建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

突貫の3月末

2021-03-05 13:31:12 | 建設現場

            …………………………(突貫の三月末)…………

3月。いわゆるところの年度末

年度末竣工がどれだけ建設業界にプレッシャーを与えるのか・・・
官庁工事としてはその年度内に竣工させて、書類上に於いても予算を使い切り、精算を
済ませたいのが分らなくもないが、どれだけ理不尽な事であろうとも、お役人様は
年度末で幕を降ろす事を当然だと思っていらっしゃる。

年度内に予算を使い切る必要も無い筈だし、予算が残れば次年度に繰り越すのは一般社会
では当然なものを、役所の都合で帳尻を合わせるだけの《雑工事》を毎年発注している。

土木なら道路舗装等は予算残額相当の長さまで施工して、続きは来年の3月に延長工事
とし、迷惑するのは通行人であり、舗装業者も小さい現場を同時に受注となり、
(わずらわわ)しいだけである。

建築なら学校等で4月からの新学期が始まる事態に備えるのは、工事をする側からみ
ても不満はないのであるが、4月から開校したいのならば、工事の発注をもっと繰り上
げれば、年度末に突貫のしわ寄せが起きないものである。

そんな世間の常識を知っていても《我、関せず》と年度末を過ごせるのも官庁勤め人
だからこその話だ。

官庁発注工事と言うものは、大概は5月末迄に新年度の予算枠が決まって、入札にせよ
談合にしても、新年度の工事業者が決定後、契約手続き等に時間がかかり、実際に工事
着手が6~7月中旬となっても、年度末には《必ず竣工させる》という方針は
ズラせない。

そういう条件を提示した上での入札・応札であり、請負った以上は契約工期の厳守
である。

当初から無理な工期であっても、受注競争を勝ち抜く為に官庁のいいなりで物事を
決めているのであれば、発注の半分は竣工日時を3月15日に設定してもらいたい
ものだ。

3月後半になって1日の仕事が昼夜兼行と騒ぐ前の、たった2週間の違いで職人さん
の流れに大幅な変化があり、年度末に繰り返していた職人不足が緩和されるのは明らか
である。

とあるマンション工事の時―――、
契約書では竣工日が31日になっていたのであるが、工程表には堂々と、
「3月10日竣工。15日入居者検査。20日入居開始」
を明確にして、協力業者にも周知させた事がある。

「所長、サバ読んでいるンでしょ?」

と疑いたいところであろうが、コンクリート打設予定日さえ腹の探り合いをしない私の
性格を見抜いているから、逆に、

「所長、他が3月末に大騒動になる前に、職人をこっちで先に終わらせるから
大丈夫
だよ

「そのつもりだけど、こっちが遅れたら後の現場を大迷惑させる事になるンよ」
「大丈夫、次が控えているから、もっと手早く段取りを付けられるハズだよ」

「雨は《関係なし》でどんどん進めるから、工程表より進んでいると思って準備してよ」

「ハイ、もう所長の『こだわる処』はしっかり押さえていますから……」

長年、私の腰のあたりからヒモで繋がっているような職長さん達が《大丈夫》と
後押ししてくれるのも有難いし、何とかなりそうな雰囲気から《見通し良好》に変わって
来るのが分る。

民間の工事では設計事務所との連携さえ良ければ、官庁工事のような教科書通りの
作業に束縛されず、技術屋として『しのぎを削る』真剣勝負で竣工まで導けるものだ。

当然、作業手順は厳守し、品質の責任は負わねばならず、指をくわえている事なく
汗と智慧を出し続ければ、工程問題は解決するものだ。

例えば『養生期間 一週間』と標準仕様書に記載されている場合に、晴れていても曇り
の日でも七日間が過ぎるのを待つ理由はない。

冬の晴れた日でも夏の晴れた日でも、必ず一週間を経過するまで、

「次の作業を待たせろ
と言う役人の考えに、黙って従う技術者になって欲しくはない。

「先生(監理者)が言う事には逆らうな!
とゲンコツを飛ばす監督さんでは、

「突貫工事だから根性で乗り切れ!!」
って言いながら、最後になって『工期延長願い』を毎度申請するのが、目に見える。

強度、場合によっては乾燥状況を計測して判断すれば1カ月で3日分の日程を前倒し
出来るし、それを数回繰り返しながら上の階へ次の職種へと工事を進めれば、工程短縮
は簡単に出来る。

それでも事前準備が間に合わず空白の1日が発生する場合もあるので、工程が何時も
進んでいるとは限らず、もどかしさを感じる場合もたまにはあったものだ。

そのしわ寄せを、どうしても後ろに譲れないのが年度末、3月31日という期日なので
ある。

31日に工事をしているようでは論外であるが、31日は手直し検査も終わっていて、
午後からは建物の引き渡しを行って『工事竣工』となるのである。

「お前ら31日の次は32日だからな!」
「では3月33日までかかります」
「竣工式が35日だから、それまでに何とかしろ!」

(そんな昭和時代の3月が…二度や三度ではなかったなあ……)と思い出している。

平成になっても、と言うよりいつの時代でも―――

3月に入ると他の現場と仕上げ職が重なって、職人さんの引き抜きが激しくなり、
現場監理どころではなくなり、当日の職人さんの頭数に気を取られて一日が始まる。

安全も品質も構っていられず、俗に《ケツに火が点いた》状態を幾度も経験している
この業界でありながら、何故、改善しようと思わないのだろうか……慣習・仕方が無い
から―――か。

年度末竣工をズラす事により、かなり《品質のいい建物》が出来上がる事に気が付いて
いても、工期を前倒しする勇気が無いだけである。

勇気が無いと言うよりも竣工前のバタバタ騒ぎを常に引き起こしている監督さんには、
期限の呪縛から解放の糸口さえも見つけれないのも、止むを得ないだろう。

かりに4月末日が契約工期であっても、その契約期日前には年度末に似た様なドタバタ
騒ぎは繰り返されているだろうし、まして工期を前倒ししてみようと言う発想は覚束
(おぼつか)ないものであろう。

教科書通りにやれば出来上がる官庁工事でさえ火の車に陥る人が、民間工事なら自分
流にやれると言うものの、設計事務所さんと『しのぎを削る』工事の監理が全う出来る
筈もない。

現場四監理の一つ、工程監理をただ《眺めていた結末》が3月に現われる話でした。 

  4月のエピソード『閑古鳥の鳴く4月』へ続く・・・

 

コメント
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