建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

鉄骨工事の第一歩は

2023-06-19 07:44:16 | 建設現場 安全

七月 二十日(木) 晴れ    

M店舗の『鉄骨建方』開始だ。
T組の25㌧レッカーが中央にいる。
これでも全域カバーは出来ない。

届かない所はレッカー移動してでも何とかしなければ人の力では材料を動かす事すら出来ない。
隣地の駐車場へ5㌧レッカーを入れさせてもらうのも、一つの方法ではあるけれど、とにかく
自分の敷地内で建方の計画をする事だ。

今日鉄骨建方を監理しながら、鉄骨建方の基本を考えていた。

―――鉄骨建方の基本―――――
         鉄骨を精度良く建てるには、様々な要素がからんではいるけれど、アンカー
      ボルトの取り付け精度が一番だ。

        ボルト自体も垂直にコンクリートに埋まってないと、一つの柱に8~12本
     (それ以上が多いけれども)このボルトが好き勝手に空に向かっていたら、
       レッカーで吊り上げた柱が垂直に降りようとしても、ボルトにひっかかって
      設置出来ない事態がよくある。

     「柱一本建てるのに何分かかるってンだ?」弋(とび)は怒鳴る。

  ボルトの誤差は水平の方向で5㍉以内、垂直方向は0㍉にしておかないと、柱
  はいつまでも取り付けられない。
   (ズレた位置に更に傾いてボルトが埋まっている)
      1本も鉄骨柱が建てれないという事だ。

  そうならない為にアンカーボルトのチェックを建方前に行うけれども、ボルト
     を基礎に打ち込んだ位置、精度に間違いがあれば建物は《ダイナシ》なのだ。

  鉄骨建築物の命にもなる『柱脚』《あっち向けホイ》では、後々の工事の
      お粗末さが目に見えて来るというものだ。

  チェックした時に間違っていた事が判明したら、ボルトをガスで加熱して、
  根元から曲げ直すしかないが、手間暇と相当な金額がかかる。
  この『台直し』がイヤでボルトを擦(こす)りながらでも建て込んでボルトの
  ネジが潰(つぶ)れたなんてのも多い話だ。
  (ナットで締め付ける事が不可能になってしまうのに、気が回らない)

  ボルトの台直しが出来ないとなると、ベースプレート(柱脚の平板)の柱を
  通す穴をガスで大きく切りまくって、建て込む不届きな作業員もいる。
  何の為にボルトを通す穴のクリアランス(精度許容誤差範囲)が5㍉以内と
  取決めてあるのか、おかまいなしだ。

    「設計図に書いてある通り工場で作っただけの事で、現場で納るワケないよ」
    と鉄骨建て方担当者は平然たるものだ。(前回の現場でもヤッタし…)

     普通、何も考えない計画だと、このアンカーボルトは基礎のコンクリート打
    設に先立って、型枠工がボルトを吊り下げる(埋め込む)事を当然と考える。
 鉄筋(地中梁筋)を押しのけて、所定の位置へ入れようと努力はするものの、
 アンカーボルトの先端がステッキの様にフックが付いていたりして・・・
 しまいには、
「適当に入れときゃあ弋が建てる時に何とかするだろう………」
  と投げやりになった現場も数知れずだ。

                   

   静岡県S市でキビシイ(仕様書以外は認めない)鉄骨監理の建物を創った時、
       「台直しは一切認めない、ベースプレートのガス切断などもっての他だ!」
         とキツク監理監督官に言われて、それなりの仕事をした事が有る。

         1本の柱脚(90㌢x90㌢)には直径40㍉以上の「特注アンカーボルト」が
   20数本有り、それで1セットだ。ボルトの長さも90㌢は越えていた。

   こうなると現場でのやり方は一つしかない。
       鉄骨工場でアンカーフレーム(鉄骨組み)を作って基礎鉄筋工事の前に設置
      しておく事だ。
       これだけのものをセットするとなると、大重量となってレッカーで吊り込む
   必要もある。(だからフレームは面倒だとヤメた所長も昔いたなあ……)

      そして鉄筋工が基礎配筋を組むのだが、フレームやボルトにX・Y二方向から
  上筋・下筋の梁筋が柱脚に入り込み、手も入らない狭い場所になる。
     頭に来た鉄筋工が、
      『明日からもう来ない』
  何て言わない様に事前チェックは慎重にしておいた。
       フレームを少々ケ飛ばした位ではボルトは微動だにしないので、鉄筋加工を
  やり直して組み直しするしかない部分もあったが、何とか組上げて鉄骨建方を
       スムーズに行ったものだった。

        M店舗は型枠大工にて設置したものだから、鉄骨のフレームは無しだ。
      型枠大工に取り付けを頼む事が決まった時に、私は基礎の柱脚部分の変更
  H設計事務所に申し出ていた。
  アンカーボルトの位置を鉄骨図面から抜き出して、ボルト周辺5㌢には鉄筋が
  来ない様に施工図を書き上げた。

   当然柱脚部分は大きくなるけれど埋まってしまう部分だし、コンクリート
  の増量(全体でも6㎥以下)に目をつむれば事は丸く済むのだ。

  (ここ迄アンカーボルトの精度に気を配っていますので、認めて下さい)
        と暗に認めさせている施工図の承諾願いだった。
        それによって大工がボルトを設置するのは、半日で終了してしまった。

      「よく考えてたね」
       H設計事務所から言われたけれど、私の《やりかた》としては当然の事だ。

  建方中の鉄骨は『いつでも倒壊する』という注意事項がある。
       ボルトは通してあるが、仮締めでボルト数の3分の2は最低でも締め付けね
      ばならない規則だけれど、正直そんなに締め付けてはいない。
      そんなに締めると『建て起こし(垂直、水平に調整する事)』が出来ないものだ。

        今地震が来たらと思うとゾッとする場面もままある。
       アンカーボルトだけは全てナットを締めつけた。
  アンカーボルトを《本締め》しているだけでも、鉄骨はかなりしっかり自立して
  いるものだ。
                            ―――  ―――  ―――

 M店舗は昼までには柱は全て建ち、梁も半分以上は組上がった。
念には念を入れてロープで転倒防止用の柱控えを取りつけておいた。

 昼食をしながら鉄骨を見上げている気分も爽快なものだ。
 鉄骨建方工事は1日にして型がはっきりと見えるし、進み具合が早いので、
「もう出来たか」
と言う気分にもなる。

 この建方中には弋工にかかわらず墜落という重大災害の危険性がある。
安全ネットを張りながらの建方作業ではあるが、ネットがあると仕事がしにくい部分があっ
ても、弋工は自分の為の墜落防止用に必要とはあまり考えてはいない。
 高所作業に慣れているとは言え、安全とは
『自分の身は自分で守るのだ』
という観念が非常に強いモノが弋工には特にある。

 地上5.5mの所で梁巾35㌢の所を歩く(命綱はあるけれど)のは、私は好きではない。
一瞬でも「怖い」と思うと、鉄骨の梁の上で足がすくんでしまい、金縛り状態になって、前
にも行けず後戻りしようと振り向く事すら出来ない様な経験も数々あった。

実際に(何とかが縮みあがる)と言う表現そのままだ。
何処へ行ったかワカラナイ・・・。

弋工が作った仮設通路、棚足場の上でやっと歩行出来る。
それまでは地上からワイノワイノと大声で言っているだけでまさに、
『見上げたもんだよ屋根屋のふんどし―――』という所だった。

今日は建方も行ったし、安全に一日が終わった。
柱にはお神酒をまいて『清め』を行った。
古い人間なのでつい昔ながらの方法を私は守ってみただけの事だ。

もう一日建方、レッカー作業があり、緊張は続くが、頑張ろう、安全に。

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