いつつも今日は仕方無いが、いつかチャンスを狙っておこう。

昼から土間の配筋検査が行われた。

縦、横共@200㍉シングル筋なので問題はなかった。
地中梁の天端に多少土が残っていたのを『よく水洗いしておく様に』という事で、手直し事項
は一応「無し」と打ち合わせ簿には書いておいた。

 しかし、空模様がどうもいただけない。雨は決定的だ。
土間の仕上げはコンクリート一発押さえ(直接コンクリートを金ゴテでならして同時に仕上げ)
なので雨は喜ばしくない。
後日手を入れて雨に打たれてザラついた所を直さないといけない。
一応はカーペットを貼る為の下地程度に仕上げておけばいいのだから、雨が降ってたらダメ
だとは限らないが、降らないのに越した事はない。

  明日天気になあれ・・・。私は雨男ではない―――筈だ。

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雨降り時には麻雀が

2022-10-09 11:36:57 | 建設現場

五月 十二日(金) 曇り

少し風邪を引いたみたいだ。
昨日、生コン打設した時の梁天端に掛けていた雨対策用の養生シートを回収した。

コンクリートの表面は思ったより雨に打たれていなくて安堵した。

 それにしても、昨日の生コン打設は正しい方法(教科書通り)ではなかったけれど、
頑張った甲斐はあった。

今日弋工が足代を解体しておかなかったら、
「他の現場が遅れた上に昨日の雨で大幅に予定が狂ってしまい、Kビルへは水曜日に
ならない
と来れなかった」
と弋工の世話役の武村さんが胸の内を言ってくれたのは、10時の休憩の時だった。

私の工程表では水曜日は埋戻しの重機とダンプの手配がしてあって、それを遅らせる事は
く考えていなかった。

 私の自分勝手な都合のいい工程表ではあるが、これを書いた時点で総て予約を取りつけ
てい
るし、私の方から『遅れたなんて言わない性格』を知っている親方達も、一応それ
なりの心づ
もりで手配(下準備は済んでいるのだった。

 強引に打ったお蔭でもう一つ助かった事がある。

 昼前に掘削時に残しておいた土(邪魔になってた土)の一部が崩れた。
 土量にしてネコ車10杯はあるだろう。
 コンクリートが打ってあるので、型枠はビクともしな
いし被害は出なかった。
 打設していなければ型枠は壊れていただろうし、土で押されて鉄筋も
ろとも曲がっていた
ことだろう。

 崩れた土は埋戻しがもう始まったのかと思う余裕の解釈にし、埋まった型枠部分は
解体出来る範囲以外は『埋め殺し』にした。
足代解体後の山崩れだったので足代の材料関係には全く被害が無かったのも助かった。

昼過ぎてから力が抜けて来た。
場内が静か過ぎる。
物を創(つく)る気分でなくて、弋工と土工と一時的な足代の解体だけしか現場では作業して
いないが、眠くなって来たのは風邪薬のせいだけではないと思う。

(今日は久し振りに早く帰ろう)
と支度をしていたら、刑務所の現場時代の同僚(通称役満のケン)から電話があった。

「雨降りにコンクリート打った人は今日はヒマだろ?明日は土休だし・・・」
と思わず生ツバゴックンとなる麻雀の誘惑だ。

「今日は勘弁してなンて言わせンぞ」
と私は自分の体調も省みないで、承諾してしまっていた。

今日は負けるだろう。
でも、このメンバーは二年近くも一緒に単身赴任の苦労をして来た間柄なのだから、
私供四人にとっては他の職員よりは最良、最強の絆だろうと思っている。

 理屈はどうであれ、私は元気が出て来て、また出かけてしまった。


五月 十三日(土) 雨

また雨が降った。
昼前には上がったけれど、ここ数日よく降るものだ。
コンクリート打設後の撒水養生としては非常にいいのだけれど、全くの開店休業と
なってしまった。

土曜日で朝から雨だと気分は乗らない。
建設業として大義名分で休めるのは「雨降り」位の
ものだ。
友人の結婚式だとか近所の葬式とか、法事だとか免許の更新とか結構休める様な言葉

あるし使ってもいるが、全員揃って休めるのは「朝からの雨降り」が一番だ。

今日は土曜日だし、職人はいないし、コンクリートは打ったし、水替えはもう気にしなく
いいし、土が崩れても態勢に影響がなくなってホッとしている。

そうだ!!昨日は体調不調ながら麻雀は好調で、F君とN子と私でステーキが食べられる
資金
が出来ている。
(持つべきものはお友達)
と感謝し、久々の半ドン(もともと土休指定日なの
だが)を味わう事にして早速
『しゃぶしゃぶのK』に食事に出かけた。

 戸締りをしに現場へ戻ってフト電話機を見ると『留守録有』のマークが点灯している。
「何やってんだ三人揃って待っているヨ、二時半集合だよ、例の所で・・・」
と、またまた麻雀のお誘いだ。

(たった今、美味(うま)いモノを喰(く)ったのに又、喰わせてくれると言うのかい!)

しかし、刑務所現場のこのメンバーは単身赴任で二年間の借家生活を過ごし、自炊こそ
しな
かったけれど、いつも同一行動していて、沢山ビールを飲んだし麻雀もしたものだ。

冬、部屋のすきま風に目ばりをし、ストーブを持参、夏には扇風機に蚊取り線香と段取
りよ
く一室を『雀室』に迄してしまった。
思えば雀台はゴムマットに合う様にして点棒入れまで作
り、灰皿、ビール、カップラー
メン置き場用のサイドテーブル二台も雀室に収まる様に設計し、
休み時間に大工の
真似事(まねごと)で作ってみたのは―――まぎれもなく私だった。

雀狂の記録帳も作っていたけれど、土・日曜を除いても月にそうね(宿泊した日の九割)
麻雀を楽しんでいた様な『記録』も《記憶》も残っている。

風呂からあがっての9時頃からワイワイと卓を囲み、明日の予定を打ち合わせ(ウワの
ソラ
だが)しながら、
『12時を過ぎたら新しいイニング(半荘・ハンチャン)に入らない』という寮の規則も作った。

『単身赴任もこんなのだとイイね……』と誰かが言ったね。

―――雀狂の記録帳には――――――
雀鬼のオカ、役満のケン、恐怖のヤス、ウラドラのフク、新入りのミツ、という私が
付けた
アダナで精算記録が残っている。

何だか今日も勝てそうな気分になった。待ってろヨー。

 

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九月の虫の音

2021-09-12 17:31:05 | 建設現場

…………………………(九月の,虫の音)…………

 暦が一枚めくれただけなのに、九月という言葉の響きから暑さも忘れてしまいそう
である。

 この時期はまだ残暑も厳しく残っているが、お盆を含めて8月後半から工事がスロー
ダウンしていたのを一気に取り戻すように、気合いを入れる事から始まる。

眠っていた訳ではないのだが、準備運動もせずして急激に走り出られても困りものだ。

「さあ、気候も良くなったし、稼ごうぜ!」
と張り切っているのは私だけでカラ元気の様でもある。

お盆に故郷に帰り家族団欒を過ごした余韻を引きずったままの職人さん達に、ホーム
シックから抜け出せるようにと、安全大会で―――

「来週の金曜日に『焼き肉大会』をするから……」
この後の工事安全注意事項は右から左に聞き流されていて、大会のすぐ後に、
「所長、鉄板をもう一枚段取りしましょうか?」
「そうだよね、やっと元気回復しそうだね…」
やっと現場に笑顔と活気が戻って来たようで、明るい雰囲気も取り戻せそうになった―――

現在、工程的には遅れてはいないが、7月末には進んでいた工程の貯金日数がどうやら
『お盆休暇』の延長によって、目減りし始めているようでもある。

でも真夏に炎天下の中で休憩をしながら頑張ったような事は、もうさせないつもりで
ある。
これからは陽が短くなるし、台風もやって来るから、工程監理・雨対策に抜かりなく
現場を監理するように気を引き締めるところである。

 そんなところに支店から、
電話を待っているのに、何故して来んのだ!
(えっ?電話!?何それ…)

「済みません、一時間前に設計事務所さんが来られていまして―――」
と焼き肉大会の話題でテン張っていたのを、咄嗟に言い訳をする技も身についている。

「工程の状況と最終益(下期決算益)の見通しを連絡しろ!」
「設計事務所の方が帰られたら報告入れます…」

(何とか時間を稼がなくちゃ・・・)
「お前の所とあと二つがまだだけど、急いでくれ…本社へ報告時間が……」

(そんな事だろうけど、毎度の事でもあり―――)
「工程は順調ですけど、利益はちょっと計算してみますので……」
だんだんと虫の居所が悪くなって行くのが、声からでも分る。

竣工まで半年もあるのに、いま《最終利益見通し》を吐き出して報告するバカはいない。

この先何が起きるかわからないし、お金を頂けない設計変更工事は必ず発生するし、
地震倒壊はなくても台風接近による対策費も直接台風被害も、これから出て来る時期
なのである。

一言でも見通し額面を言おうものならば、最終精算時に目標の達成値が少しでも下がっ
ていたら、何を言われるや分りやしない。

本社に対して支店としての『下半期業績見通し』の報告が必要なのも分る。
でも眠っていた《腹のムシ》の眼が覚めたのは確かである。

今更計算しなくても自分なりの最終目標値は決めていて、それに向かって原価監理を
しているのだから、電話の対応に即答出来るのをあえて言わなかったのは背広族に
対して、
「シッポを振っているのではないからね」
との抵抗でもあろう。

工事予算書を申請した後、予備費も無く、私の含み余裕枠は総て削られていて、
「これでやれ!」
って渡された実行予算書から、やっとの思いで利益を上乗せしている所を、
「報告しろ!」
って簡単に言われて素直に答えられる程、私は人間が出来ていない。

 むしろ、微たる現状利益を全部遣って、

「決められた予算書で精一杯ですから……、赤字には致しませんから……」

といつかは言えるように力をつけようと、今は耐えているところである。

余裕の無い予算書から、協力業者の見積り書の額面を抑え、更に端数を削って契約し、
利益アップさせると出世は早いようだが、私は協力業者の首を絞めてまで利益は出し
たくないのだ。

私も一応、会社人間であるから、予算から収まる金額で契約し、或る程度は首を絞めて
いるようだが、首を吊るす《松の木》まで準備するような事はしない。

無事故・無災害で工事が竣工すれば、ボーナスとして何らかの形(感謝)である程度
職長さんに還元しているから、突貫工事・赤字受注工事でも協力業者からそっぽを
向かれた事が無い。

裏を返せば《業者と癒着している》と勘ぐられていたかも知れない。

利益アップした金額の数%でも個人的に頂けるなら、私も首を絞め《松の木とその枝》
まで手配するだろうが、ポケットマネーの回収能力も無い所長だったから、リストラ
候補の筆頭にもなったのであろう。
催促の電話が入るまで待っていたら、

「おい、なんぼ残るんや!?」
案の定、情けも愛情も感じられない上司の声が聞こえて来た。

(銭しか頭にねえのかよ…訊(たずね)方もあろうに……)

と、ますます虫の居所が悪くなり、暴れ始める。

「五十万円位は何とかなりそうですが……」
「もう少し頑張ってくれ、頑張れるよな?」

(べエ~ッだよ)

舌を出しているのが電話では分らないのをイイ事に《半値報告》の生返事である。

予算厳しき折、現場はギリギリの状態に追いやられても、建物を竣工させ、儲けようと
頑張っているのに、労をねぎらう言葉も出ないでゼニ・銭・利益・頑張れ・・・

全く現場の実態を御存知ないのなら許せるが、電話の主様は数年前までは現場を束ねて
いらっしゃったお方であるのだから、もう少し現場に対してモノの言いようもある筈だ。

支店のデスクからの電話だから周辺に上司の耳もあるし、まあかつては自分の部下だっ
た所へ、単刀直入な会話をして、周囲の視線に力の程を知らせる……とのポーズも見え
隠れしている。

(かつて同じ様な電話が入って、ムカついていた人だったのに・・・)

作業服から背広族に変わって、立場が変われば発言も変わる人を多く見させてもらって
来たが、所長時代の人格・人脈が繋がっている振舞いを見せて頂ける『目標上司』
いらっしゃる。

腹の探り合いなんぞしたくないし、こちらの能力を見越されての話は、会議上の話でも
嫌な雰囲気になるし、結論までも……お互いに見えているものだ。

夜遅くまで現場事務所に残っていて、工程・安全・品質そして原価監理の『現場四監理』
の未熟さに気付かされて、フト月を見上げる事も多くなるのも秋、枯葉が舞う季節に
なると―――

     秋の夜は更けて すだく虫の音に
     疲れた心いやす 吾が家の窓辺
      静かに ほのぼのと 
      倖せは ここに…

石原裕次郎の「倖せはここに」を口ずさみ、虫の音を聞けば腹の虫さんが鎮まって
くれる……
秋の夜長になり、虫の音を聞く頃には何故かこの歌を歌っている。
現場の軋轢(あつれき)に疲れた時、悔し涙で星を煌(きら)めかせた時にも歌ったなあ・・・

   星のまばたきは 心のやすらぎ
   明日の夢をはこぶ やさし君が微笑み
   静かな 吾が窓辺
   倖せは ここに…

    10月へ続く………

 

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六月の雨は

2021-06-10 20:18:28 | 建設現場

     ………………………(六月の雨は)…………

現場にとって空からの贈り物である雪は季節柄仕方ないにしても、雨は天敵である。
「土方(どかた)殺すにゃ刃物は要らぬ、雨の三日も降ればよい」
とまあ土建業の泣き所は年間を通じて、昔からあったものだ。


土方という言葉が「土工さん」と言い廻しが変わっても、建設業が屋外作業であり、
土木工事も建築工事も自然界から恩恵を受けながらの仕事には変わりがない。

この天気を味方にすれば工事も順調に進むのだが、現場には《雨男》も沢山いる。

なかでも困るのは現場のトップが雨男であると、ゲンを担ぐ訳ではなくても大切な日に
限って雨を呼び込んでくれるから、てんやわんやの工程になり、竣工前の1か月ともなれば
突貫工事へとお決まりのコースになってしまうのだ。

また、現場で第一回目のコンクリート打設の日に雨が降りでもしたら、基礎・土間・1階
そして最上階までの各階でコンクリート打設当日が降雨にハマるものである。

建物を創っている途中、つまり屋上(屋根面)の防水工事が完了しない内は、台風が直撃し
ても、梅雨でなくても又、ちょっとした雨降りでも雨の量に関係なく、雨には防御の手立て
が無いまま室内は濡れるに任せている様だ。

工程の遅れを天候に左右されるのも否めないが、
「雨がよう降ったので……」
と言い訳には耳を貸さず、
「雨はあんたの現場だけに降ったものではないよ!」
と私はやり返す。

雨が一度も降らないで工事が終わるなんて有り得ないし、日本には梅雨というものまでも
ある。

雨が降るのを見ていても時間は経過するのだし、作業をストップし順延させるから工程が
どんどん遅れてしまうのは《雨に対しての対策》が出来ていない現場だからである。

職人さんの出面(=でずら 出勤人数)、今日の作業内容、現場の安全等々を見ているだけの
監督ならば、雨も又、しかりである。

今の時代に、何の前触れもなく雨が降る筈もない。

天気予報士さんからの情報もあるし、ニュースでもネットでも正確な予報がキャッチ出来る
のだから、天気により工事の流れを止めないような手立ては事前に出来るのだ。

つまり、一週間の工程を把握しているならば、何故、降雨対策まで配慮しないのか……
である。

「雨だから仕方ない……」
は所長として、決して言ってはならない言葉である。

《建設現場の子守唄》にも書いているけど、雨が降る日に行うべく仕事をまとめておいたり、
雨が降っていてもコンクリートを打つ私であるが、あきれた話もあったなあ。

岐阜県のある所での話―――

「あんた達、雨が降ってもゴルフするでしょなぜ現場を休ませるの!!」

打ち継ぎ杭には自動溶接があるので、溶接中及び溶接施工直後に水が掛かるのは論外である。
火花と煙を停めないように連続溶接している真っ赤な鉄に、水が一滴でも触れると『ヤキ』
が入った状態になるのだから、溶接の部分の鉄を叩けば簡単に粉々になり、使い物にならな
い杭となってしまうのだ。

それでも、雨中作業を役人監督から命ぜられて―――

雨降りで重機が稼働しなくても杭打重機の一日の使用料金(10数万円)は発生するのだから、
雨が降っても作業をしたいのは、やまやまである所を耐えているのに、大変なイヤミを言う
役人だったなあ。

水の中でも溶接出来るならば、雨が掛かっても溶接に影響が出ないと言えるのだが、鉄を
切る場合のガス溶断でさえ5㍉の水が有れば不可能である。
(007の話ならば有り得るだろうが…)

工事開始早々の杭打ちの頃は、役人監督者の《神の声》に従わざるを得ない時期でもある。

(何考えてんだ!?)
流石の私も言い返すには時期尚早であり、
(今日だけは黙って顔をたててヤルけど、次からは・・・)
とニガ虫を噛んで、顔をひきつらせて、

「地中に深く埋って見えないし、イイとしますか?

皮肉を言ったのも面倒だったが、私も意地になって《作業強行》させてしまった。

建物を支えるべく杭の数本が……になってしまっているが、まあ大地震が来るまでは建物が
傾かないでいて欲しいと…後味の悪い建物を唯一残してしまった話も雨によるものだった―――


工事中、雨が降って仕事をストップせざるを得ない状態を回避しようと誰しも考える。
つまり、屋上の防水工事が完成するまでは建物内部は雨に対して濡れるがままであり、
建物をすっぽり覆(おお)えば何とかなる筈だから……と一応考えてみる。

雪ならばシートを掛けて一時しのぎが出来るだろうが、融けるまでに雪の処分をする必要
があるし、雪融け水で表面を濡らしては元も子もないので、あまり効果は期待出来ない。

自然界から恩恵を受けながら仕事をしている土建業は、やはり自然には逆らわない方が良
いのだろう。

かと言って、先程来のように指を咥(くわえ)たままではいられないのが、現場所長のつらい
ところである。

自然界を味方にして『天運』に抱かれべく、には―――《徳を積むしかあるまい。

六月の暦に近づくと、梅雨対策を念頭にして工程を協議する。

掘削中ならば地面を掘って水が湧き出た所に、更に空から雨が降って来て、溜まった水を
汲んでは排出する事(通称・水替え)に時間と労力を費やし、長靴の底に泥を着けての仕事
が続く。

「雨によって溜まった水を排出するのは誰の仕事だ?

とよく、職人さんともめる。

監督員は長靴を履いているが、職人さんは昔ながらの地下足袋(じかたび)が多い。

最近は運動靴も多いけれど、足元に水があっては作業能率が格段に悪い。
雨が降ると雨水の処理(水替)まで手配が増えるのだが、梅雨時期では降雨と水替えが交互
になってしまい、水中ポンプは廻っているけど馬力不足で水は汲み揚げていない状態が良く
起きる。

曇天を眺め、足元を濡らし、最終的に雨水は何処に処理(放流)するのかとの話も6月の
工程会議では真剣に取り組む事柄である。

六月の言葉から『梅雨』を連想するものだが、私の現場ではダメージが少なかった…と
思う。

それは、6月に降る雨により工程の流れを寸断され、一週間毎の打合せからでさえ、
まともに先が読めなくなる様な状態をクリアしていたからだと思う。

同じ雨が降るにしても、工事進捗の状態では《雨中ものともせず》で突っ走る事が多い
のであるが、雨カッパを着ても作業が出来る「鉄筋を組立てる時」が六月に多かった
のも、運があったと思う。

雨降りを嫌っているばかりでは決してなく、雨降りを望む事もある。

それは、建物を解体する時だ。
解体中は埃の舞い上がりを防ぐ為に散水を行うが、2~3か所同時にホースで撒く水より
もはるかに有効なのが雨であり、雨を当て込んで一気に解体を集中させたものである。

雨の降る日は近隣さんも窓を閉めていらっしゃるから、重機のエンジン音も排気ガスも
解体中の恐竜の泣き声もどきの騒音も、幾らか和らいで伝わっているだろう……と独り
よがりであった。

六月に降る細かい雨が数日続くと、技術屋のプライドを砕く話が飛び込んでも来る。

外壁からの雨漏り―――《漏水(ろうすい)である。

コンクリートの乾燥・収縮によるヘアクラック(小さなヒビ)、髪の毛以下のヒビから雨が
浸み込んで来るのだ。

外壁がタイル貼りならば雨水は殆んどタイルの表面で流れ落ちるから、ヒビがあっても室内
にまで雨水が侵入する事は殆んどない。

しかし、梅雨時になっての雨によっては《雨漏れ発生》のクレーム対応が出て来るのだ。

《建設現場の風来坊》でも天上落下事件として、雨漏れ騒動を書いているが
(実際は空調の排水)
予期せぬ所からの水漏れ騒動も、雨降りの後から湧き出るものだ。

雨降り後の美しい『虹』なんて何年も眺めていない……と
今年も又、曇り空を見上げている。

          ………(熱中症対策の七月)………へと続く

 

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黄金週間中に

2021-05-04 17:15:08 | 建設現場

………………………(黄金週間中に)…………

 五月晴れ。

世間は黄金週間・大型連休にレジャー情報が満載であるこの頃、この青空に
満喫する余裕もなく、他人事として過ごして来ていて何年になるのだろう……

黄金週間で浮かれていても結構だが、休暇として扱うので、職人さんは日曜・
祭日の数によって5月度の給金(手取り給料)が、極端に減るのは困りものだ。

祭日に加えて雨降り休みも多いのがこの月でもある。

職人さんの出面(でずら=出勤=日当)が一日2万円として、祭日を休んでい
れば普段より10万円も少ない給金を月末に受け取って6月を乗り切るのだから、
家計を預かる奥様は大変な事だ。

正直、この時期は現場監督ながら《サラリーマン監督》でよかったなあ……と
一息入れる時期でもあった。

こう言う裏事情があるにも拘らず、
「有給休暇 取得推進月間」
と言うポスターを現場の休憩所に掲げているのだから、所長としては複雑な
心境である。

四月も半ばが過ぎると、黄金週間期間中に何日現場をシャットダウンさせるかと、
協力業者のオーナーさんと話をせねばならない。一方的に、
「ここは三日間連休するからね」
と言うのも間違ってはいないが、顔色を窺(うかが)いながら、 

「ダメ?休みたくないですか?」 
「現場で決めれば従うまでですが……」
(仕方ない……か)の文字が顔に浮かんで来るのが分るモノだ。

そんな黄金週間の中で、楽しい一日を過ごした話をしよう。

「皆さん、休みの日に子供と何して遊んでるの?」

連休期間中に旅行をする職人さんはあまりいなくて、手近な所で何とか過ごして
いるようで、家族から、

「どこかへ連れてって―――」
とせがまれて、
「一日くらいは家庭サービスをしなくては、父親として恰好がつかないから困っ
とる……」
と聞こえて来た。


「じゃあ現場に連れておいでヨ、お父さんの働いているところを見学して、現場
《焼き肉大会》でもやろうか?」

「息子は《現場が見たい》といつも言うてるし、嫁はんも連れて来れるんやし……
やろうよ所長!」

現場は完全休業日にしており、警備会社に祭日警備を依頼していたその費用で、
「肉と野菜は買えるでしょう?ビールは事務所の冷蔵庫から持って来ればエエし
……」

「嫁はんに料理準備させようか、所長」
「それでは家庭サービスとは言えないんじゃあ?ないの?(笑)」
そこの現場は今年になってからも二度ほど焼き肉大会を開催していたので、話は
即決だった。

問題は家族づれだから総勢何人になるのかが、現場の休憩時間の話題のネタで
ある。

車の運転がある人はいつもビールを我慢していたのが、今度は《奥さん運転手》
が居るのだから肉もビールも半端じゃあないゼ……と私の財布を心配してくれ
ている。

「喰う為に働いているんじゃあない、よく働いてくれているから腹一杯喰って
くれればよ~し」

と見栄というか歌舞(かぶ)いていて、私も一緒に楽しんでいるが、チームワーク
が良い故でもあろう。

10時半に集合して『工事現場 家族見学会』をして、仲間内で楽しむ焼き肉大会
は11時30分から始める事になった。

毎日お弁当を配達してくれている仕出し屋さんへ、お昼ご飯用におにぎり
150個を御願いして、届けてもらう話も出来た。

さて当日、天気は晴れ―――。

いつもは資材を運ぶ通路にマイカーが並べるようにし、朝礼広場に机と椅子を
並べている。

10時頃には職人さん達の家族も来場し、普段汚れた(失礼)作業服姿の笑顔
が見慣れているので、家族を連れてハニカム顔から、

「あんた誰?」
と何度も言いそうになったのも、冗談ではないような挨拶から始まった。

それにしても若い職人さんがしっかりした家庭を持って、奥さんがそろって美人
であるのには改めて感心させられる。

確かに勉強好きではなくて、自分の生き方を自分なりに考えたと言えば恰好が
イイのだが、茶髪にしたりバイクを乗り回し、青春時代を半歩踏み外して親を
心配させながらも、自立する道を選んだきっかけが、当時の彼女であり、
今の奥さんが居ればこそ……の話であろう。

奥さんと子供達を工事現場用のエレベーターに載せて、廃墟のようなコンクリート
の柱と壁を見ながら屋上へと進む。

エレベーターと言うよりも全体の姿は金網のカゴに手摺が有るだけで、歯車が動
いているのも丸見えで、5m程上がって行くと雑談は消えて機械のモーター音が、
「大丈夫…大丈夫、お父さん…いつも…載せて…いるから…」
とでも言うような声に聞こえて来る。

一番上で止まったところは5階の型枠と鉄筋の組み立て中である。
見学通路(作業通路)を指定しているけれど、
「お父さんと一緒ならどこへ行ってもいいよ、材料に触ってもいいよ」
と興味津々の子供達に声を掛けると、ブカブカの保護帽に手を当てて笑顔を見せ
てくれた。

広場にはお弁当屋さんのおにぎりも届いて、鉄板の横の机に肉は言うに及ばず、
野菜類・ソバ・イカ・エビ・ウインナ等が山になって出番を待っている。

焼き肉パーティが始まった―――

焼き肉を家族のお皿に載せている時の話題には、普段聞いて居るドラゴンズと
仕事上の会話は全く聞こえず、焼き肉の取り合いに負けたくない父親の姿が発揮
されている。

「オイ、これうまいから喰ってみな、ジュースはあるか?」
「トンちゃんってコリコリしておいしいのね」

「肉も飲み物もなくなり次第打ち上げだからね。喰った人が勝ちだからね」
「所長、残ったらオレ持って帰っていいですか?」
「残りものは焦げた野菜と肉だけど、それを持って帰るの?」 
一同、大笑いである。 

パーティ開始から少し遅れて来たグループもあって、からかってみた、

「あれっ?手ぶら!?みんな自分で肉を持って来て焼いているのに……」
驚くどころか私のジョークも聞き流して、鉄板に肉を載せ始めている。

まあ喰い物一つによって性格も人格も浮き出てくるものだ。

子供達に言った、
「おにぎり一個から《戦争になった》話を知っている?」
(知りません……今は食べるのに夢中なの……)

大人の方を見廻したけど、視線をそらされてしまった。

「それはね、『さるかに合戦』なの」
おにぎりと柿の種から合戦に発展―――のおとぎ話を人間に当てはめれば、
まんざら有り得ない話ではなかろうし、食糧危機が訪れると……

しかし、机の上の食材はどんどん減って行き、雑談とお腹は相当膨らんだよう
である。

「ここの現場になってから、パパが元気に仕事に出かけて行くのが、よ~く分り
ましたわ」
と奥さん達の嬉しそうな声も聞こえて来て、ここが
《汗まみれの工事現場》
だと言う事を忘れて、幸せな気分にもなっている。

黄金週間を家族旅行等で楽しむ世界にはほど遠くて、仕事場で半日を過ごした
皆の心に、チョッピリと幸せなひとときを過ごせたこの日を、つらい時には想い
出してくれたらイイな……

(この家族の大黒柱にケガをさせては申し訳ない事になる)
と家族の笑顔・安全の大切さを《心の芯まで》沁み届かせて頂いた
『黄金週間の一日』
であった。

   《六月の雨は》 につづく・・・

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閑古鳥の鳴く四月

2021-04-05 14:19:16 | 建設現場

………………………(閑古鳥の四月)…………

 年度変わりの節目に合わせて建物の竣工引き渡しをせねばならず、深夜まで
時間外労働の連続だった三月から暦を一枚めくっただけで、スローモーション、
まるで時間が止まっているように見えるのが、建設現場の宿命とでも言える
《閑古鳥の鳴く四月》である。

一年の内でお盆前の8月・師走の12月・そして竣工日と重なった年度末の3月は
特に阿修羅(あしゅら)の如く働く月として覚悟は出来ている。

そこを乗り越えた時の四月には現場の作業はひとかけらも残ってなく、虚脱状態
に陥るものだ。

造船所にて進水式で船が出て行くのを見送っている人も似た様な気分だと思え
るものの、造船所から人は離れる事はないが、建設現場は竣工させた我々がその
場を去って行くのであるから、次の赴任地が決まる迄は魂は飛んで行き、頭は
空白になってしまうものだ。

四月という響きが心地よい中で、知らずしらずに幾日かが過ぎようとしている。

桜の花も散り、時の流れが平凡になったが、こういう平凡な時をどのように
過ごすかによって次の現場が何であれ、動じる事の無い《男の器》を磨いておく
時でもある。

次の現場がまだ決まっていないから『対策のしようがない』とは言わせない。

設計図を開いてからの動きは誰でも出来るが、仕事が手元に無い期間には建設
業全体を見渡せる絶好の機会なのだ。

若者の夢・業界の未来・不況打破・・・現場稼働中は目の前の出来事に忙殺されて
とても考えるゆとりが無かった《建設業の舵とり》を今、前を向いて考える時間
を天から与えられたのである。

花形産業であると信じて建設業界に飛び込んで来た我々の世代から、最近の世
の中を見れば不安を消せないモノである。

「不況のせいで仕事が廻って来ない」

と上司の言葉を聞かされれば、安全監理あるいは安心作業から遠のいてしまう
のが分る。

不況風を受けるのは今に始まった事ではないし、私自身も不況の風にあおられて
リストラの経験を踏まえて言うならば、閑古鳥が鳴いている時が前向きに考える
タイミングであろう。

  そこで思うには―――

建設業を志した人達はホワイトカラー族に対して、頭脳よりも技術の分野で人生
を切り拓く道を信じ、信念に基づいて《モノ創りに生き甲斐》を感じているの
である。

赴任先が海外になろうとも、建設現場がある限り自分の技術で
《モノを創り出す》
という仕事に誇りを持っているからです。

私は現場が竣工する度に次の現場が何処になるのか、単身赴任や海外勤務を覚悟
する期間があった為か、リストラを宣告された瞬間に、どうしても会社に残りたい
とは思いませんでした。

リストラ宣告の場面は《建設現場の玉手箱》―青天の霹靂―にも書きましたね。

――― 建設現場を任されている以上は会社組織の一部分であっても
《歯車の軸》
であり、現場の仮囲いの中が《自分の居場所》であり役割だから、軸さえしっかり
していればどこででもかみ合う歯車を創って現場を動かせる―――と思えた時に
次の道も見えて来たものです。

受注が激減しているのは現実でしょうが、
「この不景気時代に再就職先がない……」
と不安になる人と比べる迄もなく、建設作業が人の手で創る限りは一時的に人の
流れが変化するものの、この業界に終点はなくて未来が有る世界なのです。

平成のこの時代、各種の製造業が発展し、便利なモノが多く出来て生活が楽に
なりました。

しかし、生活上での「便利なものは必ずしも必要品ではなく
「贅沢品」の言葉に置き換えれば、
我慢することも出来るモノに対して、建設業の世界は便利さよりも、
『必要不可欠』
なモノを創っているのです。

建設というモノ創りの現場は多くの仲間と共に支え合って完成するものであり、
その上職人さんの技術も必要な世界であるのは誰しも知っている。

そこを振り返ってみれば職人さんは高齢化し、若手職人不足のみならず若手現場
マンも極端に不足しているのを実感しながら、どのような手を打っているのか、
打つのか…と考える時である。

建設現場の中で、目前の工程監理に没頭し続けている間は、

「世間に眼を向けても仕方ない」

と考えようともしないで過ごしていたのだったなら、尚更、建設業界を考える時
なのです。

若者の悩み・相談に答えが言える準備をするのにも、十分な時間をつぎ込めるで
しょう。

『古池や (かわず) 飛び込む 水の音』
我々は時代に乗って、建設業界に音を立てて飛び込んだのであるが、

「古池や その後飛び込む(かわず)無し」
と蛙君たちが古池に近づかないのを、時代の勢にしてはいけません。

建築という伝統をこの先も守って行く為にも、熟慮断行するのに最適なのは、
閑古鳥が鳴き舞い降りると言う四月の建設現場です。

建設業を他産業にならって、人手不足とか不況の勢(せい)にしたくはないものだ。

建設工事の受注営業が不振なのは背広組の責任範囲ではないにしても、工事物件
が減り現場技術者を解雇するのでは、まるで生コン車を売り払って生コン工場を
増築するように思えます。

 数年前から現場に若手がいないのが建設業の重要問題だと言われながら、人手
不足から突貫工事・長時間労働を余儀なくされても現場マンは頑張っています。

バブル以前には土休・祭日の言葉は他人事のように思い、風雨降雪に立ち向かい
働き廻っていたのが異常な環境だとも思わず、遊ぶお金はあっても遊ぶ時間が無
かったものだった。

最近の若手現場マンにとっての日曜日は、

「とにかく休む」

の方針を打ち出して人生に《ゆとりを持てるご時世の到来と思えば如何で
しょうか。

 一途に竣工に向かって走るのも現場マンの生き甲斐ではあるものの、閑古鳥が
鳴いている今ならば今までの忙しさで遠ざけていた
《感性に触れる機会》
とか標準仕様書を『完全読破』出来る等、
天から与えられた時間なのだと私には思えるのです。

施工物件が多くて走りに走った時代から抜け出せない人ほど不況打破に苦慮され
ていて、建設業界を心配されているようです。 

 与えられたモノ創りを手順良くこなす能力は経験で培(つちか)ったものですが、工事計
画書のようにこれから先の建設業をいかに創り、若者に夢を描かせるのか……を
真剣に考える時になっている。

 不況風には終りがありますがモノ創りの世界にいて必要なモノを創り続けて来
た我々には夢があり信頼もあり、そこには無限の可能性があるのですから・・・


**************************************************

     久々に 
      じっくり仕様書
         めくる 日々
            不況風にも 憂(うれい)なし

      *******************************************************

                     ―――5月のエピソードへと続く

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突貫の3月末

2021-03-05 13:31:12 | 建設現場

            …………………………(突貫の三月末)…………

3月。いわゆるところの年度末

年度末竣工がどれだけ建設業界にプレッシャーを与えるのか・・・
官庁工事としてはその年度内に竣工させて、書類上に於いても予算を使い切り、精算を
済ませたいのが分らなくもないが、どれだけ理不尽な事であろうとも、お役人様は
年度末で幕を降ろす事を当然だと思っていらっしゃる。

年度内に予算を使い切る必要も無い筈だし、予算が残れば次年度に繰り越すのは一般社会
では当然なものを、役所の都合で帳尻を合わせるだけの《雑工事》を毎年発注している。

土木なら道路舗装等は予算残額相当の長さまで施工して、続きは来年の3月に延長工事
とし、迷惑するのは通行人であり、舗装業者も小さい現場を同時に受注となり、
(わずらわわ)しいだけである。

建築なら学校等で4月からの新学期が始まる事態に備えるのは、工事をする側からみ
ても不満はないのであるが、4月から開校したいのならば、工事の発注をもっと繰り上
げれば、年度末に突貫のしわ寄せが起きないものである。

そんな世間の常識を知っていても《我、関せず》と年度末を過ごせるのも官庁勤め人
だからこその話だ。

官庁発注工事と言うものは、大概は5月末迄に新年度の予算枠が決まって、入札にせよ
談合にしても、新年度の工事業者が決定後、契約手続き等に時間がかかり、実際に工事
着手が6~7月中旬となっても、年度末には《必ず竣工させる》という方針は
ズラせない。

そういう条件を提示した上での入札・応札であり、請負った以上は契約工期の厳守
である。

当初から無理な工期であっても、受注競争を勝ち抜く為に官庁のいいなりで物事を
決めているのであれば、発注の半分は竣工日時を3月15日に設定してもらいたい
ものだ。

3月後半になって1日の仕事が昼夜兼行と騒ぐ前の、たった2週間の違いで職人さん
の流れに大幅な変化があり、年度末に繰り返していた職人不足が緩和されるのは明らか
である。

とあるマンション工事の時―――、
契約書では竣工日が31日になっていたのであるが、工程表には堂々と、
「3月10日竣工。15日入居者検査。20日入居開始」
を明確にして、協力業者にも周知させた事がある。

「所長、サバ読んでいるンでしょ?」

と疑いたいところであろうが、コンクリート打設予定日さえ腹の探り合いをしない私の
性格を見抜いているから、逆に、

「所長、他が3月末に大騒動になる前に、職人をこっちで先に終わらせるから
大丈夫
だよ

「そのつもりだけど、こっちが遅れたら後の現場を大迷惑させる事になるンよ」
「大丈夫、次が控えているから、もっと手早く段取りを付けられるハズだよ」

「雨は《関係なし》でどんどん進めるから、工程表より進んでいると思って準備してよ」

「ハイ、もう所長の『こだわる処』はしっかり押さえていますから……」

長年、私の腰のあたりからヒモで繋がっているような職長さん達が《大丈夫》と
後押ししてくれるのも有難いし、何とかなりそうな雰囲気から《見通し良好》に変わって
来るのが分る。

民間の工事では設計事務所との連携さえ良ければ、官庁工事のような教科書通りの
作業に束縛されず、技術屋として『しのぎを削る』真剣勝負で竣工まで導けるものだ。

当然、作業手順は厳守し、品質の責任は負わねばならず、指をくわえている事なく
汗と智慧を出し続ければ、工程問題は解決するものだ。

例えば『養生期間 一週間』と標準仕様書に記載されている場合に、晴れていても曇り
の日でも七日間が過ぎるのを待つ理由はない。

冬の晴れた日でも夏の晴れた日でも、必ず一週間を経過するまで、

「次の作業を待たせろ
と言う役人の考えに、黙って従う技術者になって欲しくはない。

「先生(監理者)が言う事には逆らうな!
とゲンコツを飛ばす監督さんでは、

「突貫工事だから根性で乗り切れ!!」
って言いながら、最後になって『工期延長願い』を毎度申請するのが、目に見える。

強度、場合によっては乾燥状況を計測して判断すれば1カ月で3日分の日程を前倒し
出来るし、それを数回繰り返しながら上の階へ次の職種へと工事を進めれば、工程短縮
は簡単に出来る。

それでも事前準備が間に合わず空白の1日が発生する場合もあるので、工程が何時も
進んでいるとは限らず、もどかしさを感じる場合もたまにはあったものだ。

そのしわ寄せを、どうしても後ろに譲れないのが年度末、3月31日という期日なので
ある。

31日に工事をしているようでは論外であるが、31日は手直し検査も終わっていて、
午後からは建物の引き渡しを行って『工事竣工』となるのである。

「お前ら31日の次は32日だからな!」
「では3月33日までかかります」
「竣工式が35日だから、それまでに何とかしろ!」

(そんな昭和時代の3月が…二度や三度ではなかったなあ……)と思い出している。

平成になっても、と言うよりいつの時代でも―――

3月に入ると他の現場と仕上げ職が重なって、職人さんの引き抜きが激しくなり、
現場監理どころではなくなり、当日の職人さんの頭数に気を取られて一日が始まる。

安全も品質も構っていられず、俗に《ケツに火が点いた》状態を幾度も経験している
この業界でありながら、何故、改善しようと思わないのだろうか……慣習・仕方が無い
から―――か。

年度末竣工をズラす事により、かなり《品質のいい建物》が出来上がる事に気が付いて
いても、工期を前倒しする勇気が無いだけである。

勇気が無いと言うよりも竣工前のバタバタ騒ぎを常に引き起こしている監督さんには、
期限の呪縛から解放の糸口さえも見つけれないのも、止むを得ないだろう。

かりに4月末日が契約工期であっても、その契約期日前には年度末に似た様なドタバタ
騒ぎは繰り返されているだろうし、まして工期を前倒ししてみようと言う発想は覚束
(おぼつか)ないものであろう。

教科書通りにやれば出来上がる官庁工事でさえ火の車に陥る人が、民間工事なら自分
流にやれると言うものの、設計事務所さんと『しのぎを削る』工事の監理が全う出来る
筈もない。

現場四監理の一つ、工程監理をただ《眺めていた結末》が3月に現われる話でした。 

  4月のエピソード『閑古鳥の鳴く4月』へ続く・・・

 

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二月の雪は

2021-02-04 14:57:37 | 建設現場

            ………………………(二月の雪は) 
建設現場にとって雨は天敵だが、雪もまた好きにはなれない空からの贈り物である。

広島という比較的暖かい所で育った私が、雪で困惑する姿を寒冷地の人達が見れば
笑うだろうけれども、真冬の寒さ対策は得意にはなれなかったものだ。

豪雪地帯の現場に乗り込むのならば、仮設工事の項目に除雪の欄があって予算も計
上されているだろうが、中途半端な山間部の工事では除雪対策費はまるで無かった。

「おい福本、雪が降っても8時の朝礼は行うぞ!明日遅れるなよ!!」 
と所長から言われた現場があった。

「渋滞になるだろうし、職人さんも8時には間に合わないのでは?」
「俺は電車で来る。誰も来て居なくても俺たちが遅れて現場に入る訳にはいかん

(何の為に来るンだよ……、それで何のイイ事があるの……?)
「職長にもそう伝えろ!」

万事高飛車と云うか上から目線で、自分の権限に酔うのか麻痺しているのか知らないが、
傍目から見れば何とも嘆かわしい話である。

万事この調子だから、職人さんとの横の連絡網が張り巡る術もなく、
「俺の言うた通りに動くヤツがおらん!」
と愚痴って、協力業者の《貢献度評価》蘭への記入点数がいつも低い。
逆に協力業者から所長に対しての評価(好感度)が低いのも同じ心境だろう。

当日の朝、雪のせいで朝礼に間に合わない業者のオーナーに、
「お前のところはどうなってンだ!、今日は来ないのか、雪ぐらいで休むのか!!

電話機を独り占めして、いかにも仕事をしている様な口調に陶酔されて、空恐ろしい
雰囲気の現場事務所になってしまった。

「雪が積もったら仕事が出来るように《朝一番》皆で雪掻きしようぜ」
と私なら全員で《何とかしよう》と呼びかけるところだが、

ここは現場の雰囲気が悪いので、
(雪下ろしが済んだ頃に来ようかな……)
と誰もが考えていたようだ。

私の現場の場合―――真冬・岐阜県。

     積雪時には朝礼時間を遅らせて、皆で雪掻きをして汗をかいても文句は
     出なかったし、
      「所長、熱い缶コーヒー飲もうよ」
     と誘われる度、私のポケットマネーはいつも自販機に吸い取られたもの
     だった。

ここの現場に話を戻して―――

一般道路は積雪渋滞の中で、イライラ運転しながら現場に到着し、重たい雰囲気のままで
朝礼広場に行き、雪の上でラジオ体操をした後に、誰が雪を処分するのか戦々恐々としている。

「朝礼が済めばすぐに作業が出来るから、朝礼に遅れるな!」
と言われてあるのならば朝礼に間に合わせる事に納得は出来るが、入場門から休憩所迄の
指定通路が除雪さえされておらず、職長さん自ら除雪しようとの気概はサラサラ無い。

「遅いじゃないか!みんな朝礼に間に合うように来てるぞ!!」
とやっとたどり着いた職人さん達に向かって、所長さんは朝から罵声の連続である。

(やっぱり来るンじゃあなかった…遅刻の罰で《雪掻きをしろ》と言われるし、もう帰ろう……)
職人さんとのホットな気持ちが無い上に雪が舞う寒さも加わり、私の心は凍ってしまった。

『雪解けムード』
って言葉はここでは春になっても、否、夏迄待ってもやって来ないと険悪感が渦巻く現場になっている元凶は……と確信したのも二月の雪を見てからだった―――な。

 私の現場の《雪掻きの話》に戻せば―――

 屋上の防水工事が最初の工程表では二月になっていた。
「二月は雪で何ともならんよ」
と地元の職人さんから悲鳴が聞こえた。

「ならば正月明けから着手出来るように、前倒し工程に変更だ」
の号令をかけたのは、雪のせいで防水工事が3月施工になったら年度末竣工はおぼつかない
し、手をこまねいている訳には行かないからである。

10月下旬からは休む事なく走りに走った工事となったし、年末も30日まで全員で突っ走った。

チームワークよくまた天候にも恵まれて、雪の降り始める前に屋上の防水工事が施工可能
状態までになって、ひと安心もつかの間に『初雪予報』が飛び込んで来た。

「所長、どうします?」
「ここまで来て屋上を雪で積もらせる事はさせん!」

となれば屋上全体にブルーシートを敷いて、
「この上に10㎝ほど積もって頂こう」
《雪の女王》にお願いするしかあるまい。

ここから数㎞先にはスキー場が多くて、雪を待っている人達が多い中を、
我々現場関係者
が自分達の都合で雪を恨むのは筋違いだと思えば、
降雪対策もさほど苦にはならないもの
だった。

5.5m×3.6mのブルーシートを50枚用意して、20㎝程度は重ねて敷くようにし、
風で飛ば
されないように土嚢袋に砂を入れたものを150個用意した。

屋上の防水工事に直接関係が無い人や、室内で作業している職人さん達も総出で、これらの
材料を屋上へ運び、シートを拡げ、3m角程度に砂袋の重りを並べたのだが、

「一斉清掃で埃を被るよりは楽しいよ、所長」
との会話も出て来て、屋上の積雪対策は万全となった。

雪は遠慮なしに降って来るようになったが雪晴れの日も続くのだから、
その間をぬっての防水工事は予定の1週間遅れで完了出来たのも
《チームワークの御蔭》である。

ブルーシートをめくると多少水に濡れた跡があり、これはプロパンガスボンベ付のバーナー
(あぶ)って乾かす事にした。
(横断歩道の白線を引く時に、乾燥させているのを参考にした)

このバーナーを上に向けて鉄板を敷き、降雪と除雪対策に参加してくれた人達との
焼き肉パーティが度々出来たのも雪の余禄・雪の女王様からの贈り物としたもの
だった。

(除雪予算枠から肉屋と酒屋に支払った金額は、皆の胃袋に回収されてメデタシメデタシだよね)

ひとひらの雪に趣を感じる余裕もない心では、建物よりも『館』としての芸術品を創るには資質が無いのがハッキリと分るし、天上界に挑まずとも雪との愉しみ方はあるものなのだ。

雪国で働いていらっしゃる方々からこの
  『二月の雪は』
を読んで、なんとお粗末な現場だと思われるでしょうが
  《雪だるま》
をグループ毎に作って、
      『現場の出入り口に飾る』
と言う遊び心が、未だに卒業出来ない私を笑って……許して下さいませ。

                 ―――『二月の雪は』 終

 

 

 

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